ようやく最終試練だよ

 ヴァンとのバトルも終わり、今は控室で寝っ転がっている。

 しばらく戦いたくない。まだ試験残ってんだけどさ。


「疲れは取れているはずなんだが」


 身体的にも精神的にも全回復しているが、それでも動く気にならん。

 ソファーが柔らかいからね。


「そらあれだけ本気で戦えば嫌にもなるじゃろ」


 なぜかリリアが膝枕しながら回復魔法をかけてくれる。

 止める気が起きないくらい眠い。


「やっぱり見てたのか」


「集中できるよう、声はかけないでいることにしたの」


「ガチバトルを邪魔したらいかんじゃろ」


「かっこよかったよ!」


「そうりゃどうも。二度とやらないけれどな」


 あんなもんが毎回あってたまるか。年一回でも断る。


「もうすぐ試験も終わる。そうすればしばらく休めるのじゃ」


「まだリストにずらっと並んでいるぜ」


 これ絶対終わらないだろうという量だ。

 休憩や他の選手の戦闘を考えても、まず終わらんはず。なんだこりゃ。


『勇者科全生徒は闘技場中央舞台に集まってください』


 なにやら意味深なアナウンスが来たじゃないの。


「しゃあないか……行くぞ」


 控室で簡単な準備を済ませ、行きたくない気持ちを押さえつけて出発。

 既に大半が集まっていたようで、少しの待ち時間で試験官達がやってきた。

 代表でシャルロット先生が話し始める。


「はい、まずはお疲れ様。第二試験は終了よ。まだ全部の試験を受けていない? 全部できるようには作っていないわ。死ぬ気で頑張れば可能かもしれないけれどね」


 やったら多かったからな。ヴァンですら全制覇はできなかったらしい。


「どの試練を選び、どのくらいクリアして、どのくらい怪我をするか。そういった選択を続けさせるものだったの。勿論、全員が最低限の数をこなすまで止めるつもりはなかったわ」


 自分が現状どのくらいの事ができるか体感させるためらしい。

 なんとなく全部クリアしなきゃいけない気がしていた。

 基本テストってそういうもんだし。


「大怪我をした子はいないわね。多少の怪我はつきものよ。それは仕方がないわ。けれどひとまず無事。それは誇りなさい」


 死人が出ていないことも、学園側の監督力と、生徒のレベルを伺わせる。

 やはり達人育成校。戦闘系じゃないやつも何かの才能があるんだろう。


「今回はバトル多めの試験だったわね。それでも自分のできることを探し、ちゃんとクリアできた。試験前より強くなっているはずよ。もうひと頑張り。これが最終試練」


 全員に地図が配られる。

 この闘技場からかなり遠くまでの道のりが細かく書かれていた。


「前に同じようなことをやったわね? その地図の通りにゴールまで辿り着くこと。この街はあと二時間後に封鎖、解体します。解体事業の訓練も兼ねてるから、邪魔にならないように出ていきましょうね。それじゃあ解散! 負けないでね!」


 以上集会終わり。さっさと準備して、舗装された道を歩く。

 地図には山道や川まで書いてある。どんだけ歩かせる気だ。


「出来る限り安全ルートで行くぞ」


「そうだね。ここまで来たら無事にゴールしたいもんね」


 ルートは複数。街道っぽい道が安全そうなので選択。

 他にも何人かが先を歩いているな。あいつらを囮にしよう。


「まーた悪いこと考えとるじゃろ」


「知らんな」


 見渡す限りの草原に石畳の道。道は四人並んで歩けるくらい広い。

 これはもう襲撃とか無理だろ。ゆっくりいけばいいさ。


「どうやら面倒な細工がされておるようじゃな」


 草原にぽこぽこゴーレムが生み出されている。

 地面を使って土ゴーレムか。これはちょっとめんどいぞ。


「退避場所がないな」


「少し先に休憩所があるわ。そこなら」


「じゃあ急ごう!」


 ここにきて敵を倒しながらダッシュという地獄。

 俺の体力の無さが一番出るのである。


「きっつ……」


「もうちょっと頑張って!」


「前の敵は倒してやるのじゃ」


 面倒だ。飛ぼうかな。流石に空中まで追ってこないだろう。

 長距離走と俺の組み合わせが絶望的だよ。


「最初から最後までゴーレムだなこの試験」


 屋根と柱と線路が見える。田舎の駅ってあんな感じかも。

 ちと狭いが、どうやら薄く結界が張られているようだ。

 先を進んでいた奴らもいる。


「休憩ポイントか」


「少し休みましょう」


 近くのベンチに腰を下ろす。疲れは回復薬で少しでも取ろう。

 走るというのは健康にいいらしい。

 しかし、こんなに疲れることは健康なのだろうか。


「哲学だな」


「アホなこと考えとるじゃろ。おとなしく休んでおるのじゃ」


「へいへい。こっから先は……何だこれ?」


 地図にも線路っぽいものが書かれている。

 路線は複数。がっつり森の中を通るルートと、川の横を通るパターン。


「乗り物があるみたいね」


「乗っている間は襲撃を避けにくくなるわ」


 狭い場所での戦いは面倒だ。

 最悪鎧と仲間の能力があるが、それでも他人がいると邪魔になる。


「お、来たのじゃ」


 外国の街で走っている、列車とバスの中間みたいな見た目のやつ。

 屋根には何も無し。車掌もいないみたいだ。

 線路に沿って魔力かなんかで動いているのだろう。


「せっかくだ、乗ってみるか」


「面白そうだね!」


 既に十人以上が乗り込んでいる。こりゃ結構混むな。

 まあ贅沢は言っていられん。別に金取られるわけでもないみたいだし。


「ちょっと、入ってくるつもり?」


「は?」


 なんか真ん中にいた緑髪の女がこっち来て難癖つけてきた。


「もうかなり定員オーバーよ?」


 たしかに混んではいるが、数人入れないようなものじゃない。

 次がいつくるかわからん。いいから乗せろ。


「嘘つけ詰めりゃいけるだろ」


「女の子でびっちりよ? そこに入ろうっての?」


「そうよ遠慮しなさいよ」


 女の取り巻きっぽい連中も騒ぎ出した。

 言ってる場合かよ……どうもこっち側の男女の意識みたいなものがわからん。

 ギルメンが渋い顔か呆れ顔だ。こっちと相手、どっちが特殊なんだろう。


「別にこれが最後じゃないでしょ」


「少し待てばいい。女性を先に行かせようとは思わないのか?」


 一緒に戦った上級生は、回復や援護すりゃ礼も言うし、こちが何ができるかちゃんと聞いてくれる。

 共闘というものができているし、むしろ勉強になる部分すらあったというのに。


「こいつらはどうなんだ? 女だぞ?」


 一応ギルメンだけ先に行かせるという方法も提案してみる。

 まあついてくるだろうし、それの対策はもう考えた。


「うぐぐ……詰めちゃったら襲撃に備えられないでしょ!」


 流石に同性の王族相手に罵声飛ばすのは無理らしい。

 言っていることもわからなくはないか。


「じゃあ屋根にでも乗るさ」


 平たい屋根だ。足場にはなる。もうそれでいこう。

 むしろ見渡せるやつがいた方がいいだろ。


「そうやってこっちにだけ戦わせようってんでしょ?」


「そこまでして女の子と一緒にいたいわけ?」


「はあぁ?」


 おかしい。絶対におかしい。

 仮にも勇者科で、ここまでバカでやっていけるはずがないだろう。

 ありえんぞ。こいつらだけ完全に世界観違う。裏の目的でもあんのか。


「あ……そうか。お前さ、もしかしてスパイ的なやつじゃないのか?」


「はあ!? 何言ってんのあんた!?」


「いやもう言っていることぐっちゃぐちゃだし。そういう関門として分断しようとしたんだろ?」


 これくらいしか思いつかん。マジでどういうことよ。

 先生側で、なるべく少数に分断して試練を与えるとか、そういう役割じゃないのこいつ。


「なるほど、一理あるのう」


「ないわよ! 無駄に場をかき回すの止めてくれる!」


「なんと無礼な! 身の程をわきまえろ!!」


 うーむ、取り巻きさんまでそうくるか。

 上級生なら自分が上に乗るとか言い出してもおかしくない。

 その場合は否定しないで任せる。なんせ上級生だ。戦いの勘ってやつがあるだろ。


「あ、あっちにも来たよ!」


 シルフィが指示す先に、同じタイプの色違いが来ていた。あっちは無人。

 こっちが緑なのに対して、あっちは水色だ。


「じゃ、俺達はあっちへ行くよ。四人の方が襲撃には備えやすい」


「はいはい。さっさと行きなさい」


 やはり保険をかけるか。女に背を向け、シルフィにだけ見えるように軽く合図。

 振り向いて時間が止まっていることを確認。


『バースト』


 メガネに触れて、もう一度背を向ける。


「おつかれ」


 そして、何食わぬ顔で水色側に来たわけだ。

 全長十メートル。高さ三メートル。横幅四から五メートルってところか。

 左右の壁に席が付けられているタイプ。椅子は複数座れるやつ。

 窓は大きめだが、ガラスが付いていない。外してあるのか。


「俺のせいかね……どうも納得いかんな」


「アジュのせいじゃないよ。あれはうん……ちょっとわたしもどうかと思う」


「あの人数で乗るのが危険なのは、俺も理解できるさ。しかしそこまでして乗せない理由がないだろ」


 いくら考えてもわからん。

 現状では敵対するより手駒として使うほうが有効なはず。


「結局あいつは先生側なのか?」


 悩みながらイロハの膝枕でちょっと寝そうになる。

 四人しかいないからと要求された。


「完全に忘れておるようじゃな。期末試験で戦ったじゃろ」


「……マジで?」


 そういやぼんやりと記憶の片隅に……いた気もする。


「当てこすりか?」


「動機はあるということじゃな」


「本当に危険だから分けたのか、試験官とつながっているのかも不明ね。それよりもさっき時間を止めたでしょう? 何をしたの?」


「念のため、あいつのメガネを爆弾に変えた」


 これでいざという時は潰せる。何もなかったら解除すればいい。


「ちょっとは躊躇しないと駄目よ」


「しても結局やるんだから無駄だろ? 俺にとっちゃお前ら……」


 そこで踏みとどまれた。俺は何を言おうとしたんだ。

 お前らが無事ならそれでいいか。

 お前らが理解してくれたらそれでいいか。

 いまいちわからんが、黙っていても怪しまれるな。


「ん? なーに?」


「お前らが矯正しようとしていることが意外だ」


 おそらくごまかせていない。

 何か言おうとして切り替えたところまでは察しているだろう。


「ゆっくり聞いていきましょうか」


 車内に逃げ場など無い。

 だが救いの手は差し伸べられた。救世主現る。


「む、また会ったな」


「お久しぶりです。あ……お邪魔でしたか?」


 入ってきたのはファーレンスと、確か試験で組んだ子だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る