第190話 マジックアイテムを見てみよう

 昼間で暇になった俺とイロハは、アイテム屋に来ていた。

 そこにはなんとパイモンが店員として登場。


「ここの店員なのか?」


「ちょっと知り合いのお手伝いです。いつもいるわけではありませんよー」


「なるほど、よし。パイモン隊員改め店員。初心者用のアイテムを探すぞ」


「ラジャーです!」


 こういう店に来たことが少ないため、知り合いがいるのは助かる。


「仲がいいわね」


「仲というか乗りが良いからなパイモン」


「人生は楽しくですよー。フウマさんもよろしくお願いします」


「こちらこそ……そういえば先輩でしたね」


「どっちでもいいですよー? 話しやすい口調でいいのですー」


 そうかこいつ三年生だっけ。見た目がちっこいから忘れるんだよな。


「そうか。なんかずっと年下な気がしていたよ」


「隊長は隊長だからいいのです。魔族は強い人は尊敬したり、敵対したら戦ったりですよ」


「敵対はやめろ」


「しないです。死にたくないです。フウマさんも尋常じゃない黒い力と、神様の力を感じます。お強いですね」


「流石魔王ですね……あ、これとかどうかしら」


 イロハが持ってきたのは安めのポーションだ。

 薄い水色の、長細い透明な器に入っている。


「本当に初心者向けですねえ」


「ほぼ一般人だからな。たまに使うやつだ」


「そもそも隊長の今の体力はどのくらいです?」


「武器持って長い階段がきつい」


 長い階段と重い武器は天敵である。山道とか地獄だわ。


「アジュは魔力が多いのよ。だから体力回復は少なめでいいわ」


「魔力回復と……隊長が腰につけているのはなんですか?」


「痺れ薬の塗ってあるクナイと、回復の丸薬だな」


 召喚機があっても、すぐに取り出せるように腰につけている。

 呼び出している時間が惜しいわけだ。


「丸薬は傷の治療用ですね?」


「ええ、そのために作られているわ」


「では魔力回復のポーションか魔石ですね」


「体力回復も一応欲しいぞ。ポーションは即効性だし」


 気持ち丸薬より効きが早い。回復量は丸薬のほうが多いな。


「回復量の丸薬と即効性のポーションだな」


「ではこちらの初心者ポーションと、魔力回復ポーションがおすすめです」


「魔力なあ……多めに買うか。一個上の魔力回復がいいな。魔力の限界と、連発できるか調べたいんだ」


「必殺魔法の研究ね」


「そういうこと」


 魔法の研究は楽しくて続けている。ほぼ問題なく使えるけれど、ライトニングフラッシュとプラズマイレイザーは別だ。かなり疲れる。

 ちゃんと使えるようになろう。


「でも持ち歩ける数には限りがあるな。回復と魔法二本ずつが限度だろ」


「別に召喚機のスロットに入れておいてもいいのよ」


「それも一つの手だな。試験前だし」


「試験? 勇者科の試験は終わったと聞きましたよー?」


 一個上のポーションを選んでいたパイモンが聞いてくる。

 勇者科の知り合いがいるらしい。


「ギルドランクをEに上げるんだよ。早ければ今日の昼か夕方だ」


「おおー! それは大イベントですね! じゃあお薬とマジックアイテムは多めに必要ですよー」


「セールストーク始まったぞ」


「損はさせません。まだ朝早くてお客さんも少ないので、ボクがばっちり選びますよー!」


 朝は軽く準備をする客が数人いるだけ。

 店も広いので、ある程度会話していても問題ない。

 店員もパイモン合わせて三人いるが、一人は暇そうである。

 まあ専門知識もあるそうなので、任せるか。


「お願いします。アジュもここである程度知識は入れておくといいわ」


「防御魔法が発動する装置とかどうです? 安いとすーぐ効果が切れますし、割れちゃいますけどね」


「んー悪いんだけど、ガードキーがあるしな」


「隊長は鍵で大抵のことはできますよね」


「だから安上がりでいいんだよ」


 実際やろうと思えば鍵に不可能はない。

 俺の魔力が足りるかどうかは別としてな。


「では補助効果のあるものよりは、回復や攻撃ですねー」


「攻撃も剣と飛び道具や飛行。分身から反射までほぼ可能よね」


「回復しかないじゃないですか……」


 がっくりしているパイモン。回復だけだと安物買って終わりだしな。

 補助って具体的にどうやってんだろ。


「そういや補助ってリリアにかけてもらうしかないな」


「あー付与効果ですか。強化じゃないのですね」


「違いがあるのか?」


「ひとくちに強化と言っても様々なタイプがあるわ」


 これは興味があるのでちゃんと聞く。

 魔法であれば聞く姿勢が自然とできていた。


「他人の魔力で強化してもらうのが付与です。これで身体能力が上がったりしますが、術者によって持続時間や上昇率は変わります。まあリリアさん以上の使い手なんていない気もしますが」


「強化は自分の魔力を高めたりするわ。一時的に全能力を上げるのね」


「それはどうやるんだ?」


「なんていいますか……燃え上がれ魂! みたいな? 魔力で自分の能力を無理やり引き上げて。限界を超えた力を引き出すのです」


「しんどそうで嫌だな」


 付与の方が圧倒的に楽だ。自分で調節できる以外にメリットがあるようには思えない。


「慣れたら何倍にも増幅できるから便利よ。もっとも、レアスキルだから、使い手自体が少ないけれど」


「そりゃ縁がなさそうだ」


 店内を物色。買わないけれど、お高めの商品も見てみるか。


「ん、これ高そうだな」


 置いてあるのは、なんかコーヒーメーカーみたいだ。

 上の器には水色の液体がある。それが下の容器に流れるという、ほぼコーヒー作るやつだこれ。


「これは最新式の毒消し機です。植物、動物の毒から、薬として作られた毒まで消えるけれど、高価です」


「魔道具を作る研究所は多いけれど、これは錬金科も関わっているのね」


「これは体に入った異物を浄化して、人体を綺麗にしてくれます」


 めっちゃ複雑なことしてんなあ。魔道具の研究は凄まじいスピードだ。

 フルムーンのように別世界の技術を取り込んだやつもそうだけど、こういう未知の技術の塊はわくわくする。


「普通の毒消し薬以外にも、容器の中に本人の血を数滴入れて、専用の液体と混ぜておけば、浄化液も作れるオーダーメイドですね。どんな毒でも本人の状態から割り出して解毒可能」


「そりゃ高いわ」


「常に清潔に保たれるように魔法がかかっているため高くなります。とりあつかいも注意です。消毒液とかすぐなくなります」


「複雑過ぎる。専門の人間が必要だろこれ」


「錬金科や薬学・医療科の資格がある人が必須です。学園の病院や、Bランク以上のギルドには常備されています。最近はCランクでも多くのギルドが持っているはずです」


 そのへんからクエストの危険度も上がるんだろう。

 単純に金持ちでもある。


「解毒の魔法とかあるよな?」


「魔力切れや、使えない人だけの時に困りますよー」


「普通のはないのか?」


「普通の毒消しは丸薬と飲み薬ですね」


 この世界の毒は種類よりは強弱だ。

 このくらい弱い毒ならこの程度の薬で治る。とかそんな世界。

 強力な毒は強力な薬じゃないと駄目。

 弱い毒ならどんな種類でも、強い薬で治る場合もある。


「本当は強力な解毒魔法の使い手がいるのが一番ですけどね」


「ある程度の毒や状態異常魔法は籠手が防ぐし……」


「アジュは強いだけじゃなく、一切弱点がないのね」


「かもな。弱点が見つかったら新しく無効化する。それか毒を殺すか、魔力で突破できるし」


 きっと徹底的に弱点がなくなるように鎧は作られている。

 技術でもパワーでも相手を上回れる仕組みなんだろう。


「やっぱ回復ポーションだけ買っておこう。魔法は撃ちたい」


「隊長の魔法ってどんなのですか?」


 鎧と鍵を使わない俺の魔法を、かいつまんで教えてやる。

 パイモンは興味深そうに聞いていた。


「隊長……実は魔法のセンスあったりします?」


「わからん。魔法のセンスというものがピンとこない。雷と回復しかできんし」


「その中での応用力が高いのよ」


 そこでリリアから通信が来る。


『予定が決まったのじゃ。昼一時に、ご飯を食べたら第八闘技場へ集合じゃ』


「どこだそれ」


「私ならわかるわ。アジュと二人で行けばいいのかしら?」


『うむ。ギルドランクと個人のランクの両方をやるため、助っ人はなしじゃ』


「わかった。飯食ったら行く」


『うむ、遅れるでないぞ』


 以上、通信終わり。そんな気はしていたが、まーた戦闘かい。


「第八闘技場……」


「知っているのかパイモン」


「第八闘技場といえば、もっともシンプルで広く、絶対に壊れないように作られた闘技場です。そんな場所でEランク昇格試験なんて……」


「つまり、私達の本当の力を知っていて、テストをする可能性があるわね」


「準備だけはしておくか」


 体力・魔力回復ポーションと安い解毒薬を調達。

 俺とイロハは飯屋を探し、闘技場の近くへ移動を開始した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る