充実した観光とか久々じゃね?
なんとか朝起きた俺は、四人で朝市へと行く。大きな公園には、既に活気が溢れていた。よくこんな人数が朝起きられるな。
「ひょっとして人類は朝起きたりできるのか?」
「大丈夫、朝弱い人もいるよ」
三人とも朝ちゃんと起きるの凄いわ。おかげで遅刻せずに済む。
「ゆっくりでも改善できればいいわね」
「健康にはフルーツじゃな」
「ビタミン取るぞビタミン」
朝の公園は活気に溢れていた。にぎやかで観光客も多い。暖かい日差しと人の多さからか、少し冷たいものが欲しくなる。
「まずは暑さと眠気をリセットじゃ。こっちじゃよ」
リリアが案内してくれる。そういや俺の案内人でしたね。
「ここはもう少しすると人が増えるから、今のうちに並ぶのじゃ」
なんかフルーツの店であることはわかる。そこそこ並んでいるが、人気店なのだろうか。
「あっ、来た来た」
イケメンさんが巨大な氷を運んできた。中にはたっぷりと果物が入っている。氷の中にするりと手を入れると、なにやら装置に入れている。
「あの氷、魔力で作ったものか」
「ええ、魔法使いのお店よ。パフォーマンスとして効果があるみたい」
「作っているのはシャーベットドリンクじゃよ。冷たくてシャリシャリじゃ」
「そいつは楽しみだ」
今日はオレンジとブドウがよく実ったらしく、どちらかを選べるらしい。毎回メニュー違うんだな。オプションでミルクとハチミツがあるみたいだが、とりあえずノーマルのブドウを選ぶ。
「んー……うめえ。しゃりしゃり」
すっきりしたブドウの味が染み渡る。鮮烈でひんやりしていて飲みやすく、噛むとシャーベットの氷がまた楽しい。実によい。素晴らしいぞ。こういうの好き。
「暑い日にいいわね」
「ほれ、こっちミルク入りじゃ」
「まあそうなるよな」
どうせ少しもらうことになると思っていた。素直にリリアのやつを飲ませてもらう。ミルクが入るとまろやかになるな。
「アジュこっち、こっち人少ないからはい」
「悪いな」
ちゃんと人目の少ない場所で飲ませてくる。オレンジもうまい。酸味がくどくない程度に主張していてオレンジの旨味が凝縮されていた。
「朝ごはんはこれとお肉ね。バーガー屋があるわ」
「いいぞ期待できるじゃないか」
その場で焼いて切る肉と、新鮮な野菜の入ったハンバーガーだ。
外国サイズというか、ちゃんと朝飯にできるくらいでかい。
「腹が満たされるサイズでいいぞー」
「量が多いのに食べやすいじゃろ。これが新鮮さの魅力じゃ」
「シェフこだわりの手作りだからね」
大量生産品っぽさがない。この公園は超広いのだが、出店のクオリティが高すぎる。どうやら一等地の激戦はいい方向に作用しているみたいだ。
「そら賑わうよなあ。子供連れも多いし、カップルもいる。けどトラブルは見当たらない。よくこんな治安がいいもんだ」
「気づいておらんのか? 観光客みたいじゃが武器持っておるのがいっぱいおるじゃろ。たいてい二人から三人一組じゃ」
ちなみに学園とは違い、わかりやすくでかい武器は持ち込み禁止の場所も多い。俺達も武器はほぼ持っていないのだ。
「あれ私服警官なのか」
「うむ、アロハを見たら半分は警備兵じゃな。溶け込みつつあらゆる場所におる」
よく見るとマジで多い。民間人の邪魔にならないようにさり気なくいる。目立たないよう溶け込み、それでいていつでも動ける位置だ。
「プロだねえ。南国は暑いのに朝から頑張って……俺にはできんな」
「ここはいい国じゃろ。いい国は守りたくなるものじゃ。愛国心というものが生まれやすいんじゃよ」
「そういうもんか。さて次はどうする?」
「超動物園じゃ!」
アジュさんは動物好きです。なのでうっきうきで入場してウォンバットくんに餌をあげています。かわいい。
「ほーれおやつがあるぞー。いいこだなー」
柵の中から両手を出してアピールしてくる個体がいる。短いおててかわいい。ついおやつをあげちゃうねえ。
「おーじょうずにできたなー、おやつをあげようねえ」
「かつてないほど優しい声じゃな」
「あんな笑顔のアジュは中々見れないよね」
「ほら小さい子達が来たわよ」
イロハと一緒に子供のウォンバットに餌をあげていく。俺の手を握っておやつを逃さない行動がかわいい。そんなに押さえなくてもあげるぞー。
「よしよし、いっぱい食べて大きくなるんだぞー、順番にあげるからなー」
「喧嘩する子にはあげないわよー、順番よ。いい子ね。みんなで食べるのよ」
今すごい充実している。楽しい。心がとても癒されていく。戦闘や国の運営で荒んだ心の回復が行われているのだ。
「撫で撫でするぞー」
「わたしもするぞー。おおー、もふっとしておられるぞー。かわいいねー」
おとなしく撫でられている。人に慣れているのかな。毛並みも引っかかることなく綺麗だ。ゆっくり脅かさないように撫でようね。
「寝ている子は撫でてはいかんぞ。起きてしまうからのう」
「残念だ……かわいいのに」
三匹で丸まってお昼寝しているのが超かわいい。よく寝てすくすく育てよ。
「おっと、人増えてきたな。餌をあげたい子供の邪魔はできん。ここは次に行くのが大人の対応だな」
「アジュが他人に優しいよ」
「ルールとマナーを気にしておる」
「失礼な。普段から公共の場で騒いだりしないだろ。次のゾーンは何かな?」
「鳥ゾーンじゃな。その次はネフェニリタルの原生種目白押しじゃ」
「よし行くぞ」
網の向こうで鳥が飛んでいる。頭にフンが落ちないよう、通路には飛んで来ないよう網がかけられていた。
「南国の鳥って赤とか青とか原色でめっちゃカラフルだよな」
「くちばしが大きいのもいるねー」
木に止まっているやつは鮮やかなグリーンだ。あれで自然界に馴染めるのだろうか。
「とりあえずおやつをやろう。ほれ食え」
おやつをあげるための穴から差し出すが、なんか食わない。腹いっぱいなのかも。
「そっちじゃないんだよねー?」
シルフィが別の味を差し出すと、もしゃもしゃ食べ始めた。食い終わるとお礼を言うようにシルフィに一鳴きした。
「なるほど、味の好みがあるのか」
「別の子が欲しいみたいよ」
地面を歩くタイプのやつが俺の餌を見ている。孔雀とかに近いのかな。羽がとても美しい。自然や野生ってすごいねえ。
「これ好きなのか? ほれあげるぞ」
ちゃんとくちばしで咥えて食べていく。器用だな。つがいっぽいので、メスにもあげてみよう。ちゃんと食べるねえ。
「仲良くな」
「次はここのメインじゃな」
「パチャロというらしいわ」
猫と兎の中間みたいなふわふわした生き物だ。とても人懐っこく俊敏であるらしい。
白と青と緑の毛の個体がいる。毛色のバリエーションがある生き物か。
「ミー」
くりくりした目でこちらを見つけると、四本足でとてててっと寄ってきた。
「こっちきたよー。毛並みがふわふわだー」
「よーしよし、怖くないぞー」
ゆっくり優しく撫でる。手に擦り寄ったり舐めたりしてくる。かわいい。怯えずに懐いてくれる動物はついかわいがってしまうよね。
「おやつはどれがいいかなー?」
「ミュー」
シルフィの持っている中からりんごを手でちょいちょいして要求している。
「こいつ言葉わかるのか?」
「ミュッ」
なんだかキリッとした自慢げな顔に見える。そうか賢いな。
「賢い子にはおやつをあげるぞー」
「ミー!」
両手を前に出しておやつをくれとアピールしている。マジで賢いな。ちゃんと渡してあげると、ぺこりとお辞儀をして食べ始める。
「かわいいし賢いし偉いなあ」
「パチャロ。ネフェニリタルの自然区域全域にいる国の守り神とも言われる動物。綺麗な自然のある場所に多くいる。賢くて他の生物とも共存できる。ほとんどの動物はパチャロを襲わない。だって」
「実は凄いんじゃな。おおう、なんかめっちゃ来たのじゃ」
明らかにリリアに一番集まっている。餌よりもリリアにじゃれつく個体が圧倒的に多い。
「何やらかした?」
「心当たりゼロじゃ。かわゆいのう」
「ミー、ミュー」
やがて揃って鳴き始める。とても透き通った声で、統率が取れているような気がした。
「歌っている?」
飼育員が戸惑っている気がする。とても珍しい現象らしい。王族が来た時に何回か見られたと話す声が聞こえる。
「うむ、とてもよい歌声じゃな。おやつをいっぱいあげるのじゃ」
「ミー!」
しばらくおやつをあげて、俺達は次へ行く。手を振ると振り返して見送ってくれた。最後までかわいい。好き。
「かわいかったねー」
「そうだな。次のゾーンはあっちか。なんか雰囲気違う場所だぞ」
今までは自然っぽかったが、ここは猫カフェとかに近い。普通に飲食メニューもあるな。
「結構見て回ったし、休憩ポイントなんじゃない?」
「なるほど、一休みするか」
動物見て回っていたら楽しくて、疲れを忘れていたらしい。
ひとまず休憩だ。俺とリリアは席を確保して、残り二人が食事の調達だ。
「おいすぃ!」
なんか女の声が聞こえた。反射的にそっちを見ると、中等部くらいの女の子が優雅にランチを楽しんでいる。従者ぽいのが二人いるな。いやどう見ても人違いだわ。
「おまたせー」
「色々買ってきたわ」
「助かる」
ホットドッグとかパンケーキとか、それっぽい食べ物を中心に買っている。動物の形のチョコやラテアートでパチャロが書いてあって雰囲気が出ていていいな。
「いいぞ、こういう限定品好き」
「しかもおいしい!」
少し高いが値段相応かそれ以上に美味である。クオリティ高いので値段に納得できるのは素晴らしいね。コースターとかついてくるので、記念にみんなで持っておく。
「本当に充実した旅行だ。ごく普通に楽しい」
「物凄く平和で逆に不安になるのう」
「これが普通なのよきっと」
「まだまだ楽しくなるよー!」
そんなこんなで超楽しんだ。そして見つけてしまった。ほどほどのサイズのパチャロのぬいぐるみを。超欲しい。
「別に買ってよいと思うがのう」
「男の人も買ってるし、四人分買っちゃわない?」
「買うとしよう。かわいい。正直かなりヒットする見た目だよあいつら」
個人的にパチャロ気に入ってしまったのだ。買っちゃうけど仕方ないね。
「いやー満足したのう」
動物園を出ると、もう夕方である。時間が経つの早すぎるだろ。大満足する時間とはこうも早いのか。
さてそれでは問題を片付けるとしましょうかね。
「そうだな……そろそろ出てこい。監視しているのは気づいている」
動物園の中からこそこそしている気配を感じていた。敵意はなかったので放置したが、ホテルまで尾行されると流石にめんどい。
「ほら気づかれていますよお嬢様」
「おおぅ! やりますなあ!」
さっきランチ食っていたお嬢様だ。エメラルドグリーンの長い髪をふわふわさせている。赤というかピンクに近い瞳だなあ。初対面のはずだ。
とことことこちらに近づいてくる。無遠慮に来るので敵ではないだろうが、従者さんが慌てているぞ。さて敵か味方か。
「んうー……やっぱりシルフィ様だ!!」
おっとそうくるか。
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