雪の六騎士編 完結
犯人のマイケルとロバートを追い詰めたら、マイナスエネルギーで強化されたキャシーが襲ってきた。
「なんて往生際の悪い……」
「なんとでも言うがいい。強いガキは上の階だ。お前達を殺し、その負のエネルギーでさらに強化してやる」
「甘いぜ、いけイズミ!」
「了解」
「あっくんも戦おうよ」
暗殺術のプロが居るんだから、そいつに任せりゃいいじゃない。
キャシーの放つ弓をすり抜け、錬金で作られた長く太い針が首に刺さる。
「無駄だよ」
そのまま魔力の矢がイズミを襲う。咄嗟にサンダースマッシャーで隙を作ってやり、針を手放して距離を取っていた。
「助かった。確実に首を狙ったのに……」
「マイナスエネルギーのコアが本体だ。傷など塞げる。人間は器でしかない」
「便利だなおい」
急所を突いて殺す暗殺とは相性が悪いか。おそらく毒も効かないだろう。なかなかに便利な兵士だ。敵の武将とかでやれば効果的かも。
「ルナ、カールとジェシカを守れ。しょうがないから俺もやる」
「わかった! 気をつけてね!」
壁に刺さって消える矢を見ると、貫通力重視だな。連射可能で弓を引く動作もほぼ不要。面倒な相手だ。
「コアの位置は割り出せるか?」
「無理。体の全域をエネルギーが満たしている。魔力の流れが追えない」
「欠点は修正済みだよ。カールの父親のおかげでね」
「ロバート!!」
いやあゲスいね。殺しやすくていいけどさ。適当に魔法を撃ち込んでみるが、弓矢で落とされるか、当たっても効果が薄い。コアごと焼くしかない。
「イズミ、ああいうやつはどう倒す?」
「コアを見つけるしかない。もしくは全身消し飛ばすレベルで爆殺する」
「ここ地下だぞ」
しくじったな。上なら、いやこの屋敷消えると証拠も消えるのか。機関のデータとか残しておいた方がいいよな。めんどい。もっとすっきり倒して終わらせろや。
「援護しろ。俺があいつに近づく」
「了解」
短剣二刀流で素早く接近し、動きを止めようとしてくれる。弓は両端が刃になっているらしく、普通に切り合いができていた。さて、あいつが速度に順応されると面倒だ、チャンスを見て最速でいこう。
「ここだな。リベリオントリガー!」
イズミに集中しているのか、こちらを視界に入れていない。ある程度距離を詰めたら、強化魔法をかけて一気に背後に回った。
「援護完了」
イズミの魔法でキャシーの腰までが氷の槍に阻まれる。おかげで背中に触れることができた。
「ライトニングバスター!!」
キャシーの中にコアがあるなら、内部に魔力を流して解き放てばいい。内側から全身を雷光で埋め尽くして破壊してやる。室内を光が満たしていくが、不意に負の力が揺らめいた気がした。嫌な予感とともにバックステップで距離を取ると、力が鞭のようにしなって俺のいた場所を叩いていた。
「ちっ、思った以上に頑丈だな」
多少焼け焦げているが、それも負の力が皮膚のようにくっついている。砕ききれなかった。というか魔力を流したのにコアの位置が特定できなかった。キャシーの魔力が全身のクッションであり沼なんだ。人体と魔力とエネルギーの三重防御で読み取れない。
「無駄な抵抗は済んだかい?」
「魔法にゃ多少の自信があったんだがね」
やばい。これはかなり厳しいぞ。プラズマイレイザーで消すという方法もあるが、上の階にいる連中に当たりかねない。屋敷が壊れりゃ凍死するし、鎧はギャラリーが多すぎる。
「本当に制限付きの戦闘はめんどい。イズミ、必殺奥義出せ」
「命令の意味が不明」
「暗殺者だろ。ああいうの倒す究極奥義とかないのか?」
「敵が初めてのケース。屋敷ごと消していいならギリギリ」
「それでいいなら俺でもできる。キャシーだけを倒せないか?」
「さっきの電撃で無理なら、少し厳しい」
イズミも制限下でのガチバトルでは厳しいらしい。ダメ元でロバートに聞いてみた。
「ちなみに首を落とすとどうなる?」
「首無しで動くだけだが?」
はいクソー。二度とやりたくねえこんなクソゲー。
思考を遮るように、弓矢の嵐が飛んでくる。避けて打ち落とすだけならまあできるが、貫通力の高さが危険だ。エネルギーの塊ということは、最悪俺が雷化しても当たる可能性がある。
「バラバラに切り刻んでパーツごとに消し飛ばすか?」
「私が言うのもなんだが、よくそんな発想できるね君」
「暗殺者に向いている可能性がある」
「ねえよ」
この不死身というか、もう死んでいるから完全に消すまで特攻かけてくるのは、囮として敵に放つには最適だな。過去の六騎士が逃げおおせた理由を身をもって感じる。
「しかし学園の生徒は侮れないな。会話しながら防ぎ切るとは。まだエネルギーが足りないらしい。戻れキャシー」
ロバートの元へと飛ぶキャシー。戻してどうするんだ。これ以上パワーアップする方法でもあるのか。
「すまないねマイケル。どうやら目算が甘かったらしい。許してくれ」
「諦めたのか? ならもう自首しよう。どのみち逃げられっこない……うぐっ!?」
キャシーの弓がマイケルの胸を貫いた。しまった、そういう強化もできるのか。
「君の怨念で、キャシーを強化することにしたよ。どうか許してくれ。いや許さない方がマイナスエネルギーは貯まるんだったな。フハハハハハ!!」
「ロバート…………すまないカール……本当にすまなかった……」
マイケルの最後の言葉は、恨み言ではなくカールへの謝罪だった。そこだけは認めてやる。
「いいぞ、さらにパワーが上がった。完成に近づいたぞ!!」
「ひどい……」
「外道が」
「なんとでも言うがいい」
高速で突っ込んできたキャシーをカトラスで受け止める。腕にかかる重みが違う。リベリオントリガーを使ってなおギリギリだぞ。
「ライジングナックル!」
雷の塊をぶつけてみるが、やはり致命傷を与えないと復活する。コアが見えないため雷光一閃のような斬撃は効果が薄い。おそらくだがマイナスエネルギーで腕くらいくっつけるだろう。
「切り刻む」
イズミの斬撃が容赦なく襲うが、それすらも弾き返す。パワー負けが起きるレベルかよ。切り傷もついたと思えば修復されるし。
「……毒が効かない」
「無駄だよ。毒はあくまで人体に影響するもの。生命活動が止まった操り人形には無意味だ」
ふとタイプCとの戦いを思い出す。あれと似たようなもんかも。
「イズミ、とにかくあいつに穴を開けろ。エネルギーの壁を突破して体内が見えるレベルで」
「了解」
外壁で弾かれるのを阻止し、内部を損傷させ続けて侵食するしかない。
指先に魔力を集中。できる限り逃げ回りながら虚無を練り上げる。
「命令を刺し傷ではなく人体を広げると解釈。切り開く」
イズミの手から二本の剣が伸び、キャシーの胸に突き刺さる。同時に錬金術なのか、合わさって巨大なハサミのようになった。傷口を無理やり広げようとしている。
「ナイスだ。これなら外さない。インフィニティヴォイド!!」
キャシーの胸の奥へと虚無の弾丸が吸い込まれていった。そして数秒後、彼女の口と胸からシャワーのように火花が飛び散っていく。
「なんだ!? コアを見つけたというのか!!」
「違う。人間まるごと内部から崩壊させていくのさ。コアはじきに飲み込まれる」
キャシーは成人女性より少し小さい。虚無で全機能を停止させて内部崩壊させるくらいは可能だ。エネルギーでカバーしようにも、虚無に触れた場所から消える。
「終わりだ。もう負のエネルギーは発動できずに消えていく。相性ゲーだったな」
ガクガクと震えながら、やがて膝から下だけになり、完全に機能停止した。危なかった。正直虚無と相性がいいというラッキーがなきゃ厳しかったぞ。
「宇宙行かなくて済んだか」
「宇宙?」
「なんでもない」
「ありえん。学生に倒せるほど弱いはずがない!!」
まあ素の俺で倒せるとは思っていなかったよ。うろたえているロバートがこれ以上無茶やらかさないうちに、俺とイズミで接近してぶん殴る。
「いいから寝とけ!!」
「ぶごおぉ!?」
壁までふっ飛ばし、床に倒れて動かなくなった。本人は弱いのか。
「やったー! すごいよあっくん、いずみん!」
「任務完了。対象の拘束を開始」
「終わったか……一日のはずなのに長かったな」
ロバートを縛り上げていると、上の階からリュウ達が降りてきた。どうやら上も勝負がついたらしい。少しぼろぼろだったが、全員命に別状はなし。
「とりあえず眠い……疲れた」
地下で一晩過ごし、通信機でこっそりリリア達に事情を話して、朝いちで学園の部隊をよこしてもらった。無事ロバートは逮捕。カールは取り調べが行われるだろうが、まあ情状酌量の余地は十分にある。いたずらの注意で終わるさ。
「おかげで真実を知ることができました。本当にありがとうございます。そして巻き込んでしまってすみません」
「気にするな。悪いのはロバート達だよ」
「そりゃ家族が殺されたら知りたくなるよな。わかるぜ」
六騎士の事件はこれから真実が語られるだろう。地下室のデータも裏付けに役立つ。屋敷には一斉捜査が入り、管理機関の悪事も暴かれていく。無論関わった全員に機関のことは秘密にしろとお達しがあった。
トラブルが続いた屋敷は閉鎖され、行く場所の無くなったタイガとアオイは城に来ることとなった。カールとジェシカは取り調べが終わらなければ不明だが、また別の場所にでも行くのだろう。
「達者でな。忘れることはできないだろうが、ほれ」
カールと父親が写っている写真を渡してやる。息子に宛てた言葉もあったので、ついでにプリントしてやった。翻訳は済ませてある。ここだけは機関の技術に感謝してやるとしよう。
「持っていけ。親父さんとの記録だ」
「ありがとうございます! 父の遺品は少なくて……これでいつでも思い出せます。辛いことも多いですが、僕にとって父は理想でした。笑顔の記録があるだけで救われます」
「がんばってね。なにかあったら相談して」
「カールが本調子になるまで、私がちゃんと見てますから」
「すまない。ジェシカにはいつも苦労をかける」
二人ならやっていけそうだな。そういう相手がいればなんとかなる。それはこの世界に来てから知った。
「さて帰るか。俺達の城へ」
俺も俺でやることが山積みだ。学園側からの事情聴取。城に残してきたやつへの説明。今回の件の後始末は学園に任せても、面倒事はゼロじゃない。いつもの三人のありがたみを思い出しながら、馬車に揺られる。雲ひとつない晴天の下で、今後の予定を考えながら眠りにつくのだった。
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