第186話 必殺魔法完成!

「最終試験は五対五のチーム戦よ!」


 最終試練はチーム戦らしい。しかも五人。そりゃ助かるわ。


「じゃ、俺達はいつもの四人で組むぞ。ヴァンはどうする?」


「入れてくれ。是が非でも。頼むから入れてくれ。知らない女に今から交渉はキツイぜ」


 ああ、きっついな。俺だったらもう地獄だよ。

 気持ちが痛いほどわかるので入れたい。


「いやいやいや、それサカガミチーム優勝確定だろ」


「いや、負け確定だぞ」


「んん? なんで? あじゅにゃんチームに勝てるってことは、黒い狐さんに勝てるってことでしょ? 無理じゃん!」


 黒狐のことか。よく覚えてんな。

 九尾のインパクト強くて、俺もほぼ忘れていたというのに。


「いや、俺達は強いってことを気取られたくない。だから準決勝くらいで負けておく」


「なるほど。そこそこで満足するわけか」


「だからそっちと準決勝で当たったら負けることにする。ヴァンも優勝狙うなら他に行ってくれ」


「オレは構わねえよ。まず肩身が狭い。優勝にも興味がねえ。鎧着たアジュと戦ってみてえけど、こっちが全力出せん。ソニアとクラリスが呼べねえし」


 お互いに隠し玉が使えない。面倒な勝負はさっさと終わらせよう。


「フウマ達はそれに納得しているのかにゃん?」


「ええ、私達が散ってしまうと、加減がわからないし、全員合格できるかわからなくなってしまうわ」


「一人だけ不合格は嫌だもんね」


 そんなわけで全員納得済み。

 こうして準優勝までなら可能なチームが結成された。


「うちらはAチームの四人と」


「私の友人を入れる。こちらは気にするな。楽しかったぞ」


 槍使いの友達で、腕にでかい盾をつけた女が入るらしい。

 リウスと槍使いに盾役。サポートももっちで、魔法はメガネっ娘。

 結構バランスいいな。かなり強いんじゃね。


「ルール説明始めるわよ! 殺しは禁止。拷問や、降参した人への無意味な攻撃も禁止。攻撃魔法が当たる前に降参して、当たっちゃうとかは基本セーフ。七チームあるから、ひとつシードとして、勝ち抜き戦ね」


 俺ともとAチームの四人は決勝であたるな。優勝は譲るぜ。


「ちゃんと医療班もいるから、大怪我しない程度に頑張りなさい」


 上がったリングは石畳。暴れても問題ない強度らしい。かなり広いな。

 第一試合。よりによってBチーム相手ですよ。


「運が無いわねあんたら」


「その不真面目な姿勢を正してやろう」


 あちらさんがやる気だ。無駄に態度がでかい三人と、さらにお付きが二人。

 大剣使いと魔法使いね。まあそれは無視して作戦会議。


「リリアがお付きの魔法使いを、イロハが紺色二刀流女を頼む。リーダーのロングソード女はシルフィかな?」


「リーダー対決でアジュが行ってもよいじゃろ」


「えぇ……無理くさくないか? 鎧着てないぞ。剣士つながりでヴァンとか」


「オレはあっちの大剣使いがいい。敵の中じゃ、あれが一番マシな腕だ」


「どうせなら魔法使い相手がいい。必殺技完成させたい」


 あと二回か三回で完成するはず。

 そんなわけで緑髪の軍師っぽい女を相手に決めた。


「それじゃ試合開始!」


 先生の合図で散らばる俺達。だが敵は固まって動く。


「バカじゃないの? 作戦丸聞こえなのよ。チーム戦なのに一対一とか脳みそついてるわけ?」


 前衛が固まって、後衛が遠距離魔法で削る作戦かな。


「残念。聞こえていても関係ないんだよ。シルフィ」


「ほいさー」


 金髪ソード女の真横に、マッハ三十くらいで移動して斬りかかるシルフィ。


「なっ!? あなたどこから!?」


「おのれひとりで突撃とは。どこまでも我らを舐めおって!」


「ひとりだと思ってしまう。それが今のあなたの限界よ」


 二刀流ナイフ女の背後から、イロハが蹴りを入れて分断する。


「こいつ……気配が読めんだと……」


「んじゃオレもいくか。おーいしっかり防御しろよ。おもっくそふっ飛ばすからな」


「どういう意味よ?」


「正面から殴り飛ばすから、耐えろって言ってるのさ。イヤッハアアァァ!!」


 本当に真正面から豪快にパンチをかまし、遠くに飛ばしている。

 防御に使われた大剣に、ヒビまで入っていますよ。


「なんて力……」


「まだまだこんなもんじゃないぜ。本気で来な」


 これで前衛は全員バラけた。こっちはこっちでやるとしよう。


「さて、これで分断できたな」


「侮っていたわ。あんたら、ちょっと異常よ」


「ごく普通の高等部一年生じゃよ」


「ってなわけで魔法合戦いってみるか。サンダースマッシャー!」


「フレアボム!」


 緑髪と俺の魔法がぶつかり、弾けて消える。

 一応威力は互角っぽいかな。


「雷属性? 無駄にレアスキルね」


「そういや珍しいんだったか」


「光や闇に比べれば霞むわ」


「属性ってかなりあるのか?」


「あるのじゃ。そもそも属性とは細分化しすぎないように、それでいてしっかり区分できる使い手が……」


「戦闘中に雑談とは余裕ね? フレアシュート!」


 チャンスだと思ったのか炎の矢を飛ばしてくる。迷惑だからやめて欲しい。


「うるさいのじゃ。解説中くらい静かにせんか」


 リリアが扇子を開くと、炎の矢が空中で防御魔法に変わる。


「んなあっ!? なにやったのよ!!」


「これでよし。まず基本属性は話したじゃろ」


「火・水・風・土とかだろ?」


「うむ。基本属性の他に、魔法には回復や召喚、精霊魔法もあるのじゃ。属性そのものも多岐にわたる」


「俺は雷と回復と召喚だな」


「ええい無視するなああ!!」


 攻撃魔法がどんどこ撃ち込まれるも、全て防御魔法に書き換えられ、俺達の安全を確保してくれる。


「あんたも手伝いなさい!」


「は、はい!」


 二人がかりで必死こいているところ悪いけど、リリアに魔法で勝負は無理だ。


「本人の魔力練度と量によって、できることは増えていく。応用力にもよるがの。属性はその過程で増える。系統はある程度決まっておるが、本能のままに伸ばすも、弱点を克服するも自由じゃ」


「今は雷でできることを覚えたい」


「ならそれでよい。他の魔法が使いたくなったら、わしがサポートするのじゃ」


「そっか、頼むわ。もっと色々やってみたいしな」


「別に魔法以外でもよいのじゃよ。よし、一回わしを撫でてみるのじゃ」


「なぜに?」


「撫でられたいからじゃ!」


「人が攻撃してんのにラブコメすんなああぁぁ!!」


 緑髪さんが怒っていらっしゃる。

 そんなに大声出すと疲れるぞ。


「リリアだけいちゃいちゃするのは、ずるいと思います!」


「そうよ。平等に撫でなさい。まず私を撫でなさい」


 いつのまにやらシルフィとイロハがいた。


「お前ら戦闘はどうした? あとヴァンどこ行った?」


「もう終わったよ?」


「あっちで座って干し肉かじっているわ」


 もう終わったか。まあ長くもった方だろう。シルフィ達が強すぎるだけだ。


「うっそ!? なんでもう負けてんのよ!!」


「ではあの緑髪さんを一人で倒すのじゃ。片方は……ほいっと」


 扇子を閉じると、風の衝撃が魔法使いさんを場外にふっ飛ばす。

 リングアウトも負けである。


「これでよいじゃろ」


「頑張って。応援しているわ」


 なんか応援されているので頑張ろう。

 防御壁から出て戦闘準備に入る。


「そんなわけで俺が戦うんでよろしく」


「ふざけんなああぁぁぁぁ!!」


 喉潰れるぞお前……そんなに叫ばんでも。


「アタシが軍師として立てていた計画がメチャクチャよ。考えなしのアホのせいでね」


「知るか。サンダースラッシュ!」


「エアカッター!」


 ぶつかって消えた魔法を見るに、やはり互角。なら物量だ。


『ショット』


 銃をショットガンモードにして二つ出す。二丁拳銃っぽく使おう。


「ほれほれ、この数をさばけるか?」


「シールド!」


 分厚い魔法障壁だ。一枚の壁として、強度を前にだけつぎ込む。

 悪い戦法じゃないな。威力を弱め、正面から攻撃した俺が悪い。


「反省反省。んじゃこんなのはどうよ? サンダードライブ!」


 電撃が壁を避けるようにして地面を疾走し、やつを取り囲む。


「アースドーム!」


 リングの石畳があるってのに、土のドームが姿を現す。

 電撃はドームを半壊させるに留まった。


「あっさい知恵ね。その程度の知能で勝てると思ってるわけ?」


「にしちゃあ息が荒いぜ。安っぽい挑発でもしないと安心できないか? その程度の精神力で軍師とは、笑わせてくれるじゃないか」


 俺は挑発には乗らんよ。挑発していると少しでも感じたら、絶対に乗らない。

 怒りに任せて突撃したり、魔力が尽きるまで撃ちまくったりしないのさ。


「この石畳は使えるわ。何でできているか知らないけれど……アタシの勝ちね!」


 なんか急に勝ち誇ってきた。緑髪さん情緒不安定だな。


「アースゴーレム!!」


 石畳と土を混ぜた巨大なゴーレムが出来上がる。

 三メートルくらいか。こりゃやばい。

 銃をリボルバーに戻し、数発撃つが効果なし。

 っていうか弾かれました。


「んー鎧着てなきゃこんなもんか」


「アーッハッハッハ! よくもバカにしてくれたわね! あんたはもう終わりよ!!」


「リリア。やばそうならあいつにシールド張ってくれ」


 ゴーレムは人間じゃないから殺してもいいだろう。

 ちょっと必殺魔法を試し撃ちしてやる。


「お、ついに完成じゃな?」


「どうかな。何故かいけそうな気はするんだ」


 この世界の魔法名は、個人によって違う。

 火の玉がファイアボールでも、フレイムボールでも、実は一緒だったりする。

 一応誰が読んでも発動する魔法書には、ファイアボールとかあるけどな。


「魔力が高まり、使いこなせると心が理解した時、自然に名前は浮かぶはずじゃ」


 俺だけの魔法名を、頭に浮かんだところまで叫んで撃ってみよう。


「頑張って、アジュ」


「私達は失敗しても味方でいるわ」


 声援を受けて集中する。俺の思い描く、自由な発想でいい。


「何をしようとしているか知らないけれど、させると思ってんの?」


「させてやるのがわしらの仕事じゃよ」


 ゴーレムの足元から膝までが凍りつく。


「ナイスだリリア。はああぁぁぁ……っ!!」


 右手にサンダースマッシャー。左手にサンダーシード。

 両手で混ぜ合わせて、サンダーフロウで強化。

 サンダードライブでかき混ぜ、螺旋状にして、サンダースラッシュで切れ味を強化。


「くっ、やっぱ負担がでかいな……集中切らしたら無駄になっちまう」


 両手に大量の魔力と雷撃を集めている。

 驚くほどの精密作業。それを半分本能と感覚でやるという暴挙。

 眩い雷光が荒れ狂うのを、なんとか制御する。


「いけそう……だな」


 砲撃と斬撃の両方を兼ね備え、ライトニングフラッシュを一点に集中するイメージだ。


「おぬしならできる。今日までの全てをかけるのじゃ!」


「頑張って! アジュならできるよ!」


「必ずできる。私達は信じているわ」


 声援に応えるように、電撃の精度を高め、輝く閃光を凝縮する。

 やがて生まれる俺だけの雷光。

 完成すると、驚くほどシンプルに手順が思い浮かぶ。


「次からはもうちょっと楽に撃てそうだ」


 両手から放つ魔法は必殺の一撃。

 今の俺にできる最高の一撃だ。


「プラズマ……イレイザー!!」


 解き放たれた奔流は、全てを飲み込み消滅させるために突き進む。

 衝突し、破壊し、削り、斬り裂き、貫き、跡形もなく消し飛ばす。


「ははっ、できたな……」


 ゴーレムは影も形もない。ついでにリングまで削り取って消えた。


「はあ……やりゃできるもん……おぉ?」


 思わず膝をつく。かなり体と魔力に負担をかけるみたいだ。

 連発はできないなこりゃ。


「アジュ、大丈夫!?」


「別に死んじゃいないだろ」


「死んだら困るのよ」


「全くじゃな。とりあえず完成おめでとう。必殺技ができたのう」


「凄かったよ! あれどうやったの!?」


「凄いスピードで成長しているわね」


 魔力のコントロールだけは得意みたいだな。長所は伸ばす方向で行こう。


「まだ試合中だろ。喜ぶのは……」


「余波で場外まで吹っ飛んでおったぞ」


 リング外で医療班に手当てを受けている緑髪さん。

 一応外してやったからな。生きている。


「勝負あり! 両者おつかれさま。ちゃんと休むのよ。特に魔力切れでヘロヘロになっているそこの君!」


「安静にしてます」


 場外に戻り、ヒーリングかけてもらいながら、ポーション飲んで休憩。


「とりあえず勝ったな」


「おう、おつかれ。肉あるぜ。食うか?」


「……ちょっと食っとくか。悪いな」


 ヴァンに干し肉を貰う。なにか腹に入れておこう。

 少しでも体力を回復したい。


「いいさ。なかなかイカス技じゃねえか。ド派手で気に入ったぜ」


「ああ、あれは連発できないが必殺技になりそうだ」


 あれを完成させたことで、ちょっと自信に繋がった。

 魔法の道、もうちょい本格的に考えてみようかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る