テイルVSアラン

 アランさんからの救援要請に答え、コタロウさんが出陣。なぜか俺まで同行することになった。

 イロハキーを使い、ミラージュでイガの忍装束に見せかけ、夜の闇を駆ける。


「どうしてこうなる……」


 よく整備された石畳の道を進む。鎧のおかげで問題ないが、真冬の遮蔽物すら無い道は風も吹いていて、普段は来たくない場所だ。一定間隔で街灯がちゃんとあるのが救いかな。


「新しい情報でも手に入れば御の字でござるよ」


 現地まで光速で移動中だが、やはり納得がいかん。知らん国のおっさんの命なんて興味ないぞ。


「夜分遅くにありがとうございます。コタロウさんも、そちらの方も。よろしければお名前を教えていただけませんか?」


「あーっと、ザジ」


 まあ偽名ですわ。完全に顔を隠しているし、一般人でしか無い俺とは気づかないだろう。鎧付きと素の俺では、実力の差がありすぎて理屈が埋めてくれないのだ。


「ではアート・ザジさん。光速で行動ができるとは、かなりの達人とお見受けします」


「それほどでもありませんよ」


「イガの装束……僕の知らない強者はまだまだいる。頼もしいですよ」


 善意100%の顔と声色だ。どうしたもんかな。とりあえず俺だとバレないように、あとでももっちにだけは説明すべきかも。


「まったく……やはり繋がりは少なめに限るな」


 馬車と兵団が見えてきた。案の定、戦闘中だよ。色付きマーダラーの集団に襲われている。


「コタ、右。上に蹴り飛ばすぞ」


「にんにん」


 さらに加速して、俺が馬車の左側の敵を、コタロウさんが右の敵集団の首をはねながら疾走。一番奥にいる二体のインフェルノを、それぞれ蹴り飛ばす。


「グヌウゥ!?」


 インフェルノは少し面倒な相手だ。血が吹き出さないよう、上空へと蹴り飛ばす。


「合わせろ」


「承知にござる」


 同時に上空へと舞い上がり、俺が手刀でインフェルノを解体し、コタロウさんが雷遁と火遁で塵すら残らず消していく。ここまで光速の五千倍くらい。まあ準備運動だな。


「拙者は合格でござるかな?」


「俺の意図が伝わることは確認できた。花丸をやる」


「ふっふっふ、拙者はやればできる子でござるよ」


 今のはコタロウさんと一緒に戦えるかのテストでもあった。

 ギルメンレベルは無理でも、ある程度簡単な指示で俺に合わせられるか、という実験だったわけだ。そこまで完璧に理解して、パーフェクトに動いてくれた。流石は人類最強の一角。素晴らしい。


「ご無事ですか!!」


 アランさんが知らないおっさんに話しかけている。

 周囲の兵士たちも集まってきているし、ここからは任せよう。そっと近くの木に隠れた。


「さて、護衛対象は無事だったが」


「これで敵がいなくなったかは……あちゃー、やっぱり残ってるでござるな」


 緑色のマーダラー軍団の背後にインフェルノがいる。

 少し離れた位置には、黄色の軍団を仕切るインフェルノだ。


「つまり色分けされているのが下っ端で」


「インフェルノは小隊長といったところでござるな」


「業を受けよ。我らはマーダラー」


「怯むな! 忍者の力を見せるんだ!!」


 どっかの国の兵隊とマーダラーの戦闘が再開される。


「忍者を殺せ。刻め、燃やせ、忍者に破滅を。我らはマーダラー」


 今は様子見に回るとしよう。兵士は忍者の術に対応が遅れ、少し追い込まれている。そこをアランさんがカバーしつつ、護衛についてきたコウガ・イガの忍者がかき回す形で戦場は作られていく。


「ライン、ドット! さっさとあれを片付けろ!!」


「御意」


「忍者に頼る必要などありません。我々で始末します」


 おっさんが強そうなおっさん二人組を呼んだ。それぞれロングソードとレイピア使いらしい。


「業を受けるべきは忍者。邪魔をするものには死を、滅びを、絶望を」


 複数のインフェルノ相手にいい勝負をしている達人さん。偉い人を守りながら、無限湧きする敵を狩っているからか、かなり手間取っている。


「これで終わりだ!!」


 おー、二人がかりならインフェルノ倒せるのか。やるもんだな。少しあっさり倒せ過ぎな気もするが。


「そうだ、それでいい。他国に頼ることなどないのだ!」


「忍者を殺せ。刻め、燃やせ、忍者に破滅を。我らはマーダラー」


 インフェルノの形が崩れ、土砂崩れのように人間じゃなくなっていく。

 そして全く別人が形成されていった。


「忍者を殺してハッピーエンド。そういう物語だぜ。分身千鋲嵐!!」


 おいおいおい、列車でももっちがやった技だろあれ。


「っていうかテイル!?」


 ちょっと溶けかけの溶岩まみれのテイルだ。お前ら人間の形くらい守れや。


「おうオレだぜ! そういう物語だ!」


「ぐああぁぁ!?」


 ドットとラインだっけ? おっさん二人が攻撃を受けて苦しんでいる。


「大した強さじゃねえな。はい退場! 雑魚の物語に興味はねえぜ!!」


 二対一で完全にテイル有利だ。純粋に達人を潰せる技量がある。つまりめんどい。


「あばよ」


「しまっ……がああぁあ!!」


 おっさん二人が爆発して後方へと吹っ飛んでいく。ギリギリ死んじゃいないようだし、まずテイルを潰そう。


「おおっとそうだ。そっちのおっさんも死にな!!」


 政府高官から殺すつもりか。だが俺達より速く、アランさんが縦になって炎の渦を防ぐ。


「逃げてください!!」


 いい結界だ。熱を後方に伝えない技術らしい。


「早く!! 僕が食い止めます!!」


「いっそ送り届けるか。そっち運んでくれ」


「にんにん」


 俺がおっさんを、コタロウさんが達人のおっさん二人を担ぐ。後は軽く魔力のベールで包んであげて。


「五秒で戻る」


 光速の二千倍で移動。コタロウさんに先導してもらって、国境沿いの関所? 砦? まあそんな場所まで移動した。


「お届け物でーす。後はそっちでよろしく。襲撃されちゃったから汚れてるけど、命に別条はないから」


「は? おいちょっと待て、どういうことだ?」


「そっちの人から事情聞いて。じゃ」


 兵士が集まってきたので引き渡し、無事お届け完了。回復魔法もかけてやった。それじゃさっさと戻りましょ。


「ふははは! お前強いな! いいぞ、もっと技を見せな!」


 絶賛バトル中だった。テイルは幹部だけあって、別格で強いようだ。

 コウガの上忍でも手こずるというか、終始劣勢に見える。


「強い……それでも負けるわけにはいかないんだ!!」


「雑魚どもの技で死にな!」


 アランさんの腕に物騒な剣が食い込んでいる。おかしい、鎧付きの俺が見きれないスピードで投擲しているとでもいうのか。いや、あれは投げているんじゃない。何かがまとわりついて、アランさんの体から形成されていく。


「刺さっているんじゃない……事象が、体から生えてきている?」


「よくわかったな。オレの物語を追体験してもらうのさ」


「厄介でござるな」


「それでも……人々を苦しめ、悲しませる存在を、僕は許さない!」


 忍者刀を抜き、傷ついてもお構いなしに強化魔法をかけ、アランさんが加速していく。


「うおおおおぉぉぉ!!」


「そうだ、もっと技を見せろ! オレに物語をくれ!!」


 一般兵からは視認できないスピードで駆け巡り、一進一退の攻防が続く。


「お前の物語はここで終わりだ! 僕が終わらせる! コウガ忍法、分身炎舞!!」


 純粋にパワーアップして、炎に包まれた分身数十体と協力しての肉弾戦だ。

 単純なスペックで上回ることが、マーダラーを強化しない、現状最適解である。


「いいぜ、もっと演出してやるよ。来な! バーミリオン!」


 マーダラー・バーミリオンだけがテイルの周囲に集まっていく。軽く五十人くらいいるな。


「バーミリオンビット!!」


 バーミリオンの集団が炎に焼かれ、規則正しく一部の狂いもなく、まったく同じ動きで突き進んでいく。


「数を気にしなくていい敵特有の手段だな」


「何人来ようが、お前たちの暴虐は食い止める! ようやくだ、ようやくコウガは受け入れられて、忍者は闇だけじゃない、光にもなれると証明されてきたところなんだ。お前達なんかに……忍者の未来を奪われてたまるかあああぁぁ!!」


「それが気に入らねえのさ! 忍者を徹底的に潰す! てめえらの業を、全部まとめて地獄へ叩き落とすんだよ!! インフェルノ! もっと吹き出せ!!」


「こんなもので、コウガの火が消せるものか!」


 インフェルノの追撃すら意に介さず、ひたすらにテイルを攻撃していく。

 刀に眩い光を集約させている。あれがアランさんの必殺技なのだろう。


「うおおおぉぉぉ!!」


「いいのか? その必殺技、次のオレが使わせてもらうぜ?」


「構わない。今日お前を倒せないようじゃ、明日のお前も倒せない。超えてやるさ、何度だって!!」


「そうかい。甘いねえ。使わせずに止めるって手段もあるんだぜえ!!」


 全マーダラーがアランさんへ向かって飛びかかる。技の態勢に入ったアランさんは動けない。兵隊には止められない。


「手伝ってやる。決めてこい」


 なら俺が動けばいい。テイル以外を神速で斬り伏せ、チャンスを作ってやる。


「ありがとう……コウガ忍法奥義! フェニックス・ストライク!!」


 炎で巨大な不死鳥を作り出し、中心に入って猛スピードで突撃していく。

 テイルの妨害を完全に焼き払い、不死鳥の翼は悪の胴体を両断した。


「これが……忍者の力だ!!」


「覚えたぜ。いい土産ができた……派手にお礼をしてやろう」


 胸から上だけになってもまだ喋れるらしい。幹部も人間とは別の生き物になっているようだな。


「ザジ殿、血がばらまかれているでござる」


「そりゃ戦闘だし……そういうことか」


「ハウリングブラッド!!」


 大爆発の前に、俺とコタロウさんで全員を安全な場所まで運んだ。

 最後の最後まで自爆するから気が抜けない。厄介な連中だよ。


「はた迷惑なやつでござるな」


「本当にな」


「ありがとうございます。皆あなたたちに救われました。コウガ・イガからお礼を申し上げます」


「なら偉いおっさんのフォロー任せる。あっちの関所に置いてきた。砦のような建物を知っているな?」


「はい。ここからは距離があるはずですが……」


「届けてきた。兵士の誘導も頼む」


 素性のわからん俺たちより、アランさんに任せるべきだろう。

 他国の兵士を回復し、陣形を整えて全速前進で進んでいった。


「他国を襲うとは、忍者以外にも恨みがあるのでござろうか」


「今度はあっちの国を装ってくるかもしれんぞ。それを繰り返せば、最初にどっちがなぜ仕掛けたのか曖昧になっていく。どっちかの国を滅ぼさないと終わらなくなるかもな」


 遠くから移動する連中を見守る。俺たちは帰ると告げて、そーっと分身に尾行させる形だ。


「他国に滅ぼさせて満足するでござるか?」


「じゃなきゃ孤立と足止めが狙いだろうが……にしてはおかしい。本拠地が天空城なら、一斉攻撃をかけてこない理由がわからん。何か機会を伺っているのか?」


 マーダラーの最終目的は忍者という存在の全滅だ。それが人間なのか文化を含むのかは曖昧だが、どちらかを滅ぼせば廃れもするし、忍者という存在も変わるだろう。


「忍者殲滅の下準備だとして、忍者の戦い方を知り、同じ術を使えるようになるよな」


「難しいでござるな」


「今回は誰に手柄を押し付けるかねえ」


「神様に事後処理をお願いできないのが、辛いところでござるな」


 今回の件、神が関わっている保証はない。人間同士の争いに、神は原則不介入だ。よって人間の英雄が誕生してしまう。絶対になりたくねえ。かといってフウマが組織単位で情報操作をしてしまうと怪しさマックスだ。由々しき事態だよ。


「やることが多すぎる。頼りにさせてもらうぞ」


「御意にござるよ」


 まずは城を潰そう。そこに資料でもあればいい。プラスに考えていくしかないさ。

 こっちはまだまだ奥の手も隠し武器も裏奥義もあるんでね。

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