ヒロインと海で遊ぼう

 船旅が無事に終わり、俺達は予約した高級ホテルへとチェックインを済ませた。

 そしたらやることは一つである。


「おぉー……こいつはすげえ」


 雲一つない青い空に、白くさらさらの砂浜。そして美しい海。そう、海水浴である。


「さすが高級ホテルの専用ビーチ。やばいなこれは」


 人混みが存在しない。無論だが客はいる。だが全員育ちがよさそうで、カップルや家族で来ているようだ。


「これが上流階級の世界か」


「庶民全開のコメントじゃな」


 リリアが来た。ワンピースタイプの水着に麦わら帽子である。異常なほど似合う。素材がいいからとにかく完璧に着こなすのだ。


「どうじゃこれ? 昔風のスクール水着とひらひらワンピースの中間デザインじゃ」


「いいんじゃね。そういうの似合うな」


「アジュが普通に褒めた……」


 シルフィはビキニタイプに短いズボンっぽいのを重ねて履くやつ。元気と快活さがでていて、それでいて本人がお姫様なので気品がほんのりある。絶妙なバランスだ。


「ちゃんと成長しているのね」


 イロハはビキニプラスパレオの水着に薄い上着である。こちらも王道を外さず、動きやすくて涼しげな雰囲気だ。


「お前らも似合っているぞ。ちゃんと個性が出ていて、下品じゃないのが高得点だ」


「へへー、ちゃんとわかってるもんね!」


「無駄な露出は避けて、高等部らしい清楚さと純粋さに個性を上乗せするのじゃな」


「どのみちアジュ以外に肌を見せる気はないわよ。安心なさい」


「じゃあさっさと遊ぶぞ」


 というわけで海に入ろう。温かい国だが水は冷たい。入るとひんやり気持ちいい。


「海なんて小さい頃以来かもなあ。遊び方がわからんぜ」


「お水ばっしゃー!」


 シルフィが水を掬ってぶっかけてくる。こういうの漫画とかアニメで見たことある!


「今日はど定番をやっていくのじゃ。ほれほれ、ばっしゃー!」


「いいだろう、今回は乗ってやる」


 水をかけあうというなんともベタな戦いが始まる。別に本気じゃない。こういうお遊びは新鮮なので、嫌でもない。


「次は泳ぎましょうか」


「軽くな」


 ゆっくりと足がつかない場所まで泳ぐ。海の透明度が高いな。とても綺麗で、なんとなく濃い色や濁った海しか見ていなかったんだなあと実感した。


「海気持ちいいー!」


「はしゃぎすぎて溺れるなよ」


「私が見ておくわ」


「そこまで子供じゃないもん!」


 はしゃぎっぷりが子供である。まだ高等部一年だし、かわいいのでよしとしよう。


「浮き輪に乗るのじゃ」


「まかせろ」


 仰向けで浮き輪に寝て、その上にリリアが乗る。のんびり揺れると、日差しが暖かくて心地よい。


「はー……たまには外もいいな」


「海を避ける理由は、施設の汚さや人の多さじゃろ。そこを取っ払えばよいのじゃ」


「ちゃんとした場所はちゃんとしていると」


「当然じゃな」


「寝そう……寝たら沖まで行きそうだな」


「行かないように流れが調整されているわ」


 この世界の高級ビーチを甘く見てはいけないようだ。一定の距離まで行くと、危険なので砂浜へ向けて戻されるらしい。


「波も穏やかだし、観光に最適だな」


「試験が早く終わったおかげじゃな」


「まさかの」


「リリア、交代よ」


「ほいほい」


 今度はイロハが乗ってくる。耳としっぽがよく動いているので機嫌がいいのだろう。適当に撫でつつ波に揺れる。


「暑いから水分補給だよー」


「すまない」


 シルフィがドリンクを持っている。まあ時間操作でなんやかんやしたんだろ。トロピカルなジュースはうまいし、この空気にとても合う。


「全部味が違うのよ。はいどうぞ」


 イロハのジュースをもらう。確かにそっちのはパイン味っぽい。俺のもわけてやる。こっちはメロンソーダみたいなやつだ。


「芸が細かいねえ」


「楽しもうとすれば、自然とそうなるわ」


「次はわたしだー!」


 こうして三人と戯れる。楽しんでいるようでなにより。ゆったりしたらバレーボール対決などして、やがて陽が傾く。


「晩ご飯の時間じゃな。ホテルのビーチにロブスターの店があるのじゃ」


「いいぞ、目的を忘れていないな」


「エビ目的だ……水着よりエビなんだ」


「ロブスターでもエビでもいいが、海の幸は好きだぜ」


 ビーチを歩くと、一般客も入れるレストランを発見。ほほう、こいつは値段が張るやつだな。水着のまま入れるのはありがたい。海が見える形式なのもグッドだ。


「サカガミで予約していた者じゃ」


「いらっしゃいませ、こちらのお席へどうぞ」


 四人がけの席へ行く。海に面していて、夕陽を見ながら食えるいい位置だ。


「今更だが俺の名前なのか」


「みんな名字サカガミにしておいたのじゃ」


「フルムーンとか書いたら問題になっちゃうからね」


「なるほど」


 そして鉄板とシェフが来た。どういうことだと思っていると、その場でロブスターを焼き始める。


「そういう趣向か」


 見れば他の席も同じだ。どうやらこの店でもいい席用のサービスらしい。いいぞ、期待させてくれるじゃないか。


「さあどうぞ!」


 俺の前に頭としっぽだけ殻を残したロブスターがくる。とてつもなくいい香りだ。手づかみでいいらしいので、両端を持って真ん中にかぶりつく。

 弾力のある歯ごたえとともに、濃厚な海老の旨味が押し寄せる。


「うめえ……」


「三種類からお好きなソースをどうぞ」


 マスタードや店の特製ソースが来る。いけるぜ、どれ塗ってもうまい。一匹食うのにそう時間はかからない。その間にもどんどん魚介類が焼かれていく。


「イカやカニや白身魚もあるのじゃ」


「貝類もおいしいわよ」


「いっぱい食べるよ!」


 それぞれ好きに食っている。全員から大好評で、この店のクオリティに感謝した。


「赤身の串焼きでございます」


「いいね、シンプルだが素晴らしい焼き加減だ」


「恐れ入ります」


 たまに口直しなのかシンプルな一品料理が来る。これがまた絶妙だ。それまでの流れを崩さないで味を変えてくる。これが一流のプロか。


「締めは麺か焼き飯にできますよ。今まで出た魚も入れられます」


「どうする?」


「アジュが決めていいよー」


「んじゃ焼き飯で。ロブスター派手にぶっこんでください」


「かしこまりました」


 今まで魚を焼いていた鉄板で焼き飯が作られる。今度は細かく刻んだロブスター入りである。もう見た目だけでうまいことが確定していた。


「はー、うまい。何食ってもうまいわここ」


 旨味が全て染み込んでいる。最高だな。高い店には理由があるぜ。


「おいしい!」


「大満足よ」


 食後は冷たいアイスを食べながら、花火を眺める。

 ふと音楽が聞こえた。目をやると誰かがステージで歌っている。とても綺麗な声で、ディナーショーってやつかと思うが、なんか聞き覚えある声だ。


「あれグレモリーさんだね」


「そうか、ドレスでわからんかった。アイドル以外もやっているのか」


「あの人は歌なら何でもできるのよ。コンクールで優勝しているはず」


 プロの歌手として見ても完璧だ。透き通るような歌声は、食後にゆっくりするにはベストと言える。


「今日ずっと楽しいな」


「それでよい。せっかくの旅行じゃ」


「これからも楽しみましょう」


「お部屋でも遊ぼうね!」


 そしてでっかい風呂に入って部屋に戻る。水着着用で海が見えるという、どこまでも自然を見せつけてくる風呂であった。

 なんだかもう眠い。ベッドに倒れ込んだ。


「はー……遊んでいただけなのに眠いぜ」


「それが充実しているということじゃよ」


「冷たい飲み物持ってきたわよ」


「おつまみもあるよー」


 この部屋は何でもあるなあ。ちなみに三十階建ての二十五階が俺達の部屋である。もっと上はさらに金持ちが泊まるらしい。


「高層ホテルとかあっていいのか」


「おぬしが思うより建築物の歴史は長いのじゃ」


「ネフェニリタルは資源が豊富で何十万年も歴史があるのよ。その過程で色々と技術改革もあったらしいわ」


 こっちの人類やばいな。ホテルも景観を崩さないし、材質もコンクリとかじゃない。謎の物質と技術である。


「はいはい、気にするところが違うわよ」


「そうだな。明日の予定でも考えよう」


 全員バスローブだが、そこはつっこまないでおこう。俺達は健全です。


「朝市があるのじゃ。新鮮な素材が豊富で屋台もある。朝食にはよいじゃろ」


「朝か……」


「ちゃんと起こしてあげるから」


 どうせ四人で寝るのだ。そこは心配していない。明日はフルーツ関係をいただく。その次は肉だな。まだまだ食いに行くものはあるぞ。


「観光名所とか、動物見に行ったりとか目白押しじゃぞ」


「そいつは楽しみだ。旅行が楽しい思い出になるとは、俺も変わったもんだな」


「明日からもまだまだ楽しいんだからね!」


 こいつらのおかげで旅行はずっと楽しいままでいられそうだ。

 感謝しつつ、上質なベッドで眠りにつくのだった。

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