交友関係をまとめてみよう

「お、サカガミとフルムーンか」


 金髪に黒いケモミミ。ホノリ・リウスだ。常識人枠のホノリ・リウスさんだぜ!


「おっすリウス」


「おっすリウスさん!」


 俺の真似をしている時のシルフィは、微妙にアホの子っぽくて可愛さ三割増しである。これで座学とか常にトップクラスなのが謎だ。

 お姫様の英才教育ってのは余程優れたシステムなんだろう。


「おっす。今日は二人なんだな」


「そうだよ! 貴重な二人っきりだよ!」


 物凄い笑顔だ。そこまで喜んでくれると、なんもしないのは申し訳ない気がしてきたよ。


「そんな貴重な時間で依頼探しさ。しっかしFランクの依頼ってのは代り映えしないな」


「ま、そういう簡単な仕事をまとめてるんだろう。Eランクまでは大差ないはずだ」


「リウスはFランクなのか?」


「いんや、個人でEランクだよ。正直そんなに強くないんだ」


「普通に天使ぶっ飛ばしてなかったか?」


「みんなのサポートありきだよ。強化版には勝てなかったし」


 あれは無理だろう。普通の俺なら白い天使も無理っぽい。


「あんなん勝てなくて普通だろ」


「一番強いサカガミがそれを言うのか……」


「俺は鎧で強いだけ。魔法も二つしか使えねえよ」


「修練はしてんのか?」


「魔法はそこそこやってる。庭で威力や範囲の調節とか。連射や出しっぱなしにして耐久力つけたり」


 魔法の訓練は何種類も一気に覚えようとしてもなかなか難しい。

 そもそも自分に向いているかどうかもわからないし、使いこなせないなら覚えていないも同じ。


「ちゃんとやってるんだな」


「まあ魔法使えるの面白くてな。俺にしちゃ珍しく訓練がイヤじゃない。そろそろ別のも覚えたい……かも」


「今修行がめんどくさそうで迷ったでしょ?」


「まあな。でも覚えたいのは本当だ」


 遠距離攻撃というのはそれだけで有利だ。まだまだ知らない魔法を覚えたい。


「後衛になるなら俺をサポートするなにかが必要だな」


「わたしやイロハがいるよ? 守るよ! 起きてから寝るまでピッタリガードだ!」


 俺にプライベートというものはないのか。最近減ってるなプライベート。

 それが苦にならない程度には、こいつらに慣れてきたんだろう。


「そもそも俺一人で挑むクエとか試験があったらダメだろ。戦闘では頼るけど、試験なんてなにが来るかわからんし」


 勇者科の試験は読めない。前回がプールで石集めだったし。

 この学園の試験は予想すんの無理じゃねえかな。


「ゴーレム作るタイプの魔法か……じゃなきゃ召喚科にでも行ってみたらいいんじゃないか?」


「召喚科ね……ちょい興味あるな。召喚も魔法だよな?」


 魔法科と召喚科は別クラスだ。同じ魔法とついているのにな。


「基礎講習が終わって許可でないと行けない科があるんだよな?」


「そうだよー。魔法科は魔法全般の基礎講習もやってて、そこから応用に行くからね。許可が出ないと錬金とか召喚なんかの複雑な魔法はやっちゃだめなんだよ。危ないからね」


「精霊魔法なんかも、精霊との接し方や自分と波長が合うやつを探したり、連携取れるようにしたりで時間を使う。だから科を分けないとそればっかりになるんだよ」


 魔法科が下位クラスというわけではない。

 魔法使いの入り口が基礎講習だと覚えておけばいいか。


「選択肢は増やしたいし、んじゃまずは基礎終わらせるかな」


「おおぉ……アジュがやる気だ……やる気出した……」


「そのくらいで驚かれるとか、お前らの日常はどうなってるんだ」


「スローライフだよ。のんびりまったり。んでもってたまーにヴァルキリーとかボコる」


「まったりできてないぞそれ」


 俺も迷惑してるよ。ヴァルキリーマジで邪魔くさいんだよ。


「よし、俺の目標は魔法を覚えるに決定だ。基礎重点的にいこう」


「私もまだ終わってないんだよなあ」


「わたし半分くらい終わっちゃってる……一緒に行けない……シルフィちゃんタイム終わっちゃう……」


「別にちょっと俺が最初の講習終わらせたらいいだけだろ」


 半分ならすぐ追いつく。一週間かからないだろう。完全に魔法科オンリーならもっと早いんじゃないかな。リリアが魔法の素質はあると言ってくれたし。


「ダメです! アジュを一人にするとすぐ女の子と仲良くなります!」


「なるわけねえだろ。俺が知らない女に話しかけたりすると思うか?」


「女の子から話しかけてくるかもしれないじゃない」


「んなもん会話続かないから嫌われるって。安心しろ」


「慰め方がおかしいぞサカガミ」


 残念ながらこれが一番信用されるのさ。楽だしこれでいいと思っているよ。

 とりあえずシルフィをなだめることに専念しよう。


「だっていっつも女の子が出てくるじゃない……」


「ちゃんと男の知り合いもいるだろ」


「じゃあどれくらいいる? 今言える?」


 なんか必死だなシルフィ。そんな不安にさせるようなことあったか? 

 ホノリに助けてくれという視線を送ってみる。自分でなんとかしろという目で見られた。壁に寄りかかって完全に聞く姿勢だよ。俺がなんとかするしかない。


「えー……まずヴァンだろ。あいつはダチだ。知ってるよな?」


「うん、ソニアともお友達だよね」


「そう、友達だ。ソニアとクラリスはヴァンと正式に付き合ってるから。知り合いの女の子といってもセーフ枠だろ?」


「ん……そうだね。アジュは人の恋人を取ったりしないし。恋人がいる女の子は除外です」


 よし、これでちょっとは減るはず。記憶を辿れ。

 思い出すんだ。男友達もいるはず。


「ファングも知り合いだな。一緒にクエやった。クエといえばリックもそうだ。今でもたまーに屋台に行く」


「三人だね。他には?」


「えー………………おぉ?」


「アジュ……言い出しといてなんだけどごめん」


「やめろ謝るな。元々俺は友人とかいないタイプの人間だし寂しいと思ったことはない」


 二人から露骨に哀れみの視線が向けられる。ぐっさぐさ刺さってるぞー。


「いやマジで友人とか多くても邪魔だろ。何人もいたら休日に遊ばなきゃいけない確率が上がる。そんなんうざいし。俺はインドア派だ」


「そうだね、アジュはわたし達がいるもんね!」


「その返答はおかしくないか? 情けをかけたりしないように。はい、この話おしまい。クエスト探すぞ」


「まだ女の子の知り合いを聞いてないよ?」


 ごまかせませんでした。シルフィ相手にごまかそうと思うと大抵失敗する。

 つまり頭の回転がはやいんだろう。


「わかったわかった、しゃあねえな……シルフィとミナさん。イロハとヨツバ。リリアとヒメノ・やた子・フリストあとは……サクラさんと……マコも入るか? で、リウスとももっち……おぉ、意外と少ないじゃないか」


 適当に言っていく。そもそも友人自体が少ないんだからすぐ打ち止めになる。


「やっぱり女の子ばっかりじゃない!」


「偶然だろ。勇者科は女ばっかだし、女の知り合いはやっぱり女だし」


「ふむ、一理あるな。こればっかりはサカガミにはどうしようもないかもな」


「リウス?」


 ここでリウスさんがフォローにまわってくれる気配だ。うまく便乗していこう。


「これは仕方がない部分もある。例えばフルムーンの知り合いは女の子だよな?」


「そうだね。アジュ以外の男の人と仲良くなるのはちょっと……イヤかな。わたしはアジュだけのものだし」


 こんなん照れずに聞くのは無理。シルフィの顔を断固として見ない方向でいこう。


「そういうことらしいぞ。よかったなサカガミ」


 無言で『同意しろ』と言っているんだろう。クソ恥ずかしいけど言わないと終わりそうにない。だんだん状況に流されやすくなってるなあ。


「ん……そうだな。他に男がいるよりはまあ……女の知り合いがいてくれると……いいかな」


 シルフィが笑顔に戻る。捨てられそうな子犬を連想させる顔してたら正直に言うしかないじゃないか。


「やった! よーしよーし! アジュがちょっと素直になってる! いい感じいい感じ!」


「はしゃぐな。別に深い意味はない」


「でも嬉しいよ! どうせアジュのことだから、『別に……俺みたいなやつしか男の知り合いがいないのも変だろ』とかなんとか拗らせると思ってたし!」


「それは言わないってかなり前に話したよな」


 この世界に来る前の俺ならそれ以上に拒絶反応出てる。間違いない。自覚できるほどに俺は変わってきているらしいな。


「覚えててくれてるんだね! 大丈夫、わたし達はわかってるよ。ここで拗らせてひどいこと言っても本心じゃないのは、ちゃーんとわかってるから安心するべし!!」


「助かる。まだちょっと慣れなくてな」


「話が逸れたけど、ということは必然的に女の知り合いが増えるな」


「そうだね。しょうがないね!」


 すっかり機嫌が治ったみたいで安心した。あんまり曇らせたくないしな。


「せっかく俺がやりたいこと見つけたんだし」


「うん、応援するよ! 一緒に行けるところからは一緒だよ!」


 こうしてしばらくは魔法科に行くことになった。


「助かった。ありがとうリウス」


「気にするな。毎回助けてもらってるからな。その礼さ」


 リウスはいい人だ。今度ちゃんとお礼をして、危なくなったら助けられるようになろうと思った。

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