無双して女の子を助けてみよう
俺がビームを撃った後、帰ってきたシルフィ達と合流し、さらに奥へ進む。
鎧は解除した。光りすぎて目立つし。
「ふう……結構きついな」
旅立ちの森林へ旅立ってもう二時間位だと思う。はっきり行ってしんどい。
こちとら都会っ子だよ。森を歩くなんて経験は早々無い。
「おーいアジュ大丈夫ー? 一回休む?」
心配そうに俺の顔を覗き込むシルフィ。上目遣いは反則だと思う。
「大丈夫。ちょっと疲れただけさ」
「体力無いからのう、おぬし」
「どーせインドア派ですよ」
足が棒のようだとかいうが、棒じゃない大木だ。がっしり根を張っている。樹齢五百年はある。天然記念物だよ今の俺の足は。
「もう少しで先生のいる場所だよー」
「そこまで行けば、帰りは移動魔法で送ってもらえるはずよ」
「そりゃ楽しみだ」
移動魔法ってなんだろうワープすんのか? ちょっとやる気出てきたぜ。
「あれじゃない? なんか結界張ってあるよね?」
シルフィが指し示す先には青く透き通ったドーム状の何かがある。
あれが結界か。近づいてみると確かに存在する壁。
こんな透明の色付き下敷き持ってたな、小学生の時。
「どうして結界が張ってあるのかしら?」
「中で何かしておるのじゃろ」
やがて結界にぽっかり穴が空く。
「次のパーティー入りなさい」
やや遠くから誰かの声がする。声からして女性だ。
「失礼しまーす!」
無警戒に入っていくシルフィに続き俺達も入っていく。
奥で待っていたのは金髪で緑色のローブを着た女性。見た目からして生徒じゃないな。
胸がでかいけど、まあそれはどうでもいいな。俺には関係ない。
「召喚科講師のチェルシー・リットです。クエスト確認のため順番に科名と名前をお願いします」
「全員勇者科で、シルフィ・フルムーンです」
「アジュ・サカガミです」
「イロハ・フウマです」
「リリア・ルーンです」
緑色の目を素早く動かし、手持ちのリストをチェックするチェルシー先生。
「確認しました。それでは最後の試験を始めます。貴方達の実力を総合し、相応しい木偶を召喚します。勝っても負けてもクエストはクリアです。戦闘が終わり次第、帰還させます」
やっぱただ遠足して終わりじゃ無いんだな。まあそう美味い話はないか。
ここはかなり開けた場所だ。戦っても森に被害が出にくいだろう。
ヒーローが戦う採掘場というか、だだっ広い岩山の見える場所だ。
加えて結界もある。まあ暴れるにはいい場所なんだろう。
「では、かるーくいきましょう。この者達に相応しき試練となるものよ来たれ」
やる気のなさそうな先生の呪文詠唱で魔法陣から現れたのは。
「ゴアアアアアァァァ!!」
耳をつんざく咆哮をあげる三つ首の犬だった。
ドス黒く濁った墨のような体毛をした鋭い牙のチラつく犬だ。
不健康な人間の血のように濁った真っ赤な六つの目がこっちを見ている。
「ちょっと待ったあ! 先生! わたしたちには無理でしょこれ!?」
「ケルベロスですか……これはまた凄いものを呼びましたね」
「呼んだの先生でしょう!?」
思わずツッコミを入れてしまう。
何を他人事みたいに言ってるのこの人。栄養が全部胸に行ったなこれは。
「ちょっと様子を見ます。呼び出されたということは、皆さんなら勝てるということでしょうから」
「そのちょっとで死ぬでしょうが!!」
前に戦った龍よりだいぶ小さいね。だからどうした。怖えよ。
「うだうだ言っている場合ではないのじゃ。とりあえず鍵を!」
そうだった。このままじゃ犬死だ。ケルベロスだけに。
つまらんこと考えないで鍵をさす。
『ヒーロー!』
現れるド派手な鎧。これを着ていると恐怖心も和らぐ。二割位。
はい、超怖いです。牙だけで俺の全身よりでかい。無理無理こんなの。
「では、試練開始です」
先生の合図で、ケルベロスが雷のブレスを吐き出す。
なんとか全員散らばって回避する。これ大丈夫なんだよな。
地面が超えぐれてるけど。後ろの岩山消えたけどさ。
「とりあえず、やるだけやるのじゃ」
「術が効けばいいのだけれど……火遁!」
リリアが扇子を開き、先端に火の玉が現れた。
同時にイロハの両手に紫の炎が宿る。両者の炎がケルベロスに直撃するがダメージは期待できそうにない。
「ふむ、半端な魔法では、敵が大きすぎて効かんのじゃ」
ふらついただけで大ダメージとはいかない。
こいつを接近戦で倒すの? 近づきたくないんですけど。
「イロハ、行くよ!」
「ええ、合わせてあげるわ」
走りだす二人。氷のブレスを吐いて、進行を阻止しようとするケルベロス。
氷塊を切り飛ばしながら素早く足元に潜り込み、両足と三つ首に攻撃を開始する。
イロハの小太刀による連撃と、シルフィのロングソードによる一撃でケルベロスから血が吹き出す。
激昂した首の一つがシルフィに向けて火炎の渦を吐き出した。
「シルフィ逃げて!」
飛び退るシルフィ。しかしケルベロスのブレスはシルフィを追尾する。
逃げ続けるシルフィに別の首から氷の暴風が襲いかかった。
吹き付ける氷の嵐に動きが鈍っている。このままでは直撃だ。
反射的に飛び出していた。目の前の女の子を助けたいという気持ちに支配されていく。
これもまた、鍵の効果なのかもしれない。
「オオラアア!!」
燃え盛る渦の前に立ち、拳から繰り出される衝撃波でケルベロスの首一つと火炎のブレスを吹き飛ばす。
迫る氷柱を蹴り飛ばし、そのままシルフィを抱きしめてリリアの元へ飛ぶ。
人生初のお姫様抱っこですよ。うわあ、嫌われそう。
この世界も女に触るとセクハラになるのかね。
「シルフィを頼む」
「任せるのじゃ」
「あの、ありが……とう」
元気がないシルフィ。余程怖かったんだろう。
俺を見たまま動かない。だっこされたまま両腕が俺の首に回されっぱなしだ。
アジュ菌がついたーとかいって嫌がられないだけ何倍もマシだけど、あとから気づいて文句言われるパターンだろこれ。
「とりあえず離してくれ。戦えない」
「うあぁ!? ご、ごめん!?」
そんな飛ぶように離れるシルフィ。やはり女の子に触るのはまずかった。
女なんて助けても何の得もない。そんなことわかりきってるじゃないか。
助けたからって惚れられたりするのは物語の主人公だけだ。
俺にはあり得ない。気をつけて動こう。
「後ろよ!」
首の一つから電撃が迸るのは、イロハの声と同時だった。
いかん、嫌なこと思い出しそうになってたよ。
「はっ!」
雷光を、手刀から発される真空の刃により両断する。
雷を吐き出した首一つもおまけで切り落とす。
便利な飛び道具だ。格ゲーなら236コマンドだな。
このまま溜まったストレス発散してやる。
「イロハ、こっちに来てくれ。巻き込んじまう」
ケルベロスはマッハ十五くらいで動いている。
流石犬。四足歩行の動物って速いのな。
考えているうちに、大きく鋭利な爪が避難中のイロハを襲う。
「悪いな。貴重なパーティーメンバーなんだ」
犬より速く動き、右腕を突き出す。威力とその方向を調節した。
おかげで犬の前足を粉微塵に吹っ飛ばせたよ。
なるほど、跡形もなく消せば肉片が残らないな。
終わりにしよう。あのキーの出番だ。ケースから一本のキーを差し込む。
『シャイニングブラスター!!』
籠手の声を聞き、こちらへやって来るイロハ。
チャージする必要もない。そのまま鍵を押しこむ。
『ファイナル!! ゴゥ! トゥ! ヘエェェェル!!!』
最後の抵抗とばかりに氷のブレスを吐くケルベロス。
そのブレスも、ケルベロス自身も、纏めて光に飲まれてゆく。
完全に消えたのを見届けてから、鎧を解除した。
犬どころか結界も岩山も雲も消えちゃったけど、怒られないだろうか。
「ふう……終わったな」
「うむ、一件落着じゃな」
「凄い! 凄いよ!! アジュ超強いじゃん!! かっこよかったよ!」
「シルフィを助けてくれて感謝するわ。ありがとう」
大喝采である。戦っている間は怖かった。
けどみんながこうして俺のやったことを褒めてくれる。
それは鍵の力であったとしても初めての経験で、不覚にも少し嬉しかった。
「おめでとうございます。文句無しにクリアーです」
先生がやって来る。その顔には驚愕と興奮が混ざっていた。
「いやあ将来有望な生徒さんが入ってきましたね。興味があったらぜひ召喚科にも来て下さい。あなたなら歓迎しますよ。サカガミくん」
「はは、どうも。考えておきます」
「アジュはわたしたちの仲間なんだから。アジュが行くなら一緒に行くからね」
「そこには当然わしも居るわけじゃな」
「シルフィが行くなら、私も行くわ」
仲間か、俺には仲間なんていなかった。
不思議な気分だし、簡単に受け入れられない自分がいるのも確かだ。
この先どうなるかわからないけど、この考えも変わるのだろうか。
「では、ぜひぜひ四人共いらしてくださいな。それでは転送魔法で学校内へ転送します」
先生はクエストクリアの支給品を渡すと、俺達の足元に魔法陣を出現させる。
「それでは、またお会いしましょう。若き勇者様」
その言葉を最後に輝き始めた魔法陣。
そして光に包まれた俺達は気がつけば学園校舎の屋上にいた。
足元の魔法陣が先生の作ったものと同じデザインだ。
どうやらここが帰還地点ということらしい。
「お疲れ様! 楽しかったよ!」
「悪くなかったわ。また会いましょう」
「ああ……助かった」
「またなのじゃー」
こうして学園で初めてのクエストは終わりを告げた。はずだった。
「アジュ・サカガミ様とリリア・ルーン様ですね?」
別れようとした俺達に話しかけてくるメイドさん。うわメイドさんだ。本物かこれ。
「学園長がお呼びです」
どうやらまだ家には帰れないらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます