リリアが横で寝ています

 まただ。最近よく見る夢。記憶にない場所と、知らない、顔の見えない女の子。


「俺はさ、どうせなるなら俺だけのヒーローになりたいんだ」


「――――くんだけの? どうして?」


 小さい頃の俺と女の子。何度思い出してみても女の子の知り合いなんていない。近所にもいなかったし、学校で俺に親しくする女なんていない。誰なんだろう。


「ヒーローはさ、正義の味方だけど、俺の味方じゃない。俺を守ってくれたり、助けてくれたりしない」


 ああ、完全にガキの頃だな。今の今まで忘れてた。

 誰にも話したことなんてないはずなのに。


「だからさ、俺を助けてくれない役立たずのヒーローも、そんなヒーローが大切に守ってるもんも、まとめてぶっ飛ばせるような、最強無敵の存在になりたいんだ! ついでに悪いやつとか、敵とかもぶっ飛ばしてさ。とにかく全部倒すんだ!」


「私も……倒されちゃうの?」


「ん? ああ……お前は……お前は許す! お前と、俺だけのヒーローってことにしてやるぜ」


「ほんと! やったあ!」


「特別だからな! すげえことなんだぞ!」


 俺は昔っからあんま変わらないな。こうして俺の話を聞いてくれる女の子がいたのだろうか。どこで会ったかすら言えない。この子はどこから来たんだろう。


「ねえ、じゃあ名前考えようよ!!」


「名前? なんのだ?」


「ヒーローさんの! あとヒーローさんがもってる……」




 目が覚めた。いつもの俺の部屋だ。

 いつもなら寝ている時間なのだろうか。まだ眠い。


「なんなんだ……?」


 なんか懐かしい夢を見ていた気がするけど思い出せない。

 大切なことだった気がするのに。

 それにしてもまだ眠い。布団から出たくない。

 そういや都合よく休みじゃあないか。二度寝だな。


「ふあぁ……なんじゃ起きるのが早いのう」


「普通にいるなや……眠いんだよ」


 横にリリアがいる。誰かがいる状況にちょっと慣れたので叫んだりしない。ツッコミは体力を使うし眠気を飛ばす。身体をリリア側に向けるけど、二人とも寝たままだ。だって眠いし。


「邪魔する気はないのじゃ。寝たければ寝るがよい」


「……もういいのか?」


「なにがじゃ?」


「いや別にすっとぼけんでも……なにかまずいことやっちまったか?」


 首かしげてやがる。この反応はマジでわかってないな。

 俺の気のせいだったということか。女の気持ちはわからん。


「なんか機嫌悪かっただろ? ミスト倒したあたりからだ……」


「………………ああ~……そういうことか……難儀な奴じゃな」


「勘違いってことか?」


「おぬし、ミスト倒す時にわしの偽物を撃とうとしたじゃろ? あの時には既にわしがいたわけじゃ」


 答えは言わないか。考えよう。これはなんか正解があるな。怒っているわけじゃないっぽい。


「…………撃とうとしたことが気に入らないわけじゃないっぽいな」


「そこに気がついただけでもマシかのう……改善はしておるようじゃな。なぁに、ちょっと照れくさかっただけじゃ。おぬしは普段からあのくらい素直になればよい」


 こういう時は順番に思い出すんだ。前提として、俺がなにか言ったかしたから、様子がおかしかった。んでもって俺が壁ぶっ壊して、ミストと話していた時に出てきたよな。つまりミストとの会話のあたりだ。ん……ミストとの会話……? 俺なに言ったっけ……確か……そうだ。


「……うーわ……ちょとまて……いやいや、マジか……うわあマジかよ」


「おぅおぅ思い出したようじゃな」


「うーわ聞いてたのかあれ全部」


「いやはや大胆じゃな」


 最悪だ。顔見れん。布団の中に隠れよう。

 しくじったな……聞かれているとは思わんかった。


「できれば忘れてくれ」


「そいつは俺だけの案内人だ」


「うおおい!? マジでやめろ!」


 もうどうしていいかわからん。やってしまった。こいつらが俺に好意的だから、そんな状況に慣れたせいであんなこと言っちまったんだろう。昔の俺なら誰に話す時でもあんなこと言ったりはしない。絶対にだ。


「照れんでもよいではないか。あれは不覚にもときめいたのじゃ。かーなーりグッと来たのう」


「うっさい! あーあーもう聞かれてないと思ったのによー」


「全部……俺のものだ」


「やーめーいって」


 俺ににじり寄って耳元で囁く攻撃に出るリリア。まずいな。下手に動けない。


「できればもう一度ちゃんと言って欲しいのじゃ。ほれほれ今なら二人っきりじゃぞ」


「できるか!!」


「ちょっとくらいよいではないか。わしも恥ずかしいんじゃぞ」


「じゃあやめとけって。言えと言われてほいほい出てくるもんじゃねえんだって」


 リリアをチラっと見ると顔が赤い。こいつも照れるんだな。


「いやもう違うわ。絶対違うわあんなん」


「なにが違うというのじゃ?」


「あー……あれだよ……き……」


「き?」


「気のせい……だ」


 なーんも言い訳出てこねえよ。すっとぼけ訓練の頻度あげよう。言い訳くらいできるようにならないとな。


「ぶわははははは!! そうか気のせいか! そらいいのう!」


「うっさい笑うな。しょうがねえだろ言い訳出てこねえんだからよ」


「あーもう……朝っぱらから笑かすでないわ。アホじゃなもう」


 よし、予定とは違うけどギャグ方向に流れた。このまま話を終わらせよう。


「もう全部ヴァルキリーが悪いってことでいいんじゃね。あいつが情報聞き出そうと思ったら調子乗りやがって」


「おぬしが遊んでおるから、ヴァルキリーなんぞが調子に乗るんじゃ」


「ミストをどこまでもコケにしたかったからな。あの態勢からでもミストの首だけはねて殺すことは出来た。だがつまらんだろ。ああいうどう殺してもいいクソカスは出来る限りバカにしてぶちのめす」


 よりによってリリアを使った。それがどうしても気に入らない。死ぬまでに出来る限り苦しませたかった。


「まあよい。負けるわけがないからのう」


「強いよなあ鎧。適度にロック外して使ってるけど、調子に乗り過ぎて学園ごとぶっ壊しそうになる時があるぜ」


「気をつけるのじゃ。本気でジャンプしただけで学園が地図から消えてもおかしくないからのう」


「そこまで強い奴も来ねえだろ。ロックつきでも全然余裕よ余裕」


 軽く右手を振れば山の十や二十が吹っ飛ぶからロックは外さない。

 全力を使わなきゃいけない奴と戦いたくねえよ。


「もっと強い概念的存在や神様なら更に有利じゃ」


「まだまだ使い方がありそうだしな」


 無敵の鎧と使い方次第でいくらでも戦い方が増える鍵か。本当に便利だな。

 シルフィとイロハのキーも増えたし、これで……んん? なんかおかしいな。


「なあ、あの鎧はヒーローキーだよな?」


「なんじゃ今更。ボケるには早いのじゃ」


「なんでヒーローなんだ? 鎧なんだからアーマーとかさ。変身要素あるならチェンジとかあるだろ。ヒーローは能力の名前じゃなくね?」


 ここで扉をノックする音が聞こえる。誰か来た。


「アージュー。起きてるー? もうお昼だよー?」


「シルフィか。起きてるよ」


「おおー珍しいね。入っていい?」


 珍しいと言われるところで、俺の日頃の行いがはっきりわかるな。


「いいけど、うるさくならないように予め言っておく。リリアが横で寝てる」


「どういうことさー!!」


 ドアがバーンと開かれました。あーもう先に言ってもうるさくなるんかい。


「ちくしょう先手を打てばいけると思ったのに」


「アホじゃな……」


「はい! 早く起きる! リリアだけいちゃいちゃしないの!」


「しゃあない、メシ食うか」


 折角の休みだし、食ったらゆっくりしようかな。

 できれば今日は家にいたい。

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