第187話 試験終了と寄り道
一勝して待機中の俺達。他のチームとは距離を取っておいた。
「よし、聞こえるな? 会議始めるぞ」
二試合目が行われている間に、リウスチームとこっそり会議。
「とりあえず最初は真面目にやっている振りをして」
「こっちが徐々にサカガミチームを追い詰めるんだな」
俺の召喚機を起動し、イロハの召喚機を貸して会話する。
しっかりイロハの影を巻き付かせて延長コードのようにしているから、なんとか起動できる。
これなら離れて会議できるので、打ち合わせしていると気付かれない。
こういう小細工好き。
「サカガミと戦うときの注意は、泣き落としと色仕掛けをしないことだ。完全に敵とみなして、全力の拳を繰り出してくるぞ」
「女は泣けば許されると思いやがって……なぶり殺してやるぜ~とか思ってるからね、あじゅにゃん」
「思ってねえよ。殺したら失格になるだろうが」
「殴ろうとするのは事実なんですね……」
「涙は女の武器だろ? なら男の武器である拳で迎撃して何が悪い?」
「あじゅにゃんはああいう人です! あと小細工大好きだから、体力がないからって油断しない!」
そういう人ですよー。人間のメスは下劣でいやですわね。
もとAチームの会議は続く。
「フルムーンが視界から消えたら諦めろ」
「アドバイスになってませんよ!?」
「フウマちゃんは、影に触れるとこっちの負けだからね」
「負ける条件が多すぎません!?」
大丈夫だ。こっちの負けは確定しているから。
作戦会議をさせているのは、こっそり聞いて、俺達が作戦通りに負けてやるためだ。
初めっからそういう打ち合わせなんだよ。
「ルーンちゃんは扇子の開け閉めだけで、全部の魔法を連射できるから注意ね」
「ちなみにどうやって注意すれば?」
「目の前に出現した魔法の特性を、素早く理解して避ける」
「無理ですって!?」
これわざと負けたらバレそう。ちょっと注意入れよう。
「おい、あんまり無理ゲーなのばらすと、勝った時に疑われるぞ」
「わかった。気をつける」
「よし、じゃあヴァンくんはひたすら強いから頑張って倒そう!」
「なんだかねえ……オレは演技にゃ自信がないぜ?」
「手加減の訓練だと思え」
俺も演技なんてできない。やったことがないのだ。
「お、うちらの番だな。行ってくる」
「頑張れよ。召喚機を足元の影に入れろ」
「こうか?」
忍ばせてあるイロハの影に、召喚機が入っていく。
あとはそっとこちらに運ぶだけ。便利だねえ影って。
「ま、あいつらなら負けないだろう」
リウスチームはなんとか勝利。大怪我もない。
よしよし。負けられると困るんだよ。
「お疲れ様ー。みんな強いね!」
「相性がいいみたいでね」
「うむ、我らの連携が上手くいった」
「やっぱり一緒に生活して戦っていくと強くなるねえ」
なんとなく、俺ですら理解できる。
連携力とはそうやって培うものなのかもな。
「でも次の試合はどうするの? あじゅにゃんは疲れてるんでしょ?」
「忘れたか? 俺達には、強いと知られても困らない男がいることを」
そんなわけで、二回戦はヴァンさんが大暴れして勝ちました。
とても楽しそうにしていたので、よかったと思います。
リウスチームも無事勝利し、決勝戦だ。
「さ、次はリウスチームとだな。なんだかんだ決勝まで来たが、戦果としちゃ充分だろ」
「別にわたしゃリーダーじゃない」
まとめ役がいないらしい。俺達にもいないな。
「俺達は……リリアか?」
「ギルドマスターじゃろおぬし」
「アジュは奇策が得意なのだから、私達がそれに合わせて動けばいいのよ」
「あじゅにゃんチームは個々が強いんだよ。しかも全員があじゅにゃん大好きだから、完璧に指示に従って、最高の結果が出せるのさ」
ももっちの的確な分析が光る。なるほど、シンプルな指示で意思の疎通ができるし、本当にありがたいな。
「かーなーり恵まれてんなあ俺は」
「そうじゃな。だからもう少し、わしらにご褒美をくれるべきじゃ」
「そっちに話をもっていくか。Fランクギルドにそんなお金はありません」
「……Fランクだったんですか?」
なんかAチームに凄く驚かれている。
一緒に生活しているうちに話した気がするけれど。
「言ってなかったか?」
「初耳だ。なんというか……色々と規格外だなそちらは」
「こいつらが凄いだけさ。助かっているよ」
これは本当だ。感謝している。あまり態度には出さないけれどな。
「ならもっと態度で示すべきよ。まず添い寝とお風呂は許すべき」
「おやすみと、いってきますのちゅーも許すべき」
「許しません。家の風紀が乱れるでしょうが。俺はそういうの無理だから」
ここぞとばかりに要求をエスカレートさせやがって。
それ全部やってたらしんどいわ。
「やってみなければわからんじゃろ?」
「やんな。しんどいだろ」
「簡単よ。いってきますのキスをして、帰ったらただいまのキスをするの」
「で、一緒にお風呂に入って、おやすみのちゅーをして、四人で寝るのさ!」
「さりげなくキスの機会を一回増やしてんじゃねえよ!」
「結局わしが撫でろと言ったのに撫でとらんじゃろ。そうやってごまかすから、欲望が蓄積されてしまうのじゃ」
撫でずにうやむやにしよう大作戦が看破されているだと。
「いいんだよ健全で。うちは健全なギルドです」
「……聞かなかったことにする」
「うちらは何も聞いていない」
「ギルドの問題に口は出さないでおきますね」
ほらもうどん引きされたじゃないの。
「決勝戦を開始します!」
「ほら、順番が来たぞ。まず戦わないと」
「折角の機会じゃ。やってみたいことでも試すとよいぞ」
本当にささっと終わった。結果はリウスチームの勝ち。
武器を飛ばされたり、パワー比べで負けたふりをしたり。
まあ色々と実験もした。魔法をぶつけ合ったりとかな。
実践を意識した組手みたいなもんだった。
「色々参考になったぜ」
「ああ、こっちも欠点とか見つかったしな」
リウスチームから、自分達の戦法を破ってくれと言われていた。
パワーで押し切ったり、スピードで撹乱したりだな。
適当に鍵で小細工かまして翻弄してみたり。
お互いに課題が見つかったところで負けておいた。
「それじゃあこれにて試験の全行程を終了します! みんなお疲れ様!!」
先生による終了の合図が出た。長かった戦いもようやく終わりか。
「脱落者無しで終了とは、いい子達が入ったわね。あとはもう帰るだけよ。転送魔法は用意してあるし、まっすぐ行けば障害も魔物もいない道よ。帰ってゆっくり寝てちょうだい。おつかれさま!」
全員のお疲れ様でしたの声のあと、解散となった。
「はあ……なんとか終わったな。帰って寝るぞ」
ぞろぞろと帰っていく勇者科のみなさま。
先生と医療班はリングの後始末とかで、ちょっと残るらしい。
「まずお風呂に入らないとね」
「疲れているアジュを洗ってあげる仕事が残っているわ」
「やめろ。まず全員休め。ギルマス命令です。一日ゆっくりすること。セクハラもなし。ちゃんと体を休めなさい」
これは徹底しておこう。あとで疲れから動けなくなったら嫌だし。
「うむ、今回ばかりは休息が必要じゃ。こんな早朝まで動いていては負担がかかりすぎる」
「悪いがマジで休ませるぞ」
「おおぉぉ……あのアジュが気を遣ってくれている」
「心配してくれるくらいには、好感度が上がっているのね」
「うっさい、早く行け。俺は回復薬でももらってくる」
医療班の数人がポーションとか配っているのを発見。
「ああいうタダだけど、品質がいいものはもらっておく」
もとBチームの三人が貰って順路を外れていくのが見えた。
なんだか袖から砂が出てますが……なんでしょうね。
とりあえず人数分ポーション持って戻った。
「なんじゃ、よりによってあの連中が気になっておるのか」
「んなわけないだろ。ちょっと行動がおかしいというか」
「順路を外れているわね。この近くに休憩所も家もないはずよ」
「砂を落としに行ったんじゃないのか」
「……砂?」
「ああ、袖から出ていたよ」
そこでヴァンの表情が変わる。正確には笑顔が消えて無表情になった。
「そいつら、どっちに行った?」
「あっちの森の奥だな」
「わかった。四人ともありがとな。組んでくれて本当に助かった。アジュと仲良くな!」
「おいヴァン。どうしたんだよ? あいつらになんかあったのか?」
「……悪いな。こっからはオレの問題だ。ダチに迷惑はかけられねえ。ただでさえ今回のことで世話になっちまった。これ以上はちょっとな……縁があったらまた会おうぜ! じゃあな!!」
三人組のいた方向へ走っていくヴァン。なんだか焦っているような。
「どうするの?」
「どうするって……他人の事情に首突っ込んで迷惑かけるのはだめだろ」
「なにやら必死じゃったのう。良くないことに巻き込まれておるのやも」
「友達に迷惑はかけられないって言ってたね」
「なら行くべきじゃないんだろ。正義感や友情ってのは、人の事情にずかずか土足で入っていい免罪符じゃない。知られたくないことだってある」
友情といえばなんでも許されるとは思わない。
そこをわきまえない人間と付き合いたいと、俺は思わないしな。
「今は休むことだけを考えるんだ。俺より疲れているだろ? ちゃんと休んでくれ。危険なことに巻き込みたくないのは俺も同じだ」
「そっか。じゃあさ、なにかあったら召喚機で連絡してね」
「なに?」
「どうするのもおぬし次第じゃ」
「………………面倒な」
早朝の森の中。太陽が昇りかけ、徐々に明るくなってきた。
そんな森のなかで、男女の話し声が聞こえる。
「どうしたの? 威勢が良かったのは最初だけかしら?」
「オレはスロースターターなんだよ」
森の奥。光の差し込む開けた場所に、そいつらはいた。
木の陰から様子を伺うと、ヴァンとBチームの三人組。
知らない女が一人。そして二メートルの鎧が複数。鎧というかロボだな。
あれは確か……アーマードールとかいったか。
なぜ管理機関のロボがこんな場所に?
「悪いが人形遊びの趣味はなくてな。そのでかい鎧だけでもぶっ壊す!!」
金色の剣に光が灯る。膨大な魔力が光の強さを増してゆく。
「あの方への障害となりそうね。その剣だけでも砕いておきましょうか」
アーマードールが一斉に攻撃態勢に移行した。
両腕の重火器は、こちらの人間には厳しいだろう。
「やってみな。オレは死なねえ。あの男を殺すまで、てめえらを残らず地獄に送るまで。死ぬわけにはいかねえんだよ!!」
「撃て!!」
敵の声を聞いた時には、もう鍵をさしていた。
『ヒーロー!』
銃口から弾丸が撃ち出されるまでの一瞬。その一瞬に全ての銃を切り落とす。
鎧を着た俺にとっては充分過ぎる時間だ。
「いようヴァン。偶然だな」
「……アジュ?」
ヴァンの横に並ぶ。大きな怪我は見当たらない。気にするまでもなかったか。
「何者だ!」
「ただの通りすがりだ」
「ならば消えろ。人間が首を突っ込むには、過ぎた領域だ」
「そうしたいけどな。こいつの中では、どうやら俺はダチらしいんだよ」
『ソード』
念のため剣も出す。どうも妙な魔力だ。あの連中は警戒しておこう。
「ダチってのは、試験終わりにこうして並んで、寄り道とかしながら帰る……らしいぜ」
俺らしくない。だが嫌いじゃない。ちと消化不良だったしな。
ここらで少し暴れていくか。ストレス発散だ。
「たまたま帰り道が一緒だったんでね。せっかくだから、寄り道ってやつをしてみたくなったのさ」
「アジュが人助けなんて、妙なこともあるもんだな」
「うっせ、人助けじゃない。ちょっとした寄り道だ」
「…………ありがとな」
つぶやきに近いその声は、不思議とよく聞こえた。これも嫌いじゃない。
「あまりこちらを舐めるなよ? 何者か知らんが、ただの人間ごときが興味本位ででしゃばるな」
「人間未満が偉そうに。お前、管理機関の人間だろ? アーマードールをどうやって持ち込んだ?」
「これは試作品を使ってやっているだけだ。あのような俗物連中と同郷ではない」
別組織の人間か。だが管理機関と繋がりがある。
機関の過激派か、それとも穏健派か。そのあたりも聞き出すかね。
「そうか。ま、結局殴ることに変わりはないさ」
「だな。寄り道ついでだ、ちっとばかし付き合ってもらうぜ!」
久しぶりの共闘ってやつだ。楽しくなってきたぜ。
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