第185話 敵より帰り道がしんどい

 深夜の最終試験が始まった。相手はうじゃうじゃ湧くフレイムレイス。


「おーおー張り切ってんなあ」


 屋上から近接戦を繰り広げる連中を援護する。

 俺とリリアは屋上で待機。デカブツ相手に戦うのとか怖いじゃん。


「どうした、こんなもんか? もっと楽しませろよ!!」


 普通に切り合っているヴァンは、いつになくハイテンションである。

 鍔迫り合いになると、確実にヴァンが押し勝つ。

 剣と剣が爆音を響かせかち合っている。


「あいつ本当に人間か?」


「相当に修練を積んでおるのう」


 リウスとももっちは二人で動く。そこに槍使いと眼鏡っ娘も加入。

 四人一組で動き、シルフィとイロハコンビが確実に仕留めていく。

 俺とリリアは的確に狙撃。でかいから当てやすいぜ。


「順調だな。もう俺達が負けるとは思えん」


「あっちもドラゴン一匹倒したみたいじゃ」


「ほー、勇者科で偉そうにするだけはあるのか。大怪我しろ」


「根に持つタイプじゃのう」


「一生根に持つぜ。死ぬ寸前まで痛めつけたら忘れてやるけどな」


 フレイムレイスは全部処理できた。

 もうひとつの家はまだか。やっぱ強いんだなこっち。


「終わったよあじゅにゃん」


「楽勝だったな」


 全員屋上に戻ってくる。普通にジャンプしてきたなお前ら。


「なんだ、あっちはまだやってんのか?」


「今のうちに水分補給をしておきなさい」


 汗をかくし、深夜だからな。あまり体を冷やさず水分補給だ。


「隣の家は戦闘中ですね」


「死にゃしないだろ」


「助けるという発想はないのだな」


「メリットないだろうが。俺は人助けとか嫌いなんだよ」


「大きな力を持っているのだから、それに伴う責任も大きくなると先輩に聞きましたよ?」


「ないない。同じチームのよしみで教えてやる。それ大抵がクズのやっかみだから」


 なぜ浸透しているのかわからないが、この発想は弱者で、しかもクズが口にしている場面を多く見る。よってこの理論大嫌い。


「またアジュが拗らせたんだね」


「違う。マジで聞いとけ。それ言うやつはな、自分より大きな力で楽に生きている人間がいるのが気に入らないんだよ。だから自由に楽しく生きていけないように、でかい責任おっかぶせて動けなくして、ついでに弱者面してりゃあ自分を助けてくれるだろうっていう、最低の理論なんだよ」


「つまり他人のために苦労して、それを義務のように言われることが気に入らんのじゃろ?」


「そういうこと。困ったときはお互い様ってのはな、助ける側だけが言っていいセリフだ。要求するやつはクズ」


「救助とは何か、考えさせられるな。興味深い」


 槍使いさんは真面目だねえ。俺は助けるという行為がもうめんどい。


「助けて文句言われたらぶん殴ればいいだろ。オレはそうする」


「それやると皆殺しにする人数が増えてうざい」


「勇者科の会話じゃないよこれ……」


 勇者っぽさは他人に任せるスタイルです。仕方ないね。


「助けると勇者ポイントが入って、試験が有利になるかもしれないわよ」


「助けられたっていうマイナスポイントが、あいつらに入るかもしれないぞ」


「あじゅにゃんの後ろ向きは治らないねえ」


 しかしポイント制か。助けたほうが有利なのかね。


「邪魔にならないように、屋上から狙えばいいのよ」


「あくまで離れた敵の駆除であって、誤射して味方を撃たないようにしようね」


 そんなわけでAチームは、一番の大きな家を援護しました。

 ドラゴン? なんか知らんけどBチームが倒したっぽいよ。

 敵は全滅。Aチームは無傷。隣の家も死人はいないな。


『第二段階へ移行。一番、三番の家は東門から、朝六時までに指定のポイントまで集結せよ。門に地図は配布されている。健闘を祈る』


 門の前……といっても門以外の柵は全部壊れたから、何もない場所に門だけある。

 そこには確かに、学園校舎までの安全っぽいルートが記されていた。


「なっげえ……疲れてんのにこれかよ」


「俺の体力が限界を迎えるぞ」


「あと四時間はあるわ。ゆっくり行きましょう」


「そうだな。みんなは先に行ってくれてもいい」


 どうやらもうチームで動かなくてもいいっぽい。

 なので時間内に校舎に付けば終わり。


「みんなでいた方が安全だよー。あじゅにゃんと一緒に行くぞー!」


「せっかくここまできたしな。うちらも一緒に行こう」


「まだ終わったわけではない。単独行動は避けるべきであろう」


 結局全員で行くことに。どんな罠があるかわからんしな。


「拍子抜けってやつだな」


 門から三十分くらい歩いているが、順路の森は安全だった。

 深夜なんで暗いけど、それ以外にトラブルなし。敵もなし。


「本当に助かりました。大きな怪我もなく、なんとか帰れそうです」


 助けた家の連中がホノリの友人だったらしい。

 俺達に礼を言いながら同行している。大所帯になってきたな。

 仮に隣の連中全員をCチームとでもしておこう。


「気にしなくていいよー。助けるとポイントアップかもしれないし」


「パーティーと協力できるか。まとめられるか。そういうところが見られているのかもしれないわ」


「なるほどー。それは盲点ですねえ」


 一応の警戒はしながらもまとまって進む俺達。

 先頭はBチームだ。自分達がやるといい出したのでやらせた。


「なぜああいうやつらは無駄に仕切ったり騒いだりするのかね?」


「怒ってたねー。なんで自分達じゃなくて隣を援護していたんだーって」


 怒ってたなあ。そっちは援護の必要がないだろうし、助けたほうが勇者っぽいとか言って納得させておいた。リリアとイロハが。


「できるだけあいつらからは距離を取るぞ。うしろの警戒と、他の連中との連携意識しとけ。俺はあいつらのところには行かない」


 最悪なことにBチームの連中……非処女が混じってやがる。

 わざわざ近寄る必要も価値もないな。


「オレもパス。連中、男ってだけで嫌ってやがるな」


「はっ、プライベートじゃ男作ってるくせにな」


「わかるのか?」


「俺にかかれば、処女かどうか程度はわかる」


 隣を歩くヴァンにしか聞こえないように話す。


「お、おう……そうか」


 なんか引いてません? えぇ……男同士なら平気な会話だと思ったのに。


「こういうの日常会話じゃないのか?」


「さあ? オレはダチと親睦を深める時間を、戦いに使っちまってるもんでね」


「また奇特な使い方だこと。俺も友人と並んで歩いたりすんの好きじゃないし」


 まず友人自体がわずらわしいというか、邪魔くさかったからなあ。

 自分のペースで歩けないの嫌い。


「普通のやつは、こういう帰り道をダチと並んで世間話とかして、寄り道して帰るらしいぜ」


「ほう……さっさと帰って寝た方がよさげだな」


「まだ帰るにゃ早いらしいがね」


「なんかざわついてるね。なにかあったみたいだよ」


「なんか看板があるのじゃ」


 みんなが集まっているところには、大きなメッセージボードがあった。


『この先、ハイパーアスレチック注意。突破したら最後の試験がまっています。特にチームとか組まなくていいので、頑張ってね』


 これが第二関門らしい。最終試験は全部で三個か。

 看板の先には横幅三メートルくらいの一本道。

 下は五メートルくらいの崖。


「まず我らが安全を確保する」


「怖かったらあとから来るのね」


 Bチームが先行していく。まあほっとこう。

 地雷とかあったら処理するか踏み抜いてくれ。


「これ飛んだらだめかね?」


「どうじゃろ? 失格にはならんと思うがのう」


「落ちそうになったら飛ぶか」


 細い道や、急な上り坂。こちらを押し戻そうとする砂地。

 それを抜けたら軽い山登り。深夜に山登りってきっついぞ。


「はい、アジュさんに限界が来ています。マジで無理」


「よく耐えたのう」


「いやもうきっつい。無理無理。飛ぶわ」


『エリアル』


 魔法でふよふよ浮くことにした。

 魔力消費が極端に少ないため、こういうときに助かる。

 足腰がっくがくですわ。腰辺りまで魔法陣を上げて、寝っ転がるのもやむなし。


「便利だなその力」


「超便利よ。これなかったら俺死んでるわ」


 俺の意志で前に進んでくれる魔法陣さん。

 マジ頼りになるわ。うつ伏せになって、ぐったりしながら移動。


「ここから下りだから、もう少しで別の場所につくよ」


「広い場所があるわね。そこが最終試験会場だと思うわ」


 よく見えるなそういうの。多少息が乱れるだけで、俺ほど疲れていない様子のみんなはどうなってんだか。


「よく来たわね。全員欠けることなく到着してくれて嬉しいわ」


 なんとシャルロット先生が待っていた。

 広い場所には、石でできた舞台のようなものが設置されている。

 かなり広いな。なんか戦うことを想定しているような。


「それでは最終試験を始めます!」


 さて、最後はどんなのがくるのやら。

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