スピンオフRTA小説はじめました、本編ともどもよろしくお願いします
もう推理とかしている場合じゃない。生き残りを集めて、無事な部屋を確保せねば、一夜を明かすことができずに凍死する。全員で窓から離れ、物陰に潜む。
「あといないのは誰だ?」
ロバートさんとマイケルさんを確保。一回寝たきりのキャシーを確認に食堂へ入った。うーわ寒いな。風と雪が入ってきやがる。暖房でどうにかできるものじゃないぞこれは。
「オレとアオイとタイガはいるぜ」
「あっくんとルナといずみんもいるよー」
「ジェシカ、キャシーさんは起きましたか?」
「いえまだ……運びましょうか」
「んじゃジョージ以外はいるんだな」
奇跡的に全員いるっぽい。今のうちに対策を考えよう。
「まずは安全な所へ行こう」
「窓を塞いで立てこもってはどうです? ここなら食料もありますし」
それも選択肢としてはありだろう。一応食料を見ると、まだまだ残っている。保存の効くものを取り出し、各自で持っておくことにした。その作業を続けながら会議も続く。窓際はとりあえず薄く氷の膜を張ってもらった。破片とかあるので近づかないようにしよう。
「悪くはない。けどどうやってずっと塞ぐ?」
「適当な板と釘とか?」
「冷気と暖房の兼ね合いが難しいし、釘できっちり塞いでしまうと、敵が予想外に強かった場合、木の扉なんて壊される。入り口を塞がれたら逃げられない。作業中が安全とは限らないしな」
こいつらを全員守りながらの戦闘は厳しい。どうにか安全な場所で固めよう。
そもそもロバートとマイケルが犯人なら、なぜ窓を割る?
今日寝泊まりする場所はこの屋敷しかないだろ。
「近くに別の家とかあるか?」
「聞いたことも見たこともありません」
「敵はどこから来ているのでしょうか。屋敷に詳しいか、雪の中にでも埋まっていないとおかしいですよ」
屋敷に詳しいのだろうか。バラバラに探したとはいえ、全員の監視をくぐり抜けるのは無理だ。やはりこの中に犯人がいるはず。
「でもさでもさ、犯行を全部やるのって難しいよね? 全部できちゃう人っているの? ずっとフリーでこそこそするんだよね?」
「事件を順番に考えましょう。まずスティーブさん。冷たくなって長いこと放置されていたので、殺害時刻は不明。けど見つける数時間は前だろう」
「眠っているところを剣で刺されて死亡」
血が乾いていたし、殺されたのは食事の前だろう。これはアリバイを確かめられない者も多い。俺達が屋敷に来るより前だからな。人数の少ない屋敷では、どうとでも言える。
「次にメイドのマリー。娯楽室で頭に槍を刺されて死亡。スティーブの時と同じく、鎧が落ちていた」
「食事の時にいなかったよな?」
「そうですね。スティーブさんよりも後に殺されています」
そして探索が開始され、トイレに行っていた大人二人に出会う。食堂の近くだったな。
「そっからオレらは図書室でトラブったり、風呂場で右手見つけたりしたわけだ」
知らない男の右手は見せた。悲鳴もあがったが、みんな誰かわからないと言っていた。まあ男の右手なんて日常生活で凝視しないよな。
「でもって窓が割られまくって、メイドのサラが噴水で死んでいた」
「これを前提に少し考えよう。みんな窓から離れて、暖房の近くへ。少しここで様子見だ」
犯人がこの中なら、全員が揃っている今は犯行に及ぶことができない。全員を同じ場所に置いておけば、俺が推理する時間が稼げるのだ。
「ジョージは行方不明のままだね」
「誰がいつ死んだかがいまいち不明だな。だがはっきりしていることもある。サラはまだ死んでそう時間が経っていない。血も流れ続けていたし、服が水を吸ってはいたが、完全に硬直はしていなかった」
「つまり、食堂にいた連中と、俺達は犯行ができない」
「待ってください。それじゃあタイガと……」
「私とマイケルを疑うというのかね?」
そう、サラだけは他が死んでから殺されている、唯一はっきりした存在である。この屋敷に来た当時は、噴水に何も浮いていなかった。あの時間に死んでいたら、死体の姿はもっと別のものだったはず。
「オレが容疑者かよ。いい気分じゃねえな」
「ロバートさんマイケルさんとタイガだけが、誰にも気づかれずに中庭に行けます」
「サラはどういう理由で出ていったんだ?」
「先に行ったあっくん達が心配だし、施設に異常がないか見たいって言って飛び出して、マイケルさんとロバートさんとタイガくんが後を追う感じで出ていったよ」
タイガだけ単独行動なのは、戦えるからだとか。サラ側も成人男性二人いればまあ大丈夫だと思ったらしい。
「私とマイケルが右側一階でサラを追いかけ、タイガさんが異常を調べに左側の二階へ行きました」
「つまりそこまでは生きていたと」
屋敷が揺れるんだから、あの地下行きの隠し装置は相当大掛かりなものだろう。それに気づいて動いた? だとすればあの施設を知っていたことになる。やはり絵に書かれていた連中の誰かだろう。
「六騎士を見つけたんだろ? どんなやつだった?」
「全身甲冑だったよ。長い鎌を持っていた。廊下で遠目に見えてね。こちらを向いたんで急いで逃げたんだ」
「戦ったわけじゃねえのか?」
「まさか。必死で逃げて君たちと会ったんだ。やはりサラを殺したのは六人目の騎士なんだよ!」
「だがどのタイミングでサラを殺し、どうやって噴水に入れた? 窓を割り続けながら姿を消すなんて厳しいだろ」
短時間でサラを殺し、窓を割り、誰がどこから来るかわからないのに逃げ切った。はっきり言って異常だ。現場でできることじゃない。
「あっ、ワイヤー使ったらどうかな!!」
ルナが何か閃いたようだ。探偵科の実力を見せてもらおう。
「噴水と二階のベランダに、ワイヤー何本かで橋を作るの! その上を板とかソリか何かに死体を乗せて、シャーって滑らせれば、噴水に落とせない? 斧も同じ要領で落とせるでしょ!!」
「なるほど! それなら可能ですね!」
いい推理かもしれない。吹雪の中なら視界は遮られるし、窓の角度を知っていれば、死角から滑らせることもできるかも。ソリなら紐をつけておけば回収できる。
「なら雪に埋めて隠しませんか? それなら死体が見つからないですし、時間を稼げたのでは?」
「六騎士の怨念を見せつけたかったのかにゃ。窓は雪玉とか硬いものを遠くに飛ばす装置で割ったとか、風や水の魔法連射でどうにかできるのさあ!」
みんなルナの推理に納得し始めている。辻褄はあっているし、魔法が絡むと解明難易度は跳ね上がるし、そっちを考慮して組み立てるのってしんどいよな。
「んじゃ犯人は?」
「ジョージさんが生きているなら、怪しいよね」
「死んでいるとしたら?」
「うーん……わかんにゃい! だって誰がいつ死んだかわかんないから、トリックもなにもないんだもん!!」
スティーブとジョージは俺達が屋敷に来る前、つまり今日の朝から部屋にこもりきりだったらしい。朝食を食べには来たらしいから、そこまでは確定で生きていた。
「雪のせいで曇って暗かったから正確じゃないが、俺達が来たのは夕方だったよな。朝から夕方にかけての犯行なら、多少は可能だろ」
「吹雪で外出ができなくなることと、人が少ないことを計算して、今日にしたのかもしれませんね」
サラの警戒心が薄くないだろうか。六人目の騎士がうろついているということを考慮した行動ではない気がする。もしや正体に検討でもついていたのか。だとすれば、それで急遽殺されたのかも。
「結局アリバイがあやふやというだけです。犯人がわかりませんし、明日の朝までの対策を講じましょう」
「アオイの言う通りだぜ。ここで寝るのか? 毛布くらいねえと死んじまうだろ」
これだけの人数で毛布にくるまっているのも難しい。かといって個室は窓を割られたらしんどいわけで。現に食堂は少し冷えてきている。朝まで寝ずにいても、何人か死にそうだな。
「移動すんならさっさとしようぜ」
「危険です。どんな仕掛けがあるかわからないんですよ」
「他に方法がないだろ。犯人がわからないんだ、全員が全員を監視するしかない。安全な場所に全員で固まるしかない」
「なら研究室はどうです? あそこは壁が特別分厚い。扉も重い。部屋も広くて、小さな窓以外は侵入経路がない。あの大きな鎧では入ってこられないでしょう」
マイケルさんの意見は適切ではある。面倒なら閉じ込めればいいわけで、ひとまず寒さだけはなんとかしよう。
「キャシーさんは私達が運びます」
全員で研究室まで移動することにした。研究室なら試したいこともあるし、犯人を特定できるかもしれない。さっき関係資料はある程度まで読んだから、推理は少し固まってきた。問題は別にある。
「うげえ超さみい……マジかよ」
廊下は風も雪も防ぐ方法がなく、露骨に寒さがアップしております。
「早く行こう」
窓に警戒しても、少し先すら見えやしない。本当に明日やむのかこの吹雪。
「よし、開けるぜ」
重い鉄製の扉が開き、研究室の明かりが出迎えてくれる。広い部屋だが壊されてはいないため、食堂よりは暖かい。暖房設備もある。
「毛布でも取りに行きたいところだが」
「危険ですからねえ……暖房の出力に期待しましょう」
カールが鍵をかけ、窓から離れるように各自が歩き出す。最悪ここで寝るしかないか。スペース確保しながら、残りの資料を読み漁ろう。
「報告はまとめて出されているな」
壁際に座り、イズミに貰った不審者の情報に目を通していると、上からバギン! という何かが砕ける音がした。
「危ねえ! 落ちてくるぞ!!」
シャンデリアのひとつがカール達の上へと落ちてくる。
「サンダースマッシャー!」
何人かが魔法を放ち、タイガとアオイがカールとジェシカを掴んで飛んだ。
死人は出なかったようだが、シャンデリアは豪快に砕け散っている。そしてその中心にやつはいた。
「六騎士様のご登場か」
シャンデリアとともに落ちてきたのは、血染めの長い鎌を持った鎧だった。
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