ふざけた切り札ジョークジョーカー
ケルベロス退治を終えた俺とリリアがシルフィたちと別れようとしたその時、メイドさんらしき大人が声をかけてきた。
その人が言うには学園長がお呼びだから、ついて来いとのこと。
「ようこそ、ブレイブソウル学園へ。歓迎しよう、アジュ・サカガミ君。私が学園長のリーディア・ブレイブソウルだ」
そしてやたら広くて豪華な学園長室に案内されて、気品漂う女性からの第一声がこれである。
「気軽に学園長、もしくはダークネスファントムと呼んでくれたまえ」
おそらく三十後半くらいの年齢だろう。
ブラウンの髪と目でビシっと黒のスーツを着こなしている。
しかし完全に俺の守備範囲外だ。
「アジュ・サカガミです。よろしくお願いします」
とりあえず頭を下げる。ダークネスなんちゃらは聞かなかったことにしよう。
この人に呼ばれた理由がよくわからない。
「おはようリーディア。今日は何の用じゃ?」
「おはよ、ごめんねリリア。一回ちゃんと挨拶しておこうと思ってね」
「知り合いなのか?」
「うむ、マブダチじゃな」
リリアの以外な交友関係にちょっと驚く。
「とりあえず座って。珍しいお客様だ、丁重にもてなそう」
「はあ……失礼します」
俺達はいかにも高そうなソファーに座る。うわあ高級品だ、ふっかふかだぞこれ。
やばい横になったら多分、即寝る。
テーブルも、置かれているカップも確実に高い。
「さて、サカガミ君。君には勇者科に入ってもらったわけだが。どうかな?」
「えっと、何がですか? 設備とかなら素晴らしいと思います」
とりあえず当たり障りの無い部分から褒める。
「気に入った女の子はいたかということだよ」
「えぇ……まずそこですか?」
「当たり前じゃろ」
「そんな当たり前があってたまるか」
まずい、リリアとマブダチってことは気が合うってことだ。
俺の健全な学園生活の危機である。
「いやあ我が学園に異世界からの勇者様が来るなんてね。正直たまらんものがある」
「異世界って、あの別に俺は」
どういうわけかその辺の情報を得ているみたいだ。
「ああ、気にしないでくれ。私もね、憧れというか……待っていたというか」
いまいち要領を得ないな。偉い人って回りくどいよなあ。
「いやね、学園を経営するものとしては夢じゃないか。勇者が異世界からやって来て色々するのは!」
「じゃないかと言われましても」
「そういう冒険譚とか読み漁っていてね。私が学園長に就任してからというもの百年間も待ったんだよ」
今いくつなんだよこの人。
さっきから身振り手振りが一々演劇臭いんだけど。
「いやあ歓迎するよ。卒業者が歴史に名を残す勇者様とか。その子孫が入学するとか、最高に広告塔になる」
「言わんとすることがちょっと」
「卒業まで、できちゃったりしなければ多少の子作りは大目に見ようと言っているのよ」
「そこは止めましょうよ!?」
風紀が乱れるじゃないですか学園長。
「流石に在校中にできちゃうと困るから止めるよ。でもね……リリア?」
「うむ、避妊魔法はバッチリ習得済みじゃ」
いえーい、とか言ってハイタッチする二人。こんな人が学園長で大丈夫かなあ。
「いやでも、俺は大した力もないし。第一別の世界から来たって信じるんですか?」
「信じるよ。この世界に、しかもかなーり特殊であるこの学園に突然現れたんだよ?」
どうやら学園長には俺とリリアが来ることはわかっていたらしく、部屋の手配とかがそれはもう早かったらしい。
「それに君は微妙に魔力が違うのさ」
「俺に魔力とかあるんですか?」
「あるよ。どんな色にでもなる可能性を秘めている」
魔法使えるのか。これは嬉しいな。異世界の醍醐味じゃないか。
「まずは学園に慣れてくれればいいさ。入りたい科を見つけるもよし。ハーレム王として名を馳せるもよしさ。まずギルドは作っておこうか」
「はい、徐々に慣れていこうと思います……ギルド?」
あれか、ネトゲでよくあるやつか。
「高難度クエストを受けるのに一人では無理が出る。よって固定パーティー組むわけじゃな」
「そうさ! 競争相手や目標があるとやる気が出るだろう?」
「……どこかに入らないとダメですか? 正直、完成された集まりの中に入るのがちょっと」
コミュ症には無理だ。たぶんすぐ脱退する。そういう場のルールとか嫌いだし。
「リリアから君のことはある程度聞いている。せっかくの異世界人をどこかに入れたんじゃつまらない。なので自分のギルドを作って欲しい」
「簡単に作れるものなんですか?」
自分で作れるならそれでいい。最悪リリアがいる。
「できるさ。とりあえずキミとリリアでいいだろう。キミの家はギルド運用できる。寮の狭い部屋じゃハーレムも難しいだろう? マスターとして登録してある」
「詳しいことは後でわしが教えるのじゃ」
「そう、頼んだよリリア。というわけでギルド名なんだが……一ヶ月くらい悩んでね。まあ案の一つというか」
「言ってください。俺ネーミングセンスとかないもんで」
「そうかい? どうせ君は異世界から来るくらいだから死ぬほど強いだろう。なので私のお願い……判断に困る裏の、学園側の依頼を受けて欲しいのさ」
「グレーだったり、普通の生徒には知らせたくなかったりすることを俺達に回す、と?」
「察しが良いね。その通りさ。高ランクギルドに頼むまでもない、でも低ランクには難しいしあまり大勢に知られたくない依頼というのもある。そこでキミの出番さ」
この学園は何故か所々に妙ちくりんなシステムが有るな。
まず俺がパーティー作っても誰も来ないだろう実績ゼロだし。なら自分で作ればいいと。
「代わりに新築をプレゼントだ。もちろんいきなり高ランククエストに行かせたりはしない。最下級からゆっくりでいい」
無理させて将来の広告塔が死にましたじゃ意味が無いからな。
住む場所にも困る俺としては受けたい。
「そう、異世界から来た、この世界のふざけた切り札『ジョークジョーカー』というのはいかがかな?」
かーなーりこじらせてるなこの人。まあでもかっこいいじゃないか。
「いいですね。それでいきましょう」
「気に入ってくれてよかったよ。依頼がある時はまた連絡する」
「何から何まですみません」
ここまでしてもらっていいのだろうか。感謝してもしきれない。
「いやいいさ。学生証は持っているね? それをこれに載せて」
そう言って学園長が出したのは箱?
据え置きゲーム機より二回りくらい小さい何かだ。
「これは魔道板さ。このガラスのような部分に学生証を載せて。リリアも」
学生証が淡く青い光を放つ。
「はい、おしまい。それじゃあ素敵な学園ライフを送るんだよ」
今ので登録が終わったのか。まったく仕組みがわからない。
「ああ、そうだ。入学祝いがある」
そう言って机に置かれたのは、膨らんだ布袋。置いた時にジャラッと音がした。
「こちらのお金なんて持ってないだろう? いいんだ。異世界の勇者に旅立ちの資金を渡す。いいじゃないか。なんだか歴史の一ページに刻まれている気分だよ」
「いいんですか? こんなに貰っても」
こんなにといっても正確にはわからない。でもそこそこ重いぞこれ。
「構わないさ。ああ忘れるところだった。ついでといっちゃなんだがシルフィ・フルムーンを見てあげてくれないかな?」
「シルフィを?」
さっきまでのふざけた雰囲気が消えた。
背筋を伸ばし、微笑む顔には緊張をほぐす意図があるのかもしれない。
これが学園長としての顔なんだろう。
「クエストで同行したらしいじゃないか。彼女は訳あって他人と距離を置いている。イロハ・フウマ以外とね」
「そのようじゃな」
「だから、あの子の居場所を見つけて欲しい。ダメでも冷たくはしないであげて欲しい」
まあ冷たくしないくらいなら……っていうかむしろ俺が冷たくされる側だろ。
「シルフィは……俺を仲間だと言っていました。そこに何か事情があるんじゃないかとも思っています」
仲間だと言っているのが本心か、打算があるのかは知らない。
だがこの先リリアと二人では限界も来る。どうやったって協力者は必要だろう。
協力者には、できるなら金でどうこうする人間は少ないほうがいい。
その点であの二人なら悪い気はしない。
「まあすぐ嫌われるでしょうけど。一緒にいます。リリアもそれでいいよな?」
リリアに一応確認を取る。俺がいる場所は多分リリアもいるからだ。
「うむ、良い判断じゃ。シルフィちゃんもイロハちゃんも大事な仲間じゃ」
「あいつらに何があるかは知りませんが、まあその……それで嫌いになったりはしませんよ、俺は」
「そうか。それはよかった。存分に青春を謳歌してくれたまえ。頼んだよリリア」
「任せるのじゃ」
「では、これは入学祝いとして頂きます。ありがとうございます」
袋を受け取る。ちょっと重いな。これ貰わなかったらかっこいいんだけども。
流石に晩飯の金も無いんじゃキツイ。
「それで扉の向こうの二人に飯でも奢ってやるといい。怒らないから入って来なさい」
「…………し、失礼します」
「失礼します」
ゆっくり扉が開いて、シルフィとイロハが入ってくる。どこから聞かれていた?
まずいな、変なことは言っていないはずだけど。
「おおう二人ともこっち来るのじゃ」
あ、避妊魔法のくだり聞かれてたら詰みだよ。
「どこから聞いていた?」
「貴方に魔力があってどうのというところからよ」
セーフ!! もちろん嘘の可能性もある。しかし、二人の反応が薄い。
イロハならもっと軽蔑というか侮蔑というかそんな眼差しで見てくる気がする。
なら本当に聞かれていないかも。
「あの、すみませんでした!」
「いいさ、怒らないと言っただろう。私の話は終わりだ。時間を取らせてすまなかったねアジュ君」
「いいえ、色々ありがとうございました」
しっかり頭を下げる。学園長にはお世話になりっぱなしだ。
席を立ち、お茶ごちそうさまでしたと一言付け加えて歩き出す。
このままできるならシルフィ達を素通りしてさっさと出て行きたい。
「あ、あの……さ。アジュ、今の話だけど」
「聞いてたんだろ?」
「うん、ごめんね……でもその……」
俺の顔色を窺っているような、シュンとしているシルフィ。ちょっと小さく見える。
はい、どうしていいか全然わからない。嫌がっているのかどうかすらわからん。
「まあ、そういうことだ。うん」
相手の解釈に任せよう。出方を見てうまく合わせるしか無い。
できるかどうか問われれば、できない気しかしないけど。
「まだ隠してることがあるんだ。それでも友達でいてくれる?」
イロハをチラッと見る。無言で成り行きを見守っている。
アイコンタクトで正解を読み取るのは無理そうだ。
「別に話さなくていいんじゃないか。言いたくなったら聞かせてくれ。あれだ、もう友達なんだろ?」
「そうじゃな。わしらはもうお友達じゃ」
隠していることが何か知らんけど、俺に女の子の問題解決は無理。
だから話されてもどうにもならないわけだ。
「うん、お友達か……うわあ……ふへへーそっかー、ふふっ」
「そうね、少なくともただ言い寄ってくる連中とは違うみたいだし。いいんじゃないかしら」
シルフィが本当に嬉しそうだ。照れているのか頬を染めながらもじもじている。
可愛すぎるのでやめて欲しい。この無邪気な笑顔は俺と一緒にいる人間にはできないもののはずだ。
「ついでにギルドに入ってもらえんかのう?」
「そりゃいいな。どこかに入ってないのか?」
「私達はフリーよ」
「よーし、わたし達が入ってあげようじゃないの! リリア以外に他に入れたい人もいないんでしょ?」
ズバリ言い当てられたが気にしない。今の俺は最高に気分がいい。
「いないさ、この世界でシルフィとイロハ以上に一緒にいたい奴なんて。俺にはいないよ」
だってここにいる人間以外に知り合いゼロだもんよ。
なぜか真っ赤になりながら魔道板に学生証を乗せる二人。
ここで俺に惚れたか? とか思うのはアホだ。
相手からなにか言ってこない限りその可能性は真っ先に消す。恥をかきたくないからな。
しかしこれで四人か。予想外の幸運だな。
俺に仲間か。まあせいぜい嫌われるまでは頑張りますかね。何日もつか知らんけど。
「うむ、青春だね君達。そうだ、少し汚れているね。訓練でもしたかい?」
「ここに来る前にちょっと」
学園長の目が光った気がする。何だこの悪寒は。
「そうかそうか、では私の浴場の一つを特別に使わせてあげよう。四人共入ってくるといい。汗をかいたまま授業はキツイだろう」
「いいんですか?」
食いついたのはシルフィ。確かに汗はかいたし、女の子は気になるもんなのだろうか?
「ああいいさ。さ、今すぐ入って来なさい。場所はわかるね? 一番大きい最奥の風呂だ」
「入ったことはありませんが、わかります」
「はい、じゃあ案内するね。付いて来て。失礼します!」
イロハとシルフィが外に出ていく。
その後を追うようにリリアと俺が続く。
「ああ、くれぐれも喧嘩しないようにね。仲良く入るんだよ」
「はい!」
「ありがとうございました」
「失礼します」
「また遊びに来るのじゃ」
「……みんなで仲良く、ね。ふふふ」
学園長の最後のつぶやきは意味がわからなかった。
さっぱりしてから飯にでもするかな。なんて考えながら風呂場に向かった。
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