サメと竜巻と私

 路面電車っぽいやつに乗って、のんびり景色を眺める俺達。

 発車前に乗り込んできたマオリと、試験で同じ班だった魔導士の茶髪メガネっ娘が一緒だ。


「そちらとは奇妙な縁があるな」


「それが良いか悪いか微妙なとこだぞ」


「だが共に戦える。二人よりも安心できるというものだ」


「みなさんの強さは試験で見ていますから。私も心強いです!」


 この子はミリー・アルラフト。魔導器メーカーの娘さん。

 魔法使いの杖をより先鋭化したものがメインだとか。

 詠唱・集中を助ける補助機のようなものらしい。


「気張らずともよい。景色でも見てまったりいくのじゃ」


「無駄に体力使うこともないからな」


「以前もそうだったが、そちらは余裕があるな」


「休んでいるだけよ。切り替えはできると楽だもの」


 何が起きるかわからない試験だ。休憩は大切なのよ。

 ファーレンスが来たおかげで、ギルメンが無駄にくっつかなくなったし。

 今のうちに少しでも体力を回復して、余裕があれば今後の対策でも考えよう。


「おおー! 見て見て綺麗だよほら!」


 シルフィが指差す外は、一面綺麗な川が流れていた。

 どうやら長い橋の上を走行中らしい。高さ五メートルくらいか。

 左右どちらも川だ。流れは列車と逆。


「ちょうど川の真ん中なんですね」


「流れは緩やかみたいだけれど、広いわね。陸が点よ」


「落ちたら泳ぐしか無いってことか」


 人並みには泳げるが、流石にこの距離を泳ぎ切れはしないだろう。

 しかしいい眺めだ。こういうのも悪くない。

 この世界の外出ってのは自然が多くて雄大だ。

 見たこともない施設もあるし、案外楽しいものさ。


「試験以外で来たかったな」


「アジュがお外に出ようとしている」


「いい傾向ね」


「試験が終わったら、四人で遊びに行ってもよいのう」


 外からの風が心地いい。久々の穏やかな時間だ。

 こういうのどかな場所に行くのは嫌いじゃない。

 人混みとか、他人に気を遣っての行動が嫌いなだけ。


「仲がいいんですね」


「それなりにな」


「おぉ……認めたよ」


「認めたわね」


 浮かれ過ぎかもしれない。ちょっと自重しよう。

 まだ試験中だ。ここで落ちては元も子もない。


「あんまり気を抜かずにいこう。このまま平穏に終わるとは思えない」


「賛成だ。特にこういった障害物のない場所では……む?」


 ファーレンスが外を見て妙な声を出す。

 つられてみんなで見てみると。


「何かいる?」


 水面に何かが出ている。

 魚か何かだと思うけれど、どうもこちらを追尾しているような。


「だね。何だろう?」


 疑問の答えはすぐに来た。豪快に飛び上がり、巨体が顕になる。

 線路の先にびたーん! と着地。こちらを睨んでいる気がするその姿は。


「あれは……サメじゃな」


「サメ!? 何で川にサメがいるんだよ!?」


 言ってはみるも、間違いなくサメだ。でかすぎるけれど。

 こっちの乗り物と同レベルなのは正直引く。


「あれ敵だよな?」


「でしょうね」


 サメさんの大きく空いた口に、青色の光が集まっています。


「冷凍光線じゃな」


「なんでそんなもん出せるんだよ!?」


 これもう哲学だろ。サメについての認識の差が如実に現れること請け合いですよ。


「イロハ、影で投げろ」


「了解よ」


 サメの下から影の大腕を出し、川にぶん投げてもらう。

 水柱と水しぶきが吹き上がる。


「なんか渦ができてますよ!」


 アルラフトの指差すその先には、サメのヒレがぐるぐる回って大渦を作っていた。


「何やってんだあれ?」


「いかん、サメ竜巻がくるのじゃ!」


 やがて渦が盛り上がり、天へと昇る竜巻へと変わる。


「竜巻ってそうやって起こすもんじゃないだろ!?」


 やはり異世界さんに常識を求めてはいけないのだ。

 魔法とかそういうのでなんやかんやで竜巻になるんだろう。


「飛んで来るよ!」


「飛ぶ? 何が?」


「サメがです!」


「サメが!?」


 小さいサメが数匹こっちに突っ込んでくる。

 その光景はギャグだが脅威に変わりはない。


「サンダースマッシャー!」


「炎槍迅!」


 無事魔法で迎撃。川へと落ちていくサメ。

 今度は遠心力を利用して、かつ自身もドリルのように回転しながら突っ込んできた。


「やるのう、サメであることを最大限活かしておるのじゃ」


「ねえよ! サメの長所ゼロだよ!!」


 面倒だ。まとめて消し飛ばしてやる。あの程度のザコなら俺でも狩れる。


「ライトニング……」


「待つのじゃ! そんなもんぶっ放せば衝撃で列車が倒れるじゃろ!」


「これもしかして、そういう試練か?」


 そもそも対処法がわからん。敵の攻撃手段が斬新過ぎる。


「ならこれだ!」


『ショット』


 ガンシューは得意でね。こっちに来てから遠距離戦ばっかりなもんで、むしろ精度は上がっている。

 リボルバータイプにして、一撃一撃を重く強く。連続で当てれば撃ち落とせるな。


「サメだけのことはあるわね。かなり硬いわ」


「流石サメじゃな」


「もうサメってなんだよ」


 全員でちまちま撃ち落とすも、何匹いるのかわからん状況だ。

 いつまでもこれを続けるわけにもいくまい。

 さっきの大型サメが出てこないのも不気味だ。


「まずい! 防御じゃ!」


 竜巻から青い光が横薙ぎに飛んでくる。


『ガード』


 防御魔法が間に合い、透明なシールドに青い光がぶちまけられていく。

 冷凍光線だ。竜巻の中から撃つのはずるくないかね。


「線路が凍ってます!!」


 先の線路が凍りついている。余波が届いたか。

 このままだと脱線する。


「炎で溶かせるか?」


「やってみるわ」


「線路まで溶けないように注意じゃ」


 イロハの火遁とマオリの炎魔法で溶かす。それをリリアが微調整。

 つまり俺とシルフィにアルラフトが側面から来るサメ担当。


「きついきついきつい!?」


「ウインドカッター!!」


「ホーリーシュート!」


 魔法撃ち続けるってのもかなり疲弊する。

 冷凍光線は何度も来るから、リリアに防御魔法を使わせつつ微調整してもらっている。

 そこにサメの迎撃はきついだろう。よって三人でなるべく撃ち落とさねばならない。


「む、すまない! 火加減を間違えたか!?」


「シルフィ、巻き戻し!」


「わかった!」


 溶けた場所をシルフィに巻き戻させる。細かい時間操作に集中させよう。


「発想を変えよう。サメの破片のでかいやつだけ撃ち落としてくれ」


『ソード』


『ストリング』


 例の剣から性能だけを付与した糸を作る。

 それを竜巻がある方向へと向けて、糸の壁を作り出す。

 片方にしか竜巻がないことが救いだ。


「後はこれを維持できれば……」


 魔力で糸の動きや形は維持できるが、これはちょいと神経使うな。

 だが効果は抜群。突撃サメを斬り刻む。


「大雑把に狙って破片を散らしてくれ」


「わかりました! ウインドブロウ!!」


 大きな風の塊が、糸でばらばらにされたサメの破片を吹き飛ばす。


「これである程度は軽減できるはず」


 時間にすれば十分程度なんだろう。だが俺には三十分以上に感じる時間だった。

 竜巻が横ではなく後ろへとずれていく。やっとこのゾーンも終わるのかと思ったが。


「う、うしろ!!」


 何事かと目をやると、最初のでっかいサメが突っ込んでくるではありませんか。

 竜巻が橋をぶっ壊している。移動できたのかよ。


「アグレッシブだな」


「こっちに滑ってくるよ!」


 どうやらサメ親分は、正確には竜巻から射出され、口から吐く冷凍光線で橋の上を滑ってきたようだ。

 どんだけ知恵回るんだよ。


「よし、集中してあいつを消す。線路の氷は?」


「もう溶かしたわ」


『エリアル』


 乗り物が倒れてはいけない。なら浮かせばいいじゃないか。

 そんな発想でエリアルキー。


「ここからはしばらく直線だ。あいつに魔法ぶっ放しても、浮いているからまっすぐ飛ぶし、線路も続く」


「荒業じゃな。しかしよい方法じゃ」


 糸を回収して魔法の準備。

 リリアとイロハに防御魔法と影で竜巻から飛んでくるサメを防いでもらう。

 ついでに走行中に破壊されないように頼んでおく。


「全力でいくぞ」


「無論だ。ここで終幕としよう」


「頑張ります!」


「よーしいくよー!」


 残りの四人で最後尾へ。準備完了。用意周到。

 後は全力の攻撃魔法を叩き込む。


「プラズマイレイザー!!」


「シャアアアァァァイニング! カノン!!」


「唸れ愛槍! 鳳凰烈火あああぁぁぁ!!」


「風よ、我が魔力に呼応せし恵みの風よ。我らに仇なすものへ、永久に滅びの風が吹かんことを願う……サイクロンクラッシャー!!」


 俺とシルフィの魔法が合わさり、一本の眩い線となって迸る。

 同時に巨大な火の鳥が、魔力で作り出された暴風の中心に入って敵へ飛ぶ。


「うおおぉぉ!?」


 当然だが大爆発。その威力も尋常ではなく、サメどころかその後に控えている竜巻までも貫いて、光と煙と爆音が轟く。


「おおぉぉ……やりすぎたか?」


 四人の魔法の威力が想像を遥かに超えていたからか、なんとか巻き込まれること無く前方へとぶっ飛んだ列車は、そのまま線路に乗って走り続ける。

 こいつも大概丈夫にできてやがんな。


「はあぁぁ……なんとかなった。助かったリリア」


 エリアルで飛ぶところまでは俺だ。だが飛んで、エリアルの効果を維持するにはリリアのサポートが必要だった。


「そこまで気が回るようになったのじゃな」


「シルフィとイロハが動いているのもわかったぞ。すまない」


 衝撃波がこちらに届かないよう、時の壁を作ったり。

 列車が線路から外れないように、影の手が大量に伸びて位置調整をしていたのも知っている。


「ふう……頑張ったよ」


「今回は本当に疲れたわ」


 みんな疲労の色が濃いな。無理もないか。

 ほぼ神の力を使わずに戦わされる。それがかなりきつい。

 安心したのか、緊張の糸が切れたのか、全員席に座って一休み。


「偉いよ。偉いし凄い。助かったぜ」


 ここはちゃんと褒めておこう。

 鎧使わなくても切り抜けられたのは、こいつらのおかげだ。


「魔力を感じ取り、役割がわかる。成長しておるのう」


 はあ……水だけでも飲むと癒される。この試験かなりきついな。


「ファーレンスとアルラフトもおつかれ」


「お、おつかれさまでしたあぁぁ……」


「お疲れ様。良い経験ができた。無事切り抜けられたことを喜ぼう」


 終わってみれば全員無事だ。怪我もない。

 最初の関門突破ってところか。

 次の駅に着くまで数分。一応警戒はしていたが、みんな口数も少なく、疲れを癒やすために背もたれに体を預けていた。

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