甘味処とフリスト

 俺達はヒメノとフリストに連れられて、オススメの店へとやって来た。

 なんだか和風全開の店だな。店内も畳だし、テーブル席は靴を脱いで一段上の場所にある。こういう店も少数だが存在しているらしく、固定ファンのいる店も少なくないとか。


「さてアジュ様。事情聴取を始めますわ」


「しゃあないな。知り合いがやってくれるのが、せめてもの救いか」


「知り合いだなんて……俺の妻とか、未来の嫁とかでもよろしくてよ?」


「意義あり! お嫁さんはわたし達です!」


「それも違うだろ!」


「どう違うのかしら?」


 シルフィさんとイロハさんがこっち見てる。しっぽが不機嫌です! と告げているじゃあないか。


「ヒメノ様、話が進みませんぜ」


 俺の隣であんみつを食っていたフリストが的確な助言をしてくれる。ナイスアシスト。言うだけ言ったらまた黙々とあんみつにむかう。大盛りあんみつを食べているおかっぱで、和風満開のかんざしが似合う女の子は微笑ましいもんがある。


「うむ、さっさと進めるのじゃ」


 リリアはフリストの隣。なぜかちょい離れて座っている。

 あんまりこっち見ないし……俺なんかやったかね。


「えーではわたくしのどこが好きか三つほどおっしゃってくださいな」


「悪い三つもねえわ」


「では一番好きな部分を……」


「めげないなお前!? そういうところだけは、ほんのちょっとだが尊敬できるぞ」


「やりましたわ! 尊敬を勝ち取りましたわよ!!」


 うるさい。凄くうるさい。勘弁してくれ。


「むうぅ……ヒメノずるい」


「ヒメノにばかり構うのはだめよ」


「どう考えてもずるくねえだろ。あんな扱いでいいんかい」


「警戒することに越したことなんてないわ」


 人数多いとややこしいな。あんみつ食べてるリリアとフリストは問題ないとして。シルフィとイロハの機嫌が悪くならないうちに終わらせよう。


「真面目にやる気ないなら帰るからな。まずヴァルキリーはミストだ。能力は自分を霧にできる」


 真面目に、ちゃっちゃと話していく。感想挟むと終わらない。


「主犯格はスクルドだっつってた。そいつだけボスと繋がってるとか言ってたが……この部分は眉唾だ。以上。装置については知らん」


「流石旦那。有力な情報でございやす」


「だろう? ほらほっぺについてる。急いで食わなくてもなくなんねえぞ」


 おしぼりでほっぺに付いてる黒蜜を拭ってやる。

 口調はあれだが子供っぽさがあるな。


「むおう、不覚。あっしも修行が足りやせんな」


「……ん?」


 なんか静かだと思ったら全員こっち見てる……なんだこれ。

 そんなに三色団子食ってる俺が珍しいか。


「……本当に不覚でございやす。ちと油断が過ぎたみたいですぜ旦那」


「フリスト……なぜわたくしを差し置いてアジュ様といちゃいちゃしてますの!!」


「……はあ? なに言ってんだお前?」


「フリストちゃんだけそういうのズルイと思います!!」


「やれやれじゃな……」


 どうやらフリストの口周りを拭いてやったことがダメだったらしい。

 よく考えたらダメだな。


「あー……確かにダメだなこれ」


「つまり無意識にやったということ? どうしてそんなに警戒心がないのよ」


「いやなんつーかさ。あんみつもしゃもしゃしてるのがハムスター的な小動物っぽさがあってな。動物とか好きなもんで……気をつけるよ」


「フリストの小動物的可愛さを見抜いておりましたか。流石、というべきですわね」


「確かに可愛かったけどさあ……アジュはちょーっと目を離すと女の子といちゃいちゃする……」


「してないっつーの」


 シルフィのほっぺが膨らんでいる。あんみつ食ってる時のフリストより膨らんでるじゃないの。さて、どうするか……ソニックキーで抜け出してもいいが後が怖い。これが絶体絶命ってやつか。


「旦那はあっしを女として意識していないからできたことでございやす。逆に言えば、皆様は意識されているということでございやしょう」


「なるほど、そうとも言えますわね!」


「一理あるわね」


 すっげえナイスアシストぶっこんでくるなこの子。

 俺の五百倍くらいピンチに対して強いぞ。


「この程度、やた子にだってできやすぜ」


「やた子に? できるイメージねえぞ」


「ふっ……ヒメノ様に仕えていれば……嫌でもできるようになりまさあ……」


 おおう遠い目をしている。そりゃヒメノと一緒、ましてや部下なんて地獄だろうな。


「大変ね……口を拭かれるくらい許してあげようかしら」


「そうだね……ちょっとかわいそうだよね」


「苦労しておるのう」


「ほら、お茶飲め。喉に詰まるぞ」


「かたじけない……なにゆえ皆様優しいので?」


 そら優しくもなるわ。なんの荒行なんだよ。仙人の中でも伝説になるくらいクンフー積んだやつしか達成できないレベルの苦行だろ。


「わたしのどら焼きも半分食べる?」


「ふおおおぉぉ……この恩は忘れやせん……」


 フリストの眼がキラーンと光る。半分もらったどら焼きを、両手でちみちみ食べている。可愛い。


「これは……仕方ないわ。甘やかしてしまうわよ」


「ほれほれまた口に付いておるのじゃ」


 リリアが口周りをふきふきしてあげている。和むなこれ。よし、俺へのアレな空気も消えた。安心してカスタードもなか食っとこう。


「ダメよアジュ。ほっぺにクリームが付いてるわ」


「ん、ああ俺もか……」


 そこからなにか言葉を続けようとした。しかし、ほっぺたになにか湿ったものが這う感触がして止まった。なんだろう……猛烈に嫌な予感がする。


「あああぁぁあぁぁぁああああ!!」


 シルフィとヒメノの声が響く。うるさい。マジでおやつすら静かに食えないのか俺達は。


「ふふふっ、初めてやってみたけどいいものね。ほっぺのクリームを舐めるというのは。まるでカップルのようで……純粋に心が満たされるわ」


「なめ……お前なんちゅうことしてんだ!?」


 こいつここにきて大胆な行動に踏み切りやがった。うわあ意識するだろそんなん。まずいな。出来る限りイロハは見ずにもなか食ってさっさと帰るしかない。


「顔が赤いわよ。ここまでやれば意識してくれるのね」


「なんですの! 抜け駆けは卑怯ですわ!!」


「そうだよイロハ! 今のはずるいよ! わたしだってやってみたかったけど我慢してたのに!」


「これは全員やるまで終わらん流れじゃな」


「顔べったべたになるだろそんなん」


「すいやせん、あっしのせいで」


「いや、これはもうイロハのせいだろ」


 フリストに謝られると申し訳ない。ほんのちょいとだけな。


「ほっぺは左右にある。ならイロハの逆はわたしが舐めてもいいはず!」


「一切意味がわからん」


「つまりわしが真ん中を担当するわけじゃな」


「ダメですわ! 唇はわたくしと決まっておりましてよ!!」


「決まってないわボケエ!!」


 なんとかやらずに終わることに成功したが、疲れた。戦闘よりよっぽど疲れる。


「よーし解散! あ、ヴァルキリーどうすんだっけか?」


「本題はそこでございやす、旦那」


「ここまで話が大きくなれば、高ランクギルドや学園側の警備も動きますわ」


「そうなると表向きFランクの旦那方は授業に出るか、クエストでランクをあげるかでございやすな」


「とりあえずの一休みだねー」


 よし、帰って寝よう。すぐ寝ようと決意した。最近のんびりしてない気がするぞ。週に三日はだらだらしたい。日常に戻る。いいことだ。こいつらとの日常は嫌いじゃないからな。


「勇者科一年はしっかり身体検査……これは装置にかけられて異常がないかですわ。それが終われば大事を取って数日お休みとなりますわよ」


「そいつはいいな。しばらく休みたいし」


「お出かけできるね!」


「甘いぞシルフィ。しっかりと休むんだ。装置にかかって異常が起きたりしないように安静にしているために休みになるんだぞ」


「完全に家から出ない気ね」


 バレているか。だがちょっとやそっとじゃ出ないぜ。いやまあ最終的にはどっかに連れて行く事になるんだろうけどな。


「明日は休む。最低でも一日休みたい。色々あり過ぎたわ」


「そうですわね。一日くらいゆっくりなさってくださいませ」


「そうね、ずっと家にいようかしら」


「そうじゃな。ゆっくーりすればよいのじゃ。家から出るなど論外じゃな」


「そうだね……家でできることをやっていこうね……ふふふ」


 なにかされる気がする。パーティーゲーム的なのならマシだな。

 みんなでだらだらするのが理想というか妥協案だけど……まあいい。

 なにが起きても昼までは寝てやるからな。

 無駄な決意とヒメノに貰ったおみやげを手に、俺達は家に帰るのだった。

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