第182話 試験は順調です

 一晩ゆっくり寝て昼間。シルフィとイロハと昼飯にする。


「することがないと眠くなるな」


「そこにカードゲームを持ったシルフィちゃんが!」


 武器持ち込み自由で、食料禁止だった。

 つまり遊び道具は禁止されていない。


「ご飯の後にしなさい。はい、できたわよ」


 肉野菜炒めとパン。とりあえず腹は満たされた。

 そんなに量も多くないし、すぐ食い終わる。


「ごっそーさま。敵が来るまでゲームするか」


「アジュの体で舐めていい部分をギリギリまで追求するゲームを始めるわ」


「やめろや!?」


「まずオーソドックスに口の中からよ」


「しょっぱなディープキス狙いとか、マジ震えてきやがった……怖いわ」


「ほっぺくらいからがいいと思います!」


 静かにしていたシルフィが追い打ちかけてきやがる。

 どこにするか悩んでいたのか。


「からってことは」


「当然追求は激しさを増し、欲望は加熱するわ」


「なぜそんな言い回しだ。試験中だって言ってんだろ」


「なんかねー落ち着かないのさ。試験中だし」


「そんな気持ちを性欲として発散しようとしているのよ」


「別の方法を考えてくれ」


 そもそもお前ら心配する必要ないだろ。

 二人がクリアできない試験とか確実に突破できない。


「じゃあ趣向を変えます! アジュはわたし達をどのくらい優しく撫でられるかゲーム!」


「普通にカードゲームしようってマジで」


「負けたらアジュが脱ぐ、と付け加えるなら受けて立つわ」


「俺が勝ってもメリットないだろ」


「勝つとアジュは二枚同時に脱げます!」


「結局俺が脱いでるだろうが!!」


 スキあらば脱がせようとするこいつらが怖いわ。


「ここに男性用水着があるから、これに着替えてきてくれるかしら?」


「絶対に嫌です。なんでそんなもんがある?」


「持ってきたからよ。あらゆる状況を想定する。それが忍者よ」


「忍者って凄いねー」


「そうだな。凄いアホだな。忍者に謝っとけ」


 ここでサイレンが鳴る。助かった。もうだめかと思ったよ。


「よっしゃ敵だ」


「よっしゃって言ったね」


「言ったわね」


 言ってしまいました。試験中の暇な時間は怖いね。

 なにもすることがないと男女はこうなるのか。


「いいから行くぞ。裏口は……」


「私が行くわ。昨日はアジュを独占したもの」


「今日はシルフィちゃんの時間さ!」


「へいへい。んじゃ行きますよーっと」


 生徒が少ない方の門へ。少ない理由はすぐにわかった。

 そこには『強敵注意。自信のない子は反対側の門へ行ってね』と書かれていた。


「よし、反対側に行くぜ」


「そんな時間ないと思うよ」


「お、サカガミとフルムーンじゃないか」


「いようアジュ。相変わらず仲良さそうだな」


 声をかけてきたのはホノリ・リウスとヴァン。

 黒い獣耳女と、筋肉が増した赤毛の男。見間違うはずがない。


「ヴァンとリウスか。久しぶり。こっちにももっち来てるぞ」


「ああ、うるさくしていないか?」


「意外と役に立ってて驚いている」


「忍者って凄いねー」


 やはり専門家がいると楽だ。二人いると交代できるから更に楽。


「なあアジュ、こんなことを頼むのもマジでアレだが……家が減るだろ?」


「減る……ああ、徐々に減るらしいな」


「頼む! そんときゃそっちに行かせてくれ!」


 ヴァン渾身のお願いである。凄く必死さが伝わってくるよ。


「ヴァンは俺達と組まなくても強いだろ?」


「アジュは身内で固まってっからそう言えるのさ……いいか、ソニアとクラリスは勇者科じゃねえ」


 そういやそうだったな。あれ? ってことはヴァンは今誰と組んでいるんだ?


「はっきり言おう。肩身が……狭いぜ……ろくすっぽ知らねえ女の中にいるのはよ……」


 遠い目である。なんと悲しそうな瞳をしておられるのか。


「約束する。アジュの女には手を出さねえ。ソニアに殺されるし、クラリスになぶり殺される」


 クラリスの方が残酷なんだな。知りたくない知識が増えたぜ。


「勇者科って男が三人か四人だしなあ……俺が逆の立場なら死にたくなる。入れてやりたいけれど……」


「いいんじゃないかな? 知らない人じゃないし。みんなに聞いてみたら?」


「マジか!? ありがてえ……恩は返すからよ! なんとかアジュもフルムーンも頼んでくれ!」


「大変なんだな。男が少ないって……」


「リウスも逆ならそう思うさ」


 俺の鎧について知っているし、人柄もある程度理解している。

 そのうえで強いんだから、入れてやりたい気持ちはあるさ。


「俺が逆パターンになったとき、なるべく入れてくれるよう交渉とかしてくれよ?」


「ああ、そんときゃオレに任せな! ありがとう! すまねえ! 恩に着る!」


 超感謝された。わかる。わかるぜその気持ち。

 なにやら地面を軽く揺らして近づいてくる大きな影。

 そういや戦闘前でしたね。


「来たな……サカガミはあてにしていいのか?」


「しないでくれ。鎧は使いたくない」


「わたしの時間操作も使えないよ」


「ま、目立つからね。うちらが頑張るか」


「オレが使える男だとアピールしてやるさ。そうすりゃそっちに行きやすいってもんだろ」


「あれは……なんだ?」


 甲冑を着込んだ五メートルくらいある炎がいる。

 顔が完全に真っ赤に燃えた炎で、関節部分から時折火を吹いている。

 手にはでっかい鉄板のような剣が握られていた。


「またごっついの来たぞおい」


「普段あまり見ないな」


 部下なのか人魂が複数、ボスを守るように存在している。


「あの浮いている人魂はなんだ?」


「ありゃボスの配下だ。強すぎる瘴気が形になる。大抵は人間を真似て二足歩行だ」


「なんだ知り合いか」


「さあ、顔が見えないんでわからんね」


 他の生徒達と一緒に迎撃態勢を取る。

 人数確認。全部で十二人。後衛が多めだな。杖とか弓を構える生徒多し。


「前衛五人くらいかこれ?」


「そこの四人。接近戦いけそう?」


 一応四人ともできると伝える。回復薬と魔法使いに援護させる作戦で決定。

 門を五人で守り、残り六人の魔法でフォローして貰う手筈だ。


「ちゃっちゃと始めようぜ。全部ぶった斬れば終わりだ」


 ヴァンが金ピカの剣を取り出し、真ん中で二つに割る。

 柄が伸びて、見事に二刀流の完成だ。


「ギルの剣か」


「正解。名前忘れちまったんだけど……覚えてねえか?」


「悪い。俺もわからん」


「言ってる場合じゃないよ!」


 人魂連中が手足の長い燃えるゴリラみたいになった。

 四本足でこちらへ走ってくる。


「ヴァンさーん」


「例外はなんにでもあるぜ」


 そこそこ速いが、まあ迎撃できるだろう。


『ショット』


 詠唱いらずで連射のきくショットキーは便利。

 威力も高いはずなんだけど。


「効き目が悪いな」


 命中するが、大きくひるませるだけ。


「単純に耐久力が高いんだよきっと。さて、うちもいくか」


 ホノリの両手足についた、いかつい装具から炎が吹き出し、腕のパイルバンカーが射出体制に入る。ああいう無骨でパワーのある武器は好き。


「でえええりゃああぁぁ!!」


 足のブーストで加速して距離を詰め、拳の威力にダメ押しのパイルバンカー。

 さらに先端についた火炎魔法が、体内に食い込んでから大爆発と。

 轟音が三度鳴ると、ゴリラが跡形もなく破裂した。


「おおっ! イカしたモン使ってんじゃねえか! 負けねえように派手にいくぜ! 豪爆連牙斬!!」


 ヴァンが力任せに剣を振ると、魔力が溢れ出して爆発を起こす。

 追い討ちかけるいい剣技だ。剣技というか無茶苦茶に暴れているだけだが。


「あいつらに任せりゃいいな。こっちは門を守るか」


 イヤッハアアァァ! とか言っているやつに近づきたくない。

 確実に巻き添えを食うじゃないさ。


「しっかしなんでゴリラみたいな姿なんだ?」


「ごりらってなに?」


 ここでこの世界にゴリラがいないかもしれない事が発覚。どうでもいいな。


「まだ世界には知らないことが多いな」


「わたしが知らないだけかもよ?」


「どっちでもいいさ」


 敵を切り刻みながら会話する。シルフィはもうめっちゃ余裕だ。

 片手間で門に迫る敵を斬っている。


「あの甲冑を倒さないとダメみたいだね」


 援護射撃により、人魂の数はそれほどでもない。

 しかし、正直飽きる。防衛戦って退屈だな。


「鎧で終わらないのが、こんなにめんどいとは……」


 フレイムレイスは魔法による攻撃を受けているが、あんまり怯まない。

 むしろこっちに迫っている。


「人魂の除去完了! あとはボスだけよ!」


「よし、デカブツの処理をどうするかだな」


 敵は大剣を振り回すだけで危険な相手だ。

 風が巻き起こって目くらましになるし、一撃でも当たれば死ぬぞあれ。


「剣を砕くか、腕を切り落とすか。まあ炎に斬撃が有効か知らないけれど……」


「よーし、じゃあわたしが足を切って体勢を崩すから」


「オレとアジュで両腕斬っちまうか」


「まさか最後を私にやれと?」


「リウスが一番派手だし、威力もあるだろ」


 最大出力でぶっ放せば大穴が空くはず。

 俺がサポートについて、他人に手柄を譲ることで、目立たずに終わろう。


「んじゃ、チャージよろしく」


「大役だな……魔力が足りるかどうか……」


「まだ魔力ならあるわよ」


 後衛のみなさんが参加してくれる。全てはホノリの右腕に託された。


「鎧も硬いし、中身は炎よ。三人とも切れるの?」


「余裕だろ。ド派手にいくぜ!!」


 黄金の剣を繋ぎ合わせて大剣にする。すると刀身に光る紋章が走った。

 なるほど、神器らしさが出てきたな。


「わたしも大丈夫!」


「任せろ。そういう相手は得意だ」


『ソード』


「それじゃあいきます!」


 加速したシルフィが、すれ違いざまに足を斬り裂いて膝をつかせる。


『エリアル』


「いくぜヴァン」


「任せな!」


 俺が上空から、ヴァンが下から袈裟斬りにする。


「セイヤアアァ!」


「ぶっ潰れなああぁぁ!!」


 両断成功。やっぱりこの剣は楽でいい。抵抗もなく綺麗に切断できた。


「リウス!」


「でえええええりゃあああぁぁ!!」


 全速全開の右拳が甲冑の胸に打ち込まれ。どでかく鈍い衝突音が響く。


「爆砕!!」


 フレイムレイスの背中から放出される大量の魔力。

 そして始まる大爆発。急いで距離を取って目を閉じる。


「終わったな。お疲れ」


 爆風が消え去ったのち、その場に残るはリウスのみ。


「手間のかかるやつだったぜ」


 だが計算通りだ。リウスに集まる生徒達。よしよし、俺は目立っていない。


『五番の家は使用禁止。他四個の家は、住人を六人までとします。至急私物を回収し、移動の準備をしてください』


 無慈悲なアナウンス。俺達は三番だったな。セーフだ。


「間一髪だな……まさか、恐れていたことが現実になるとは。オレはラッキーだった」


「あれか、五番だったのかヴァン」


「ああ、説得頼むぜ。必ず役に立つ」


 そんなわけで二日目の昼も終わりである。

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