第147話 作戦会議をしよう

 城の大きめな会議室を借りて、俺達四人とポセイドンにサクラさん。ミナさん。ジェクトさんで会議が始まった。


「今後の対策会議を始める。ハンサムにゆこう!」


 ポセイドンが乗り気だ。意外と約束を守ってくれるタイプらしい。


「いやなぜお前が仕切る?」


「ハンサムで神だから!」


「他に進行役がおらんじゃろ」


 リリアは俺の膝の上だ。定位置になっているけれど、イスによっては邪魔になる。

 そのへんをしっかり考慮して座っているあたり、やるなリリアよ。


「私はサポートに回ろう。専門家の神様がいらっしゃるんだ。必要な時に補足させてもらうよ」


 ジェクトさんはサポートに回るらしい。とりあえず状況を整理だ。


「まず聖域開発計画は完全に消滅」


「ああ、今後一切あの地に手を加えることは無い」


「で、魔物はポセイドンが消す、と」


 ミナさんがホワイトボードに素早く書いていく。


「あとは犯人を見つけ出すだけね」


 イロハは俺の隣。ちょっと距離が近い。


「そうだね、神様を名乗っていることと、ノアについて知っているんだよね?」


 シルフィが俺の隣で対抗して距離を詰めようとするので、両方をさっと引き離す。

 ジェクトさんがいるところではやめい。説明めんどいだろうが。


「そいつを探すのは無理か? ノアに直接行って捕まえるとかさ」


「そもそも中に入ることなど不可能だ。おれとクロノスの血筋以外は、入り口で待機するしかあるまい」


「なるほど、つまり入り口まで行ってみなきゃわからないと」


 だっるいな。なるべく危険に晒さない方向で決着つけたかったのに。


「とりあえず魔物は消しておくのじゃ。そうすれば聖地に入れるじゃろ」


「それなんだが、本当にすまない。ハンサム謝罪だ」


「どういうことですかな?」


 大きなテーブル挟んで座っているジェクトさんが怪訝な顔である。


「本物が混ざっている。どうやら仲間がいると思って集ってしまったらしい。ハンサムごめん!」


「おおぅ……なんかいらっとするのじゃ」


「もっと強めに殴っておくべきだったか」


「本物というのはどういうことかしら?」


 聞きながら俺の手を握ってくるイロハ。だから今はやめろって。


「あれは幻影というか……ノアの機能を応用したんだ」


「機能? ノアって世界がどうのっていうなにかなんでしょ?」


 ほーれシルフィが対抗して手を握ってきましたよ。

 机の下だからばれていないけれど、ジェクトさんに見つかるからやめれ。


「ノアは世界のデータを記録してある。その中から魔物のデータを見繕って、聖域に転写しているんだ。生態を記録しているから、動物園感覚で楽しむこともできる。暇つぶしにはちょうどいい」


「ただの映像コピーだから、いくら殺しても無意味なんじゃな」


「邪魔くさいな……魔物が集って来るとかどんだけコピーしてたんだ?」


「ぴったり百万だ」


「アホか!? 限度ってものがあるだろ!」


「人間がどれほどの強さかわからん。だから多めに作っただけだ」


 神様は強すぎて人間の強さがきっちり把握できないらしい。

 強すぎるというのも困りものだな。


「後列は詰め込みすぎて、何匹か姿が重なってしまっているぞ」


「雑だな!?」


「でも聖域なんでしょ? 魔物って入れるものなの?」


「そんなこと、このおれにわかるわけがないだろうが!」


「いばって言うことか!!」


「おれにわかるのは、おれがグレイトハンサムガイだということだけだ!」


 こいつ殴っていいんだろうか。今更手加減して勝負してやったのを後悔してきたよ。


「今確かなこと……それは、おれのせいで魔物が集っちゃったということだ! ハンサム超ゴメン! この美顔にめんじて迅速に許せ!」


『ヒーロー!』


「とりあえず死ぬぎりっぎりのところまで殴る」


 無駄に爽やかでいて、茶目っ気出そうという心根が気に入らない。

 そりゃヒーローキーも使いますわ。


「待て待てちょっと待て! 何だその魔力は!? 貴様どれだけ手加減して戦っていた!?」


「それを今から教えてやろう」


「会議室が壊れるじゃろ。動くでないわ」


「よし、さっきの空間もう一回出せ」


「断る! 悪かった! 真面目に魔物の件は反省している!」


 話が進まないじゃないかもう……とりあえず鎧は解除した。リリアが座りにくそうだったし。


「まず魔物を消せ」


「かまわんが……混乱した魔物が暴れだすかもしれんぞ」


「魔物なんぞお前が殺せばいいだろうが。一応神だろ」


「まったくじゃ。余計な手間をかけさせるでないわ」


 リリアが俺に背中を預けてだるそうに話す。

 こいつが密着すると俺の両手が強く握られるのでやめて欲しい。


「リリアばっかりずるい……」


「ここに一番すっぽり入るのはわしじゃ」


「やってみなければわからないわ」


「やるな。頼むから会議に集中しろ」


 せめて家でやってくれ。家もきついけど、今よりはましだろう。


「あまり表に出るわけにはいかん。これでも神だぞ。神が身近にいるということは、あまり言いふらすものではない。秘密裏に動くから、人間の手で解決して欲しい」


「まーた面倒事か」


「そう言うな。聖域開発を止めるためには必要だったのだ」


 最初からそう言えば譲歩できるってのに。


「神って変なやつばっかりだな」


「人の手で倒すというのならば、サクラさんに手伝ってもらえばよいのじゃ」


 ナイスアシストだリリア。サクラさんに無双させて救世主にしよう。


「なーるほど、サクラさんと俺達が協力すればいけるよな、ポセイドン?」


「む、そうだな。楽勝だろう。ハンサムが保証する」


 ちゃーんと乗ってくれる。変なやつだが馬鹿じゃないな。


「そんな危険な地に娘を送り出すのは気が引ける。なんなら軍を動かそう」


「シルフィ、リリア」


 小声で二人に合図。シルフィが全力で時を止め、リリアが増幅してジェクトさんだけを除外する。


「さて、軍を動かしてサクラさんに指示を出させると勇名が広まるよな」


「けれど死人が出るところは見たくないわ」


「賛成だ。おれの不始末で死人を出すのは避けたい」


「じゃあどうやって姉様を活躍させる?」


「魔物は操作できるか?」


「出すか消すかだ。あまり細かい指示は出せん」


 少数精鋭の部隊を作り、俺達がもぐりこんで死人を出さずに戦うのが一番みたいだ。


「ノアには姉妹両方が行かなくちゃダメなんだろ?」


「両方行くのが確定なら、やっぱり活躍の場を作りたいけれど……難しいわね」


「私がサカガミくんみたいに強ければよかったのだけど」


「アジュみたいに……そうだ! アジュが姉様になればいいんだよ!!」


 シルフィがよくわからんことを言い出した。


「なるほど、サクラさんに変装するのじゃな」


「ばれるだろそんなもん」


「ミラージュキーで戦闘中だけ入れ替わるのじゃ」


「なるほど、よい案です。シルフィ様」


 そんなわけで、入れ替え軍師サクラさん作戦が発動した。




「我らが聖域を脅かす魔物を駆逐する! そのために我が軍の精鋭の中から……」


 城内大ホールにて、ジェクトさんとサクラさんによる演説が聞こえる。

 兵士がおおー! とか言っているので、士気をあげることには成功しているのだろう。


「これで強者が集るのか。おれのハンサム度には勝てんな」


 そしてフルムーン精鋭部隊が編成され、約五万の大軍になった。


「あいつら完全にいらねえ……」


「仕方ないじゃない。見物人はあのくらい多い方がいいわ」


「それを守るわしらが面倒なんじゃよ」


 俺とリリア、イロハ、シルフィは遠くから見学中。

 シルフィは目立ちすぎてはいけないのでこっち側。


「はあ……お父様がいるとくっつけなくて辛いね」


 シルフィが密着してくる。我慢していたみたいだし、今は許そう。


「頼むからほどほどにな。で、軍はどんな感じだ?」


「信頼のおける精鋭部隊です。国防に支障が出ないよう、団長は少数になりますが」


 お茶をいれながらミナさんが説明してくれる。どこで飲んでも美味いお茶だ。


「予備が五万もいるのか」


 ここに全戦力を投入する意味は無い。なので城にいた団長格とその手下、王都に留まっている予備戦力あたりから捻出された。


「もっともっと多いよ? 半分にも満たないはず」


「この世界の大国で、三番目までには必ず名前が挙がる国じゃからのう」


 なるほどな。まあ邪魔にならないようにして欲しい。


「城から聖地まで行軍してどれくらいだ?」


「急ぐなら三日あれば余裕だよー」


「近いなおい」


「行軍には種類があるわ。大軍でしっかり進むもの。強化魔法をかけての強行軍。短期決戦用に装備を調整したもの。長期戦を想定しての行軍とは別物よ」


 イロハはそういうの詳しいんだな。そりゃフウマの頭領だし当然か。


「今回はそれほど遠くもなく、お飾りの軍でいいもの。私達がそっと魔物を殲滅すればよし」


「サクラさんが派手に活躍すればさらによし、だな」


「そういうことじゃな。お、演説が終わったのじゃ」


「そろそろ出発だねー」


「そんじゃ行きますか」


 こうして聖地へ向かうことになった。できれば日帰りで終わらせたいな。

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