城主の生活に戻って恋バナ

 六騎士の騒動が終わって城へ帰り、タイガとアオイを紹介した。


「アオイです。魔法と戦術・経営学を少々、よろしくおねがいします」


「オッス! タイガだ! 戦闘はオレに任せろ!!」


 二人には一部隊を預けた。前衛部隊の隊長と補佐兼軍師として採用する。


「まさか一日で殺人事件に巻き込まれて帰ってくるなんて、アジュくんも運が無いわね」


「お疲れさまです」


「お前ほんとにトラブルを呼ぶな」


「好きで呼んじゃいない。なんか巻き込まれるんだよ」


 城に残ったメンバーは驚きと心配が混ざった表情だ。そりゃわけわからんよな。同級生がふらっと出ていったら、次の日殺人事件解決して戻ってくるんだから。


「溜め込んでいた仕事があったら処理するぞ」


「いいんですか? 事件がありましたし、しばらくお休みしてもいいんですよ?」


 ミリーが気を遣ってくれる。ほんまいい子やでえ。なるべく俺に関わらせないようにしてあげたい。


「いいんだよ。気晴らしだ。他の陣営は進んでいるだろうしな。楽な仕事だけやっておこう」


 そしてホノリとミリーが残った執務室。三人で書類を片付けていく。


「貯蔵庫は無事建設完了。壁の強化と港の整備はもう少しです。急がせるよりは頑丈に、長く使えるようにとの指示でしたね」


「ああ、耐久力と便利かどうかを重視しよう」


 まず生活を盤石にして、防衛と地産地消ができることがベストだ。自国だけでやっていけるというのは、それだけで非常時に安定と安心を与える。


「次に病院は確保。暖房設備もベッドも十分ですが、これから戦闘が激化すると予想し、備蓄を始めています」


「燃料の採掘はできそうか?」


「しばらく雪の六騎士だったっけ? あれの屋敷と採掘場は学園の調査が入るよ。保証は出るらしいけど、莫大な量じゃない」


「別の場所でも進めるしかないな。ピックアップは任せる」


「了解です」


 やらなきゃいけないこと多いな。これが本物の国なら、しっかり組織があって、担当もベテランなのだろう。ガキがやるにはちと厳しい。


「あとライブをやりたいとかで、申請が来ていますよ」


「それを国王が決めるっておかしくね? 適切な組織とかないんかい」


「名前はバーストフレイム」


「あいつらか」


「知り合いなのか?」


「前に依頼で少しな。あいつらの歌は嫌いじゃないぞ」


 曲が完全に熱血アニソンOPなんだよなあ。もしくは戦闘シーンでかかるイメージ。俺はかなり好き。


「最近かなり評判が上がっているようです。火薬の量が適切になったとかで」


 歌関係なくて草。


「悪い奴らじゃないし、許可は出したい。会場あるのか?」


「屋内の広い場所を希望していますね。費用も科から出るみたいですし、予算の心配もないかと」


「学科から出るケースもあるのか」


「歌手もアイドルも、芸能活動って学生が全部やるのは無理ですからね」


「作詞作曲、ダンスの振り付け、各種レッスンと衣装の準備……まあ無理だね」


 なるほど。学科の力を使えるのはでかいんだな。個人のキャパ超えるし当然なのかもしれない。


「わかった。じゃあ許可出しておいてくれ」


「はい、当日見に行きます?」


「……暇があればな」


 よし、とりあえずこの生活に楽しみができたな。現場も見に行ってみようか。時間があればだけど。


「行くならギルドの子も誘ってあげな。会えなくて寂しい思いをしているかもよ」


「あいつらが? いや、そのせいでこの前来たんだったか」


「女心というものが理解できていないね」


「恋愛は理解できん」


 なぜにみんな理解できるのかね。この世界特有のスキルってわけでもなさそうだし、女の思考回路はわからんね。


「女って恋愛とか好きだよな」


「男性はそうでもないんですか?」


「男の代表面するつもりはないが、ぶっちゃけ好きなことして遊んでいる方が楽しい。魔法の研究とか、本読んだりとか」


「プリンセスキラーのくせに」


「なんだその意味不明な称号は」


「あまりにも王族や大貴族の女の子と知り合いだから、そっち専門に口説いてるんじゃないかって話さ」


「誰も口説いた覚えはない」


 あいつらとは偶然に知り合って、なぜか好かれただけ。本来俺はもてない男であって、イケメンでも金持ちでもないのだ。そこを忘れると恥をかくから気をつけようね。


「けどかなり好かれていますよね。猛烈に愛されているといいますか」


「しいて言えばリリアの功績が大きい。あいつがいること前提だ」


「リリアのおかげで仲良くなれたってこと?」


「そうだな。日々の暮らしから、こういう雑務まで、あらゆる行為はあいつのサポートがあって円滑に進む」


 あいつと出会ってこっちに来て、鎧で助けたのがきっかけだ。そこからずっとサポートを任せている。すべてはリリアのおかげだろう。純粋に感謝している。


「本当に隙がないですよねリリアさん」


「あいつ万能だからな。俺がかろうじて生きているのはリリアのおかげだ」


「そんなことでリリアがいなくなったらどうするんだ? うちらじゃ制御できないだろ」


 そう言われてふと考える。今後も別行動系の試練が課されるかもしれない。その可能性は高い。ありえないがリリアと長期間離れたり、もう会えなくなってしまうとしたら。これは由々しき事態である。ならば仮初の解決策として。


「…………リリア軍団とか作るか?」


「はあ?」


「まず容姿が似ているやつを探す。そいつは喋らなくていい。分担作業だ」


「何を分担するんですか?」


「全言動だよ。一人でリリアをこなすのは不可能だ。分けるのが現実的だろ」


「現実の欠片もないよ」


 難しい仕事になるが、これ以上の方法は存在しないだろう。俺にとってリリアを超える人間などいないのだ。ならば似せるしかあるまい。何人使おうとも。


「次に会話担当だ。完璧にリリアの口調と思考をトレースさせる。こいつは容姿担当の影に常に配置する。そして解説担当リリアだ。これは各分野で分担させよう。さらに魔法の才能と料理の技術、これも腕のいいやつがそれぞれいるな。全員リリアに似せる。俺の視界には容姿担当を近めに配置すればいい」


「全分野のプロフェッショナルを集めて、たった一人のリリアさんを作るんですか?」


「そうだ。いや待て、仕草だけでもコピーは難しいな。一緒に歩く用と隣に座る用で分けるか? いや……それだと数が多すぎるし……添い寝用が……結局他人だし……」


 容姿だけじゃない。声も似せないといけないな。問題が多すぎる。


「声担当を配置して、ボイトレさせて朗読させる方式はどうだ?」


「質問の意図が一切理解できないよ」


「目が本気すぎて怖いです」


「まあ不可能なのは理解しているよ。どうせ一週間くらいで偽物に飽きて終わる。ジェネリックリリアは効き目が薄いのさ」


 本物の奇跡のバランスを再現できないからな。っていうか神話生物が来たら死ぬし。他人がいる環境嫌い。詰みだよ。


「しかしあれだねアジュ」


「なんだよ」


「なんだかんだ言いながら、あんた結構べた惚れだよね」


 ホノリの言っている意味がよくわからない。落ち着いて、今の話の流れを客観的かつ冷静に分析してみると……。


「……いやっ、違うぞ。違う。別にそういう意味じゃない。俺はあくまで生活のしやすさとか、有能さについての評価をだな……」


「往生際が悪すぎる」


「十分に愛は伝わりましたよ」


「やめろ愛など知らん」


 いかん、完全に気が緩んでいた。いや緩むというか、なんだろう。本当に会えない期間があると変な感じになるな。この謎現象何よ? とりあえず空気を変えよう。


「お前らはどうなんだよ? 恋バナできるのか? 俺ばっかり言うのはずるいぞ」


「私にはまだ恋愛は早いかなって。好きな人もいませんし」


「ぶっちゃけ武器作ってる方が楽しい」


「俺と一緒じゃねえか。お前らかなりの身分だろ。イケメン貴族とか知り合わないのか?」


「パーティーには呼ばれるけど、フルムーンの貴族って基本的に優秀かつ善人なんだよなあ。下心で女に接しないから、恋人見つけようとかすると、自分の卑しい心が恥ずかしくなる」


 なるほど。イケメンで優秀で善人ムーブされると気後れするらしい。カムイみたいなやつ相手にグイグイ婚活するの恥以外の何物でもないな。


「逆に下心ありのやつが悪目立ちしちゃうんだ。だからそいつらもそういう場では派手に動けない。結果として平和だけど恋に発展しない」


「企業のパーティーだと少し違いますが、同年代の子がいない場合も多いですから」


「なるほど。貴族にも色々あんのな」


 礼儀作法とか社交界の掟とかありそうだし、家柄が合わないと破局しそう。俺達は奇跡のバランスだなあ。


「でもやっぱり運命の出会いとか、そういった恋愛への憧れもありますから。あまり軽い人とはお付き合いしたくありません」


「恋愛に憧れというのがわからん。憧れって強いやつとかイケメンにするんじゃないのか?」


「なるほど、男女の違いってこういうことなんだね」


 なんか納得された。微妙に間違っている気がするが、原因がわからないので解決はできない。リリア帰ってきて欲しい。切実に。


「あっくんお仕事終わった? 暇だしみんなでご飯食べようよー!」


 ルナが入ってきた。話しながらも作業していたおかげか、仕事も片付いている。ちょうどいい時間だし飯にするか。


「お仕事終わってるね。何してたの?」


「恋バナ」


「…………できるの?」


 おもっくそ驚かれる。俺という人間を把握し始めているな。いい洞察力だ。


「俺は無理」


「えーつまんなーい。恋人にするならこんな子とかないの?」


「ねえよ。お前らはあるのか? 俺にだけ話をさせるのはNGだ」


「私は誠実で優しい人がいいです。会社を継ぐと思うので、支えてくれるような人だと嬉しいです」


 社長令嬢のミリーならではだな。ある程度将来を見据えているのもそれっぽい。


「んー、わたしは趣味や家業に理解のある人、かな。ちゃんと常識もあるやつでお願いしたい」


「ルナは強くてちょっとミステリアスで名探偵の人! あとイケメン!」


「イケメンは大前提だろ」


 当然だがそれぞれ好みが違うのな。あいつらの場合俺の特徴になるから、こういう話は新鮮かもしれない。


「そもそも飯誘いに来たんだろ? 行くぞ」


「おっといけない。みんな待ってるんだった。しゅっぱーつ!」


 食堂へと移動する道には、見慣れたメイドや執事がいる。王様というのはみんなこういう環境なのだろうか。あまり慣れない。


「ちょっとルナちゃん、遅いわよ」


「料理が冷める」


 フランとイズミが待っていた。どうやら食わずに待っていたらしい。詫びを入れてさっさと食い始めよう。


「食べながら聞いて欲しい。クレアの使者が来た」


「クレア陣営の?」


 確かまだ同盟は続いている。延長することに異論はなかったはずだ。


「同盟は続行。強い大人が参加していい時期になったら、場合によっては援軍を頼むかもって」


「あり得るのか? かなり遠いぞ?」


 7ブロックは4ブロックとの戦闘になるだろう。ならば俺達がやるのは途中の拠点か王都防衛だな。これ地味に戦力削られそうだ。


「同盟組んじゃいましたからね。行けそうなら行くべきです」


「行けたら行くの本気バージョンだな」


「あんまり王都に他国の軍は入れたくないにゃ」


「でも貸しは作れるわね。余裕があればやっておきましょ」


 敵対すると面倒な相手らしいから、一応は有効的に接しておこう。


「それと怪しい動きをしている者が出始めてるから気をつけてと」


「それはきついな」


「食べ終わったらその調査がしたい。隠密部隊に調査許可を」


「わかった。俺も出よう。視察はしなきゃいけないしな」


「国王がうろつくのは危険じゃないの?」


 むしろ俺は絶対負けないから安全なんだよ。これで城の連中がいなくなると、国務が成り立たない。俺が行くべき。


「アジュなら問題ないさ」


「そうですね。むしろ護衛は少ないか、身内で済ませましょう」


「ふーん、二人ともあっくんが怪我しないって思ってるんだね」


 屋敷の一件から、どうもルナが俺を怪しんでいる。鎧を使わない俺は普通の人間なわけだが、どこに興味あるんだか謎だな。


「わたしも行くわ。お城でお留守番だったんだもの、今回は連れて行ってくれてもいいんじゃない?」


「アジュ、別行動取る許可を。こちらは部隊を派遣する」


「んじゃイズミとは別行動だ。必要ならルナとリュウを護衛につけろ。でミリー、フラン、ホノリは俺と来い」


「まあ妥当だね。了解」


「わたしに任せておけば、大抵の事件はどうにかできるわ!」


「んじゃ期待してやるよ」


 これほど頻繁に外出とは、俺も成長したな。腹一杯になって眠くならないうちに外出の準備を済ませ、雪が強くならないよう祈りながら視察に向かった。

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