雪山と怪しい薬編
都市の調査と新しい事件?
昼過ぎの王都を歩く俺とミリー、ホノリー、フラン。今日は雪も少ないし、日差しもあってか比較的暖かい。
「さて、まずどうするの? 視察? スパイ探し?」
「こっそり新施設を回る。目立つなよ。聞き込みが必要そうなら偉いさんにだけ話す」
「わかったわ。それじゃあまずは近くから行きましょうか」
先頭を歩くフランがテンション高い。今のうちに気づかれないよう、ホノリとミリーに声をかける。
「俺が鎧使うことになったら、うまいことフランを隔離してくれ。見られたくない」
「どうせそういう役目だと思ったよ。了解」
「がんばります。なので強すぎる敵はお願いしますね」
「わかった」
鎧について知っているやつがいると、サポートできそうでいいな。ギルメンほどの理解度じゃないから、できればイベントは起きないに越したことはないが。
「はい病院に到着よ」
「ここか。こりゃまたでっかいな」
かなり大きめだ。新築らしく綺麗で、警備の人もちゃんといる。室内は絵が飾ってあったり、暖かい色の壁だ。辛気臭い病院のイメージじゃないな。
「ほー……今の大病院ってこういう感じなのか」
「患者さんの心が少しでも安らぐようにって、デザイナー関係の科が提案すると聞いたわ。お医者さんの服も明るめの緑だったりするみたいよ」
「参考になります。こういう場所って窮屈で寂しい印象ですからね」
とても過ごしやすい、病気と戦うことも、忘れてリラックスすることもできそうだ。エントランスには、なんだか明るい絵がかけてある。あれも芸術系の科だろうか。院内を見ていると、フランがなにやら受付で話している。
「どうした?」
「ちょっと責任者に会えないかなって、来る前に伝令を送っておいたのよ。院長室に来て欲しいって」
やはりフランも王族。こういう手際の良さは素晴らしい。関係者に案内され、広めの院長室へと通された。
「やあ、どうもどうも。お久しぶりですね、サカガミくん」
「ラウル先生?」
学校の医学科教師のラウル・リット先生だ。召喚科のチェルシー先生の弟だったっけな。前に裏の依頼でもお世話になった。
「はい、ここの臨時院長をしています。生徒も働いているんですよ」
言いながら全員分のお茶を用意してくれる。そういやお茶が趣味なんだっけ。相変わらず腕もいいみたいで、気分の落ち着くいい香りだ。
「とても美味しいです。わざわざ申し訳ありません」
「本来ならうちらがやるところなんでしょうが……」
「いえいえ、今は国王様ですし、今日はお客様でもありますから。おもてなしさせてくださいな」
優しくて人のいい微笑みだ。これで超人なんだから、学園は読めんね。
「備品はちゃんと揃っています。ベッドも足りていますが、戦争が本格化するとどうなるか……でも人手も足りていますし、今のところは問題ありませんよ」
「そうですか。なにかあれば城まで連絡をお願いします。国の運営なんて簡略化されていてもできる気がしませんので」
「こうやってトラブルがないか気を配り、何かあればみんなで乗り越える。それができればなんとかなります。応援していますよ」
「ありがとうございます」
本当にいい先生だな。学園で教師やるってのは人格も能力も優れていないと無理だろう。天才揃いの生徒を導けるスペックなんだろうしなあ。この人は凄い。
「僕も公平にやらないといけないので、あまりアドバイスはできません。ですが心の中で応援しています。ああそうだ、サカガミさんがいるならちょうどいいですね」
先生は何かの資料をこちらに渡してくる。薬の説明らしいが、なにやら危険な文言が並んでいる気がしますねえ。
「学園全体にお触れが出ています。怪しいお薬が作られているから入れないようにと」
「プリズムナイト……聞いたことがないな」
「どこかの組織が開発したという、危ないお薬です。依存性が高く、あくまで噂ですが国が関わっているとか」
おいおい碌でもないな。学園にいると治安はいい方なんだと思うが、やべー国とかありそうだなこりゃ。
「無論学園のチェックは厳しいので、入国審査で跳ね除けますが、製造方法を知るものが学園に潜伏しないとも限りませんので」
「それは厄介ですね。そうなればわたし達のような子供が管理する国など、隠れ蓑にはうってつけです」
フランの言う通りだ。敵にとって都合がよすぎる。警戒レベルは上げておきたいが、そいつらが学園にいる保証もない。面倒事は他所でやってくれ。
「そこなんですよ。ですから学園側から各ブロックに警備のものを増やします。国政には使えませんが、プリズムナイト案件を調べる特殊部隊だと思ってください」
「つまりこちらの命令に従うわけではなく、試験に関係のない外部部隊、ということですか?」
「そうなります。気をつけてくださいね。服用すると洗脳と強化の作用が働く薬らしいです」
「最近そんなのばっかだな」
これまた機関の連中じゃないだろうな。二連続管理機関はキレるよ。ヒメノあたりに世界特定させて消すぞ。
「お屋敷でのことは聞いています。関係を洗っていますので、用心だけしておいてください」
「わかりました。何かあれば俺達からも報告します」
状況によっては俺が解決するのかもしれない。だが今はギルメンがいない。あいつらは戦力になって、俺のフォローもしてくれる。もしも神話生物クラスと戦うなら、今のメンバーは確実に死ぬだろう。守りながら戦うのは嫌い。だから知り合いとか増やしたくないのよ。余計な足枷が増える。
「失礼します」
とりあえず院長室を出て、港へと向かう。視察はまだまだ続くのだ。寒くなる前に帰りたい。四人で歩く道は、やはり少し歩幅を合わせることを意識する。他人と自然に歩けるというのは、相当に難しいことなんだな。
「なんか試験に関係ないトラブル多くないか?」
「勇者科はなぜかそういうのがまれによくあるらしいよ」
「大変ですよね。これも生きるための試練なのかもしれません」
「迷惑な話ね。そろそろお腹すかない? 何か買っていきましょうよ」
フランの言うことにも一理ある。何か腹に入れておこうと思ったら、小洒落た外観のパン屋がある。いい匂いがするし、ちょうど焼きたての可能性もある。
「行くか」
「いいわね。温かいものを食べましょう」
店内も綺麗だ。おそらくだが新築なんだろう。客層は男女半々くらいだろうか。こういう店で男の客が多いのは珍しい気がする。なんとなく男の多い場所へ行く。
「でっかいなこれ」
白身魚のフライが入ったたまごサンドだ。コッペパンにぶち込むタイプだが、結構でかいぞ。俺はこういう方が好きだけどな。もちろんだが買った。
「ここ港に近いからじゃない? 漁師さんとかが食べるならボリュームいるでしょ」
「なるほど、男向けメニューあると思ったらそういうことか」
「地域に適した商売ですね」
三人はフルーツとかクリームとか入っているやつと、おかずパンを買っている。俺ももう一品なんか買っておこう。店内で食えるタイプの店らしく、飲み物も買ってテーブル席に座る。今後の予定も決めながら食おう。
「さて、味はどうかな?」
このそこそこ大口開けないといけない量がいい。衣のサクサク感もしっかりあるし、ソースがくどすぎず絶妙だ。たまごもしっかり味を主張するが、魚とぶつからない。白身の淡白さがいい方向に働いている。
「いいね。腹が満たされる」
「食べ方が男の子ねえ」
「そんなうまいか?」
「ああ、食ってみるか?」
ホノリに差し出す。こいつ結構がっつり持って行きやがった。口開けても恥ずかしがらないあたり、接しやすくて大変よろしい。
「おっ、いいねこれ。今度買おう」
「ちょっとはしたないわよ二人とも」
「軽く仕切りがあるとはいえ、誰かに見られちゃいますよ」
「ん? ああ……そういうものなのかこれ」
「アジュはいつもの三人だけだと、距離感おかしいままなんだな」
なんとなく四人でいる現状が、あいつらとの生活にかぶったのだろうか。女相手にこんなコトするやつは俺じゃないぞ。自重していきましょう。反省。
「あの子達相手でも人前でやるタイプじゃなかったでしょ」
「あー……なんだろうな。あんまり離れるもんじゃないな」
「攻略が進んでいますね」
「ちょっと、三人にしかわからない話はずるいわよ」
「悪いな。大したことじゃないんだ。俺が案外変なメンタルだってだけ」
「それは知ってるわよ。アジュくんはマニア向けね」
国主は敬われる存在ではないようです。知っちゃいたけどな。腹を満たしたらいよいよ寒空の下で港に行く。そうか港が近いと魚も新鮮なうちにフライにできるのだろう。
「立派なもんができておるのうミリー」
「これなら安心じゃなホノリさん」
「リリアの真似やめい。似合ってねえんだよ」
ホノリはともかく、ミリーにそういう冗談が言えるとは思わなかったぞ。
「けどまあ問題なさそうでよかったよ。ただでさえ冬の雪国だ。海がダメなら相当きっついからな」
「そうね。保存は効きそうだから……どうしたのアジュくん?」
今すれ違った港から出ていこうとしている連中、なんか不自然だ。漠然と嫌な感じがする。寒さと満腹で脳が回転していないな。
「今のやつ、なんかおかしくなかったか?」
「どの人?」
「港から出ていく連中。全員じゃないけど、なんか妙に嫌な感じというか、変な雰囲気だった」
「また妙なところで勘のよさを発揮してるな? 落ち着いて考えてみなって」
いきなり不審者扱いはできない。船から降りて外に行くってことは船員か商人だろう。わざわざ海から? 陸路がつながっているんだから、海に出る理由は漁しかないはず。俺だけじゃ結論は出ないな。
「リリア……じゃないルナ、意見を……今はいないからフウマ……は使わない方向だし、イズミ……は別行動だからいねえ!? 誰もいねえ!?」
「アジュ、お前自分でなんとかするって発想はないのか?」
「ねえよ俺になんとかできる問題なんて。そんなん破壊と殺戮くらいだぞ」
「改善の余地ありすぎるでしょアジュくん」
「しょうがない。できる限り尾行でもするか。見失うなよ。あとイズミの部隊に知らせてくれ」
どうしてこう面倒事を見つけちまうかな。俺の国でやらないで欲しいねまったく。
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