第148話 膝枕と夜戦

 精霊戦車で聖地へと移動中。

 精霊車を戦闘用に改造したものを精霊戦車と呼ぶらしい。

 その中でも、王族用の広くて快適なものの中で、俺達はだらだらしていた。


「やっぱりだるいな……五万も連れて行くのは失敗だったか?」


 シルフィに膝枕されてだーらだらしている俺。

 そこからしばらくはシルフィの膝枕のままのんびり進む。

 絶妙な柔らかさで寝心地がいい。

 車内はかなり快適だ。外からは見られないし、これでずっと移動していけるから便利だわ。


「でも王族二人を無名の学生で護衛するのは無理だもんねー」


「目立ちすぎは禁物じゃな」


「ギルド名も知られたくない。なるべく強さを隠すべし」


 俺達はシルフィの学友として、こっそり同行している。

 車内は馬車のように広くてふかふかクッションとかもある。布団もある。

 ある程度寝泊りできる作りだ。快適だな。一台おいくらなんだろう。


「サカガミくんは有名になったりしたくないの?」


「ないです。めんどいので」


 メリットが少な過ぎる。強いと知られるということは、強い力を必要とする仕事を押し付けられる。

 くそめんどいじゃないか。凄くうざい。


「大きな力は、ばれると責任を押し付けようとするクズが沸くからな」


「責任も取らずにしらばっくれて自由に力を使うのが、わしらのポリシーじゃ」


「そういうことだ。責任なんて絶対に取りたくない。大きな力があるんだからさ。しらばっくれるために力を使うんだ」


「そうやって私達三人にいつまでも責任を取らないつもりね?」


 はい痛いところつかれましたー。魂胆ばればれでございます。

 イロハさんにジト目でほっぺをむにむにされる。


「ふっふっふー。いつまでわたし達から逃げられるかな?」


「最近は攻略が進んでおるからのう」


「今までのように童貞でいられるとは思わないことね」


「怖いわ……お前らすぐそういう方向にもっていきやがって……」


「甘い……甘いよアジュ。わたしの膝枕を普通に受け入れている時点で、攻略は順調といえるのさ」


 渋々受け入れていた自分に驚愕だよ。

 いかんかん。こういうのがダムに空いた小さな穴。気をつけよう。


「そのうち私もサカガミくんに手を出されるのね」


「それはないです」


「姉様はダメです」


「ええぇ、一人くらいいいじゃない。三人も四人も変わらないわよ?」


「四人は邪魔くさいので却下で」


 俺がなんのために、サクラさんに王位を継がせようとしていると思っているのさ。

 いや多分それを承知の上で言ってんなこれ。


「お姫様を邪魔くさいで切り捨てるのはもったいないわよ?」


「お姫様枠はシルフィで埋まっています」


「じゃあお姉さん枠!」


「ああ……そういや足りないか……?」


 ピュア・お姫様枠と、クール系・変態枠に、のじゃロリ枠がある。

 基本的に同級生だが、体型も全員違うため、ある程度の属性はほぼ網羅していると思っていた。


「そこで納得しないで!?」


「私が姉のように甘やかす枠なので問題ありません。サクラさんのお手を煩わせるまでもありませんよ」


「ある意味全員でアジュを甘やかして、更正させておるようなものじゃな」


「わたし達が優しくすることで攻略が進む! 姉様が入るとバランスが崩れて攻略できない! しにくい!」


 よくわからん理屈だ。実際に同居されても、きっついので黙っていよう。


「到着です。ここから本格的に進軍予定です」


 運転手のミナさんが到着の合図をくれる。ナイスタイミングだ。


「よーし、そんじゃお仕事開始だ」


 時間を止めて、こっそり車を出る俺とギルメン三人とミナさん。

 サクラさんは騎士団の女性と一緒に指揮をとる。

 今は午後七時くらい。ここからそーっと抜け出して、聖域へ行く。


「ポセイドン。いるな? ここなら俺達だけだ。運んでくれ」


「かしこまってハンサム!」


 突然現れたポセイドンにより、水の小船が作り出される。

 触ると少し暖かいが、塗れることは無い。素早く移動するためのハンサム魔法らしい。


「出発ハンサム!」


 全員乗り込んだら猛スピードで進んでいく。

 地面から激流が船を運んでいるが難しいことは無視しよう。神に言っても無駄だ。


「魔法って便利だよな」


「これは神の奇跡だ。ハンサム以外には真似できん。夜は冷えるから温水仕様だ」


「ナイス心配り。信仰が上がりそうだな」


「うむ、ハンサムを称えよ! さらに力が増すぞ!」


 そんなわけで数分で聖域前の大平原が見渡せる上空までやってきた。

 そこには、月に照らされてうじゃうじゃいる魔物の群れ。

 あっちからはこの船がアリよりも小さな点にしか見えないだろう。


「多いなー。いや百万いるんだから多いか」


 本隊が到着する前に、俺たちで敵の力量をはかり、適当に数を減らして援護もする。

 時間が夜なのは、俺達が紛れ込む隙を作るため。

 そしてイロハの影を活かすため。暗闇で無限増殖する影の刃でそーっと敵を間引く。


「ちょっと本物の数を計るのじゃ」


 リリアが扇子を開いて閉じる。一瞬魔物のいる大地が光り、リリアの前に数字が出る。


「二千ちょいじゃな。こんなに多く集るとは異常じゃ」


 なんだその便利な魔法。曖昧魔法は、オリジナルの魔法を作るのがとても楽らしいな。


「神かそれに近いものが動いている。間違いないな」


「魔物がどこから来ているかわかるか?」


「瘴気だ。聖域に近い場所の魔物は全ておれの幻影。遠ざかるほどに本物になっていく」


「つまり瘴気ってやつを幻影にくっつけて魔物にしている?」


「他にも理由はありそうじゃが、まあそんなもんじゃ。ほれほれさっさと下準備じゃ」


 わからんものは仕方が無い。ちゃっちゃと準備いたしましょう。

 シルフィが時間を止める。ここにいる六人だけの時間だ。


『ヒーロー!』


『バースト』


「聖域に撒けるほどの瘴気ねえ……怪しいもんだ」


『ミラージュ』


 とりあえず俺を五十万体に分身させて、魔物の中間辺りに一斉降下。

 一人一匹タッチして爆弾に変える。やはり増えているな。


「ポセ、やっぱり百万以上いるぞ。間引きたい」


「ハンサム理解。だがどうする? 見張りの自称神が動くやもしれぬ」


「ん……そっとしとくか」


 ジャンプして船に戻る。幻影は全部消した。時間も流れ始める。


「聞こえますかサクラさん」


「ええ、バッチリよ。便利ねえこの影」


 遠くにいるサクラさんと俺達を、イロハの影が繋いでいる。

 糸電話的なものだ。これで離れていても会話できる。


「こっちは概ね準備完了です」


「そう、こっちも一時間足らずで到着よ」


「んじゃお待ちしています」


 通信終わり。細かい打ち合わせでもして時間を潰すか。


「イロハ、あっちの準備は?」


「もうすぐよ」


 よし、下準備が終わりそうだ。念のため援軍も呼んでおいた。



 そしてサクラさんから連絡が入る。


「平原に布陣したわ。準備完了よ」


 フルムーン軍と魔物の群れは、お互いが豆粒以下の小さな小さな点に見えるかどうかという距離にいる。


「んじゃ号令かけて、打ち合わせどおりにいきましょう」


 ミナさんお手製おにぎりも食ったし、心が落ち着くお茶も飲んだ。

 正直このままだらだらしていたら寝そうだったので、早く戦闘に入って欲しい。


「がんばってねアジュ。応援しているから」


「こちらは任せて。期待以上の働きを約束するわ」


「好きに暴れてくるのじゃ。フォローはしてやるのじゃ」


「こちらはこのハンサムが守ろう。安心するがいい」


 みんな完全にくつろぎながら言っても、俺の心には響かないぞ。


「おっ、始まったのじゃ」


 魔法使いが一斉に呪文を唱え始め、まず結界で全軍を覆う。

 それと平行して攻撃魔法と敵を足止め・弱体化させるための魔法の詠唱もする。


「突っ込まないんだな」


「味方の数が少ないからのう。まず遠距離から敵を減らすのじゃ」


 敵は俺の知らないでかい蜘蛛とか一つ目の怪物とか、サーベルタイガーとかいかにもな化け物だ。

 全体的に動物っぽいやつがメインだな。四本足率が異様に高い。


「ちなみに敵ってどのくらい強いんだ?」


「前に黒いアヒルと戦ったじゃろ? あれより一段か二段上の相手から、ドラゴンよりは弱いくらいの相手までじゃな。まあ精鋭の多い正規軍が負けるような相手ではないのじゃ」


「強さがわかんねえ……九尾とかヴァルキリーと比べてどうよ?」


「桁が違いすぎるのじゃ。九尾はドラゴンが何億いようが絶対に傷をつけることもできぬ」


「ヴァルキリーは強いのから弱いのまで豊富にいるよねー」


 普段戦っている敵が初心者用雑魚か、銀河を何個まで一度に壊せるかというレベルのせいで中間の強さがわからん。


「おっ、攻撃に移るぞ」


 どでかい火球やレーザービームのような波動がばんばん飛ぶ。

 魔物にがっつり直撃し続けるので、ひとたまりも無いだろう。

 そこで爆弾化した幻影や魔物を爆破する。これでさらに混乱させる。


「やっぱり魔物って逃げないな」


 フルムーン軍を見つけ、真っ直ぐ突っ込む魔物郡。

 やつらは生物とは根本的に違う。野生の勘なんてないから、どんな格上だろうと向かっていくし、最後の一匹まで生物を殺そうとする。


「まあ魔物も種類は様々じゃ。今回は瘴気から生まれておるからのう」


「撃ちもらしがないから便利であろう」


「私とポセイドンで壁は作ってあるわ。逃がしはしない」


 聖域を囲むように、ポセイドンの水とイロハの影が染み込んでいる。

 逃げだそうとすれば、どちらかによって死ぬ。


「後列を止めるんだ」


「既にハンサム行為は行われている」


 真ん中から後列にいる幻影が突如半分ほど消える。

 動きの止まるモンスター達に、さらに幻影の爆弾が火を噴く。


「これで敵は半分ほどね」


「そもそも数千の敵で、あとは幻影だしな」


「サカガミくん。そろそろ敵がトラップに入るわ。交代お願いね」


 サクラさんから連絡が入る。結界に突っ込もうとした敵が、地面に敷かれた電撃の罠で痺れている。


「ちょっといじって威力を挙げておいたのじゃ。これで殲滅も容易じゃよ」


 リリアは魔道を極めていると自負している。その極めっぷりは、敵の攻撃呪文を空中で書き換えて回復魔法にすることも可能だ。威力を上げる程度たやすいだろう。


「はーい。そんじゃ行ってくる」


「いってらっしゃーい」


 サクラさんの突撃の合図で、腕自慢の兵が突撃を開始。

 そこで時間を止め、サクラさんの姿になって降下。


「じゃ、捕まってください」


「はい、お願いね」


 サクラさんを掴んで水の船までジャンプ。

 無事に送り届けたら、サクラさんがいた位置まで戻って時間を動かす。


「ほどほどに頑張りますか」


 サクラさんが着ている鎧は軽装だが、スカートじゃないので大げさに動いてもいいだろう。

 これは王族の鎧なんだろうか……えらい高級品なのは間違いない。


「はっ! せい!」


 優雅に一回転とかしながら、剣の真空波で雑に敵をぶっ飛ばす。

 あまりにもすぱっと斬れてしまうと凄さがわからない。

 サクラさんの実力も不明なので、派手さ重視でいこう。


「素晴らしき冴え! お見事ですサクラ様!」


「皆の者! 本来お守りせねばならぬサクラ様に負けてなんとする! 進め!!」


 なにやら皆様張り切っていらっしゃる。そして強い。


「ちょっと派手にやるか」


 両手のひらに魔力を溜める。そして一気に解き放つ。


「フ・ル・ムー・ン……波あああぁぁ!!」


 でっかい魔力の渦は魔物を数百匹巻き込んで、敵の奥深くまで突っ込み爆裂する。

 味方の兵から歓声があがる。よしよしアピールできている。この調子だ。

 シメに備えて影で上と連絡を取る。


「リリア、敵の動きを魔法陣で止められるか?」


「うむ、任せるがよい」


 オーケイ問題なし。周囲の敵は一掃した。さらに突撃しようとする味方を止める。


「止まりなさい。必殺技で蹴散らします」


 号令でぴたっと止まる。相当に訓練を積んでいるなこの人達。


「そのまま全員下がりなさい。そう、後五歩くらいかしら」


 かなり奥にいる魔物が魔法陣によってその活動を停止する。


「はっ!」


 それを見てから高くジャンプ。月を背景に空中で三回転。


『真・流星脚!』


 こっそり必殺技キーを仕込む。兵士が月明かりに照らされたサクラさん、っていうか俺に見とれている。全然嬉しくないけれど、まあいい。宣伝効果はあるってことだ。


『成敗!!』


「必殺! サクラキイイイィィィック!!」


 必殺キックで敵陣深くに突っ込んで大爆発を起こす。

 ついでに残っていた幻影も爆破してやる。


「これがフルムーン王家の実力ですわ!!」


 爆発を背にかっこよく味方まで歩く。よしよし大成功だ。


「さあ、残党を片付けますわよ!」


 高貴な女言葉を意識すると、何故かお嬢様になるな。

 ちょっとだけヒメノの気持ちがわかったぜ。


「魔物はあとわずかだ、一気に片付けろ。ハンサムにな」


「いや、今サクラさんなんでハンサムはちょっと」


 影から連絡が入る。もうちょいならここにいますかね。

 そして戦闘は死者を出すこともなく終わる。

 俺は引き続きサクラさんとして、やらなきゃならないことがある。

 黒幕をおびき出すという大役がな。

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