第183話 アジュのお手軽レシピ

 試験は実に順調だった。夜も襲撃があったが、ももっちとヴァンで大半が倒され、普通に家で寝ていたら終わっていた。


「食うか寝るか戦うかだな」


「戦闘民族じゃな」


 そして三日目の昼も終わった。そこでリウス加入。

 夜には二人リウスの知り合いが加入。このうちひとりが初日の槍使いだった。

 次の日の昼。残る家は四個。そしてゲームしかやることがない。


「今回は……オレの勝ちだな。今回に限りオレのカードのほうが少ない」


「どうかな? 俺のここ一番のヒキってやつは……自信がないなそういや」


 シンプルにルールが伝わるものとして、ババ抜きを採用。

 俺とヴァンの一騎打ちである。


「もうすぐお昼ごはんができるわよ。さっさと決着付けて、テーブルを綺麗にしておいて」


「ほれほれ急ぐのじゃ」


 イロハとシルフィが料理担当。ももっちとリウスは裏口の警備。

 リリアが眠そうに俺にもたれかかっている。


「オレの負けか……今日はついてねえな」


「意外だな。こういうの強そうなのに」


「命のやり取りとか、ギリギリで生き残るとか、そういうのは得意なんだがなあ。どうもゲームは勝てねえ」


「悪運に全振りしてんのか。そりゃしんどそうだ」


「なあに、死ななきゃラッキーさ」


 一理ある。生き残るのも運がいい証拠か。


「終わったらさっさと片付けるのじゃ」


「わーってるよ」


「あの……文句があるわけじゃないのだけれど……どうしてそんなに呑気なの? 敵が来るかもしれない」


「そうですよ。サイレンはもう鳴らないんですよ?」


 新メンバーの槍使いと、魔法使いのメガネっ娘がこっちを白い目で見ている。

 三日目の昼で、もうサイレンは鳴らないとアナウンスされた。過酷だな。


「来たらぶっ殺しゃいいだけだろ」


「俺は仲間が強いと知っているからな」


「緊張しっぱなしは体に悪いのじゃ」


 俺達は全員強いわけで、食事があるなら心配はない。

 それぞれの力量さえ把握できていれば当然である。


「ご飯できたよー!」


 二人が昼飯を運んでくる。ここまでの戦闘結果によって、食料は微妙にいいものへと変わっていた。

 どうやら小分けにされているのは、それぞれの戦闘を反映した支給品を送るためっぽい。


「そっちこそ寝なくていいのか?」


「深夜に襲撃があったせいで眠れないんです」


「昼夜のバランスを崩そうとしておるのじゃな」


「試験だしな」


「食ったら寝ちまいな。裏の見張りはオレとアジュでやる」


 男二人だと自然と組むことになる。

 知らない女と組むより五千倍まし。


「わしもアジュと一緒に行くのじゃ」


「そうね、私達でしばらく独占していたものね」


「今日はリリアの日だね」


「そんな理由で決めてしまっていいの? ああ、休みは嬉しいわ」


「よいよい。しっかり寝るのも仕事じゃよ」


「ありがとうございます!」


 そんなわけで昼食。裏の二人にも持って行ってやった。

 裏口にテーブルが有るのは、案外このためかも。


「なんだこれ? 米の上に肉?」


「これ俺が教えたやつか」


「さっと作れるものにしてみたわ」


「カツ丼風貧乏飯じゃな」


「まずかつどんがわからないです」


 なぜかレシピを話すことになった。そんなに知りたいかねえ。

 女に好評な食い物とは思えん。


「まず安い肉を用意する。ササミとか栄養あっていいかもな」


 カツ丼が高いから、別の肉でささっと作るのだ。


「器を用意して、そこに玉子とめんつゆ。なかったら醤油とかをアレンジして、それに近いタレを入れる。さらにお湯だ。これは少しでいい。器の底に一センチ水が張れるくらいだ。水浸しにならないように注意な」


「なぜお湯なの?」


「水よりいいかなーと思っているだけ。水でもいい。つゆだけじゃ味が濃すぎるんだよ。中和したい。で、それをよく混ぜる。泡立つくらいしっかりとな。ここに肉を入れて馴染ませろ」


「玉子のタレをつけるのね」


「そういうこと。で、これをレンジで三分くらい……できりゃいいけど無理なんで、フタをして火にかける。あとは玉子が今目の前にある感じになったら、白米に乗せて完成だ」


 これのいいところは、油を使わないので、ヘルシーで後片付けが簡単な点にある。しかも五分くらいで完成する。下準備もカツじゃないから、ほぼ必要ない。


「金に余裕ができたら、刻んだ玉ねぎも一緒に入れて作るんだな」


 説明終わり。刻み海苔とかあったら更に美味い。まあ贅沢か。


「ん、美味いね。俺の作ったやつと似ている」


 実食開始。それぞれ食べ始めるが、嫌そうな顔はしていない。

 肉も柔らかいし、小分けに切られていて、玉子も米もしっかり味が染みている。

 親子丼みたいでスプーンで食いやすい。


「お、いけるじゃねえか。男飯ってのはたまーに食いたくなるんだよ!」


「作ったのは私達よ」


「アジュから教わったけどね」


「わかるぜ。なんか無性に雑なもん食いたくなるよな。屋台もんとか」


「だよな。大味のもんがーっと食いたい時てのはあるんだよ!」


 全力同意である。この感覚は多分男の方が強い。

 日頃なに食ってるかにもよるけども。


「美味しいです。男の人ってこういうの好きですよね」


「悪い味じゃない。玉ねぎも入っているのね。玉子も味が染みている。家で作ろう」


 新人二人からも好印象である。女でこれ作る人も珍しいだろう。


「つゆが完全に玉子に染み込む前に飯に乗せろ。米につゆが染みて美味いぞ」


「そう、助言感謝する」


 言いながらもう半分くらい食っとる。近接戦担当は腹がへるんだろうか。


「飯に贅沢言うタイプじゃなくて助かったぜ」


「美味しいですよ。それに非常事態ですからね」


「その雰囲気ゼロじゃがのう」


「雑な料理と二人の繊細さ? が混ざっていい感じだな。俺より美味いんじゃないか?」


 料理に慣れているやつがいると、味が変わって面白い。

 自分の料理を他人が作る。これが面白いと最近知った。


「こういうのってよ、作ってくれって頼みにくいよなあぁ~」


「まあな。うちは当番制だから、俺が作ればいいだけさ」


「やっぱ料理覚えねえとなあ」


「まるっきりできないわけじゃないんだろ?」


「サバイバル料理と、まあ男飯だな。だからいつもソニアとクラリス頼りさ」


 なるほど、基礎はできているんだろう。

 サバイバル料理て、どんな生活送ってんだ。


「覚えるといいよー。基礎ができるならできるって」


「いつまでも恋人頼みではだめよ」


「うむ。手料理は大切じゃ」


「作ってくれる優しい彼氏は魅力的ですよ」


「悪くない。料理は日常行為。損もない」


 なぜ女性陣はすぐ結束するかね。まあ俺もできた方がいいと思うけど。


「覚えるのは大変なんだぜ」


「わかる。俺も結構苦戦する。知らない国の料理って難しいよな」


「そこは一緒に作ればいいんだよ」


「……なるほど」


「盲点だったな」


 そういう習得方法もあるのか。便利そうだな。失敗の度合いも違うだろう。


「男って全員こうなのかしら?」


「二人がちょっと特殊なんじゃろ……きっと」


「やっぱり自然に女の子から誘わないとダメだねー」


「恋愛はよくわからないです」


「オレもだ」


「もちろん俺もだ」


 はいめっちゃ睨まれました。

 俺にそんなものがわかると思うてか。このうつけものめ。


「プラスに考えるのよ。わからないうちに攻略すれば、アジュハーレムも増えないわ」


「そうか、このまま三人で独占できる!」


「ハー……レム……?」


 はいめっちゃ引かれました。

 ですよね。そのリアクションで正しいです。


「まだ観念してなかったのか。さっさと付き合っちまえ」


「いやいや、これがなんとキスまでいったのじゃよ」


「言うなや!?」


「マジか!? やるじゃねえか! おめでとう! やったな!」


 笑顔と拍手で祝福してくれるヴァン。嬉しくないぞ。


「まさか三人とですか……?」


「もちろんよ。そこまでの道のりは、それはもう果てしなく長かったわ」


「これはホノリとももっちにも言っておるが、ハーレム入りするには、わしら三人がちゃんと審査するからのう」


「勝手にアジュとちゅーとかしないでください! お願いします!」


 前代未聞のお願いである。したいやつなんてお前らだけだよ。


「忘れてくれ。俺達のことはなるべく忘れて、かかわらないことが最善の道だ」


「そうする」


「聞かなかったことにしますね」


 ヴァンが気付かれないように、後ろを向いて笑いをこらえている。

 他人事だと思って笑いおって。


『緊急指令。二番の家は一番に、六番の家は三番に合流せよ』


 食事中なのにアナウンスが来た。迷惑極まりない。


「人が飯食ってる時になんだよ……」


「別に俺達は動かなくていいんだろ。さっさと食っちまおう」


「じゃな。冷めてしまうのじゃ」


「来るのはどんな人かしらね」


 みんなで飯を食いながらそんな話をする。

 興味がない。よりによって全員女だし。


「無駄に仕切られるとうざい。いっそ今いるメンバーを昼か夜に固めて、もう片方を任せると楽じゃないか?」


「わたしはそれがいいな」


「オレもだ。肩身が狭くていけねえ」


「こちらに異論はない」


『本日深夜0時、最終試験を行います。全員家の中で待機。深夜のサイレンまで敵は来ないわ。頑張ってね。協力すれば乗り越えられない困難ではないわ。みんなは勇者の卵なんだから』


 シャルロット先生の声だ。声から心配と励ましが感じ取れる。


「つまり全員参加か」


「だろうな。よっしゃ全員夜まで寝るぞ」


「別の家のものが来る。どうすればいい?」


「顔見せして寝ておいた方がいいわ。体力は無限じゃないのよ」


「部屋は六個だ。三人か四人で使えばいいだろ。各部屋に二段ベッドが二つあったし」


 結構一室は広い。なので二人一部屋だった。リリア達は三人だったけど。

 無論、俺とヴァンが同室だ。


「わしらが三人で」


「そしてほのちゃんと私が同室なのさ!」


 リウスとももっちが帰ってきた。槍使いと眼鏡っ娘も加入。

 そして俺とヴァンが同室。これで三部屋だ。


「まず体力の減っている見張り二人と、眠れていない二人はさっさと二階に行くのじゃ。交渉はわしらでしておく」


「任せる。男がいると揉めそうだ。先に寝ていいか?」


「よいよい、男二人はさっさと行くのじゃ」


「悪いな。オレがいても役に立てそうもねえ。戦いで貢献するぜ」


 交渉事に俺達は向いていない。

 大抵のことは試験だからで解決するだろうし。おとなしく寝よう。


「じゃ、みんなおやすみー。わたし達に任せたまえ!」


「ちゃんと寝るのよ? 気を遣って起きていても、深夜に困るわよ」


「すまない。お言葉に甘える」


「ではお先に失礼しますね」


 各自睡眠をとるために部屋へ。俺が向かって右のベッド。ヴァンが左。

 さっさと寝る準備をして、布団は肩までかける。

 ちょっとだけ雑談。五分くらいな。


「わざわざ時間を決めてくるってことはだ」


「総力戦だな。家にいろってことは、門じゃなくて家に来るか」


「門じゃあ抑えきれないほど大量に来るかか。俺の手に負える範囲で頼みたいもんだ」


 敵の強さは毎回ちょっと上がっている。それでも楽勝なんだけど。

 逆にどこまで倒しても不自然じゃないかのラインがわからん。


「そんだけ強けりゃ、もっと派手に楽しんでもいいんじゃねえのか?」


「ないな。俺の力はこっそり自分……とあいつらだけに使う」


「そういうことは面と向かって言ってやれ」


「まだ無理」


「そのまだはずーっと来ねえやつだろ」


「いいんだよ。それとなく態度でなんとかすれば。おやすみ」


 無理矢理にでも寝る。起きたら最終戦か。さてどうなることやら。

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