加速する犯行とここまでの推理

 地下施設を見て帰ってきたら、団体行動が乱れていました。


「他の連中はどこに行った?」


「屋敷に異常がないか見てくるとだけ……」


「死ぬフラグじゃん」


 絶対死ぬよね。最後まで生き残ったやつが犯人でいいんじゃないかと思い始めるくらい、この状況がめんどい。


「捜索に行ったら入れ違いになるだろ。いなくなったやつを呼び戻す。リュウ、アオイ、カール、ここにいろ」


「危険です。さらに人数を減らすような真似は謹んでください」


 ここまで分散してしまうと、もう被害者は出ていると考えるべきだ。なら現場を押さえて潰す。


「俺とイズミなら問題はない」


「ならルナも行く! 探偵は必要でしょ?」


「わかった。とにかく連れ戻して、夜も遅いし眠らせよう」


 こんなん深夜まで付き合えるか。さっさと寝ろ。三人で部屋を出て、ホールから客室側へ行く。ここに戻る途中に会わなかったということは、客室か左側のどこかだろう。


「さて犯人だが、行方不明のジョージと、マイケルさんとロバートさんが怪しい」


「んう? なんか進展あった?」


 歩きながら推理をまとめよう。六騎士の説明はイズミに任せる。

 途中で部屋を開けたりしていくが、どこにも誰もいない。


「にゃるほどね。絵に書かれてた人が死んでるんだ」


「ああ、なんとなくだが、みんな関わっている気がする。それこそタイガとアオイ以外は関係者なんじゃないかって」


「カールとジェシカは?」


「わからん。一晩考える時間が欲しい」


 資料が多すぎて、全部読むにも時間がかかる。推理をまとめる余裕がない。これが敵の策なら大したもんだ。


「だが研究者を狙っての犯行なのは間違いない。ほぼ身内の犯行でいいだろう」


「説明を求める」


「武器が現地調達すぎるだろ」


「どーゆーことかにゃ?」


「ここに来るやつってことは、それなりに運動できる、下手すりゃ戦士科や騎士科の連中が混ざるだろ。戦える奴らだ。不意打ちだろうと返り討ちに合う可能性はある。なのに凶器は現地調達ってのがおかしい。自分の得意とする武器じゃなく、その場にあったもので殺せる確率なんて低いだろ」


 ヴァンみたいなやつがいたら一発アウトだ。生半可な武器なんて折れるだけ。脳も心臓も突き刺せない。肉体強度が武器より高いという、アホみたいなことが起きる。


「つまり犯人は知っているんだ。自分のターゲットが、戦闘技術のない、武器で殺せるやつだと」


「おぉー……確かにそんな気がするぜい。じゃあじゃあ、ジョージさんが関係者を殺してるんじゃない?」


「六騎士を囮にした側なのにか?」


「実は六人目の家族とか、友達だったとか! それで当時の関係者を殺して敵討ちって感じさあ!!」


「恨みを晴らすってそういうことだよなあ」


 怨恨によるものなら、対象は限られる。大掛かりな仕掛けを作ったのも、六騎士の怨念を見せつけ、恐怖を煽るものなら納得はできる。


「お屋敷についてもよーく知ってるんだから、罠を仕掛けたりだってできる! 名推理だぜい!!」


「どうも腑に落ちない」


「ありゃ、まだ何かあるの?」


「攻撃の強弱がありすぎる。殺意全開の攻撃と、強めのいたずらレベルが混ざっているんだ。片方は間違いなく殺しに来ているのに、もう片方は悪意や殺意が薄い気がする……まだ確証はないが、どうにもちぐはぐというか」


 全部が六騎士の仕業だと仮定して、なぜカールの部屋にメッセージを残した?

 図書室の本はなぜ初心者用の魔導書だった?

 敵はいつどの順番で殺していった?

 これだけのトラップを仕掛けながら、殺人をこなして逃げ回れるか?


「今日が吹雪だと知っていたとして、あまりにも色々起こりすぎている。どんなフィジカルよ。超人レベルじゃないだろうな」


 考えたくはないが、超人スペックの場合、俺以外の全員が殺されかねない。

 ルナもイズミも有能だし、国の運営かったるいから死なせるのはNGだ。


「マイナスエネルギー? っていうの使ったんじゃない?」


「あの装置無しで移植できるもんじゃない。かなり専門用語が多かったし、地下行きの仕掛けを作動させれば気づく」


 持ってきていた資料を読んでみる。かなり高度だ。ガキがチラ見して理解できるものではない。


「アジュ、どうして読めるの?」


「なんとなく。いいから部屋の確認するぞ。さっさと見て回るんだ」


 とにかく急いで事件を終息させる。敵がどこに潜んでいようと、俺の鎧が負けることはない。見つけて叩き潰せばひとまず終わるだろう。


「あっくんは落ち着きすぎっていうか、安心してるよね?」


「意味がわからん」


「だって殺人鬼がいる吹雪のお屋敷だよ? そこの探索なのに、まーったく警戒してないよね? どこからか敵が飛び出してくるかも知れないのに、緊張してない。まるで自分だけは安全みたいに無警戒でさ」


 そりゃ鎧があれば負けはない。自分が犯人じゃないことは自分が知っている。だったら俺が動くのが一番効率がいい。犯人と遭遇できればぶっ潰せる。


「実力と余裕のバランスがおかしいよね。力を隠してる?」


「いいや一番弱いのは俺だよ」


 強いと知られても迷惑だ。生身の俺は弱いので、期待されても戦えない。鎧前提で頼られると、使えない時にタイムラグができて、こいつらが死ぬ。どっちも得をしないのさ。


「でも余裕あるじゃん! 不思議だけど助けられてる気がする! あっくんがいるとうまくいくじゃん! 岩モグラも防衛戦もさ!」


「そんなもんお前らが強いんだろ。じゃなきゃ偶然だ。全部偶然です」


「ほんとにー? いずみんどう思う?」


「ただ偶然が重なったという可能性は否定できない」


 イズミは黙っていてくれるみたいだ。アサシンだし口は硬い方だろう。


「偶然俺の行動と、みんなの行動が合致して、なんとなく俺のおかげっぽく重なったとしても…………偶然? 偶然なのか? いやだが……マジで?」


「どうしたのあっくん?」


 今回の件、そういうことなのか? いやでも都合がよすぎるだろ。どんな強運、いや悪運? ありえんだろ。これはもう推理なのかすらわからんぞ。


「イズミ、隠し部屋の入り口の魔法陣は、識別と解錠の魔法陣なんだよな?」


「その通り」


「何かを識別して、該当したから開いたんだよな?」


「そうなる、はず」


 だとすると片方は説明がつく。後は殺した時間と、ジョージがどうなっているかだが、こればかりは難しい。


「止まって。何か聞こえる」


 イズミが止めたのと同時に、遠くの窓ガラスが割れた。


「敵か!」


 窓がどんどん割れていき、手斧や水で固めた大きな雪玉が廊下に転がる。壊れる音と窓の数が合わない。まさかここだけじゃないのか。


「中庭に行くぞ」


「気をつけて二人とも。多分敵がいるよ」


「先行する」


 三人で身をかがめながら、中庭への扉まで走り抜ける。たどり着いたらちょうど攻撃がやんだ。


「待って」


 誰かが二階から飛び降りたようだ。この姿はタイガか。


「あっ、おいアジュ! ちょっとこい! 犯人捕まえるぞ!」


 タイガが呼んでいる。見つかっちまったならしょうがない。


「わかった」


 四人で走る。やがて噴水前まで来るが、騎士の姿は無い。もう逃げたのか。


「サラ! アジュ引き上げるの手伝え!!」


 中庭にある噴水の中では、背後から大きな斧で頭をかち割られたサラが浮いていた。後頭部に大きな傷があり、噴水の水を赤く染めながら、水底に斧が落ちている。


「死んでからまだ時間が経っていない。いるなら吹雪の中かもな」


 全員が警戒体勢に入る。隠れていられるとも思わないが、潜めるなら悪くはない場所だ。


「とりあえず調べるぞ。イズミ、周囲を見張れ」


 さてタイガと冷たい思いをしながら引き上げた遺体だが、びしょ濡れだな。服が完全に水を吸っている。


「死因は頭の傷だな」


「服が乱れていない。力で振り下ろして殺している。痕跡を消す時間がなかったのかもしれない」


 その時、野太い男の叫び声が聞こえた。


「おいおい……あっちは右側か」


 男が二人走ってくる。ロバートさんとマイケルさんだ。必死の形相でこちらに手を振っている。


「た、助けてくれ!!」


「騎士が、雪の騎士が出た!!」


 おかしい。二人が来た方向に足跡が続いていない。なんかおかしいぞ。

 サラを殺した場所がここなら、逃げる時に窓なんてぶっ壊すか?

 さっさと静かに逃げればいいじゃないか。


「おっしゃオレに任せな!」


「ここで分かれるのも危険か……行くぞ」


 全員で警戒しながら早足で廊下に出ると、食堂から出るリュウやカールがいた。


「食堂にいろって言っただろ!」


「窓が割れた! あのままいたら凍死する!」


「……それが狙いか」


 やばいぞ。窓が全部割れていたら、吹雪の中で一晩過ごすのはきつい。

 全員を探しながら、無事な部屋を見つけなければ。

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