シルフィの必殺技と俺の武器

「わたしも必殺技とか覚えたい!」


 釣ってきた魚を出す店があると聞きつけ、断腸の思いで家から出ることを決意し、焼き魚定食食ってたらシルフィにそんなことを言われた。

 ああ、やっぱ焼きたては魚でも肉でもパンでもうめえなあ……塩だけで味付けしてある白身魚を白米と一緒に食う。フォークとスプーンだが、そこは文化の違いだ。許容して楽しむべきだろう。


「今のままでも強いだろ。時間止めたりできるしさ」


「ええ、シルフィ様は今でも騎士としてお強い部類かと」


 ミナさんからのフォローも入る。俺・シルフィ・ミナさんでの晩飯だ。

 セレブっぽいな。メイドがいる外食とか凄いことしてんなあ俺。

 イロハとリリアはヨツバと飯食いに行った。わしは一緒に寝てたから、次はシルフィの番じゃーとか言っていたから、気を遣ったんだろう。


「え~だって時間止めたり速くしたりだけじゃなあ……結局武器か攻撃魔法だよ?」


 なるほどな。シルフィ自身に攻撃手段が乏しいわけだ。

 不老不死の概念や神話生物が出てくると、ただそれだけでシルフィは不利になってしまう。改善はしておいてもいいかもしれない。

 どう改善するのかさっぱりだけど。


「リリアは曖昧魔法としっぽ? みたいなのがあるし、イロハは影をぐんにゃりさせたり、背中から凄い腕が出るし。わたしだけ時間操作だとさ、決め手に欠けるよね。サポートにはいいけど」


「まあなあ……わからんでもないさ。でも攻撃魔法でいいんじゃね? 俺もサンダースマッシャーとヒーリングしか使えねえけど気に入ってるぞ」


「必殺レベルの魔法とか出来ないし……アジュはいっぱい鍵とかあるじゃん。しかも腕輪が喋るからかっこよさがあがる! ぐんぐんあがる!」


 シルフィのテンションもぐんぐんあがるっと。

 ふむ、このスープうめえなあ。魚から出汁とってるんだろう。

 そこに野菜のうまみが……長時間煮こまれてる? いい仕事だ。


「朝は新鮮な魚。夕方は煮込んだスープが増えるんだな」


 メニューに朝・昼・晩限定メニューとかある。

 また来ようと思えるレベルの料理なので効果的だな。


「隠し味がわかれば家でもお出しできるかもしれませんが……巧妙に隠されていて、私でも判別は難しいですね」


「いいですよ。食いたくなったらここに来ればいいんです」


「なるほど、無粋でしたね」


 微笑むミナさんと談笑。女のと話すのが苦手な俺でも話しやすい雰囲気と、適切に話題を出して繋げてくれるトーク力を併せ持つミナさん。まさにパーフェクトメイドさんだな。


「おお~い……わたしの必殺技はどうなるのさ~……」


 シルフィがふてくされ始めたので、ちゃんと考えてあげよう。


「飯がうまかったもんでな」


「美味しいけどさ。ご飯も必殺技も大事です」


「ま、なくなったら困るわな」


「相反するものを同時にこなすというのは難しいものですよ」


 難しいわな。まず一つこなすのが難しいし、めんどいわ。

 とりあえず確実にスープを味わっておこう。


「仕事と私どっちが大事? とかそういうやつだね」


「仕事なんてしたくねえし、わがまま言う女は大嫌いだ」


「つまり仕事もせず、家にいる自分を養ってくれる優しい女性が好みである、ということですね」


「大丈夫だよ。わたしが養えるくらい強くなってあげるから」


「大丈夫な要素ねえなそれ。今の俺より最悪だろ」


 まあ理想ではある。言うとマジで実現しそうで怖いので言わないでおこう。


「もうビーム出せよ」


「言われて出せるなら出してるよ」


「サカガミ様はどうやって編み出したのですか?」


「鍵させばできる。そんだけです。サンダースマッシャーくらいだな。自力で作ったの」


 そう考えると愛着湧くな。もっと使ってみよう。


「いいなー。攻撃魔法しかないかな……?」


「長所伸ばす方向で考えるんだ。せっかく才能があるんだし、クロノスの力ってもうできること全部やったのか?」


「わかんない。時間を止める。遅らせる。飛ばす。加速する。これを全体だったり個別にだったり併用したりしてきたけど……」


「過去の自分を再生するってのもあったよな」


「あれは再生するだけで、位置は変わらないから使い所が難しいんだよねー」


 応用はできるんだろう。でもこれだ! という発想がない。

 俺にそんな頭の回転求められても無理だっつうの。

 いい使い方があったら俺が教えてほしいくらいだ。


「シルフィが強いんだから……逆の発想だ。なんか強い武器でも持ってりゃいいんじゃね?」


「素晴らしいですサカガミ様。武器について調べてみましょうか」


「武器かー。確かに欲しいかも」


「んじゃ武器屋だな。食ったら行くか?」


 もうあらかた食い終わっていたので、食休み挟んで武器屋にでも行こうと方針を決めた。


「武器屋さんに置いてるかな?」


「武器屋に武器置いてなくてどうする」


「そうじゃなくて、魔法剣とか、こう……ヴァルキリーに効果絶大! みたいなやつだよ」


「学園には低・高品質なものがどちらもありますから。可能性はゼロではないかと」


 というわけで商店街の武器・防具屋のある区画へとやってきた。

 店の外観も様々で、いかにもな鍛冶屋っぽい無骨な見た目の場所もあれば、おしゃれブティックみたいな店もある。

 おしゃれ全開でショーウィンドウに武器が飾られているのは、美術館みたいで楽しい。細身で銀色に光る刀剣の横に流行最先端! とかいうプレートが置いてある。


「武器の流行ってなんだよ……」


 しかも高い。俺達では買えない値段だ。貴族が普通に入学しているし、そっち向けなのかな。


「誰でも扱えて、補助魔法がかかる刀剣が人気みたいだね。わたし達には買えないけど」


 フルムーン家の金は使いたくないそうだ。その志は立派だけど、Fランクギルドの稼ぎでは心許ないってもんさ。

 買えはしなくても、時々立ち止まってはかっこいい武器を見ていると、なんか中二心が刺激されて胸が弾む。


「お高い店じゃ無理なわけで……考えてみりゃ安くて特殊な剣ってきつくね? いきつけとかあるのか?」


「何回かイロハやミナと探索したのさ!」


「シルフィ様は今のままでは足手まといになると不安なのですよ。騎士である自分が守られているのですから」


 そっとミナさんに耳元で囁かれる。じゅーぶん守ってくれてると思うけどね。


「そんなこと気にしてねえけどなあ……」


「ん? なんか言った?」


「いんや、別に」


「あっちに初心者向けと、安めの武器屋さんが集まる場所があるからそっち行ってみよう!」


 そして店の一つに入ってみる。店は木造で綺麗で店員も若い。

 店主は高齢の職人の場合と、高学年の鍛冶科の場合があるけど後者だな。


「武器店って清潔なんだな。油まみれで鉄臭いイメージだったけど」


「鍛冶場のイメージですね。武器は手入れも大切ですし、見栄えがいいに越したことはありません」


「いっぱいお店があるからね。少しでもいい印象にってことじゃない?」


 経営者ならではの悩みとかあるんだろうか。まあ俺には関係ない。綺麗な店内になるならそれでいいや。扱っているものが武器だからか、通路が広い。軽く持ってみたり、ゆっくり振るくらいなら十分なスペースがある。


「んー今使ってるのよりいいのとなると……ちょっと高いなあ」


「俺にはどれがいいかさっぱりだよ。自前の剣もあるしな」


「差し出がましいようですが、サカガミ様も訓練用の剣は一つお持ちになるとよろしいかと」


 ミナさんにそんなことを言われた。訓練用ってことは実戦向きじゃないってことかな。


「訓練用ってのがちょいとわかりかねますが」


「何度かサカガミ様の剣と素振りを拝見致しました。あの剣は軽すぎるのです。こちらを持ってみてください」


 ミナさんが棚から取ったのは、ごく普通の剣だ。長さもロングってほどじゃないし、特殊な材質ってわけでもないっぽい。言われた通り持ってみる。


「おもっ!? これ重いな……両手で持たないとダメだろ。手首おかしくなるわ」


「ああーそういうことか……わたしも気づかなかったよ」


 シルフィはわかったみたいだな。俺はさーっぱりわからん。


「剣が軽すぎるんだよ。だから振っても剣に慣れないし、筋力もつかない。鍔迫り合いも出来ないから衝撃に対して経験がつかないんだね」


「その通りですシルフィ様。流石でございます」


「重い剣とか持ちたくない……絶対しんどいだろ」


「ちょっとは鍛えないと危ないよ? わたしたちがずっと一緒ならいいんだけど……」


 やっぱ一人の時間も欲しいしなあ……俺に剣なんて使えるのかね。


「んじゃ初心者用の軽いやつで練習に使えばいいさ。ってか剣じゃなきゃダメか?」


「得意な武器があるなら槍でも鎌でもいいと思うよ? イロハはクナイとか小太刀だしね」


「最初は剣かなあ……ナイフまで接近しなきゃいけないと怖いぞ」


「……ではサカガミ様、こちらを持ってください」


「ん……重いですね。さっきより重い?」


 そこから何本か剣を持たされた。重さと取り回しやすさを図ってくれているのだろうか。二人は真剣に選んでくれている。


「こちらが訓練に最適かと……」


 普通の剣より刀身細め、ちょっと重い。こっちの世界でよく見る、ごく普通の銀色に光る片刃の剣だ。日本刀に近いデザインだな。ロングソードより一回り小さい。初心者向けコーナーに置いてあるやつだ。


「片刃なのは危険が少ないからです。まずは基本的な型と、ご自身の戦闘スタイルを確立させることが必要だと判断しました」


「それが軽々振れればひとまず安心だね」


「手持ちで買えるな。最初は安いもんでいいか」


「ええ、その分で鞘にお金をかけますので」


「鞘? 今付いてるこれじゃなくてですか?」


 どうも鞘に仕掛けを施すとかなんとか。解消できない疑問にない知恵絞ってしると、シルフィが別の鞘を持ってくる。よく見ると鞘売り場とかあるぞ。


「初心者の人は剣を鞘にしまうの難しいでしょ? だから剣を近づけると鞘の口がガバッと空いて、そのまましまうとカチっとはまるんだよ」


 擬音多めの説明だったかその通りだ。なにで感知してるかしらんけど、鞘に入れやすい。例えるならコーヒーのフィルターみたいに入り口が広がって、内壁に滑らすように収納できる。そして口が閉じて普通のものと変わらないデザインに戻る。しかもロックがかかって抜こうとしなければ鞘から勝手に出ない。


「おおー便利だなこれ」


「いいでしょー? 最初はこういう事故防止のアイテムが大切なんだよ」


「剣は武器ですから。危険な刃物を持ち歩くわけですし」


「なるほど納得。助かるよ。一人じゃこういうのわからなかった。シルフィの武器はいいのか?」


「今日は下見にしておく。流石に一日で見つからないでしょ。あっても高そうだし」


 ごもっとも。鞘はシンプルで黒いものにして、俺の練習用の剣を一本買って店を出た。


「腰が……痛くなりそうだ」


 腰に装備してるだけでちょい重いけど、帰ったらちょっとだけ振ってみよう。

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