第146話 ノアの箱舟ってなんなのさ
ポセイドンの作り出した空間で、天から海が落ちてくる。
「よくわからん。攻撃として成立してんのかこれ?」
大渦が俺に向かって落ちてくる。こんなもん殴ってしまえば終わりだ。
右アッパー食らわせて消し飛ばす。
「ん? 水を散らした? いや、水が消えたな」
「水を殴り殺したんだよ。今の俺にはそれができる」
鎧を着た俺には、生き物かどうかの区別無く殺しきることが可能だ。
能力だろうが概念だろうが知ったことか。殴ってダメージを与えれば、水だろうが殺せる。
「ならば、まるごと飲み込むまでよ!」
一瞬で世界全てが水の中へと落ちる。綺麗な水だ。澄んでいるからか、ポセイドンのヤツもはっきりと見える。
「これで俺の動きを鈍くしようってか? 甘いな!」
水の中を走りぬけ、一気に距離を詰めて殴りかかる。
拳を構えたそのとき、横から何かの気配を感じ、反射的に殴りつけた。
「なんだ? 水の……砲撃? 拳?」
「ほう、勘がいいな。水の動きを感じたのか」
世界全てが水で満たされている。つまり、全方位から見えない水の攻撃がくるということか。
「こすっからい真似してくれるな」
「神の偉大さが伝わるいい手段ではないか。お前のように水中を走り、呼吸している方が異常だ」
「便利だろ? ちなみに呼吸もいらないぜ」
呼吸不要でマグマの中だろうと生活できる。宇宙にもいける。便利だな鎧って。
「だが水中、我が術中にいることに変わりは無い!」
まるで大きな手のひらか何かにつかまれるように水がうねり。俺をまるごと拘束する。
「ハンサムスクリューキイイイィィィック!!」
上空……といっても空なんてもうないけども。上から回転してドリルのような水流を纏ったポセイドンが突っ込んでくる。なるほど、窒息させるのを諦めて、物理で殺しにかかってきたか。
「めんっどくさいわ!」
水の手が無力化するまで、全身から魔力を解放する。
自由になったところで、やつの足を掴んで乱暴に振り回す。
「うらうらうらうら!!」
「うおおぉぉ!? ハンサムを振り回していいのは、極上のいい女だけだ!」
「知ったことかアホが!! うおるああ!!」
全力でぶん投げて、手のひらに溜めた魔力をビームのように撃ち出してやる。
「くらって……くたばれ!!」
「ぬぐおおおお!!」
爆発で豪快に吹っ飛ぶポセイドン。結構な力で撃ったけど死んでないだろうな。
「ちっ、生きてやがるな!」
四方八方から襲い掛かる見えない水の攻撃。
それでも徐々に慣れてくる。水流を読むのは無意味だ。
予備動作ゼロで密着状態から水が噴出されるし。神なら物理法則など通用しない。
「勘でガードするのも面倒だなっと!」
気まぐれに上へと飛んでみれば、どこまでも続く海。
なんだか魚になったみたいで、ぷかぷか浮いていると妙な感覚だ。居心地が悪い。
「ハンサムがちょっと、ほんのちょっぴりだが驚いたぞ」
鎧に亀裂は入っているが、ほぼ無傷のポセイドンが目の前に現れる。
よしよし、力加減はこんなもんか。強くし過ぎるとシルフィ達が迷惑するからな。
二人が無事なのは感覚でわかる。バリアは崩れていない。
「ハンサム関係ねえだろ。この程度で驚くなよ」
「自分がどれほど異常か理解できていないのか……人間としてありえんぞ」
ありえないらしい。まだ全力には程遠いんだけども。
「このハンサムに傷をつける人間などそうそういてたまるか!」
「悪かったよ。でも実力みたいってんならこのくらいはいいだろ」
「ふむ、どこで知り合ったか知らんが、フルムーンは妙な男を拾ったものだな」
拾われたの俺かい。完全にフルムーンの人間ってわけでもないんだけどな。
「点はやめだ。面で攻めてやろう」
「今だって全面から攻めて……うおっ!?」
海が、ほぼ世界そのものが左右から押し寄せる。
両腕で押さえつけられないほどじゃないが、鎧じゃなきゃ水を抑えることができずに死ぬな。
「ちょっとマジでいくぜ」
『ソード』
ソードキーでいつもの剣を呼び出し、縦に振り下ろす。
とりあえず海を左右に完全に分断し、空きスペースを作る。
「ぬうぅ! おれの海を!」
「サンダーフロウ!」
限界まで雷を圧縮。殺さないように剣に魔力のセーフティをかけて、本日最速で動く。
雷光よりも早く、剣に乗せた魔力を乱さずに斬撃へと変える。
アキレウスから貰った技、神にも通じるか試してやるぜ。
「雷光一閃!!」
「ぬぐうぅ……おああああぁぁ!?」
まともにくらって激しく放電しながら吹っ飛ぶポセイドン。
黄金のハンサムアーマーとやらが爆裂している。
「この……このハンサムがああぁぁ!?」
この空間がどこまで続いているか知らないが、全ての海を斬り殺し、水の消えた地面へ容赦なく頭から落ちていったポセイドン。
「ぐふあぁ!? うぐぐ……まさかここまでやるとはな。鎧が無ければ……ハンサムフェイスに傷がついていたぞ……」
よしよし、死んでいない。鎧が砕け散ってぼろぼろだけど立ち上がっている。
といっても九尾の部下やヴァルキリーなら存在ごと消えているレベルだ。流石神。
「見事だ。次に戦うことがあれば、世界の崩壊を気にすることも無く、我がトライデントの力をお見せしよう」
まだなんかあんのか。面倒だから拒否します。
「んじゃ戦闘はもう終わり。ついでに教えてくれよ。ノアの箱舟ってなんだ?」
「知らずに付いてきたのか……まあいい。ハンサムは心が広い。教えてやろう」
これは話してもいいと判断されたか。よしよし、じゃまくっさいもんなら封印しちまおう。
「ノアの箱舟とは、それそのものが極小サイズの世界だ。どこかの世界に降り立ち、その世界の優れた技術や生物、人間などのデータを集め、保管する」
「まーたぶっとんだもんが出てきたな」
「世界が滅ぶか、未曾有の危機が迫った時、別世界へ飛ぶための船でもある」
「世界ってのはどういうことだ?」
「そのままだ。内部にはフルムーン王国以上の規模の草原や海、作物の取れる畑や膨大な資料のある図書館もある。神か人が住める管理人用の家だってあるぞ。好みの宇宙を作る楽しみもある」
話がでかすぎてしっくりこない。これリリアいないとわからんやつだな。
「理解力の無いやつじゃのう」
「お前なんでいる?」
バリアの中にリリアがいる。フルムーン姉妹と一緒にソファーに座っているじゃないか。
「帰りが遅いから見に来たのじゃ。いつまでも遊んでおると日が暮れるぞい」
「悪かったよ。詳しく説明してくれ」
「ハンサムを無視して話を進めるな……まあよい。邪魔にならぬよう気をつけて説明せよ」
「ほいほい。まず、この世界を一つの大きな箱とする。星も銀河も神も、その全てが一つの箱の中じゃ」
ジェスチャーで四角い箱を作るリリア。こういう解説はリリアに限る。
「その箱の中に、小さい箱を入れる。これがノアじゃ。この小さな箱に、大きな箱の中から大切なものや、独自の文化や技術。進化した生物、人間などの優れたものを選んで入れる」
「そして大きな箱が潰れそうな時、別の大きな箱へと移し変えるのだ。これぞノアの箱舟だ」
「ちなみにノアというのは、箱舟を作った世界の言葉で理想郷を意味しておる」
随分とご大層な船だこと。とりあえず大切に保管しないとまずい代物だな。
「時間の中に記録はあり歴史もある。時空神クロノスと海神であるおれが管理するのが妥当。昔から仲がよくてな。おれの妻が非常に子煩悩であることもあってか、管理は順調だった」
「それが今回崩れたから来たわけか」
「そうだ。今回の異変、おれも調査に加わろう」
おおーそりゃ楽ができそうでいいや。
「アジュが楽できていいぜーとか思ってますよ姉様」
「なるほど、確かにそんな顔ね」
「こやつはすーぐ楽しようとしおって」
「いいじゃないか、できる限り労力を惜しみ、他力本願で、俺は最終兵器だよ」
「本当に最終兵器たる実力がある。なるほど、たちが悪いな。ハンサムも困惑だ」
なんにせよポセイドンが入ってくれれば心強い。
俺との勝負は単純に相性が悪かっただけで、本来むちゃくちゃ強いだろうし。
「それじゃあ、約束どおり全面協力してもらおうか。まずはだな……」
こうして打ち合わせのあと、元の書斎へと戻る。
「お帰りなさい。首尾はどう?」
「ああ、バッチリさ。なあポセイドン?」
「ああ、流石フルムーン第一王女サクラ・フルムーンだ。このポセイドン、その強さに感服したぞ!」
はい打ち合わせバッチリ。これでサクラさん祭り上げ計画が大幅に進展したのであった。
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