第188話 無駄に合体アーマードール

 もう日が昇る朝。森の奥で対峙した謎の女とアーマードール。

 ヴァンを助けるためとはいえ、ちと迂闊だったかね。


「ま、適当に殴って、死ななきゃラッキーだろ」


「待った。あの三人は操られてんだ」


「つまりあの女が悪いんだろ? 死んでもあの女のせいさ。俺はあいつらが嫌いでね。これはぶん殴るチャンスだぜ」


「いやそこは助けようぜ……」


「そうよ。同じクラスの仲間でしょう?」


 謎の女からも提案された。お前が操っているせいだろうが。

 なんだよその女王様みたいな服は。ビッチくさい。

 っていうかこいつ……うーわカスだ。こいつ最悪だぞ。


「名前も知らんよ。そんな連中どうでもいい」


「なるべく傷つけないでくれたら肉料理奢るぞ」


「……そいつは悩むな」


「人質が通用しないのね。やっかいだわ」


 謎の女が呆れ顔だ。それでも警戒しているみたいだし、いつでも攻撃に移れる姿勢のままだ。そこそこ強いのかな。


「とりあえず名乗れ。謎の女じゃ呼びづらい」


「素直に名乗るとでも?」


「じゃあクソアマA。人質を殺されたくなければ解放しな」


「誰がクソアマよ!? 人質はこっちが取っているのよ?」


「だからさ。俺がそいつらを殺せば、邪魔な肉塊を抱えて殺し合いだぜ? 自分の勝率を下げるだけだろう?」


「…………あんた本当になんなの? 異常よ?」


 なんかゆるい空気になってきたなあ。もうさっさと終わらせたい。


「こいつはこういうやつだ。諦めな」


「そう、仕方がないわね。本当に人質を殺す度胸があるのか、試してあげるわ!」


 Bチームの嫌な女三人衆がこっちに来る。


「こいつらは体内の砂で操られている。殺すなよ?」


「殺さなきゃいいんだろ? 吐き出させよう」


 近い二刀流ナイフ女に腹パンぶっこんでみる。

 違うもんが口から大量に出た。


「うわ……きったねえ」


「あんたが殴ったんでしょうが! 容赦ないわね」


「まあ問題はない。もう理屈はわかったからな。ほいっと」


 剣で三人を斬りつける。この剣はなんでも斬れる。


「おい殺すなって!」


「殺してないさ。内部の砂っぽい魔力だけを斬った」


「なんですって?」


 つまり斬りたくないものは斬らなくていい。

 剣は体をすり抜け、内部の魔力だけを斬った。

 三人とも糸が切れた人形のように倒れ込む。


「はい終わり。お前の術しょぼいな。流石クソアマA。魔法もクソか」


『ガード』


 ついでにガードキーで半球のドームバリアーも作ってやる。

 うわあ俺ってば超優しい。


「ヒュー、やるじゃねえか! 約束通り肉は奢るぜ」


「んじゃ夕食で頼む。朝っぱらから肉は俺でもきつい」


「なかなか面白いわね。でもこの数のアーマードールを相手に戦えるのかしら? どう? 一緒に来ない?」


「はあ?」


 なんだこいつ頭おかしいぞ。やっぱこういうやつって気持ち悪いな。


「そうねえ、その力は使えるわ。仲間になるなら……たまには相手をしてあげる。ちょっと好みじゃないけれどね」


「相手? お前の実力で務まるとでも?」


「あー多分そっちの相手じゃないぜ? 殺し合いじゃねえ」


「案外純情なのね。夜のお相手よ。どうかしら? 強くて役に立つならワタシの下僕から仲間に格上げしてあげるわ」


 そういうことか。やはり気に入らない。

 はっきりと理解した。こいつはカスだ。


「汚物が人間様と対等だってのか?」


「なんですって?」


「失せろ汚物がっ!!」


「アジュがここまで怒るなんて……なにがあった?」


 こいつをひと目見たときから理解できていた。

 こいつは……この世界で初めてお目にかかる最低の敵だ。


「てめえ――――非処女だな」


「…………は?」


「しかも十人以上に抱かれている。無理やりじゃねえ。自分から楽しんで股を開くタイプ。性根も股間も腐ってゆるくなった外道が……俺の前に立つんじゃねえ!!」


 俺は性犯罪に巻き込まれた人間は罵倒しない。

 それは処女非処女を超えた悲しみがあるだろうから。

 俺が軽々しく口を出していい問題ではない。

 そいつの過去を掘り返し、傷つける権利なんて誰にもない。


「だがお前は……貞操観念を持たず、ただ快楽のために男を抱き、それをステータスだとすら思っている外道! この世界にあってはいけない存在だ!」


 改めて、今はっきりと決めた。


「お前は……この世界にあってはならない。今ここで、俺が殺す!!」


「意味わかんないわ」


「ま、まあ殺すことにはオレも同意しとくぜ。その前に……アヌビスはどこだ?」


「言うとでも? あの方の障害になるならば、どんな虫けらでも潰すわ」


 なにか込み入った事情があるらしい。


「なんだ、簡単に殺しちゃまずいのか」


「すまねえ。肉料理ちょっと奮発する。あいつには聞きたいことがある」


「いいぜ。詮索はしないが……」


「復讐だ。そのために、オレの力はある」


「そうか。なら自分の手でぶっ殺したほうが気持ちいいだろ? 譲ってやるぜ」


 クソビッチは俺の手で葬ってやりたかったが、話が変わった。

 復讐は他人にやらせてもすっきりしない。

 気が済むまで自分自身でやるから、後味すっきりなんだよ。


「それじゃあ人形遊びでもしてますかね」


 アーマードールは増え続けて十体以上になっている。

 全て黒の装甲で、二メートル超え。

 ビームの剣やマシンガン。ライフルから肩に担いだガトリングまで。

 なんとも多彩なロマンにあふれていた。


「一体もらおうかな……家に飾るか?」


「余裕ぶっこいていられるのもそこまでだよ。かかれ!!」


 人形は足と背中のブーストを吹かし、俺を取り囲む。

 剣やチェーンソー、電気の走る槍なんかで斬りかかるが、遅い。


「ウオラアアァ!!」


 回し蹴りで武器ごと胴体を真っ二つに両断する。

 こいつら出せて音速に達するくらいか。しょぼいな。


「まだまだあ!」


 右ストレートにより、腹に大穴を空け爆散するロボ。

 拳圧が強すぎたのか、うしろの何体かも巻き込んで森をふっ飛ばす。


「近寄れないなら銃器があるわ!」


 一斉に空へ飛び、ミサイルやらレーザービームやら連射してくる始末。


「甘いわ!」


 ロボの上までジャンプ。一体の足をつかんでぶん回す。


「ほれほれどうした?」


 ヌンチャクみたいに振り回して叩きつける。

 三体目にぶつけたところで爆発した。


「耐久性に問題ありだな」


 学習せずに銃火器で俺を狙い続けるアーマードール。

 無能か。銃弾なんぞに当たるわけがないだろうが。


「お返しだ」


 飛んでくる弾をキャッチし、魔力を込めて指で弾く。

 脳天を貫いても爆発しないので、改めて胸に当てて爆破する。


「頭に全部が詰まっているわけじゃないのか?」


 頭を砕けば停止するやつもいるし……妙なところで個体差があるなこいつら。

 残りのザコをまとめて叩き落とし、急速落下。


『グラビティ』


 ついでに重力十倍のおまけ付きだ。踏み潰して大爆発。

 これだけやってもまだ地上に残っている。何体呼んだんだよ。


「どうだヴァン? なんか吐いたか?」


 地上に降りてみると、もう女はボロボロである。

 ヴァンは素が強いからな。人質がいなくなれば、そりゃこうなるさ。


「それが口が固くてな。難儀してるぜ」


「股はゆるいのにな」


「まさかここまでやるとは……貴様らを生かして帰すわけにはいかなくなった!」


「なんで勝算ありみたいな顔なんだよ」


「あるからよ! アーマードール、レディ!」


 付けている首飾りに叫ぶ女。

 残っているアーマードール全てがバラバラになり、女にくっつきながら再構成されていく。


「なんだこりゃ?」


「合体はロボット物のお約束だな」


 八メートルくらいの全身装着型ロボットへと変身。

 質量とかガン無視である。法則無視は今更か。


「これでいい。人間ごときにはどうすることもできない、圧倒的な力の差を教えてやる!!」


「はいはい、やれるもんなら」


「やってみな!!」


 俺とヴァンの視界からロボが消える。暴風を纏って背後へ現れるロボットさん。


「そこそこ速いな」


「でかいくせにな」


「まずは派手な鎧の貴様からだ!」


 振り下ろされるビームチェーンソーを右手で掴んで止める。

 パワーも上がっているようだ。無人機よりは強い。

 山の一つくらいは消せるだろう。


「ヴァン、やっちまえ」


「あいよ!!」


 敵が動かせない左腕を登り、ヴァンが黄金の剣を振り下ろす。


「豪快爆裂斬!!」


 大型アーマードールの胸に大きな傷を付け、その傷が大爆発を起こした。


「なるほど、斬りつけた瞬間に爆裂の魔法を染み込ませて、着火しているのか」


 同じ場所に攻撃できるため、傷口が深くなるという利点もある。

 本人の魔力量と、決して壊れない武器あっての戦法だな。

 敵の巨体が大きく揺れる。深い傷も見えた。


「その程度で壊れたりはしない!」


 チェーンソーパーツを切り離し、空中へ飛ぶロボ。

 なにもない空間から、ガトリングが右腕にセットされた。


「死ねえええぇぇぇ!!」


「なんで命中率の悪い武器にしたんだろうな」


「アホだな」


 人間は小さい。八メートルのロボットにくっついているガトリングガンで狙える大きさではない。

 森にダメージを与えるだけ。まあ俺達はくらっても無傷なんだけどさ。


「とりあえず手足を斬るか」


 跳躍し、敵の手足を切り取った。

 剣は最上級。ならば使い手の技量でこの程度は可能だ。


「流石、ぶっとんでやがる」


「いいからヴァンも来い」


 背中のブーストで浮いているロボに二人して乗っかる。


「バカなっ!? 一撃で斬られるはずがない!!」


「最後に言え。アヌビスと、やつの研究所はどこだ?」


「言えるはずがない!」


「つまり知ってんだな? 俺はヴァンほど優しくないぜ」


 剣に魔力の刃をプラスして、コクピットのある位置に突き立てる。

 正確に、喉元で止まるように。


「うああぁ!?」


「ここからどうするってんだ? 言えば俺は殺さない」


「あの方は……各地を転々としている」


「なら研究所の場所を言え。あるはずだ。オレの時と似たようなやつが、必ずな!!」


 ヴァンの声に、憎悪という言葉では言い表せないほどの憎しみの念を感じた。


「帝国だ……人間が帝国とか呼んでいた国。雪の降る地方だ。天界以外ではそこにしかない! 私はそこしか知らない!」


「そうかい。それじゃあお前はもう用済みだ。ヴァン、あとは好きにしな」


「そんな!? 助けてくれるんじゃ……」


「俺は殺さない。なにもしないさ。切り刻んでコックピットを剥き出しにする以外はな」


 外装を斬りつけ、内部にいるクソ女を外気に晒す。

 ヴァンの剣が、今日一番の輝きを放った。


「やめ……やめろおおおおおぉぉぉ!!」


「全開! 天撃無双斬!!」


 振り下ろされる金色の刃。

 黒いアーマードールを斬り裂いて、その身を左右に分断した。


「誰一人……許すつもりはない」


 朝日に照らされた森の上で、爆発とともに決着はついた。

 長かった戦いもようやく決着だ。


「お疲れ。もう眠いぞ俺は」


「付き合ってもらってすまねえな。送るぜ」


「そうだな。家に帰るまでが寄り道だ」


 鎧を解除して帰り道を歩く。もう完全に朝だなこれ。


「アジュ、今日のことは……」


「言わねえよ。理解できてないしな。また偶然帰り道が一緒になったら、そんときは寄り道してもいい」


「…………そうか。それがどっかの帝国でもか?」


「時と場合と眠さと懐具合とダルさと気分による。あとあいつらの都合」


「オレにそこまでの運があるかねえ」


「さあ? そんとき考えればいいだろ」


 適当に話しながら帰る。内容とやっていたことはともかく、これも寄り道だろう。

 あいつらはちゃんと寝ているだろうか。そーっと帰らないと怒られそうだ。

 俺にはそれが一番心配だった。

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