お正月特別企画 王様ゲームをしよう
今日は休日のお昼前。いつだったかは覚えていない。時系列とか無視だ。いつものように自宅でごろごろしていた。
「アジュ、王様ゲームしてみたい!!」
「王様そのものだろお前ら」
近い将来国を背負って立てるだろ。誰だよシルフィに余計なこと吹き込んだの。
「クラスのお友達がね、好きな人と距離を詰めるなら王様ゲームだよって!」
「ろくでもねえこと教えやがって……」
そんなわけで暇だったメンバーが急遽自宅に集められた。リビングに集まっている連中は暇なんだろうか。
「地獄の宴が始まるぞ……」
「大げさだな。楽しみゃいいんだよ。気楽にな」
「たまにはメンバーさんと遊んであげないといけませんよ隊長」
メンバーは俺、リリア、シルフィ、イロハ、ヴァン、ソニア、クラリス、パイモン、やた子でお送りします。
「ヒメノ様がいないだけマシっすよ」
「そんなん鎧を使ってでも逃げるぞ」
「必死すぎるわ。これ私達呼ばれちゃってよかったの? アジュくんのギルドだけでやればよかったのに」
「お友達と仲良くなるにもいいんだって」
これシルフィ善意で誘ったな。せっかくこいつらが友人と遊ぶ機会だし、まあ楽しい時間を奪うこともないか。
「言っておくがいやらしい命令は禁止だ。下手すりゃ大惨事だぞ」
「そのくらいわかっておるわ」
「はいじゃあくじ引いてー。王様だーれだ!!」
「おやおやボクですかー。うーん……悩みますねー」
パイモンはどんな命令するかわからん。魔王だし、あんまりえぐいのは勘弁して欲しいんだが。
「ボクがしてもらっても無意味ですし、5番は3番に3分間膝枕してあげてください」
「オレ5番なんだが……すまねえアジュ、お前の女に手を出すつもりはねえ……」
「おいこれ地獄だぞ。俺3番だ」
かつてない地獄の宴が幕を開けた。
「うわあ寝心地クソわるーい」
「誰も得してねえぞこれ……」
「これは申し訳ないですねー。ボクもちょっと反省です」
「なるほど~危険なゲームなのね~」
まったくもって言葉にできない空気が流れております。3分間は30分にも感じました。精神に多大なダメージが入りましたよ。
「気を取り直して王様だーれだ!」
「次はオレか。まあ無難なやつにしてやるよ。4番は2番の手をゆっくり優しく握れ」
「おいまた俺じゃねえか」
「そしてボクですよー」
「人は過ちを繰り返すぜ……」
なんで男にしか当たらねえんだよこれ。いやソニアとクラリスにやってもらうのも困るけどな。それは俺のギルメンに対するヴァンも同じだろう。
「ではではお手を拝借。おぉ、ちょっとごつごつし始めていますね。使われていない綺麗な手から、少しずつ戦士の手へと変わっているみたいで面白いですー」
「お前は無駄に柔らかくて小さいな」
「お手入れは欠かしていませんからねー」
俺の手をふにふに握ったり触ったりしているが、楽しいのだろうか。こいつもよくわからん性格をしているやつだ。手は柔らかくてすべすべだ。魔王と名乗るやつの手をは思えない。
「本当に意味のわからん時間だったな……」
「ぐぐぐ……これじゃあアジュといちゃいちゃできない」
「ヴァンとソニアとだけ~こっそりやればよかったかしら~?」
「それただのプレイっすね」
「はい王様だーれだ!!」
「うちっすか。ううーん……じゃあ4番が1番のいいところを5個褒めるっす!」
ソニアが1番。シルフィが4番だ。
「えーっとね、まず魔法が凄いでしょ。気配りができる子。いつもリボンとかお洋服にセンスがあって、お料理が得意で、相談に乗ってくれるの!」
結構すらすら出てくるな。仲いいんだなこいつら。毎日監視しているわけじゃないが、こういう関係を築けているなら文句はない。
「なんか恥ずかしいんだけど!? そんなさらっと出る!?」
「出るよー。いっぱいいいとこあるよー」
「五個でいいわよ。これあたしにダメージ入るじゃないもう……」
「ごめんね。嫌だった?」
「いいわよ。シルフィはそのままピュアでいなさい」
頭を撫でられて嬉しそうなシルフィ。ソニアが姉でシルフィが妹って感じだ。実際に第二王女だからかな。
「ほのぼのっすねえ」
「平和でいいな」
シルソニはいいお友達。アジュさん覚えた。
「まだ続けるか?」
「一応全員当たるまでやりませんかー?」
「よーし、じゃあ次は当てるっすよー! 王様だーれだ!!」
そして次はクラリスが王様だ。どんな命令が来るか一番想像がつかないぞ。
「そうね~。じゃあ4番が愛の告白というのはどうかしら~。相手は任せるわ~」
少し場の空気が変わる。俺は1番だからセーフ。
「おい、マジで男にしか当たらねえのか?」
どうやらヴァンが4番だったらしい。頭をぽりぽりかきながら、クラリスの前に行く。その動作は流れるようで、なぜか貴族の品格みたいなものが見えた。そういや大貴族生まれなんだっけか。
「ずっとお前を愛し続ける。オレとともに生きよう、クラリス」
そして自然にキスしようとするのをソニアが止めに入った。
「はいストーップ!! 誰がキスしろって言ったのよ!!」
「してもいいくらいにムードは作ってやったつもりだぜ?」
「いいわけあるかあ! あたしが止めなかったら場の空気死んでたでしょうが!!」
「オレなりに盛り上げようと思ったんだがな」
「あらあら~素敵だったわよヴァン」
こいつら三人だといつもこういうノリなんだろうか。俺には理解できん。当然だが場がざわついている。
「いいかアジュ、コツは下手に変化球を投げないで、シンプルな言葉で簡潔に伝えるんだ。そこからは行動で示せ」
「なんのレクチャーだやらんわ!!」
これが正式に付き合っているやつらの行動なのか。俺あんなことしなきゃいけなくなるの? 恋人っているとしんどそう。
「ほらもうアジュが恋愛にマイナスイメージ持っちゃうじゃん」
「むしろ希望を与えたつもりだぜ?」
「できとらんのじゃ。わしらはあんなん求めておらんじゃろ。地道に行けばよいのじゃ」
メンバーによるフォローが入る。あれはイケメン以外がやってはいけないものだ。ある意味犯罪よりも罪が重く、自分がやるという嫌悪感が尋常じゃない。顔がいいやつって許されること多くて得だな。
「目的が果たせていないわね」
「これアジュとギルメンを仲良くするためのもんじゃねえのか?」
「理解力百点じゃな」
「協力するっすよー。ちゃんとみんながいい思いをして終わるっす」
俺に災難が降りかかろうとしていた。そして次の王様はソニアだ。
「うーん……」
なんか一瞬ぼんやり光ったぞ。
「2番と6番がチョコの棒状のお菓子を両端から食べる!!」
「おいなんか不正があったろ!?」
2番が俺。6番がイロハだ。完全にソニアが光って番号を察知したはず。
「本当に~そうかしら~? ソニアちゃんが光った時に~他の誰かが入れ替えたかも知れないわよ~?」
「イカサマ扱いして証拠が出てこなかった場合、それは死を意味するっす」
「王様ゲームってそんなギャンブル漫画みたいなもんだっけ!?」
「おぬし王様ゲーム経験ないじゃろ。実はそういうものかもしれぬ」
「マジかよ、一般人すげえ覚悟でやってんだな」
万人が楽しめるものじゃないらしい。まあ俺も楽しめる自信はないし、案外そういうものかも……いやないな。
「イロハさん準備完了っす」
はい準備されました。お菓子加えたイロハがこっちに迫る。正直ちょっと怖い。
「顔を近づけずにチョコのお菓子を折ったら、もう一回じゃからな」
「ちゃんと棒状のチョコのお菓子をぽりぽりするっすよ」
「意地でも固有名詞を出さないという覚悟があるな」
しょうがないので咥えてみる。顔が近いのはしょうがないが、手を使わずに同時に食うのは難しいな。
「はいスタート!」
ゆっくりと折らないように食べるのはかなり難しい。イロハもゆっくりかじっているのは、俺が驚いて菓子を折らないようにするためだろう。そういうところでガチるなよ。慎重にやるほど時間かかるし顔が近づく。なるほど、これは動揺する。
「おー……これは面白いっすね」
「帰ったらオレらもやってみるか」
「あんたねえ……まあいいけど」
外野がざわついている。それで少しだけ恥ずかしさが紛れる。キスも何回かしているはずだが、それでもここまで近距離でじっくり顔を見ないからなあ。まあ綺麗だと思うよ。改めて見ると顔のレベル高いしいい匂いはするし……なんだこの思考は。俺のキャラじゃないだろ。
「珍しく照れておるのう」
これほど照れるとは予想外だ。顔が近い程度で心を乱す俺ではないはず。無言でこちらを見つめながら距離を詰められると、いつもの少しギャグ混じりの誘惑とは違う雰囲気に飲まれそうになる。
「このくらいが潮時ね」
あと数センチでキスするというところで、イロハ側から菓子を折って終了となった。いまいち解せない。このまま流れでキスまで持ち込むんじゃないかと思ったが、拍子抜けというか、四人だけじゃないから気を遣ってくれたのだろうか。まあキスまでいかなくて安心した。
「俺が言うのもなんだが、いいのか?」
何だこの質問は。今どんな気持ちだよ俺。
「そこまでいくとゲームの範疇から外れそうだもの」
「あくまで楽しいゲームのまま、次の相手へバトンを渡すわけじゃよ」
「キスしたらそこで解散になる可能性があるからね!」
展開を読み切られている。つまり地獄の宴続行である。
「まだ他人にしているところを見せるのは抵抗があるじゃろ」
「まだというか、見せるものじゃないだろ」
「アジュさんの思考がまとまる前に王様だーれだ!」
次はイロハだ。今俺との戯れが終わってすぐだし、何を言うのかわからんぞ。
「7番が8番を撫でながら日頃の感謝を伝えなさい」
影がイロハに戻っていくのが見えた。うむ、やはり不正がありそう。けど俺は一般人なので、忍者の技術は判別できないのだ。そして7番がシルフィ。8番が俺だ。
「俺は撫でられる側か」
「逆に新鮮じゃな」
「よーし、いらっしゃいアジュ!」
両手を広げて俺を迎え入れるポーズだ。撫でるのに胸に飛び込む必要はないよね。
「はいよしよーし、アジュはいい子」
正面から優しく抱きしめられて頭を撫でられる。やたら包容力に溢れ、無駄に安心するし気持ちが安らぐのは、胸が大きいからだけではないだろう。
「いつもありがとうアジュ。わたしと一緒にいてくれて、本当に危ない時は助けてくれて」
「俺だけの力じゃないさ。シルフィなら自力でも超えられる」
「そんなことないよー。仮にそうだったとしても、アジュは助けてくれるでしょ。そういうとこも好き。がんばっていて偉いのです。よしよし。もっと甘えていいんだよ」
なるほど、これがバブみか。雰囲気からなんか落ち着く。暖かい。
「はいじゃあここまで! ゲームの範疇で終わるのだ!」
「参考になるわね~」
「アジュさんをおとなしくするにはベストな方法っすね」
確かに静かになるかも。けど何回もやられると慣れてレア度が落ちそうだな。やるならたまにしんどくなったらやってもらうくらいでいこう。
そして最後の王様はリリアとなった。
「それでは1番が王様に晩ご飯を食べさせるのじゃ」
「また俺だよ。っていうか今日はもう作ってあるから、あとは温めるだけだぞ」
「じゃあみんなで食おうぜ。オレも腹減ってきたんだよ」
「了解。んじゃこたつでおせちだ」
昨日なぜかおせちの話になり、久々に食ってみたいと言ったら用意された。四人で食うには量が多いし、ちょうどいいか。
「こたつもおせちも食ったことねえな」
「こたつは料理じゃなくてこれだ。この布かかったテーブル」
わざわざ家に作った。全員入れるくらいには大きい。自室に小さいやつもある。
「フウマの文化ですかー?」
「まあな。あったかくていいだろ」
しっかり両隣にイロハとシルフィがいる。リリアは膝の上だ。
「こりゃいいな。オレの家にも作るか」
「ボク寝そうですー」
「こたつで寝ると風邪引くのよ」
テーブルにおせちの重箱が並べられていく。やっぱこれ四人じゃ食えんな。
「色とりどりで綺麗ね」
「これは芸術点高いですねー」
「おいしそうでしょー。みんなで作ってみたんだー」
けっこう大変だったんだぞ。やたら手間かかる料理もあった。もともと保存食らしく、知らん工程がかなりあって勉強になったからまあいいけども。
「豪華ねえ。お祝い事の料理?」
「本来は新年の祝いに食うもんだ」
「では実食じゃ!」
それぞれ好きに食い始める。俺はタイとブリあたりからいこう。甘いけど魚の旨味が逃げていない。みんな料理うまくて助かるね。
「独特ですねえ。甘くて美味しいですー」
「肉も魚もあるな。これは……こりゃなんだ? 甘くてうめえけど知らねえもんがいっぱいあるな」
「伊達巻きと栗きんとんだな。ヴァン甘けりゃスイーツ以外でもいけるのか」
「オレはすべての甘味を愛する男だぜ」
「ぶれない精神は評価する。俺は肉もらうぞ。あとエビくれエビ」
「たまに食べると美味しいっすねえ。ローストビーフとかカニは斬新っすけど」
「おせちだけだとお腹いっぱいになるかわからないし、同じ味付けだと飽きるからって、色々やってみたんだって」
普通にチキンとかステーキもある。味付けは少し正月っぽくした。いい肉なのでそりゃうまいわけさ。
「ほれ食え王様」
「王様の扱いが雑じゃろ。あーん」
リリアにかまぼこと昆布巻きを食わせてやる。黒豆もやろう。
「うむ、うまいのじゃ。ほれ王様からも食わせてやるぞ」
「はいはいどうも」
カニを剥き身で突っ込まれるので、歯でキャッチする。するとリリアが引っ張って身だけが口に残る。コンビ技が要求される高等技術だ。これを自然にできるのがプロだ。
「なんだかんだでうまいこと落ち着いたな」
「また王様ゲームやるのじゃ」
「半年に一回くらいは許可してやる」
お互いにおせちを食べさせながら、なんとなくこの状況を観察する。随分とまあ人生変わったもんだな。
「王様には日頃の感謝を込めて肉をやろう」
「お返しに肉を食わせてやるのじゃ」
今言うことかわからんが、今年もよろしくおねがいします。こいつらとなら何年先でも四人一緒なんだろう。これからもよろしく頼む。
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