ガチバトルとかしんどいです

 ヴァンとのバトルは続く。続いて欲しくないけれど。


「んじゃ今度はオレからいくぜ?」


「来て欲しくないんだけれどねえ……サンダースプラッシュ!」


 とりあえず保険だ。舞台上に電撃の霧を散布。

 リベリオントリガー状態の俺なら、霧のどこを抜けて来るのか探知できる。


「オラア!」


「ふっ!」


 振り下ろされる黄金剣より早く、横に飛んで回避。

 壊れた舞台の破片が飛んで来るので、更に下がる。

 一撃で霧がほぼ消えたか。もう一度撒き散らしながら。


「シャラア!!」


 背後から横薙ぎの一閃が来る。

 避けられない。どうやっても回避が間に合わないなら。


「ぶちかます! 雷光一閃!!」


 カトラスの魔力ストックを三個全部上乗せして放つ雷光一閃。

 リベリオントリガーで身体能力も上がっているというのに。


「ぐ……だりゃあ!!」


 弾き返すだけでギリギリだ。ヴァンが動く前に離脱。


「やるな……今の霧もいい感じにうざいぜ。もっと全力で来な!」


「しんど……俺はインドア派だっつってんだろうが」


「青く光ってるインドア派ってなんだよ?」


「夜にライトがいらないから、読書しやすいとは思いませんかい?」


「普通に明かりつけろよ」


 ごもっとも。さてちょっとだけ呼吸も整った。

 あっちはそれを承知で待ってるのかね。

 鍔迫り合いの瞬間、剣を通して電撃も送っていたし、実は痺れてくれていないかな。


「爆剣!」


 魔力ストックが三個貯まったのを見計らってヴァンが消える。

 やっぱりこいつも超人か。


「いよっと!!」


 探知完了。真横か。

 大きくバックステップ。ついでにサンダースマッシャーを撃っておく。

 それを剣で弾き飛ばしている。どうやら攻撃すると剣が爆発する技っぽいな。


「つまりくらっちゃまずいわけだ」


「そう言うな。何事も体験だぜ」


「御免こうむる」


 もう一度雷光一閃と爆剣がぶつかる。

 衝撃に耐えられているのは、俺の体が魔力の循環で満たされているからだろう。

 それを実感できるほど、一撃一撃が重い。


「ええい鬱陶しい。お前お上品な剣術に妙な格闘術混ぜているだろ」


「剣は貴族時代に習った。あとは実戦で磨いたのさ!」


「変な昇華しおってからに」


 シルフィが使う剣術は、王宮で習ったものと騎士科のもの。

 何となくそれに似ていたので、尋ねた結果がこれだ。


「ウラウラウラウラウラ!!」


「やかま……っしい!」


 カトラスを両手で持ち、上段斬りを受け止める。

 うっげ、かなりきつい。爆発もうざい。だがここがチャンス。


「これがほんとの奥の手ってな!!」


 体内で魔力を練り、腹の位置から雷の拳を飛ばす。

 小さければかわされる。顔を狙っても、胴体を狙っても効果は薄いだろう。

 だからスパイラルナックルの要領で、特大のやつを飛ばす。


「うぐっ! こんなもんじゃ、オレは倒せねえぞおおぉぉ……」


 巨大な螺旋の球は見事にヒット。

 それでもヴァンは少し後ろに下がっただけで耐えている。

 そこまで想定済み。

 そしてこれは俺の魔力で作った球なのだ。


「なにいぃ!?」


 雷球の中へ飛び込み、そのまま剣に全魔力を集中。

 ストック全部消費。サンダーシードもフロウもかけて。

 今できる最高の雷光一閃を叩き込む。


「オラアアァァ!!」


「ふおぉ!?」


 雷球の破裂もおまけで食らわせてやる。

 これでダメージ無かったらしんどいぞ。


「オラッシャア!!」


「しまっ!?」


 まだ反撃の余力が残っていたらしい。

 吹っ飛ぶ瞬間、カウンターというより捨て身の爆発蹴りを食らってしまった。

 お互いに回避などできず、まともに食らって吹っ飛んでいく。


「うっ、だっ、ぐぐぐぐ……」


「ぐはっ!!」


 受け身取る余裕も知識もほぼ無い。

 舞台に背中から落ち、そのままごろごろ転がった。

 全身クソ痛いわボケ。体の空気全部出たぞ。


「げほっ! うえっほ! ああもう……マジかこの野郎。どんな執念だよ」


「うっげえぇぇ……いってえ……こっちのセリフだバカ野郎。無茶苦茶しやがって。てめえの攻撃魔法の中に入るとかどんな発想だ。下手すりゃ自爆するだけだぜ」


 褒められても起き上がる気力が湧かない。

 リベリオントリガーが切れちまった反動か、全身の痛みが取れん。

 かろうじて首だけ向けると、ヴァンも倒れているが、なんとか上半身を起こそうとしている。


「普段の俺じゃ無理だろうな。なんていうかさ、雷と一体化している気がしたんだよ。できるって確信があった。理由は知らん」


「魔法の才能……いやここまでくればセンスの問題か。大したもんだぜ。誇っていい」


 言いながら、苦痛で歪んだ笑顔を向けてくる。

 もう立ち上がりそうじゃないか。どんだけ打たれ強いんだよ。


「お前も体力化物並だな。もう起き上がれるのか。こっちゃ頭ふらふらしやがる。誇っていいぞ」


「鍛え方が違うんだよ……クソ痛えけどな。アウトドア派の意地だ」


「そりゃまた……ああダメだ会話思いつかん」


 時間稼ぎも無理か。ここらで最後の奥の手かな。


「青くなくなっちまってるな」


「まあな。だからあれだ……本番いってみるかい?」


 これで全部伝わるだろう。後は返事待ち。


「そうだな。もう十分楽しんだ。また素でやろうぜ」


「無理だっつうの。んじゃ回復するか」


『リバイブ』


 リバイブキーでお互いと、ついでに舞台も蘇生。


「ありがとよ。便利だなそれ」


「助けられているよ。はあぁ……あーもう寝たい。このまま寝たら誰か運んでくれんかね」


 呼吸すらしんどかったのに、体も気分もすっきりだ。

 それが逆にもう動きたくないと強く感じさせる。


「こっちは準備しちまうぜ。来てくれソニア!」


「うーわ。やっぱ融合ありかよ」


 ソニアが現れ、ゆっくりと二人の姿が光りに包まれていく。


「制限付きでな。そっちもだろ?」


『ヒーロー!』


「ああ、実は俺もそうなんだよ」


 鎧を纏って立ち上がる。戦闘準備完了。

 あちらさんもヴァニア形態だ。あの姿は魔法剣士タイプだっけか。

 黒と赤でなんともダークヒーロー感出してやがる。


『アジュくん大丈夫? ヴァンが無茶したみたいだけど』


 ソニアの声がする。そういや会話できるんだよな。


「問題ない。もう回復した」


「うっし、全力で行くぜ」


「試験だって忘れんなよ? どうやったら終わるか知らんがね」


「わーってるよ。んじゃいっくぜえええぇぇぇ!!」


 当然の権利のように初手から光速を超えた。

 まずは単純な格闘戦。

 受け流し、ぶつかり合い、フェイントを入れ、時間差で攻撃してみたり。


「さっきまでの素人武術じゃなくなったな」


「お望みとあらば何でもできるぜ」


 鎧の知識と経験さえ使えば、その場で最適な動きを望む形で作り出せる。

 漫画とかによくある、パワーは上なのに、熟練者に経験で裏をかかれるというパターンすら無くせるわけだ。


「爆裂! 魔導乱舞!」


 魔弾のめった撃ちか。

 手に魔力を集中。軽く手首のスナップを効かせ、くるりと受け流す。


「うげ……急に技術使い出しやがって!」


「新鮮だろ? さっきまでの俺は素人臭さマックスだったからな」


「ならこいつはどうだ!!」


 巨大な火球が飛んでくる。

 受け流してみろってことかな。いいだろう。


「爆裂!」


 火球が弾ける。だが想定済み。爆風さえ受け流せば。

 そう思ったが、どうやら爆発したんじゃなく分裂したらしい。


「鎧って凄いな」


 そんな無数の火の玉を、飛んできた順に受け流し、別の玉にぶつけて爆発させていく。

 ちょっとパズルゲームみたいで面白い。


「火属性? なんというか……変質している? これレア属性か?」


 鎧着て触れていると分析もできる。

 メインは火だろう。だが複数属性持っているやつや、工夫で魔法を増やすタイプもいるし、これはちょっと別物だ。


『ヴァンは火がメインなんだけど、体質と修行で火よりも爆発という現象を操る方に特化していったのよ』


「人体実験とかされたって話したろ? あれでうまいこと変わったんじゃねえか?」


「お前そういう挑発材料にしにくいエピソードをこの場面で言うなって」


 ヴァンには世話になっているし、本人に何の罪もない部分を突っ込んで話題にはしたくない。

 コケにしていいのは、こっちに理不尽な喧嘩売ってくるクズだけだ。


「アジュ…………お前に痛む良心とかあったのか……」


「恋人がこんなこと言ってますよソニアさんや」


『ごめん、私もちょっと思った』


「味方がいねえなあもう……」


「そりゃ試合中だからな」


「それもそうだな」


 会話中も光速を超えての格闘戦が続く。

 俺達はなぜ普通に会話できるんだろう。考えるだけ無駄か。


「魔法剣でもお見舞いしますか! いくぜソニア!」


 いつかの共闘で見せた、鞭状にどこまでも伸びる赤い魔法剣か。

 さっきの俺の動きにあてつけてんな。それならこっちもいくぞ。

 鍵を取り出し、久々に力押し以外で鎧を使う。


『バースト』


 今度は俺の番だ。魔弾に爆破性能を付けて連射する。


「やられてみるとうざいだろう?」


「甘えぜ!!」


 魔法剣を回転させ、ラクロスの棒みたいにしている。

 なにやるかわかっちまったので対策を取ろう。


「オラア!」


 魔弾を魔力で包み、横に振って遠心力も付けて返してきた。

 数発爆破させてみたが、全体の勢いは止まらない。


『グラビティ』


 とことん鍵シリーズでいこう。

 中間地点で重力五十倍にし、巨大な魔力が爆音と煙を伴って舞台を揺らす。


「はっ!!」


 あえて真正面から行く。ヴァンならそれを察するはず。

 床に足をつけないようジャンプして一直線。

 煙の中を進むが、別に吸い込んでもむせないし、害はない。だって鎧だし。


「こっちもいくぜえ!」


 ヴァンが突っ込んでくる瞬間。利き足なんだろう、右足を大きく踏み込むその瞬間を狙う。


『ソフト』


 一歩踏み出そうとしたところで、床そのものを猛烈に柔らかくした。


「うおぉ!?」


 ずぶずぶと沈んでいく右足。股関節くらいまで沈んでいるな。


「俺に正々堂々という言葉はない!!」


 このままだと俺の飛び蹴りが炸裂するわけで。

 そうなりゃ動けないヴァンがやることは、会場ぶっ壊すか。


「全力! 爆炎波!!」


 攻撃魔法を撃ってくるかだよな。

 もう次の鍵は用意してある。


『リフレクション』


「お返しだ」


 反射でそのまま撃ち込んでやる。流石に予想外だったのだろう。


「うおっ!? おま、それはああぁぁ!?」


 本日一番の大爆発。

 素の状態なら余波だけでかなりダメージくらうなこれ。


『ミラージュ』


 さらに分身を作り出し、どこから襲って来られてもいいように陣形を整える。

 この程度で倒れるほどアウトドア派は脆くないだろう。


「いててて……やってくれたな」


「無傷か。自信あったんだけどなあ」


「いいやきつかったぜ。だから選手交代だ」


 いつの間にか足も抜け、姿が変わっている。

 あの状態は確かクラリスと融合したやつか。


『ついでに回復したわ~。次はわたしの番ね~』


「そうかい。なら俺も鎧を変えるとしようか」


 次はシルフィかイロハか。最後はリリアかな。


「はいそこまで!」


 シャルロット先生に止められた。

 楽しくなってきたところだったのに。


「鎧と融合使って十分経ったわよ。そこまで!」


 そういや時間制限とかありましたね。


『あら~出番は~?』


「んじゃ勝負もここまでだ。今後何があるかわからんし」


 鎧解除。ここで全部使うわけにはいかん。

 俺が解除すりゃ、あっちのやる気もなくなるだろ。


「……しょうがねえなあ」


 やはり融合解除。ヴァンとクラリスは不満気だ。

 消化不良ってか不完全燃焼なんだろう。


「久々に暴れられて楽しかったよ」


「オレもうちょい暴れてえんだけど」


「別の試合でやれ。俺達は合格第一だ。そういやこの試練どうなるんです?」


「両方クリアよ。戦闘しろとは書いたけど、勝てとは言っていないわ。成長が見られて満足満足」


 なるほど。突破できたんならそれでいいや。

 怪我もなく無事に終わったし、問題なし。


「んじゃここでお開きだ。お疲れ」


「お疲れさん。またやろうぜ」


「絶対やだ」


 そんなこんなで無事終了。

 素の状態でどれくらい無茶ができるか知れたし、得るものはあった。

 一瞬だけど、リベリオントリガーの中にヒントがあった気がする。

 まだまだ魔法を進化できる。そう確信した。

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