怪しいやつと怪しい船
港で怪しい船乗りっぽい連中を発見した俺達は、こっそりと尾行することにした。無論だがイズミの諜報部隊に伝令は送る。
「さて、人混みに紛れて調べよう。まだあいつらがシロの可能性は高い。直感だけで決めつけないように」
「わかったわ。けどどうするの?」
「別に普通に港の検査していればいいんだよ。その過程で少し奴らの方に視線が多く行くだけだ。警備兵はこちら側だってことを忘れるな」
フランと一緒に港を見て回る。ミリーはこういうの苦手っぽいので、ホノリと一緒に不審者の捜索という名目で他の敵を調べさせる。二重に網を張っていくのだ。
「あいつらの服はこの国の船乗りとは少し違う。汚れてもいない。靴が滑り止めじゃない高いやつだ。船に長いこと乗るための装備じゃない」
「あらほんと。商人かしら?」
「そう見えなくもない。だがわざわざ8ブロックに来るか?」
うちは完全な地産地消の生活を目指すという裏テーマがある。そのため自国民が満足いく環境と、徹底した防御という内向きの政策なのだ。商人が嗅ぎつけるようなお宝があるとは思えない。
「外に出ていくみたいね」
普通に検問を通っていくが、荷物らしき大きめの木箱が気になるな。やばい品を隠せる大きさだが、まあ開けて検査されるよそりゃ。そして通っていく。では検査官に話を聞こう。こういう時にもたつかないよう、特別調査員のバッジと手帳を作っておいた。俺と勇者科のみが持っていて、身分をごまかしたり緊急の用事がある時に発動できる。
「今のやつらの箱、何が入っていた?」
「白い陶器みたいな材質の像でしたね。どこかの芸術家の作品群だとかで、男も女も動物もありましたよ」
「わかった。引き続き検査を頼む」
今回ばかりははずれかね。毎回都合よく解決とはいかないだろうし。
「アジュくんもたまには失敗するのね」
「かもな。何もなければそれが一番だ。買い手によって何かわかるかもしれないが、深入りすれば面倒なことになる」
「そうね、別の怪しい人でも見つけましょう」
仕方がない。検査で異常がなければ通す。これはルールだ。一応暗部に調査はさせるが、ガキがうろつけば目立つ。フランが正しい。別の敵を探すべきだろう。
「アジュ、9ブロックの船が領海を超えてきた」
いつの間にかイズミが来ていた。どうやら焦っているようだ。
「定期的に出る船じゃないのよね?」
「小さいけど軍艦。港から離れた位置に停泊している」
どうやら別の問題が来たようだ。
「わかった。すぐ海上警備隊に連絡。現地へ行くぞ」
「もう連絡した。行くならこっち」
俺とフランは、イズミの案内で足の速い船に乗り、海を進んでいく。途中で警備隊の船数隻が合流し、目標の船を目指す。
「大砲が積んであるわね、あれ」
確かに大型船じゃない。けど中型くらいはある。そして複数の大砲が備わっていた。あれを港に使われるわけにはいかない。
「これはダメだろ……」
かなり深い領海にまで入ってきている。こんな不信で危険そうな状況は長引かせたくない。
「そこの船に告ぐ! そちらは8ブロックの領海に……」
警備隊の人が警告を続けるも、何の反応もない。
「逃げないし攻撃もしてこないわね」
「ノーリアクションってのが一番困るな。仕方ない、乗り込んでみるか」
「危険です。まず我々が行きますので」
まあ止められるよな。国王名乗ってしまったし。仕事の邪魔がしたいわけでもないしなあ。任せてみよう。
「わかりました。気をつけてください。9ブロックは柄悪い連中もいます」
「よし! 乗船開始だ!!」
警備隊が小舟で敵船へと登っていった。実にスムーズに動いている。そういう訓練もしているのだろう。プロだな。
「ここからあの船にジャンプで乗り移れるか?」
「可能」
「わたしもなんとかなるわ」
「できれば国王様にはこっちにいて欲しいんですが。本当なら危険な場所にも連れてきたくないんですよ?」
「それはすみません。ただ、どうにも敵の正体がわからなくて」
倒すべき敵の影が見えないのは、正直対策を練ることができず後手に回る。鎧が使える俺がいるべきなんだ。いや……このメンバー鎧のこと知らねえじゃん。
「……しくじった」
「どうしたの?」
「気にしないでくれ」
ホノリとミリー残してくるべきじゃなかった……あーあどうしたもんかね。
「アジュ、血の臭いがする」
「なんだと?」
まだ船に行って五分くらいのはず。ということは船の人間だろうか。
「急ぐぞ。こんなことで警備隊失ってたまるか」
『エリアル』
二人を浮かせて俺も飛ぶ。この方が確実で速い。
「行ってくる。すぐに船から逃げられるようにしておいてくれ」
「ちょっと、危なくなったら逃げてくださいよ!!」
「わかっている」
デッキに乗って魔法陣を解除。二人もちゃんと着地している。
「急に飛ばさないでちょうだい。びっくりするじゃない。っていうかこんなことできたのね」
「私は前に運んでもらった」
「ふーん、イズミちゃんは色々知ってるのね」
警備兵が二人いる。怪我はしていないようだ。
「何か異常はあったか?」
「うお、来ちゃったんですか!? あっちに死体がありました。それも複数」
「じゃあこの船は……」
「船員が死んで流れてきたのかもしれません」
「厄介な……」
何か話し合っているフランとイズミを連れて、船の中へ入る。階段を降りると、通路は結構広い。二列で歩いてもまだ余裕がある。傷がついている場所もあるが、まず船員が見当たらないのがおかしい。
「きゃっ!? 何今の!」
突然船が大きく揺れ、戦闘の音が聞こえた。急いで駆けつけると、警備兵が船乗りと戦っていた。
「敵か!!」
「来ちゃいけません! こいつらおかしい!!」
敵も味方も複数いるな。まずは離れている敵を潰そう。
「サンダースマッシャー!」
見事敵の頭に命中。首から上が焼け、仰向けに倒れた。
「それほど強くないな」
「戦闘続行可能と判断。追撃する」
「はい?」
完全に焼けているのに、そのままむくりと起き上がってきた。
「キヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」
「おいおいタフだな」
「気をつけて! こいつら首をはねないと死なない!!」
「理解。殲滅開始」
イズミがすぱっと首をはねると、そのまま倒れて動かなくなった。
「キヒャヒャハハハハハア!!」
近くの扉から、目の光が消えた馬鹿笑いするやつが飛び出してくる。こんなん切り裂いていいよな。武器持っているし。
「鬱陶しいんだよ!」
カトラスを抜き放ち、敵の首を刈り取りに行くが、敵のロングソードで防がれる。
「こいつら……力強い!」
「フレイムショット!」
フランの熱光線が敵の頭部を貫いた。
「ヒヒ……ヒヒヒヒ……」
そして崩れ落ちていく敵。どうやら頭部が弱点らしいな。
「すまない。助かった」
「気をつけて。どうも船員みんなやられてるみたい」
「アジュ、こちらは終わった。命令を」
イズミと警備隊がこちらに来る。
「警備隊は全員いるか?」
「はい。入り口付近で襲われたため、五人とも無事です」
「わかった。なら五人は船に戻って、攻撃部隊と調査班を大至急呼べ。この船は俺達が鎮圧する」
「そんな!? それは我々の仕事ですよ!」
「そうですぜ、おれらはこんなゾンビみたいな連中に負けはしません!」
ここでプロを追い出すのは難しい。死んで欲しくないが、鎮圧できるという説得力が俺に無い。同行させるしかないか。
「わかった。ただし一人はデッキに戻って応援を呼べ。あとは全員で行動する。全部の部屋を順番に、慎重にいくぞ。原因がわからないんだ。感染するものなら探索を放棄して逃げるぞ」
「了解!!」
そこからいくつかの部屋を回る。
「キヒヒヒヒヒヒヒ!!」
「雷光一閃!!」
「国王様にばっか戦わせられるか! いくぞ!!」
「ウオオオォ!!」
警備隊が強い。敵がフィジカル頼りの弱点ありだとはいえ、よく訓練されている。やはり学園に来る人材だなあ。
「次に来るやつを拘束できるか? 剣かなんかで床に縫い付ければいい」
「了解」
足を切って転んだ敵の手足を剣で床に固定する。
「リキュア!」
ここで解毒魔法を使ってみる。軽いものしか治せないが、効くなら捜査が進展する。だが効果はない。
「キヒヒヒヒ!!」
「きしょい」
「ピュアリターン!!」
フランの魔法が周囲を包む。疲れが取れていくし、心の負担や緊張がほぐれる気がした。回復と解毒が両方行えるっぽい。しかも範囲指定とか、やっぱエルフの王族ともなると、こういう才能もあるんだなあ。
「お前すごいな」
「これくらいはできるわ。わたしは凄いんだから。もっと褒めてちょうだい!」
「はいはい、フランは凄いよ。よしよし」
頭を撫でつつ、効果がないようなので敵の首を跳ねる。気持ち悪いので首ははじっこに蹴っ飛ばしておこう。
「国王様クレイジーっすね」
「だが国王だ。守らねば……」
警備兵の視線がおかしいよね。敵に集中してください。そのまま処理を続けた。
「これでほぼ殲滅完了かな?」
「気配はない。けれど原因に相当するものが見当たらない」
「全員が死ぬか狂うかしているのは異常です。これは少々面倒なことになりそうですな」
ここまで何もないのは計算外だ。瘴気もないし、魔物もいない。感染源が一切わからん。明らかに魔法じゃない。解除できないのはおかしい。
「船長の日記でも見つけたいところだな」
船長室へと入るが、そこにはさっき首をはねた男が暴れた痕跡がある。
「ここから探さにゃならんのか……手間掛かりそうだな」
とりあえず大きな机から調べるとしよう。この件、どうも長引く予感がしやがる。
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