第184話 最終試験第一段階

 夜の十一時半。リリアに起こされて全員で下に行く。

 知らん女が大量にいる。全員ソファーに座っているが、一人も知らん。

 こいつらが追加メンバーか。

 まあどうでもいいや。どうせ今後会うこともない。


「遅かったわね」


 真ん中の女が言っている。誰に言っているのか不明。黙っていよう。

 俺もヴァンもあまり前には出ない。見知らぬ女と戯れる趣味はないのだ。


「深夜らしいからねー。もうちょっと寝ていてもいいかも」


 ももっちに賛成したいが、真ん中の女が不機嫌そうなのでやめる。


「最終試験だって聞いていなかった? そんなことじゃ足元掬われるわよ」


 とりあえず椅子に座る。眠いわ。シルフィにあったかいお茶いれてもらう。


「はいどーぞ」


「助かる。あと二十分くらいか」


「作戦はもう決めたのじゃ。合流するまでのわしらをAチーム。あちらをBチームとする」


「家から出られない戦闘の場合、Aチームが二階のベランダか屋上から攻撃。Bチームが一階で戦闘。家を守れというのなら、Bチームが家の外で戦うわ。そちらの指揮はワタシがとります」


 自身に満ち溢れた女。リーダー気取りなのかね。

 濃い黄色の髪で、ロングソード持った女だ。気が強そうでうざい。


「あの、正面と裏口がありますが……?」


 眼鏡っ娘の素朴な疑問である。確かに同時指揮は辛いな。


「正面で指揮を取ります。裏口はそちらで対処なさい。正門より戦えるスペースも限られている場所。狙撃と近接数人で問題ないでしょ」


「くれぐれも、こちらの足を引っ張らないように気をつけるのだな」


 お茶飲んでちょと目が覚めた。すーっとする味だ。

 シルフィのお茶は美味い。俺に気を遣っているのがわかるから余計美味い。


「聞いているのか貴様ら。こちらの手を煩わせるなと言っているんだ」


 金髪の横の紺色髪がなんか言っている。長めのナイフ二刀流か。

 こっちはこっちでクソ真面目そうでうざい。


「あんたら返事くらいできないの? せっかく気を遣ってくださっているのよ?」


 うざコンビの横に頭ひとつ分小さい緑髪の女。

 杖持ってるし魔法使いか。こいつが一番うざそう。

 やはり女はうざい生き物だ。リリア達がいかに素晴らしいか実感したよ。


「りょーかい」


「問題ない」


 ヴァンと俺の適当の返事に、さらにムッとしているBチームさん。

 そんなことはお構いなしに、テーブルでお茶とクッキーつまんでいる俺達。

 Aチームはほのぼの路線です。だって窮屈だし。


「あまり我らを舐めるなよ。真面目にやる気が無いのなら去れ」


「ちゃんと戦えるんでしょうね。邪魔になるなら見捨てるわよ」


 まだなんか言っているが無視。まずクッキー食い終わろう。

 お茶とクッキーは食料に入っていた。敵を多く倒したかららしい。

 なのでここで全部食っておこう作戦だ。


「うちらは気にしなくていい」


「こちらは大丈夫です。はい」


「どうしてもというなら、数人そちらに加勢してあげようかと思っていたんだけど?」


「こちらはこちらでやると決めたはずよ」


 ぶっちゃけ邪魔にしかならないだろ。力を見られたくないし。

 俺達が本気を出す場所にいたら、魔力の余波で粉微塵になるぞ。


「ワタシの善意を無下にすると?」


「これは勇者科の試験じゃ。あまり揉めると、どこで減点されているかわからんぞ」


「わたし達なら大丈夫です。なので、そちらでお願いします」


 シルフィが敬語の時は人見知りスキルが発動している。

 気を許した相手以外には、敬語かよそよそしい態度だったりするからな。


「ふん、後悔しても遅いわよ。もう助けないから」


 それだけ言って、Bチームの輪の中に戻っていく女。

 名前知らんし、金子とでも名付けるか。


「最終試験。厳しい戦いになる。しかし、ここを切り抜ければ我々の勝利だ! やることは変わらん。ただ全力を出し、敵を討つ! 各自、奮戦を期待する!」


 Bチームでなんかやってる。戦闘前の兵士を鼓舞するあれか。


「食い終わったし、ぼちぼち行くか」


「そうだね。じゃあ屋上に行こうか」


 全員で二階から屋上への階段を登る。

 屋上は五人いるとちょっと狭く感じた。

 腰までの柵と、そこから斜めに屋根が続く。屋根の下にベランダだ。


「星が綺麗だね!」


「そうね、こんな状況じゃなければ見ていたいわ」


 ここでちょっとリリアに質問。


「あいつらは?」


「全員人間じゃ。ヴァルキリーではない」


「今回出てこないねー」


 今回静かだな。出てこないとこんなに楽に進むんだなあ。


「……サカガミ達は毎回ヴァルキリー出てくるのか?」


「あじゅにゃんも大変だねえ」


「すまぬ。ヴァルキリーとはどういうことだ?」


「試験に出るんですか?」


 俺達に関係ない二人からの質問。事情を話すと巻き込みそう。

 ぼかして説明しよう。これ以上は守りきれない。


「多くは話せない。ただ明らかにおかしいやつが混ざっていたら、絶対に戦わずに、俺達五人の誰かのところに来てくれ。これは約束して欲しい」


「おかしいとは?」


「生徒っぽいけど異常な力を持っていたり、完全に殺しにきたり、まあそういう頭がおかしい連中だ。こっちで始末をつける。戦わずに、一人にならずに行動しろ」


「アジュが……女の子を心配している……?」


 シルフィとイロハが驚いている。ももっちとリウスも珍しいものを見る目だ。


「試験中に死なれても迷惑なだけだ。変な意味じゃない」


「と、いうことにしておくのじゃ」


「お、下の連中が出てきたぜ」


 Bチームが武器を構えて待機している。こちらを見ようともしない。


「あの子達、自分がこちらより上だと思っているのね」


「そりゃ都合がいいな。強いと知られてもメリットはない。このままあいつらより弱いことにして、舐められっぱなしでいよう」


 下からおおー! とか勝利をどうのこうのとか聞こえる。

 まあ弱い俺の分まで頑張ってくれ。無駄に喧嘩する気はない。

 俺とリリア達を傷つけない限り、他人の人生に干渉せずだ。


「こちらに飛び火する、厄介なトラブルを起こさなければいいわね」


「無駄に突っかかって来たしな。そういやなんであの程度で引いたかね? あいつ言動からして貴族かなんかだろ?」


「今は試験中じゃ。それに、フルムーンの王女とフウマの頭領に家柄で喧嘩売るとかアホの極みじゃろ」


「リウス家とモモチ一族の娘もいるしな。あいつの家じゃ太刀打ち出来ねえんだろ。みっともねえ。自分の力じゃねえものをあてにするから恥かくんだ」


 そうヴァンが付け加えてきたが。


「リウスとももっちは金持ちだったのか」


「うちはフルムーンの貴族だよ。鍛冶職人と騎士団長の家系だ」


 そういや鍛冶科メインだったな。

 フルムーンの騎士団は複数あるが、なかでも一部団長から、専用の武器を作ってくれと頼まれるほど人気らしい。


「そ・れ・よ・り! なーんでヴァン君は私の一族を知っているのかな? 表舞台には出ないし。出たこともないから……気になっちゃうなあ」


 ももっちの目が怖い。普段と変わらない中に、どこか殺意が混ざっている。


「ちょいと助けてもらっただけさ。そんときに学園で修行中のやつがいると……」


『最終試験第一段階。家に迫る敵を殲滅せよ』


 サイレンとアナウンスが、深夜に響き渡った。


「第一段階て……」


「長くなりそうじゃな」


 第二で終わってくれませんかね。

 Bチームが警戒態勢に入る。金子がなんか叫んでいるけど、いいや別に。


「あいつら一匹くらい死んだら面白いのに」


「わしら以外の人間がいるところで畜生発言は控えるのじゃ」


 むかいに建っている四個の家から、うじゃうじゃと魔物が出てくる。


「どうなってんだあれ?」


「家の中に魔物を呼び寄せる核があるようじゃな」


「わかるんですか?」


「魔道でわしにわからんことはないのじゃ」


 無い胸を張っているところ悪いが、敵が来ている。


「オレだけ下行っちゃダメか?」


「だめだ。それで文句言われたらめんどい」


『ショット』


「援護だけすりゃいいんだよ。適当にな」


 敵はガイコツから紫の狼。赤いサーベルタイガー。土人形まで多彩。


「動きが遅いやつからいくか」


 速い狼は狙いをつけるのが難しい。動きの鈍いガイコツあたりから撃ち砕く。


「火遁、炎魔壁の術!」


「火遁、爆裂炎舞の術~!」


 家と家の中間地点に炎の壁と火柱が立ち上る。

 炎の壁を乗り越えてくる少数以外は焼け死ぬわけだ。


「うちらあんましやることないな」


「近接主体の性だな」


 槍使いとリウスが申し訳なさそうに火矢と火炎弾で援護。


「家の上、敵です! ウインドブレイク!」


 メガネっ娘の風魔法炸裂。風の砲撃で、飛んできた氷をぶっ飛ばす。

 敵が湧く家の上には、最近見たクラゲが大量にいた。


「うわあうざい。敵も総力戦かよ。リリア」


「ほいほい。任せるのじゃ」


 扇子を開いて閉じる。知る限りの全属性攻撃が同時に撃ち出された。


「これで半分は減ったじゃろ」


「凄い……詠唱なしで連射? どうやったんです?」


「それは秘密じゃ」


「Aチームでよかった。感謝する」


 まあこっちの方が生き残る確率は高いよ。全員強いし。


「後ろから何か来るよ」


 背後の柵がぶっ壊され、現れるは大量のフレイムレイス。


「あーあ……面倒な方を引かされたか」


「いや、そうでもないのじゃ。むこうはドラゴンじゃ」


 翼のある四本足のドラゴンだ。普通の家から一匹ずつ飛び出してきた。


「家より大きいよね?」


 五メートルくらいあるな。色も四色とバリエーション豊か。


「今まで倒したザコの力を取り込んで作られたのじゃ。魔物を呼び出す核にして、ドラゴン製造の核であったわけじゃな」


「まーた人工物か。よくそんなもん作り出せるな」


「説明はいらんじゃろ?」


「長くなるからな」


 今一番大切なことは、俺達Aチームが無事に生き残ること。


「大量にフレイムレイスが湧いたのじゃ。そっちは九人でドラゴン二匹。任せてもよいじゃろー?」


 下に向けて叫ぶと、すぐ返答がくる。


「問題ない。貴様らはさっさと裏口に行け! こちらを気にする余裕があるのか!」


 それがめっちゃあるんですよ。

 まあいい。あちらさんの許可が出た。


「これであっちは放置できるわね」


「あじゅにゃんも嬉しいでしょ? 邪魔されないし、運が良ければ死んでくれるかもよ?」


「まったくだ。死なれると減点だとクソうざいけどなあ」


「サカガミ、そこは隠せ。せめて笑顔をやめろ」


 知らないうちにちょっぴりスマイルが出ていたらしい。

 試験中なので引き締めよう。


「リリア、念のため、家にだけ結界張っといてくれ」


「Bチームにばれないようにじゃろ? もうやっておいたのじゃ」


「よーし、ぱぱーっと倒して終わろう! みんなで合格だよ!」


 こうして最終試験第一陣が始まった。

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