第六章 外堀が埋まっていく フウマの里編

シルフィちゃんタイム リターンズ

 目が覚めた後、ヒメノ達に事情を話してから一人で二度寝を決め込んで翌日。

 なんか目が覚めてしまった。しょうがない起きよう。


「おはよーアジュ。今日は早いね」


「おう、まだ九時か。休みなのにもったいねえ」


 朝飯の片付けをしているシルフィに会う。

 俺の飯は大抵一人分作り置きしてもらっている。朝起きるのめんどいのさ。


「いっつも起こしに行くまでずーっと寝てるのにね」


「そうだな、寝なくても会えることがわかったしな」


「どういうこと?」


「単純に腹も減った。それだけだ」


「ご飯食べたら寝る気だね?」


「そいつはどうかな? その時の気分に流されるからな。予定は未定だ」


「受け身だねえ……」


 朝ごはんはサンドイッチと牛乳。サンドイッチの具が、平べったいつくねとキャベツにトマト。そしてチーズだ。チーズは好物なので入ってて嬉しい。


「俺がしっかりとした目的意識を持って動くことなんて、一年に一回あるかどうかだぞ」


「増やそう。がんばって増やそう」


「どうせ面倒事が起こるしなあ……結局イベントが起こるなら、なんとなーく巻き込まれちまって、なんとなーく超パワーで簡単に解決しつつまったり生活したい」


 これは嘘偽りのない本音。むしろトラブルに巻き込まれることもなく、好きなことをやりつつスローライフでお願いします。


「そうだな……明日から増やしていこう」


「だーめーでーすー。今日は遊びに行くよ」


「せっかく週に一度の休みなのに?」


「だからだよ! リリアはヒメノと出掛けたし。イロハはヨツバとフウマ会議。つまり……お久しぶりです! シルフィちゃんタイムの時間がやってまりいました!!」


 どうでもいいけどタイムの時間って微妙に違和感あるな。


「この時間を大切にするよ! どうせリリアといちゃいちゃしたんでしょ?」


「いやまあちょっとだけな」


 この質問は絶対に来るという確信があったので、何十回も頭の中で練習しておいた。ウソはつかず、でもデリケートな問題なんで俺だけで言いふらすわけにはいかない。


「おおっ、否定しないね! いいないいなーやっぱりなにかあったんだ!」


「悪いがリリアの承諾なしに言いふらしたくない」


「優しいねー。じゃあリリアも一緒の時に聞かせて欲しいな」


「リリア次第だな。ごっそーさん。んじゃ出かけるか」


 問いつめられる前に行動しよう。シルフィは結構カンがいいからな。

 そんなこんなで学園探索に行くことになった。



「はい、ここは大図書館です」


 シルフィの声が小さい。周囲に気を使っているんだろう。

 こういうとこでちゃんとお姫様なんだよなあ。


「本当に広いな」


 大図書館は高ーい本棚と読書スペースのある静かで涼しい場所だ。

 学園施設全般に言えることだが綺麗で豪華なんだよな。


「アジュは暑いのダメでしょ? ここ涼しいよ」


「いいね。嫌いじゃない。でかい宮殿みたいに広いなここ」


「広いよー。ここなら各国の歴史とか風土とかも調べられるし、暇潰しにはいいよ」


 こっちの知識がないからありがたい。リリアに聞いたほうが早い気もしないでもないけども。本は嫌いじゃないのでたまに来よう。


「そしてこれがわたしのオススメ。小説だけど適度に短くて挿絵が多いから空き時間にでも読むべし」


 それからしばらく二人で並んで本を読んで過ごす。素晴らしい。静かに、落ち着いて、それでいてだらだらしながら他人と過ごすというのは不可能だと思っていたよ。

 シルフィの気遣いもあるんだろうけど、これはすごくいい。

 俺が女の横でリラックスできているとか奇跡だな。



「はい、続きまして温かいお昼ごはんだよ」


 続いてこれまた落ち着く店に来た。喫茶店と飯屋の中間みたいな場所だ。


「たまごとしょうがを入れてじーっくり煮込んでお米を入れたスープです。温かいお茶と一緒にどうぞ」


 シルフィが頼んでくれたものをスプーンで一口食べる。素朴だけどそれがいい。

 そうはっきり言えるくらいに優しくて身体が温まる飯だ。


「これは……雑炊?」


「アジュのとこだとぞーすいっていうの?」


「いや、似たものってだけかもしれん。しかし美味いな。なんかほっこりするよ。食べ物で癒されるって凄いな」


「お茶も含めて熱いんじゃなくて温かい温度っていうのもポイントなのさ。疲れた人が心身ともに癒されに来るお店なんだよ」


「いやマジで恐れいったよ。ここのシェフは凄え。人間を癒やすってことを本気で考えてんだろうな。一口ごとに体に染み渡って……元気になるっていうよりは安らぐって感じだぜ」


「気に入ってくれて何よりさ。アジュは疲れてたみたいだからね」


「俺がか?」


 そらいつも慣れないことばっかりで疲れはするけど、そんな疲れてるように見えたかね。


「リリアを助けるために頑張ったんでしょ。助けられたことはよかったけど、それまでにすっごく頑張ったはずだよ」


「ん、まあな。正直鎧着てても手間かかったぞ」


「うわあ大変だったね……それは後で聞くとして、助けられて嬉しいなーっていう気持ちで達成感があると、疲れは気にならないかも。でも達成した物事が大きければ大きいほど負担はかかっているんだよ」


 言われてみりゃ確かにそうだ。疲れにさらに疲れを上乗せしているわけだ。


「アジュはそういうのに鈍感っていうか経験があんまりない? っぽかったからさ。一回ちゃんと癒やされて欲しいなって」


「それじゃ、今日はそのために?」


「ふふ~落ち着ける場所を案内してみました。どうだー」


 どこまでも真っ直ぐな笑顔でそう言われた。ここまで他人に何かして貰ったことなどあっただろうか。この世界に来る前にはなかっただろう。なんだろうな、気を抜くと泣いてしまいそうで、どうしたらいいかわからん。胸がいっぱいになるとはこういうことなのだろうか。


「ありゃ、だめだった?」


「……いや、ダメじゃないさ。ありがとうシルフィ。俺はこういうことをしてもらったことがないからさ、どう受け止めていいのか、今のこの気持ちがなんのか言い表せない。でもとにかく嬉しいことは確かだ。他に言葉も見つからないがありがとうシルフィ。感謝してる」


「あう……そう素直に言われるとこっちが照れちゃうよもう!」


「たまには素直になってみるかと思ってな」


「好意はちゃんと表すべし! わたし達はどっか行ったりしないからさ」


 結構見られてるもんだな。俺に合わせてくれる人間というのは、こうも優しく映るもんなのか。今のシルフィは眩しさ八割増しだわ。


「気をつけるさ。つっても、いきなりは無理だけどな」


「今日出来たんだからだいじょーぶ。次も素直にさせてみせるよ!」


「そりゃいいな。楽しみにしてる」


「ふっふっふー楽しみにしているがいいよ! こういうの新鮮でしょ?」


「ああ、どう表現していいのか検討もつかないのが、ちょっとばかし気になるけど」


 こういうときのお礼の言葉とか全然浮かばないさ。


「いいんじゃない? これから慣れていけば。ふふ~それにしても、素直でしんみりしているアジュってなんか新鮮だね」


「もう一生見ることはないかもな」


「ならゆっくり食べていいんだよ。ご飯は落ち着いて食べるものです」


「そうだな。もうちょっとゆっくりするか。食べたらどこに行くか決めてあるのか?」


「んーそうだね……夕方になるようなら帰ろうと思ってたし……どうしよっか?」


 どうやら今日のメインはここだったらしい。俺は大満足なんで一切問題はない。

 今は一時くらいか。まだ帰るには早いだろう。


「適当に依頼でも探すか?」


「おおっなぜかやる気を出したね」


「なぜだろうな。そして今日までしか持続しない気もしている」


「なら今日行くべし。食べたら行こっか」


 雑炊食って健康になった気がするしいけるいける。多分だけど。



「人が少ない気がする」


 やってきましたクエストカウンター。

 なんだかちょっと依頼も人も少ない気がするぜい。


「もうすぐ連休だからね。休みを増やすために悪人狩りに行っちゃってるんじゃない?」


「悪人狩り?」


「リゾート地に悪い人とかスラムがあると安心して遊べないでしょ? だから休みの前に現地に行って、悪人や魔物を根こそぎ狩るのさ!」


 別に貧民街を潰して皆殺しにするわけじゃない。あくまでスラムの悪人だけを狩るらしい。貧民街で炊き出しやったりすることもあるらしく。

 量と質と速度の訓練として、調理科が戦闘系の科の護衛のもとで行ったりするとか。


「毎年やってたらその期間だけ逃げられねえかそれ?」


「ちゃんと年中依頼はあるよ。でもまずスラムと悪人さんが年々減少し過ぎなんだよね。いいことなんだけど、悪人は絶滅するんじゃないかって」


「そらいいこったな。じゃあ戦闘系の科はそれに行ってるのか?」


「そうだよー。この依頼のいいところはね、ギルド合同で行けて、狩った悪人の持ち物、まあ財布とか金庫とかだね。そういうのを全部山分けできるのさ! 数日早くリゾート地に行けて、遊ぶお金がちょっと増える! そんなわけでDランクから上のギルドに大人気!」


 FやEランクは危険なので合同でも行っちゃダメなんだとさ。

 前にリリアに聞いたが、Dランクは低いイメージがあるけれど、RPGゲームならラスボス二個前のダンジョンとそこのボスくらい四、五人いれば倒せる程度に強いらしい。そら雑魚には負けないわな。


「遠出とか……絶対したくねえなあ……」


「遠い目してないで学園内の依頼を探してみよう」


 俺達は連休前に終わる依頼を探し始めるのだった。

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