その後の話と恋人体験期間

 宇宙から戻り、学園へのゲートを通って魔界から帰還。

 みんなの無事を確認し、学園長と魔王に説明。

 そこから葛ノ葉関係について報告するため、卑弥呼さんの家へ。

 移動で疲れちゃったので一泊した。


「ん……またか」


 純和風な部屋。畳に敷かれた布団。

 寝心地抜群な中で、ゆっくりとまどろみを抜ける。


「そろそろ慣れたじゃろ?」


 そして布団にリリアがいる。

 もう驚くこともない。多少困惑というか、よくわからん気持ちにはなるが。


「慣れたというか、慣らされたというか」


「成果が出ておるわけじゃ」


 すり寄ってくるこいつを避ける気にもならない。

 おそらくまだ眠いからだな。それ以外に何もないですよきっと。


「まーた無駄なこと考えとるじゃろ」


「無駄かどうかは曖昧だな」


「抵抗など無意味じゃ。ほれほれ」


 横向きに寝ている俺にくっつき、胸のあたりで丸くなる。

 猫かお前は。自由だな本当に。


「ここで問題じゃ」


「急に」


「彼女が布団の中でじゃれてきています。ここで取るべき最適な行動とは」


「俺にわかるかそんなもん」


 それがわかる俺はもう俺じゃないわ。

 本当にわからん。わかるやつの人生ってどうなってんだろう。


「とりあえず試すのじゃ。リリアちゃんにしてみたいことを……と言うとハードル上がりそうじゃな」


「もう上がったぞ」


「むむむ、一足遅かったようじゃな」


「くっくっく、ならばこのまま二度寝決め込んでやるぜ」


「それは却下じゃ」


 却下されました。流れで寝ちまえ大作戦は失敗である。


「すーぐ楽しようとしおって。まず撫でやすい位置に頭があるじゃろ」


「はいはい撫でるのな」


 渋々だが撫でてやる。相変わらずさらっさらだな。

 触り心地がいい。でも眠い。布団の中だし。

 ほどほどに温かいのも原因だろう。


「撫でるまで達成じゃな」


「嫌な実績が増えていくぜ」


「ここからおはようのチューを」


「いやどす」


「ちょっとくらいよいじゃろ」


「いやでありんす」


「何でそんな口調なんじゃ」


 すーぐ調子に乗りおって。

 俺は身持ちが固いのですよ。ガッチガチだよ。卑猥な意味ゼロで。


「なにゆえそう普通にキスとかしようとするのさ」


「これこそ恋人ムーブじゃろ」


「知らんわそんなん」


「アジュリリは王道」


「やってることは邪道だけどな」


「……王道なのは認めるんじゃな」


「…………うっさい」


 こういう時に乱入して助けてくれるのが、シルフィやイロハだろう。

 なぜ来ない。急げ。俺がなんかやばいぞ。眠気消えたし。


「アジュが限界っぽいね」


「仕方がないわね。ご飯にしましょう」


「いたんかい」


 扉の前にいたようだ。普通に入ってきて飯に誘ってくる。


「まあこんなものじゃな」


「進展はしているわね」


「慎重にいこう!」


「いいから飯食うぞ」


 四人で居間へ。卑弥呼さんとラーさんにアルヴィトがいる。


「起きてきたわね。冷めるからさっさと食べなさい」


「はいよ」


 和食だなあ。白米と焼き魚と味噌汁と漬物。

 簡単なものでいいよな。がっつり食う気は起きない。

 そして全部がかなり上のレベルで纏まっている。

 上品な気がするのに、庶民の口に合う。なんとも不思議なお料理だ。


「昨日も言ったけれど、うちの一族が迷惑をかけたね」


「いいですよ。終わったことっていうか、あんなんどうしようもないでしょ」


 昨日めっちゃ謝られた。

 ひたすら謝り倒され、リリアと一緒に困惑したよ。


「そういや学園消しちゃいましたけど、あれ大丈夫でした?」


「ええ、魔王の証言と、アジュ君が回収した資料が効いたわね」


 どうやら重要書類だったらしい。変なところで運がいいな。


「これが主人公補正というやつじゃ」


「なるほど。俺に馴染み始めているのか」


「そのまま強くなって、リリアと過ごしていくといい」


「わかりました」


 アルヴィトが全員分お茶いれてくれる。

 飲みながら細かい話を聞いていが、それほど大事にはならない感じかな。


「完全に機関とヴァルキリーの巣窟だったようだね。問題はないだろう」


「それとアジュ君の見た、敵を強化する技術だけれど」


 少し会話のトーンが落ちた。真面目な話のさらに真面目な部類なのだろう。


「何かわかりましたか?」


「あくまでこちらの予想ですが、久遠の実験から来ていると思います」


「あれを久遠が作ったと」


「正確には利用されたのだと思います。久遠は葛ノ葉の運命を変えるため、九尾を封印、もしくは別の何かに移しての制御や消滅を狙っていました」


 九尾はいずれ討伐するつもりで封印したのだから、そういう人間がいてもおかしくはない。

 その結果として、えらいもん作ってくれたけど。


「神の力を凝縮し、移植するものではないかと予想しています」


「思った以上に危険なアイテムね」


「見逃すわけにはいきません。学園と卒業生、神々が動き出しています」


「君たちはこの件に関わっていないことにする。個人に任せるには危険だからね」


「わたしたちは動かなくていいのですか?」


「いい……というよりアジュ君は秘密兵器だ。おおっぴらに出すものじゃない」


 これは非常に助かる。俺たちは普通に学園生活を送るのだ。

 何が悲しくてそんな殺伐とした問題に首突っ込まなきゃいけないのか。


「また何かあれば、こちらかヒメノ一味にでも伝えて欲しい。もちろん学園長でもいいよ。大抵はそれで処理できるから、君はまず……」


「リリアといちゃいちゃすることを重点的にお願いしますね」


「急ですね」


 急速に場の雰囲気が軽くなっていく。

 これはいけませんよ。


「そろそろ気の合う友人を卒業する時期じゃな」


「もうちょっと積極的になってみようね!」


「きっついわあ……今でも充実していますよアジュさんは」


 これは本音。今が人生の最高、頂点だろう。

 というかここから先がどうなってんのか知らない。


「リリアには戦闘から家事まで全種類の才能があります。きっと末永くお側にいられますよ」


「そりゃ承知してますけども……」


「アジュは何が不満なのかしら?」


「不満というか、完全に未知のエリアなんだよ。本当にピンとこない。それでどうなるのかもわからんし……ここで軽く返事するのも違う気がするというか」


 付き合うって何するのさ。そこゴールだろ。

 何をしたらいいかわからなくてなあ……今の生活が崩れるのも嫌だな。


「拗らせてるわねえあんた……ラー様卑弥呼様から許可が出てるのよ。いいじゃない付き合っちゃえば」


「うまく言葉にできん。とにかく今のを変えようと思えない」


「別に変わらんのじゃ」


「は?」


 本格的に謎が謎を呼ぶ急展開ですよ。

 俺の理解を超えないようにお願いします。


「特別に何かしないといけないってことじゃないよ」


「アジュが嫌がることはしないわ。今が楽しいと感じているでしょう。それが続いていくだけよ」


「じゃあなんで付き合うんだ?」


「恋人っていうのは特別なんだよ」


「それがわからん」


 いかんな。結論が出ないというか、本当にこの先何があるかわからん。

 なんとなくで決めたくはないし、こいつらが嫌いでもないけれど。


「ここで決めたらよいじゃろ」


「そういうのってもうちょい感動っていうか、大げさなイベントがあって成立するもんだろ」


「国を救って神を倒して、家庭の問題も解決して、両親公認で好感度高い。あと何が必要なんじゃ」


「俺はいつの間に詰んだのさ」


 最早外堀が存在しないレベルで埋め立てられている。

 油断が招いた結果だろう。これは詰みましたよ。


「嫌いじゃないよね? 一緒にいるのはいいんでしょ?」


「それは問題ない。無いんだけどなあ……なんだろうなこれ」


「では心の準備期間ときっかけをプレゼントじゃ。あと一回、何かがあればご褒美に付き合う。それまでに考えるのじゃよ」


「いいわね。恋人体験期間よ」


「面白そう! それでアジュがやる気出してくれると嬉しいな」


 いよいよ退路がないか。そろそろ決めるしかないのだろうか。


「まだ一年の二学期だぞ。十月くらいだし、半年だぞ。決めるには早くないか?」


「もう十分じゃよ」


「何か不安、もしくは嫌悪感のようなものがあるね。君の心に闇が見える」


「むしろ光の部分とかあったんですか」


 ドス黒いタールみたいなもんだろう。

 どこに光を見出したんですかね。


「嫌悪感があるといえば女性だね。また色々と拗らせたんじゃない?」


「女か……あぁ、近いかも。ナイスシルフィ」


 ちょっと思い当たる節がある。

 というか今なんとなく思いついた。


「どんだけ拗らせるんじゃおぬし」


「仕方ないだろ。あれだよ、仲間から彼女になるとランクダウンっぽいんだ。俺にとって女ってのは嫌いなもんだし」


 三人は仲間だ。大切であることも自覚している。

 だが彼女というのは、否が応でも女性を意識するわけで。


「まあ理由の二割か、いって三割だろうがね」


「女の子嫌いが治らないね」


「他の子が寄り付かないという点ではありがたいのだけれど」


 俺が何かしても女は寄り付かねえよ。嫌われるタイプだっての。


「なおのこと試験期間は必要だね。まだ若いんだ、色々試してみるといい」


「そうですね。私たちは応援していますよ。葛ノ葉の里も開けておきます」


 このまま続けていても、同じ話はどこかで出る。

 一度考えてみて、きつかったら仲間のまましばらく延長していこう。


「はあ…………どうなっても知らんぞ」


「やった! よーし頑張るよ!!」


「頑張るんじゃない。それ継続するのしんどいだろ」


「ほどほどにじゃな」


「そうね。本番は恋人になってからよ」


 三人の目がちょっと光った気がした。

 不安だが、悪いようにはされないだろう。

 ならば動いてみるのも悪くない。

 そう結論づけて、自宅へと帰った。

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