曖昧魔法奥義 異世界チートでお楽しみ会

 マーダラーの天空城で、俺とリリア主催のお楽しみ会が、テイルに炸裂する予定だ。


『さあ始まりましたお楽しみ会。司会進行はリリアちゃんでお送りするのじゃ』


 マイクを持って司会席に座るリリア。準備は万端だな。


「意味わかんねえけどよ、オレに勝つつもりなんだろ? 見せてみろや!」


『10回10回クーイズ!!』


「あぁ? なんだそりゃ。そんなもんひっかかるかよ」


「ピザって10回言ったよ」


「事後報告!?」


 ここで怒りの右アッパーがテイルの顎に炸裂する。


「クイズになってねえだろうがああああぁぁぁ!!」


「オレ!?」


 驚きに目を見開き、テイルが数歩後ずさる。


『今のを10回やります』


「ただの暴力だろうが! こんなもんクイズじゃねえぞ!


『今度は早押しクイズです。まずはイガの忍者さん』


「精一杯がんばります」


 俺は素性を隠しているのでイガの設定である。自分のネームプレートが置いてある席に座った。


『そしてマーダラー・テイル』


「マジでクイズやる気かよ」


 そう言いながらも席に座っている。案外空気を読むじゃないか。物語を手に入れるためかな。


『そして豚の助』


「がんばるブヒ」


 三人目は豚だ。やる気で目が輝き、鼻息が荒い。こいつは強敵だぜ。


「おい豚混じってんぞ」


『まずは音感クイズです』


「聞けや!!」


『今から油に入るとんかつが、ちょうどいい揚げ加減だなと思った所でボタンを押してください』


「早押しってそういうことかよ!?」


 そして豚の助の目から、一筋の涙がこぼれた。


「ブ……豚二郎兄さん……」


「兄弟!? てめえら何やってやがる!!」


『非常な現実です』


「そうしたのはてめえらだろうが!?」


「静かにするブヒ。揚げる音が聞こえないブヒよ」


「お前なんで乗り気なんだよ!!」


 動揺して調理が始まっていることに気が付かないテイル。

 そして、俺と豚の助がボタンを押すタイミングは、全く一緒だった。


『おおっと、これは同時! テイルの一人負けです!』


「なんだとおおぉぉ!?」


「この分だと楽勝で終わるな。こんなのが三幹部とは、マーダラーもたいしたことないぜ」


「いいや違うぜ! オレは豚ととんかつの揚げ具合で早押しクイズできる物語を得た! 次は負けねえ!!」


『ちょっと意味わかりませんね』


「何言っているんだあいつ」


「異常ブヒ」


「てめえらのせいだろうがあああぁぁ!!」


 テイルが意味わからんことを言い出したので、気を遣って次にいこう。


『アホは放っておいて次じゃ。次のクイズは……』


「もういい死にな! 必殺奥義! 本日の四死逢魔!」


 必殺技の体勢に入ってきたので、ここで死中に活を求める。この程度のトラブルは想定済みさ。


「動くな! こいつがどうなってもいいのかい?」


「なにいぃ!?」


「いいのかい? 少しでも動いたら……そいつの兄貴をここで割るぜ?」


 俺の手にはブタの貯金箱が握られていた。


「ぶ……豚一郎にいちゃん!!」


「兄弟なのか!? あれ貯金箱だぞ!?」


「助けてブヒ! 助けてくれるって約束したのは嘘だったブヒ? うそつき!!」


「してねえよそんな約束!!」


 動揺しているな。ここでさらに軽く振ることで、中に入っている小銭の音を聞かせてやる。追い打ちをくらえ。


「ほれほれ割るぞ? どのくらい貯金されているかなあ?」


「どんな気持ちで言ってんだそれ!?」


『さあどうやって助けるのか。テイルの手腕に期待しましょう』


「ちっ、めんどくせえがやってやる。おいそいつを開放してやれ。てめえが倒さなきゃいけねえのはオレで……」


 戦場で悠長に会話しようとするテイルに向かって、勢いよく貯金箱を投げつけてやる。


「受け取れオラアアァァ!!」


「べぎゃああぁぁ!?」


 見事顔面にヒットし、中身の小銭までぶちまけながら、貯金箱は粉々になっていく。


『割れたああぁぁ!! これはテイルのミス! 完全に10:0でテイルが悪い! 人間の屑です!!』


「屑はお前らじゃい!!」


 テイルがどう言い訳しようが、割れてしまったことは事実。兄を助けてくれなかった豚二郎の右ストレートが、テイルの右頬に叩きつけられた。


「助けてって……言ったろうがこのブタ野郎がああぁぁ!!」


「ごはっしゃああぁぁ!?」


『お兄さん豚が割られてしまい、豚次郎くんのハートも貯金箱も粉々です』


「うまいこと言ったつもりか!? もういい! まずは豚から死にな!」


 豚吉から殺して俺と戦うつもりだろう。だがそうはいかない。


「豚吉! 人豚合体だ!!」


「了解! 豚分離ブヒ!!」


 テイルが攻撃するより早く、豚吉の体が頭、両足、両腕、胴体に分かれていき、俺の装甲と化していく。これが奥の手、豚の手も借りたい合体装甲だ。


「へっ、豚と合体したからどうだっつうんだ! みっともねえ姿を晒しな!」


 全身に張り付いた豚の装甲は、黒く流麗なフォルムへと変わる。豚の耳は鬼のような屈強で太い角へ。両手足は三本のクローがついた攻防一体の武具へ。そして豚の顔が笑顔から鬼神の形相へと変わり、赤い模様が血液のように流れて全身へと伝わっていく。


「降臨! 超獣鬼神B!!」


「かっこいいやつになったー!?」


「Bは豚のBなんだぜ」


「知るかよ!!」


 両腕の鬼の爪がテイルを切り裂き、着実にダメージを与える。


「鬼神激烈熱戦爪!!」


「ギャアアアァァァァ!?」


 大量の血が吹き出し、部屋を染めていく。豚の力を甘く見た報いさ。


『豚特有の殺人クローが決まったああああぁぁぁ!!』


「ふざけるなよ……こんなことで負けられっか! ハウリングブラッド!!」


 面倒な術は使わせない。そんな残酷な術は、お楽しみ会に相応しくないからだ。


「クイズ続行だ!!」


『問題、テイルの技は発動するでしょうか?』


「しない!」


『正解!』


 そして何も起こらなかった。


「何故だ! オレの忍術が発動しねえだと!?」


「クイズに正解したからさ!」


「意味わかんねえんだよ!!」


「回復のポン酢!!」


 テイルの傷口にポン酢をぶっかける。


『おおっとここでポン酢を投入! 相手の傷を癒やしてあげる、フェアプレーの精神です!』


「ウソつけクソが! くっ、柑橘系の匂いがきついぜ……」


 強い匂いでテイルは冷静さを欠いている。攻めるならここだ。一気にテイルの背後に回る。鬼神の名に恥じぬ必殺技が炸裂した。


「鬼神・斬滅魂魄翔!!」


「べはあ!!」


『説明しよう。鬼神・斬滅魂魄翔とは、強めに敵のケツを蹴るのだ』


「いてえけど地味だろうが! どこが必殺だ!!」


 そう言いながら膝から崩れ落ちているじゃないか。もっと攻めたいところだが、時間が許してはくれなかった。


「ちっ、合体のタイムリミットか」


 鎧が光の粒子となって分離し、俺の隣で再構成されていく。

 そしてカバ彦は復活し、その硬い表皮が強者であると告げていた。


「おい動物変わってんぞ! 思いっきりカバだろうが!!」


「ちげーよ豚だよ。なあカバ彦」


「そうカバ」


「完全にカバだな!?」


 バレちまっちゃあしょうがない。ここから最後の大盛りあがりいくぜ。


「秘奥義、激動のカバライブ!!」


 スポットライトの群れがカバ彦を照らす。その姿は威風堂々。ここまでの歩みが、彼に自信をつけさせていた。


「えー今日はカバ彦のライブに来てくれてありがとう。こうしておれっちが二足歩行してマイク持って歌えるのも、みんなが応援してくれたおかげカバ」


「応援でできる範疇超えてんだろ!!」


「物販でおれっちの破魔矢とか絵馬とか売ってるんで、よかったら買ってくださいカバ」


「よくわかんねえもん売るなや!」


「じゃあ聞いてください。二十五曲目の新曲、カバってバカばっかり」


「バカみてえなタイトルだ!?」


 そしてアップテンポな曲が流れ始めた。雰囲気に歓声が絶え間なく湧き上がり続ける。熱気で客席がカバなのかブタなのかサイなのかわからなくなってきたぜ。


「オーケーイ!! 完全に歌詞忘れたけど盛り上がっていこうぜー!!」


「ちゃんと練習しとけや! 本当にバカじゃねえか!」


 ツッコミを全面的にテイルへ委任できるこの環境は便利でいいな。

 だがここらでそんな茶番もクライマックスだぜ。


「やっぱファンの前に出ると緊張しちゃうな、おれっち」


「おれっちって言うのやめろ腹立つから」


 テイルはライブに気を取られていて気づかない。このライブ会場が、いやクイズ大会の時点から既に、お前の対策は済んでいたことを。


『入場口で配られたサイリウムを掲げてください』


 客全員に配られた、色とりどりのサイリウムが振られる。


「オレもらってねえけど」


 愚かな奴らだぜ。スイッチひとつで大爆発するニトロ入りだとも知らずにな。


「一斉浄化!!」


「ぎゃあああぁぁぁ!!」


「死ぬカバあああぁぁぁ!!」


 そして起こる大爆発。ついでにカバ彦も爆破しておいた。なんかイラっとしたからな。


『こうしてお楽しみ会は終焉へと向かっていくのでした』


「カバと客全滅させてどうすんだ!! …………全滅? 全滅だと!?」


「これでこの空間には俺達しかいない。残機の補充はできないぜ」


「てめえ……気づいてたのか!!」


「お前が復活するのは、死ぬ直前に周囲のマーダラーに乗り移るからだ。データか魂か知らんが、いくらでも乗り換えられる。だからこそのトライアンドエラーだろ」


 付近に隠れたり集まり始めていたマーダラーをまとめて処理した。これで残るはテイル唯一人。


「そこまで聞かされてじっと待っているとでも……なんだとお!?」


 テイルの足元から、爆破された連中の怨念が体にまとわりついていく。


『これが恨みの、怨念の力でしょう。自業自得です』


「てめえが爆破した連中だろうが! オレに責任なすりつけてんじゃねえ! 何故だ! こいつらオレに寄ってきやがる!」


「お前がポン酢臭いからさ! ポン酢は霊を引き寄せる!」


 愚かな。裏の暗殺者がそんな基本も知らんとは。知識の有無が勝敗を分けたな。


「せめて奥義で葬ろう。猛撃撃滅裂蹴!!」


 動けぬテイルには、俺の奥義を交わす方法はない。


『猛撃撃滅裂蹴とは、凄い勢いで何度もケツを蹴るのだ』


「成仏しろよ」


 度重なるケツへの攻撃で、テイルの全身が光の粒子となり、悪霊どもと一緒に天へと消えていく。


「できるかあああああぁぁぁ! うおああああぁぁぁぁ!!」


 最後まで騒がしい叫び声を上げながら、テイルは完全に消滅した。


「やれやれ、今回も面倒な戦いだったぜ」


「強敵じゃったな」


「終わったでござるか?」


 ギルメンとアランさん達がこちらへやってくる。全員怪我もなさそうだ。流石は精鋭メンバー。強いね。


「テイルは完全に消滅しました」


「あじゅにゃん! マーダラーが変なんだって!」


 ももっちが慌てた様子で報告に来た。


「落ち着け。どうなった?」


「マーダラーが急に歌いだしたり、ブタとクイズを始めたりで大混乱だってさ!」


「計画通りだ」


「そうなの!?」


「もうじき凄い勢いでケツとか蹴り始めるぞ」


「なにやったのさ!?」


 これでマーダラーの残党は弱体化した。後は最上階まで行き、タクトを倒すだけ。

 待っていろ、もうすぐこのふざけた時間を終わらせてやるぜ。

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