突入天空城

 おひる。政府の人を送り届け、無事に屋敷へと帰ってきたのだが。それはもう大騒ぎであった。なんでも襲撃されたことが他のおっさんにも伝わったらしく、警備体制どうなってんだ的な揉め事になっているとか。


「そんなわけで、今夜にでも天空城へと総攻撃をかけることとなった」


「また急なスケジュールだな」


 忍者三勢力の重役であるモモチ親子とアランさん、そして俺達だけでの会議が始まった。


「各国からのクレームが凄くってねー。もう最悪だよ。助けてあじゅにゃん!」


「アジュさんにそんな機能はありません」


「うそつき! そんな機能しかないじゃん!」


「お前は俺を何だと思っているんだ」


 騒ぎを要約すると、各国の要人が狙われたことでピリついたムードになり、事態の早期解決と鎖国がほぼ確定したとのこと。すでにいくつかの国は国境に関門があり、一時的に出入り禁止になっているらしい。


「護衛組と突入組で大きく分ける」


 サンダユウさんが作戦説明に入ると、静かに引き締まった空気が流れていく。


「まずここの防衛組。そして正面から突入する陽動組。裏口から潜入する組。本命の秘密兵器組じゃ。少数で裏から突入し、そちらが本命と見せかけて、君たちに一気に勝負をかけて欲しい」


 敵の目的がはっきりしない以上、戦闘に時間をかければかけるほど、状況は悪化しそうだ。短期決戦は常道だろう。


「他の忍者の拠点はどうなっているんですか?」


「調査をさせた。ほとんどのイガ・コウガの拠点はここと同じ。鎖国状態だ。ご丁寧にも国境沿いには何重にも関所ができ、立ち寄る物好きか商人がいる程度だ」


「鎖国させることが狙いだというのでござるか?」


「わからん。忍者を殲滅するなら、それ以外の被害者が少なくなるし、一箇所に集めるいい作戦だとは思う。いささか強引だが」


「それをしないということは……」


「まとめるだけの理由があるのだろうよ」


 正直この世界だからこそ特定が難しい。超人は圧倒的な戦力があるからだ。


「各国に結界とかあるよな?」


「無論でござる。威力の大小はあれど、殆どの国には結界を張れる術士がいるでござるな」


「…………やはりわからん」


 各国の戦力と達人の実力がピンとこない。ばらつきがありすぎて困る。

 ドットとラインというおっさんはテイルより弱い。

 テイルはコタロウさんよりだいぶ弱いだろう。

 コタロウさんとフルムーンの三日月団長では? アランさんはどのレベル?

 オルインの特別性が生む弊害だな。


「とにかくイガ・コウガは突入組を決めた。裏の突入組にコタロウ殿と、イガの格好で会話に加わっている君が出向くのじゃ」


 結局俺達五人は本命組に編成された。人知れず戦うほうが効果的だ。目立つ気もない。


「裏から侵入して倒すだけではなく、恥を忍んでお願いしたいことがある」


「イガとコウガがやったことにすればいいのでござるな?」


 まあそう来るだろう。俺としては非常にありがたい。


「うむ、この一件で忍者の評判は落ちる。挽回し、今まで通りに外交を続け、依頼を受けるためには、忍者の不始末を忍者がつけられると示さねばならぬ」


「侵入してからの具体的な案は?」


「マーダラー・タクトを倒せば、色付きの敵は指揮系統が破壊される。テイルを倒せば、やつらはもうコピー技術を使えない。最低でもどちらかを倒すのだ」


 テイルの倒し方は考えてある。正直やりたくない手だが、俺とリリアだけなら最善の手段を用意した。敵の術が混乱する効果も見込める。


「三幹部最後の一人は、未だ正体がつかめぬ。くれぐれも用心してくれ」


 こうして具体的なプランとメンバーを聞き、会議は進んでいった。

 数時間に渡る会議は、終わった頃には日が沈みかけている。襲撃には良い夜だろう。


「準備はできたな?」


 俺達はイガの忍装束に着替えている。鎧にミラージュキーで被せた幻影だが、これで正体がばれなければいい。


「問題ないわ」


 イロハは忍装束の上から、いつものフード付き黒パーカーを来ている。


「いつでもいけるよー!」


「準備完了じゃ」


 みんな顔が隠れるようにはなっているし、手柄は全部誰かに渡せばバレることもないだろう。


「よし、じゃあ出発だ」


 ひたすら広い平野に向かう。天空城の近くらしいが、ここから上に行くんだろうか。


「最後まで君たちにはお世話になるね」


 アランさんも突入組だ。コウガだからか、真紅の衣装に身を包んでいる。忍ぶ気がないな?


「アランさんは大丈夫なんですか? かなり怪我していましたよね」


「僕は無事さ。特別傷の治りが早いんだ」


「魔族の血でござるか?」


 コタロウさんが突然そんな事を言いだした。


「わかるのですね」


「確かに魔族の血筋じゃな。しかも特殊な術で強化されておる」


 わかるやつにはわかるらしい。アランさんが目に見えて驚いている。


「そこまでわかるのか……凄いな。正解だよ。これは僕が広告塔になった理由でもある」


 アランさんは美形の部類だ。爽やかな二十代前半。明るいイメージで売り出すならぴったりだろう。


「コウガは仲間を食わせていくために、裏の存在から表の集団へと変わった。けれどその道のりは、決して平坦なものではなかった。元々が裏の仕事を請け負う集団。いいイメージなんて持たれないことも多い。始まりはマイナスからだった」


 忍者の間で善と悪の戦いがあったらしいが、一般人に完全な区別などできない。急に特殊部隊がヒーローショーやって、全員が受け入れるかというと……まあきついわな。


「強烈な広告塔が必要でね。絶対に倒れない、倒れても声援を受けて立ち上がる。そんなヒーローショーのような不死身の存在が必要だった。だからフェニックスの血が入っている僕が指名された」


 フェニックスってどっかで聞いたな。物語の不死鳥なのは知っているが、こっちに来てから聞いたような……ダメだ思い出せん。


「血の力を施術で強化し、僕のような人間がチームアップして人気商売に変えていく。そうしてようやく軌道に乗ってきたんだ」


「ようやく? 歴史に疎いが、コウガとイガって分離して長いわけじゃないのか?」


「うむ、コウガを正式に名乗り、活動拠点ができてまだ百年経っておらんのじゃ」


「それまでも一般人に認知させて、収入をあげようっていう動きはあったよ。けれど両派閥で納得の行く結論が出ず、分派するまでが長かったのさ」


 相当に揉めたらしい。食っていけないので表舞台に出る。耐え忍んで裏で活動を続ける。どちらがいいのかは本人次第だろう。やがて考え方の違いから拠点が別れていき、学園で忍者科ができたりしていったそうな。


「今回のことでまた、忍者の印象が悪くなる……僕にできることは少ないかも知れないけれど、なんとか仲間を守りたい。都合のいい話だけれど、どうか忍者の未来に協力してください」


 真摯に頭を下げてくる。まあそのために来たわけだし、ここで潰さないとフウマに被害が出そうだ。きっちり決着つけようじゃないか。


「もとよりそのつもりです。今日で全部終わらせちゃいましょう」


「きっとなんとかなるでござるよ」


「ありがとうございます! フウマの方々にはご迷惑をおかけします」


「そういやどうやって上に行くんだ? この人数だぞ?」


 全員飛行能力でもあるのだろうか? それでも正直遠いだろうし、光速ジャンプして行くのかね。


「そろそろ始まるみたいですよ」


 平野にかなりの忍者が集まっている。これで全員だとしたら結構な軍隊だな。だがこれをどう運ぶんだ。


「ゆくぞ皆の衆! 合体口寄せ!!」


 いかにも強面で上級者っぽい雰囲気の忍者が集まり、なにやら印を結んでいく。


「超口寄せ奥義! ガマ仁王四天王!!」


 魔法陣が大地を染め、ゆっくりと沈んでいく。大地が揺れ始め、下から何かがせり上がってくる感覚が増していった。


「何をしようってんだこれ」


「姿勢を低くするのじゃ」


 言われるがままにすると、遠くの大地が裂け始める。揺れが激しくなっていくのはどういうことだ。


『我ら全員を呼びつけるとは、余程切羽詰まっているようだな』


 歳を重ねた男の声が響く。ガマ喋れるのかよ。


「地面の下に、巨大なガマ四天王を口寄せしたのです」


「下に? おいまさか……」


 猛烈に嫌な予感がする。


「お願いいたします。総員、衝撃緩和の結界を張れ!!」


 ガマが大地を持ち上げ、衝撃緩和。おいおいやめろ嫌な予感しかしないぞ。


「衝撃に備えて。一気に上るわよ」


『きっちりカタつけてくるんだぜ。よおおおぉぉぉいっしょおおおおおおおお!!』


 忍者軍団を乗せた大地は、ガマ四天王の大ジャンプにより、遙か天空へと打ち出された。


「マジかよ……力技過ぎるだろ」


「あははは……忍者って凄いね」


 苦笑いの俺とシルフィだが、全員を一気に運ぶならこういう作戦になることを、どこかで納得していた。この世界に染まっている証拠だろう。


「城が見えてきました!!」


 あれが天空城か。西洋の城とでっかい塔の中間のような存在で、研究施設のようでもある。全部合わせた複合施設なのだろうか。控えめに見て三十階以上の高さだ。


「よーし! 噴射用意!!」


「噴射?」


「この大地を天空城にぶつけるみたいだね」


 大地が城と同じ位置まで上がると同時に、背後で爆発が起き、炎が吹き出した。


「おいおいおいおい!?」


 ガマ軍団は途中で煙となって帰っていった。そして天空城へと大激突。両陣営が張った結界をぶっ壊し、揺れに揺れる。


「イガ・コウガ忍軍参上!!」


 びしっとポーズを決める人々がいた。


「忍者を……忍者を狩り尽くせ……」


 城から続々と色分けされたマーダラーが飛び出してくる。

 一気に戦場へと早変わりだ。


「潜入組の皆様はこちらへ、陽動組が注意を引いている今がチャンスです」


 俺達は大地のはじっこに集合した。総勢五十人くらい。全員いることが確認されると、大地が分割され、黒い結界に包まれてゆっくりと降りていく。


「このまま天空城の下をくぐり抜け、裏から侵入します」


「俺も大概無茶してきたが……今回は負けたぜ」


 城の真下をくぐり、目立たないように夜の闇に紛れて移動していく。


「裏から入り、道を確保いたします。本命組は一気に上の階を目指してください。おそらくですが、結界と待ち伏せにより、内部から階段で上がるしかありません」


 一階から大ジャンプで最上階へ行くプランは無理らしい。そりゃ対策はされているだろうな。俺だけが悪目立ちして突っ込むわけにもいかんし。


「コタロウ、イロハ、待ち伏せが動くより先に斬るぞ」


「わかったわ」


「承知にござる」


 慎重に上昇していく。もう少しで裏側の平地にくっつくというところで、俺達三人が飛び出す。


「侵入者……」


「遅い」


 一応の見張りはいた。だが判断が遅い。光速移動で切り刻んで、魔力波で消しておく。


「今のうちだ。上がってこい」


「すまない」


 無事くっつけて上陸完了。裏門を破壊してなだれ込む。

 中は広いが無機質で、白い壁と天井が続く。研究所色が強い場所だ。


「天井が高い。思ったよりも階層はないな」


「暴れられるように広いんじゃないかな?」


「だとしたら敵も罠も多そうだ」


 中にいるのは色付きばかり。内部を破壊できないからか、インフェルノごときを温存しているのか。どちらか判断できんが、順調に上へと進む。


「忍術が効く……これはありがたい」


「テイルとの差だな。あいつはコピーするが、こいつらは対策を共有しているだけ。即席でコピー技は使えない。相手する人数が多ければ、対策量が増えてパンクするわけか」


 全員バラバラの属性忍術なら、一気に防ぐ方法がない。人海戦術もたまには役に立つ。目についたやつから真空波で切り裂いて進む。


「おかしいわ。ここまで簡単に進めるものかしら?」


「わしらがおるとはいえ、ちと簡単すぎるのう」


 やがて大きなホールへとたどり着く。そこは傷やひび割れ等破壊の痕跡があった。


「戦闘訓練でもしていたでござるかな?」


『お待ちしていましたよ』


 ホール内にタクトの声が響く。本体の気配はない。遠くから声だけを届けているようだ。


『ようこそ、忍者の皆さん。あなた達の血でこの城を満たせることを、とても喜ばしく思います』


「おのれ姿を見せろ!」


『お断りいたします。皆様はここで死ぬのです』


 壁が回転扉のように周り、中から大量のインフェルノが飛び出した。

 同時に出入り口が壁で塞がり、退路が消える。


『そのインフェルノは特別製です』


「今更こいつらに何ができる」


『今までの技と、テイルの受けた物語を移植された、特別なインフェルノ。どうぞご堪能ください』


 インフェルノが燃え盛り、背中から炎の翼が吹き出している。


「これはまさか、僕の術か!?」


『己の忍術で殺される屈辱をどうぞ。憎き忍者に敗北を、死を』


 術なんて発動前に切ってしまえば同じ。真空波を飛ばして首を跳ねる。


『無駄ですよ。完全に消滅させるほどの攻撃でなければね』


 インフェルノの首が炎に包まれ、顔が復元されていく。


『さあどうします?』


「ハウリングブラッド!!」


 そこかしこで大爆発が起きる。斬撃で血が飛ぶのはよろしくないな。


「ぐっ……僕の術をこんな風に!」


『似たようなことはしてきたのでしょう? 調べましたよ。コウガの不死鳥アラン』


「黙れ! お前たちのように悪用などしない!」


 言っているうちにも敵は増え続ける。ここは敵の本拠地だ。時間がかかればかかるほど、増援は増える。


「分身の術!」


 やはり忍者だ。分身して数の上では負けていない。


『こちらができないとでも?』


 インフェルノが増えまして。いい加減にしろ。


「これはタクトかテイルを倒さねば終わらないでござるな」


「仕方がない。まずテイルから潰す。何か使っていない術で殺せ」


「了解でござる。忍法フウマ雷風車!!」


 雷でできた巨大な十字手裏剣が敵を切り裂いていく。ここから少し集中して、敵が術をラーニングする瞬間と、魔力がどこに流れていくかを探る。

 復活や爆発に紛れちゃいるが、一箇所だけ魔力が集中していく場所がある。かなり上だな。


「オーケイ見切った」


 天井まで飛んで、右アッパーでぶち抜いてやる。これで五階分くらい抜いた。


「飛ぶぞ」


「うむ、三人は一個下の階で敵を止めるのじゃ」


「わかった! がんばって!」


「作戦があるのね。こちらは任せて」


「信じて待つでござるよ」


 俺とリリアでテイルがいる場所までジャンプ。そこもやはり広いホールだ。

 その下でシルフィ、イロハ、コタロウさんに敵が入ってこないようにしてもらう。同時に俺とリリア以外は誰もこの階にいてはいけない。それが作戦の要だ。


「見つけたぜ、マーダラー・テイル」


「へえ、どうやってオレの場所がわかった?」


 見つかったというのに余裕の表情だ。フェニックスの力も得て、負ける可能性が減ったと感じているのだろう。


「お前がどこから見ているのか気になってな。新技を見せて、取り込んでいる魔力を探った。インフェルノの死体からここに集中しているのが隠せていないぜ」


「まさか見つかるとはね。本当に厄介なのはてめえか」


「厄介さではいい勝負じゃろ。おぬしのせいで術が使えぬ」


「そこまで理解していてオレに挑むとは無謀だな。ここまで理不尽な目にあわせれば退いてくれると思ったんだがなあ? ヤケおこしちまったかあ?」


「お前を消滅させれば、技の伝授はできないだろ。対策はとった。つまりコピーできなきゃいい。されても使いこなせなきゃ弱体化する」


「どうかな? その物語をてめえにぶつけてやるぜ! やってみろ! オレに極上の物語をくれ!!」


 リリアと視線が合わさり、無言で頷く。そして久しぶりのアレが発動した。


「曖昧魔法奥義! 異世界チートでお楽しみ回!!」


 派手に暴れてやるから、精々必死にコピーするがいい。

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