犯人がわかったんだからもう帰りたいです

 お屋敷の地下室にて、カールが仕掛け人の一人であると発表した。

 ついでにマイケルとロバートとキャシーが研究者か六騎士側であり、よりによって管理機関のクズどもと関わっていたことがわかった。


「かんり……きかん?」


 理解できていない顔なのは、ルナとイズミとジェシカに、カールもか。カールも名前自体は知らないのかも。


「すべて話せ。直接的な被害も出ていないなら、お前は身内のレクリエーションで済むかも知れない。殺人犯じゃないんだろ?」


「誰も殺すつもりなんてありませんよ。そんなことができるなら……どれだけよかったか……」


「認めるんだな」


「ええ、自分の部屋を荒らし、威力の低いトラップを作ったのは僕です。紐さえあれば、あとは引いたり切ったりで好きに動かせます。そういう技術があるんです」


 観念したのか、うなだれながらもしっかりと答えてくれる。


「カール……」


「すまないジェシカ。君を巻き込むとは思わなかったんだ」


 本当に申し訳無さそうだ。ジェシカはまだ信じられないのか、カールと俺を交互に見て、どう動けばいいのかわからず固まっている。


「具体的にどれ壊されたかわかるか?」


「雪が下にずり落ちるとか、木ががさがさ揺れるものだね。僕がその場にいないでも死者が出ないものだよ」


 それでカール以外からの報告もあがってきたわけか。タイミングが完全にランダムに近い。カールが関係していない場面で起きれば、そりゃ別件として扱われるさ。


「マイケル達を呼んだのもカールさんなの?」


「ああ、過去の六騎士事件の犯人をおびき出すために、匿名で手紙を贈った。それらしき噂を立て、報告を水増ししたのは同じように殺されないために、強い人に来て欲しかったからだよ」


「タイガとアオイが雇われたのは、カールが推薦したんだよな?」


「そうだね。強くて無関係な学生も入れれば怪しまれないと思ったんだ」


 タイガとアオイは俺達が来なかった場合の保険だったのだろう。強さを見せられると、護衛としては優秀な人材だと思う。


「改めて聞くが、六騎士との関係は……」


「あの絵の中央に映っている研究者が、殺された僕の父です」


 苦しさを吐き出すようにそう告げ、部屋が静まり返った。


「カール……そんな、お父さんはずっと前に亡くなったって聞いたけど……まさかそんな」


「すまないジェシカ。事件性が高くて、誰にも喋るなって言われていたんだ」


「相談してくれても……ううん、仕方ないよね。そこまで思いつめてたなんて知らなかった。気づいてあげられなかった」


「君のせいじゃない。僕がやったんだ。君に何一つ責任はない。僕こそ済まなかった」


 ここで共犯にしないあたり、カールにも良心が残っているのだろう。


「謝罪は後でいい。なぜこんなことを?」


「許せなかったんだ。父の研究は、人のためになるものだったのに、悪用しているこいつらが!!」


「悪用? もとは鎧を動かしたりする研究じゃないってことなの?」


「マイナスエネルギーの吸収や消去。それは誰かのストレスや負の感情を吸い取り、完全に消去するためのもの。心の負担を少しでも減らしてあげる研究だったんだ」


 なるほど。それを悪用して、蓄積したエネルギーで戦闘マシーンに変える研究をし始めたのか。


「それを悪用して、バレたら囮にして逃げた。そんなの許せるわけないじゃないか!!」


「だそうだ。もう白状しな。機関の人間なのか? あんたらのことも書いてあるぜ」


 視線がマイケル達に集まる。もう逃げ場はない。この状況では何もできないはず。


「そうだね、どこから話そうか」


「ロバート!」


「仕方がないさ。もう詰みに入った。オレ達ではどうしても解除できなかったプロテクトが、まさか息子を鍵にしていたとはね」


 ロバートは観念したみたいだ。何かが吹っ切れたように、自分の罪を話し始めた。


「元々の研究はストレスの排除にあった。負の感情とエネルギーを取り除く。ワッカ博士の考えていたものだ」


 ワッカというのがカールの父親らしい。誰かのための研究、あの資料に書いてあったやつを実行しようとしたのがその人らしい。


「ジョージ、スティーブ、サラ、キャシー、マリーは全員研究者か六騎士のどちらかだよ。私達は同僚だったんだ」


「そこまでは予測できる。機関はどう関わってくる?」


「研究はうまくいかず、ストレス軽減などというものに、喜んで大金を出す変人もいない。研究は頓挫しそうになった。だがどこからか連中が現れた。完全に未知の技術と潤沢な資金でサポートをする代わりに、自分達の要求にも応えた研究に、ほんの少しだけ舵を切れとね」


 元から機関の人間ではないらしい。逆に機関はどこから嗅ぎつけたのだろうか。


「負のエネルギーを圧縮して物質に移植、もしくは誰かに蓄積させて狂戦士を作り出す。並行して他人の天性の能力を吸い取れないかって要望だったよ。超人の能力でも欲しかったのだろう」


「父は最後までその計画に反対し、殺されたのか」


「そうさ。情報漏えいを防ぐため、屋敷から出さないようにしていたが、最後には学園に嗅ぎつけられて終わり。わかりやすいだろう?」


「だとすれば解せない。お前らはなぜ助かった? 考えられるのは、シャンデリアの仕掛けに気づかなかったか、身内を使ったかだな」


「正解だよ。捜査の指揮をとる人間がこちら側だったのさ。学園に問題なしと判断されれば、誰ももう疑えない。それなりの根回しはできたんだ」


 学園も全てが善人ではない。管理機関が入り込んでいる以上、こいつらの協力者もいたのだろう。


「君はなぜ管理機関を知っているんだい? 学生が知るようなことではないはずだ」


「クソみたいな縁があってな。何回か迷惑かけられている」


 本当に迷惑だよ。あいつらはどれだけ暗躍していやがるのか。ルシード以外で善良な機関の連中を知らんぞ。


「話が逸れた。今回の殺しはお前らだな?」


「ジョージ、スティーブ、マリー、サラを殺したのは私達だ」


「最初から二人で行動していたのか。他の連中を殺すつもりで?」


「正確には腹の探り合いだった、が正しいかな。カール君が私達を呼んだ。だが匿名なのがまずかった。過去をネタに金でも毟ろうとした人間がいるのではと、全員が疑心暗鬼になった。君の言う通り管理機関に協力していたものでね。絶対にもみ消さなければならない」


 勝手に内ゲバ始めて殺し合ったのかよ。バカばっかりじゃないか。


「私が鎧に入って、マイケルがジョージを呼び出した。やつは始めから私達を疑っていたよ。匿名が私達だと思いこんでいてね、刃物で斬りかかってきたので、背後から斬った。死体は少し離れた場所に埋まっている」


「なるほど。次のスティーブはシェフなら殺しやすいだろう。飲み物食い物に睡眠薬を混ぜることもできるし、水差しでも持って行って話をすればいい」


「そっか、ごはんを運ぶカートとかごろごろしてても、料理を部屋に運ぶって言えば色々隠せるよね!」


「二人ともシェフだったことが功を奏した。片方が厨房に引っ込んでいてもわからないし、夜食を届けるとか言えば夜に出歩いていても不信感はない」


 俺も今日の食事で、マイケルとロバートの二人がいることを知らなかった。

 シェフは客と一緒に食べないというルールがあるから、どちらかが食卓にいなくても誰も疑問視しない。全員が集まっている時は、一人くらいは自由に行動できる。


「マリーとサラは?」


「あいつらは証拠の隠滅に来たが、自力ではシャンデリアに登れない。仕掛けを動かしても、屋敷が揺れて誰かが来れば、ごまかしが効かないだろう。だから私達を利用しようとした。よって返り討ちにした」


「サラは研究者側でね。独自に研究を続けていたらしい。上にいる鎧は空っぽだが、彼女が持ってきたエネルギーコアが搭載されている。屋敷の人間を皆殺しにしろという命令を聞き続けているのさ。二人を殺せば止まると思ったが、これは誤算だったよ。まさかもう一体いたとは」


 窓を割ったのは死ぬ間際に命令したらしい。凍死させる嫌がらせだとか、地下室に誘導したいとか、何かしらの目的があるのだろう。


「二体目は俺が作った幻影だよ。誰がどんな反応するか見たくてな。咄嗟に思いついて作った。追い込んで地下室に誘導する意図もあった」


「そういうことか。面白い発想をする男だね」


「風呂場の右手は誰だ?」


「あれはジョージだよ。水場で無防備なところに右手が来るんだ。相当怖いだろ? 匿名君が自白してくれると期待した」


 俺達は悪人の潰し合いに巻き込まれたのか。本当に迷惑だぞ。


「もう諦めておとなしくしていろ。明日には学園の人間が来る。今度こそどうにもならんぞ」


「……エネルギーコアの説明をしてあげよう」


 マイケルが唐突に解説はじめやがった。妙に余裕があるなこいつ。さっきまでとは違う。


「小指ほどの大きさだが、それが壊れない限り動き続ける。攻撃を負のエネルギーとして、破壊されるまで力を増しながらね」


「人間じゃないから稼働させ続けられる……囮にした六騎士は中身入りだったか」


「ああ、人間は痛みを感じるだろう。だから自分でエネルギーを増やせるんだ。ただ馴染むまでに少し時間がいる。本人の意志が邪魔になるケースもあると学んだ。殺せなかったのは誤算だったが、保険としては最適だった」


 保険? 殺せなくて人間で、馴染む時間に抵抗しないような人材ということは。


「イズミ! キャシーを止めろ!」


 小刻みに動くキャシーを見て、嫌な予感がした。こいつらは二人組。キャシーをここまでして運んでくる必要がない。


「驚異的な勘の良さだね。だが間に合った。私の最高傑作になってくれ」


「サンダースマッシャー!」


 攻撃魔法を撃つも、ドス黒いオーラで阻まれる。キャシーの手には、折りたたまれた弓があった。魔力により展開して、負のオーラが矢となって現れる。


「さあどうする? 逃げ場はないぞ」


「マイケル、もうやめろ。どのみち逃げられないのはオレ達だ」


「いいや違う。データは引き出せるようになった。ならばまた始められる。もっと強い兵士が作れる。持ち帰ればいいのさ。ここまで来たら何人殺すも一緒だ。さあやれキャシー!!」


 喋ることすらできなくなったキャシーが、ゆっくりとこちらへ狙いをつける。

 犯人見つけたのに解決せずボス戦ってどうなんだろうと思った。

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