わかることから解決しよう

 全員で逃げ込んだ研究室には、六人目の騎士が鎌を持って待ち構えていた。わざわざシャンデリアに乗って待っていたのだろうか。


「怪我はないか!」


「大丈夫です!!」


 どうやら怪我人はいない模様。戦闘員が武器を構える。


「リュウ、タイガ、任せるぞ」


「あいよ! かかってこいや!!」


「いいぜいいぜやってやんぜ!!」


 こいつらに任せて無理ならやばい。二人を前衛に、俺とアオイがいつでも魔法を撃てるように後方でスタンバイ。他は非戦闘員を守る陣形だ。


「こいつ、動かねえぞ」


 血染めの鎌を持ち、堂々と佇む鎧。どういうことだ。この中の誰かが犯人じゃないのか。俺の推理が外れていた? だとしても、なぜ今なんだ。全員揃っているところで出てきて勝算があるのか?


「カウンターでも狙ってんのか?」


 こうも堂々として微動だにしないと攻めあぐねる。そもそもなんで鎌に血がついているんだ。その血は誰を殺したものだよ。今までの犯行に鎌で切り裂くようなものはないはず。


「ちょっとまって! あれ中身誰なの!!」


「普通に考えりゃジョージだな」


 構えを取っている。構えるだけの知能かシステムが存在するということ。だが喋りもしないし、殺気も飛んでこない。こいつ誰なんだ。


「話せるなら話せ。お前の目的は何だ?」


 反応が返って来ない。どうしたもんかね。これで犯人じゃありませんとか言われたらクソめんどいぞ。


「動いた!!」


 鎧が一歩前に出る。全員に緊張した空気が流れる中、リュウとタイガが前に出る。


「止まれ。それ以上進むなら敵とみなす。言いたいことがあるなら聞いてやるから、まずは武器をおろせ」


 聞いていないのか、聞く機能がないのか、武器を振り上げ嫌な魔力が鎌に集う。


「攻撃してきたら潰せ。それしかない」


 シャンデリアの破片を踏み荒らし、破裂するような音とともに鎧が駆ける。


「速い!!」


 視認できないスピードじゃないが、これは面倒だぞ。リュウの剣とぶつかりあって火花を散らしている。少なくとも雑魚じゃない。


「どいてなリュウ! ウオオオオォォォォラララララアア!!」


 両拳につけたガントレットから炎が吹き出し、猛ラッシュが始まる。わかっちゃいたが接近戦タイプだ。手数が圧倒的に多い。長い鎌ですべて捌き切ることは不可能らしく、徐々に鎧に傷が増えて押されていく。


「猛獣みたいだな」


「けど雑に殴っていない。あれは武術の動き。古武術の系譜と予測」


「マジで?」


 ちゃんとした武術の裏付けがあるタイプだったのか。学園はしれっとやべーやついるなあ。


「くっそ、こいつ効いてんのかわかんねえ!!」


 鎧が多少へこもうともお構いなしに戦闘が続行される。うめき声も聞こえないため、マジで中身がいるのか不明だ。


「危ねえぞタイガ!」


 横にフルスイングされる鎌を、リュウの剣で止める。その隙を見逃さずタイガの拳が鎧を大きく吹き飛ばす。その途中で鎌を空中に投げているのが見えた。狙いが外れたのかと思えば、ガギン! という音がしてシャンデリアが落ちてくる。


「避けろおおおぉぉ!!」


 よりによって俺の真上だ。ルナもアオイも動けるので、横っ飛びで回避する。地面に落ちて豪快に砕けながら輝くシャンデリアは、本当に危険な罠だ。


「お前そういうステージギミックはずるいだろ!」


 部屋がかなり広いため、まだまだシャンデリアはある。利用されるとめんどい。ちゃっかり鎌を手元に戻している。


「中身がいるなら蒸し焼きにしてやんぜ! 燃えろオラア!!」


 タイガの炎が鎧を覆い尽くし、その身を焦がす。だが動じない。叫び声もない。また鎌を上空へと投げ、鎧は扉へと走る。


「危ない! みんな安全な場所へ逃げろ!!」


 壊されていないシャンデリアのある場所へと逃げつつ、タイガとリュウが火炎魔法で追い打ちに入った。


「逃がすか! 鎧ごと溶けやがれ!!」


 扉の前に来た鎧は魔法を避けることもせず、正面から受けている。やがて扉にもたれかかり、動かなくなった。


「死んだ?」


「いや、完全に止まったわけじゃない」


 炎で扉の表面が少し溶けている。鍵穴が完全に溶けて塞がった。もう脱出できない。隙間を埋められて、完全に開かなくなっただろう。


「六騎士だかなんだか知らねえが、そこをどきやがれ!」


 炎にまみれた騎士が動き出した。体中から炎を吹き出し、吹雪の夜だと言うのに室内の温度を暑すぎるくらいに高めやがる。


「くっそ……こいつ死なねえのか?」


 二人がかりでも致命傷にならない。必殺技で部屋を破壊すれば吹雪が吹き込むし、戦えないやつが巻き添えになる。力加減の難しい敵だ。


「おいどうするんだ! また落とされたら守りきれねえかも!!」


 非戦闘員が邪魔だ。犯人かもしれないから、できれば無傷で確保したい。ふと面白いことを思いついた。こっそり鍵発動。知り合いだけに語りかける。


『トーク』


「イズミ、ルナ、リュウにしか俺の声は聞こえていない。今から言うことを実行しろ。犯人を片方あぶり出す」


 説明しながら次の準備に入りましょう。お次は幻影をこっそり作る準備でございます。


『ミラージュ』


 さてこっそりシャンデリアの上に小さく小さく配置しまして、ルナに合図を出す。


「下だ! 下に行けば助かるよ! みんな急いで!」


 ルナが地下の階段へと走る。この状況で地下は危険かもしれんが、リュウとタイガが鎧を破壊してくれれば状況は変わる。そんな逃げ道を作ってやる。


「開かない!」


 魔法陣が発動するも、鍵が開かない。強引に開けようにも魔力の壁が阻む。階段にいるのはルナとイズミだけ。さて誰がどんな反応するか見ておこうね。


「まただ! 全員避けろ!!」


 リュウの声で天井を見上げると、部屋の中央へと落ちてくるシャンデリアさん。いいタイミングだ。まあ全員避けることは難しくない。そして崩れた残骸から、新たな鎧が現れる。


「二体目だと!?」


 もちろん幻影でございます。弓を持たせてみました。


「なんで……」


 ロバートが呟いたのが聞こえた。マイケルはひたすら怯えている。他は呆然としているか、俺の命令で動くか、戦闘を続行しているか。まあ色々だが検討はついたな。


「早く下へ行け! 急ぐんだ!!」


 そしてカールが魔法陣に乗った瞬間、地下扉の結界が消えた。やはりな。


「リュウ、アオイ、タイガ、残って鎧を倒せ。中身の報告だけ来い」


「了解!!」


 さてと、それじゃあそろそろ真相究明編に入りますかね。

 地下は荒れておらず、ロバートとマイケルが眠っているキャシーを奥の壁際へと運んでいた。鎧の幻影は消しておいたので、頭の中でどう話すか組み立てる。


「これで上が負けたら、私達はどうなるんだ……」


「信じて待っていましょう」


 地下室の探索を再開。おそらくだが、あのでっかい壁が怪しい。俺の記憶が正しければ、ここにある不気味な装置とあの言語は、例のあいつらのものだ。


「二人目の鎧は誰なんだ! ジョージ以外にも誰かいるのか!」


「ここに入って来られたら逃げ場がないぞ!」


 露骨に動揺している成人男性組。ルナとイズミに出口を守らせ、俺は資料のとおりに場所を探す。


「カールちょっとこっち来てくれ」


「どうしたんだ?」


「これ動きそうなんだ。運ぶの手伝ってくれ」


 一見するとただのオブジェっぽい、台座にくっついた大きな球体を指差す。こいつがどこまで知っているかによるが、まあ触ってくれた。そしてぼんやり光が溢れ、床からコンソールが出てくる。


「ご苦労。これでロックが外れた。やはりお前がきっかけか」


 大型の立体液晶画面が出てきた。もう確定だな。こんな技術ははぐれ研究場にあっていいものじゃない。


「あっくん、これなんなの?」


「この研究所のデータ閲覧装置かな。これが必要だった。さっきの魔法陣もそうだ。イズミに誘導してもらって、個別に階段を降りてもらったな。カールの番で解錠された」


 全員がカールを見る。俺はパネルをいじって、画像や映像なんかのデータがないかチェック開始。これが何なのか理解できているやつといないやつで、明確に態度が違うな。


「カールはマスターキーを持っているんじゃないんですか?」


「あるなら出してくれ。外に捨ててきたってことはないよな?」


「鍵はあるが、ここのものじゃない。開け方も知らない。少なくとも、この地下室を知ったのは今日だ」


「だとしても、この部屋にお前だけが入れる理由があるはずだな? 怪しい研究と、六騎士の伝承を知っていたお前だけの理由が」


 ジェシカ以外がカールから離れる。動揺しているようだ。本人も戸惑いがあるようだし、やはり面倒な事件だな。


「違う。僕は殺人犯じゃない。僕が彼らを殺したという証拠はあるのかい?」


「ないよ。だって殺人犯じゃないからな」


「…………は?」


「君はふざけているのかい? こんな時に何を言い出してるんだ!」


「俺はマジだよ。いたずらの犯人がカールであって、殺人犯とは言っていない」


 本格的に混乱しているようだな。俺も話しながらまとめるしかないだろう。リリアがいれば適切にフォロー入れてくれるんだが、俺にトークは荷が重いぞ。


「これは複数の犯人と事件が混ざっている。動機も望む結末も違うが、タイミングが合ってしまった。図書室のようないたずらと、六騎士の話を使った殺人犯は別なのさ。奇跡的に噛み合っちまったけどな」


「つまり、カールは殺人犯じゃないんですね?」


「多分な。おそらくカールだと思われる犯行をまとめよう。カールの部屋のメッセージ。図書室の本や雪が落ちてきたりするびっくりトラップ。関係者をこの屋敷に集めたこと。あとは不審者の報告を水増しした」


 まあこのあたりだろう。全部が正解かは知らないが、死者の出ないものをチョイスした。


「良心が残っていたのか、事件の真相のために殺せなかったのかは知らん」


「僕が情報操作をしていたと?」


「確かに不審者の報告はあった。だが中には個別の名前がなく、不審者を見たという情報を数人分まとめて、お前さんの名前で事件として報告したケースが半分くらいある」


 これは資料を全部読めばわかる。誰がこの状況になって欲しいのか、こうなるように仕組むならどうするかで考えた。


「六騎士の関係者を集めて、軽く驚かせて真相を話させるつもりだったんだろう」


「すべて推測だ」


「その通り。だが殺人犯と一緒にされるよりはましだぞ」


「ねえあっくん、ならカールさんは自分のお部屋をどうやって短時間で荒らしたの?」


「朝から取りかかれるんだよ」


 ヒントはすべて存在している。鎧の中身と殺人犯は別だけど。


「カールの部屋のドアには、入るなというプレートがあった。あれがある時は誰も入らない。鍵さえかけてしまえば、マスターキーを持っているのもカールだ。どうとでもなる」


「自分の部屋を荒らして、自作自演でメッセージを残したってこと?」


「そうだ。ベランダからベランダへ飛び移ることはそう難しくない。隣の部屋に最低限の家具を置いておき、そっちで過ごしながら部屋を荒らせば密室が完成する。壁や天井に派手な傷がないのは、万が一騒音で気づかれないためさ」


 あくまでも荒れていたのは家具まで。ベッドをくしゃくしゃにして、棚を外に飛び出させたりすればいい。壁に字を書くのもでかい音は立たない。


「でもでも、カールさんがいない時でも起きた不審なことはあったんだよね?」


「一定時間で落ちるとか、あとはジェシカだよ。窓や扉を強引に閉めたり開けたりするだろ。あれで台無しになっていたんだ。仕掛けがあって動かないようにしていたのを、力技で発動させてぶっ壊した」


「えええぇぇ!? 私ですか!?」


「流石にジェシカが壊しそうなのは殺傷力ゼロだったみたいだが」


 カールがいる場合は、トラップの発動をある程度任意で調整できる。それを織り交ぜれば、ほぼ特定はできない。犯人が複数いて、カールを疑うきっかけが必要だ。


「まだ僕がやったという証拠もない。この屋敷に関係しているというのも君の推測のままだ」


「多分もうすぐ出てくるだろ。屋敷で出会ったやつの名前を除外して、それ以外の名前の画像とファイルを検索しながら調べていけばいい。写真くらい残っているだろ」


「アジュ、意味が理解できない。説明を要求する」


 見つけた。画面に映し出されたのは、研究員と仲良く映る子供。髪と目の色がカールと同じ。メガネはないが、まあ同一人物だろう。


「愛する息子と、だとさ。誰かに似ているよな」


「こんな……こんなもの、どうやって……なんだこの技術は」


「カールにこの言語が読めているかは知らん。だが俺なら最後のメッセージくらい探し当てられるかもしれんぞ。家族との思い出をこの中から見つけ出せるのは、今のところ俺だけだ」


 カールの顔が驚きにも戸惑いにも変わる。葛藤から抜け出せないようだ。無理もない。自分の犯行を認め、それでも真犯人が出てくるかわからないのだから。


「カール、すべてを話してくれ。でなきゃ殺人犯と、いやもっとやばい罪の連中と同じ取り調べを受ける。間違いなくお前の身が危険だ」


 これがろくでなし同士の殺し合いならまだいい。きっつい尋問はされないし、死刑にはならないかも知れない。だがもう話は変わったのだ。


「今ならまだ六騎士の真相を探ろうとした、いたずら坊主で済むかもしれない。だがあいつらと同類になれば、嘘発見器だろうと催眠魔法だろうと使われるぞ。だろ、マイケル、ロバート、ついでに寝ているキャシー」


 起きている二人を見る。動揺はしているが、まだ諦めてはいない顔だな。


「わ、私達が何をしたというんだ!!」


「そうだ六人目の騎士が殺人犯だ! 上で本人が戦っている!!」


「この施設が見つかった時点で詰みなんだよ。仮に殺人犯じゃなくても、お前らの名前付きのファイルがある。画像データもあるし、解析すればプロテクトかかった動画も出るかもな。何が重罪になるのかはわかるだろ」


 完全に口を閉ざし、目をそらした。知っていてやったことが確定したぜ。


「管理機関と手を組んだな?」

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