ギルドランク昇格試験

第189話 イロハとアイテム屋にいこう

 起きたらもう午後三時。体がだるい。

 今日は勇者科の試験が終わって、結果発表通知が来る日。


「無理……」


 ベッドから出られない。帰ってきたの八時ですよ。

 七時間しか寝てないんだぞ。死ぬわ。


「結果来たよー? 起きる?」


 横にシルフィが寝ている。もう気にしていられない。


「やだ」


「ご飯は?」


「作った?」


「起きてから作ってって言ってたよね?」


「言った。まだ寝る」


「そっか、一緒に寝ていい?」


「いいけど暴れるなよ?」


「問題ない。静かにするのじゃ」


 いつの間にかリリアが逆側に寝ている。本当にいつ来たんだよ。


「リリアはいつもどこから来るのかな?」


「哲学じゃな」


「お前が答えりゃいいだけだろうが」


「どうじゃった?」


「アーマードールがいた」


 昨日は即寝たから、ここで報告する。

 だって眠かったし。しんどかったし。仕方ないね。


「機関の人間ということじゃな。この世界に入ることはできんはずじゃが」


「どういうこと?」


「この世界の壁を開けるのは、上級神と一部の中級神か案内人だけじゃ。それ以外が許可なくこの世界に入ることはできぬ。絶対にバレる。神が動く。この世界のプロテクトは頭おかしいレベルじゃ」


「いたのは機関の人間じゃないっぽい。機械だけ提供させたんだと」


 ・Bチームは勇者科の測定のために操って森に呼んだ。

 ・記憶を抜き取り、スパイとして使う予定がヴァンに気付かれる。

 ・想定内だったのでアーマードールで応戦。俺達にボロ負け。


「ということらしい」


「アヌビスと機関が繋がっておると」


「過激派っぽいらしいぞ。機関全体かどうかは知らん」


 目的がよくわからないんだよな。俺達は知られていない。

 完全に別の目的で動いているのだろう。

 最低限こいつらだけは危険に晒さないように気をつけるか。


「ちなみに試験は合格じゃ。よかったのう」


「夏休みは遊びに行けるんだね。ちゃんと予定をたてないと」


 俺にくっついてくるシルフィ。そういやパジャマだな。

 髪も下ろしているし、さては寝るつもりで来たか。


「まだ気が早いぞ。当分先だろう」


 夏休みは七月後半からだ。

 試験が長かったので錯覚しがちだが、まだ二週間以上は確実にある。


「魔法科でも行こうかね」


「気に入っとるのう」


「必殺魔法もできたしな」


「あれかっこいいよね。綺麗だし」


 プラズマイレイザーは間違いなく俺の必殺魔法だ。自力で出せる最大の奥義。

 ランクがめっちゃ上とかじゃない限りまず消し飛ばせる。

 神は無理でもドラゴンくらいなら大ダメージだろう。


「あれは二発撃ったら死にかけるぞ。俺が」


「体力つける? 騎士科くる?」


「騎士道と俺の相性最悪だから行かない」


「外道小細工大好きじゃからのう、おぬし」


「単純に戦闘スタイルの問題だ。気に入っててな」


 小細工や罠考えるの好きなんだよなあ。

 これは性分だし。長所として伸ばしていきたい。


「ま、死なない程度にやるさ。強くなってんのは事実だ」


「そうじゃな。わしらももっと強くならねばのう」


「だね。足手まといは嫌だもんね」


 俺の腕に抱きつく力が強くなる。やっぱ気にしてんのか。


「充分助かっているよ。まず俺と一緒にいようってやつがお前らだけだしな」


「そういうことはもっと態度で示すのじゃ」


「シルフィちゃんの頭が撫でやすい位置にあります!」


「はいはい、これでいいか?」


 今回は素直に撫でてやるか。空いた方の腕でゆっくりと数回撫でる。

 異常にさらさらだな。触り心地も悪くない。


「おおぉぉぉ……なんかアジュが素直だ。ふへへ~」


 だらしない顔で笑いやがってこいつは。

 そんなにいいもんかね。俺には理解できん。


「次はわしじゃ」


「はいはい。感謝してますよ」


 こいつらの髪はしっかり手入れされているな。リリアの方が柔らかめ?

 気持ち悪い感想は頭から消す。


「にゅふふ。撫でてもわしらは逃げんじゃろ」


「そう、そこを意識するのです!」


「うっさい。俺は寝る」


 あまり深入りすると恥ずかしいので寝る。

 寝て起きたら夜だったので、夜食を食べてささっと寝た。

 そんなことをやったもんだから。




「えーアジュさんの昼夜のバランスが壊れました」


「普通に戻ったのじゃよ」


 ただいま朝の七時。早いよ。あんまり眠くないけど早い。

 やる気が起きずに、リビングでだらだらモード。


「なんかクエでも受けるかな」


「そういえばランクアップクエの通知が来ておったのじゃ」


「それでいくか」


 ギルドのランクアップには、通知が来てから昇格クエを受ける必要がある。

 個人の場合はテストという名のクエを受ければいい。


「んじゃ夏休み前にEランクになっとくか」


「では四人全員参加で申請しておきますね」


「お願いします」


 手続きはミナさんとリリアに任せる。


「今から申請すればお昼には通知が来ます」


「じゃあ家にいるべきですかね?」


「どうせ寝るじゃろ。学園をふらふらしておくのじゃ」


「シルフィは?」


「わたしはお留守番。お昼ごはんやお洗濯や……」


 つまり家事当番なのである。そりゃしょうがない。


「わしは申請と、今回の件を報告じゃな」


「つまり私の出番ね」


 イロハが影の中から登場。その登場は怖いからやめろ。


「ふたりは一緒に寝たみたいだし、私が一緒でもいいわよね?」


「俺はいいけども」


「異議なしじゃ。体力は残しておくのじゃぞ」


「いってらっしゃーい」




 そんなわけでイロハと学園を探索。

 魔法科の授業もない。勇者科は試験休み。つまり暇なわけさ。


「あったかくなってきたなあ……」


「本当ね。暑かったら脱いでもいいのよ?」


「制服は通気性がいいので問題なし。長袖じゃないと危ないしな」


 制服の通気性と特殊素材っぷりはやばい。

 単純に防具としても優れている。長袖の夏服を着ているが、半袖もある。

 冬服は暖かくてほんのちょっと生地が厚い。

 こういう技術は本当に凄いな。


「こういうときってどうすりゃいい?」


「行きたい場所はないの?」


 ここで悩む。最初に出てきたのは武器屋。

 次に魔法のアイテム屋。なんというか……それでいいのか?


「変に気を遣おうとしているわね。好きな場所を言ってみなさい」


「武器屋かアイテム屋」


「アイテムは魔法?」


「いや、ポーションとかあのへん」


「ならそれでいきましょう。変に気を遣わないの」


 理解がある人間というのは助かる。最初にアイテム屋に行くことになった。


「行きつけはないの? 自分に合った回復屋は見つけておくと楽よ」


「ない。自分にってなんだ?」


「長くなるわよ」


「どうせ時間はある」


 商店街まで歩きのため、時間は余っているのさ。


「そう、解説のために密着するわね」


「密着する意味はなんだ」


「声を大きくしなくても伝わるからよ」


「暑いから却下」


 俺が意識する前に腕を組まれる。それが照れくさいし、まず暑い。

 胸が当たるとかどうでもいいくらい歩き難いっす。


「まず自分の体力を十とするわ。高級ポーションは、高いけれど五十回復します。初心者用は安いし回復量も少ない四です」


「初心者用を二個買った方がいいんだな」


「そうよ。だから自分に合ったものを、常に見つけておくとお得なの」


 自分の力量を把握して、馴染みの店を作れというわけか。


「なるほど。参考になった」


「それはよかったわ。あっちに安くて綺麗なお店があるらしいわ。調べておいたの」


 案内するイロハのしっぽが揺れている。機嫌がいいようだ。

 ついた店は確かに綺麗で大きめだ。シンプルでいい。

 これが洒落た店だと入るのをためらう。


「いらっしゃいませー! ってあれ? 隊長?」


「……パイモン?」


 金髪ふわふわロングヘアーに黒いゴスロリドレス。

 間違いない。パイモンだ。


「お前学園でもその格好かよ」


「これはボクの標準にして究極装備です!」


 いいんだけどね。似合っているし。学園は制服着用の義務はない。

 鎧着ているやつもいるし。ローブのやつもいる。

 制服より強い装備があるなら、体に馴染ませるのも大切。

 制服のせいで死んだら意味が無いのさ。


「魔界に残ったのではないの?」


「もう一週間以上ですからね。オールクリアーですよー。なにがあったか聞きたいですか?」


「いらん。長くなるだろ」


「隊長は隊長ですねえ」


「アモンさんの使者から聞いているわ」


 そういうこと。一応アモンさんの使いの人から事情は聞いた。


「なんか平和になったんだろ。ならいい」


「もうちょっと気にならないのですか?」


「俺の領地とこいつらに危害を加えようってんじゃないだろ?」


「そんな頭のおかしい人はいませんよー。死にたくないですから」


「ならいい」


 俺にとってはギルメンが危険な目に遭うことだけを避ければいい。


「自殺志願者でももっと楽な死に方を選びますからねー」


「俺を何だと思っていやがる。まあいい。初心者用のアイテム見に来た」


「はいなー。プレゼントですかー?」


「いや、俺が使う」


「んぅ? 隊長が?」


 首かしげてやがる。こいつどこまで知ってるんだっけ。


「普段の俺は初心者なんだよ。鎧と剣が強いの。あと人に言うなよ? 俺はFランクの初心者です」


「わっかりましたー。無闇に深入りするのは怖いので受け入れます」


「柔軟な人ね……」


 俺達はアイテム物色を開始した。

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