リリアちゃんのお誕生日会開始

『第一回リリアちゃんお誕生日記念! 駆け抜けろ! 愛の試練!!』


 広大すぎるうえに神聖なフィールドに、くす玉やらファンファーレやらがぶちまけられる。俺とリリアは呆然と立ち尽くすしかなかった。

 やたら多い観客の歓声がうざい。なんかお祭りになっているのもうざい。もう全部うざい。


『解説はヘイムダル様だ! そして!』


『ゲストの太陽神ラーと』


『卑弥呼です』


 なんかラグナロクで見たやつが実況している。立体映像やモニター関係もラグナロクで見たんだけど……なんなんこれ?


「どうする? お前の誕生日最悪だぞ」


「うむ、これは予想外じゃ」


 完全に予想外だったようで、驚いたような呆れたような、それでいて苦笑いと困惑が顔に出ている。リリアのこういう表情は大変レアなので見ておこうね。


『約束通り試練を与えるわけだけど、質問ある?』


「ないわけないだろ……いや何から聞けばいいんだこれ?」


 疑問をうまく言葉にできない。語彙力の問題ではない気がしていた。


「まずわしの誕生日会のはずじゃな?」


『もちろんそうですよー。リリアちゃん、お誕生日おめでとうございます』


『おおっといけねえ! まずはそこだよな! はいみなさんせーの、リリアちゃんお誕生日おめでとおおおおおぅ!!』


『おめでとー!!』


『かわいいー!』


 みんながお祝いしてくれる。悪い奴らではないのかも。


『誕生日の主役を祝う気持ち、大切だね』


『まったくだぜ! よし質問タイムだ!』


「これは葛ノ葉の試練のはずじゃな?」


『もちろんさ』


 ノータイムで肯定されたくなかったぜ。なぜにこうなった。


『前に私達の世界でもやったでしょう? 愛の絆強化合宿』


「あー……うーわ……めっちゃ前にやった気がする」


「思い出したのじゃ……まさかあの方向とはうかつじゃった」


『きっと大丈夫さ。今日のために準備はしたんだろう?』


「しましたね」


 しましたよ。魔法とかアイテムとか準備したよ。あとはこいつらと手合わせしたりケーキ食ったりだよ。そこはもういい。なんかいまいち思い浮かばなかったっていうか、こっちを先に思いついちゃったし飛ばしていいや的なそういう雰囲気だ。


『んじゃルール説明だ! 二人の愛の力で協力して生き残れ! 時には長距離を、時にはワープ先の闘技場を駆け抜け勝ち抜け! 死ぬなよ? 蘇生めんどいからな』


 もう始まるぞこれ。会場は死ぬほど広い。ドームの倍以上は軽くある。それなりに人がいるのはどうしてかしら。これ王族と神っぽいな。


「死ぬんじゃねえぞアジュー!」


「お二人共がんばってください!」


 だって客席にヴァンとカムイがいるもの。ソニアとクラリスとソフィアもいるな。あっちにはルシードもいる。


「本気で知り合い集めおったな……期末試験で一緒のブロックだった子もおるのじゃ。おぬしもおるじゃろ?」


「マジ? えー……っと、いた。なんでいるんだよ」


 フランとオトノハ、イズミやマオリ、ヒカルとシリウスまでいる。どんだけ声かけたんだよバカ野郎。


「のんきに手なんぞ振りやがって……」


「これ鎧とかもろもろバレるじゃろ」


『なお会場の一部にはお見せできない場合オーロラがかかるぜ! ちょっと面倒かもしれねえが、そこはまあオーロラビジョンに映画でも流してやるよ!』


「こいつら……」


「気遣いがまた腹立つのう」


 映画とかこの世界にねえだろうが。あんの? 聞いたことないからやめとけ。しかしここで引き返すわけにもいかない。なにせリリアの誕生日だ。秘宝とやらを手に入れるしかない。だってプレゼント思いつかないし。


『まずはオープニングイベントだ! 出番だぜ卑弥呼さん!』


『はーい、それじゃ朱雀ちゃんぬえちゃん、どーん!』


 なんか召喚された。前に見たなこいつら。だが一回りでかくなっているし、翼が増えたり神聖なオーラを纏っていたりする。つまり強くなっていますよこれ。


『リベンジしたいと言っていたので連れてきちゃいました』


『いい飼い主じゃねえか! んじゃオープニングバトルだ! 死ぬんじゃねえぞ!』


 フィールドが古代の闘技場のようになった。どうやら客席以外は自由に変更できるようだ。こりゃ何が起きるか予想できんな。


「ガアアァァ!!」


「クエエエェェ!!」


「やる気らしいな」


「じゃな。まあ今ならなんとかなるじゃろ」


「だといいがね。お前ら手加減してくれよ? プラズマイレイザー!」


 初手でぶっぱなしてみるが、朱雀の炎でかき消される。


「リベリオントリガー!」


 炎の羽が俺を追尾してくる。カトラスで切り落としつつ魔法を連射するが、遠距離戦で決着をつけるのは厳しいかもしれない。とりあえず魔力を集めて飛ぶ。飛行は完ぺきにできるようにしておいてよかった。


「ぬえの相手をしておいてやるのじゃ」


 リリアは巨大な獣の爪をひらりとかわし、的確に蹴りを入れている。魔法の撃ち合いとかしないあたり、単純にストレス解消だな。


「ライトニングフラッシュ!」


「クエエエ!!」


 全身を回転させて魔法の中を突っ切ってくる。ギリギリで見切って刃を翻すが、それを紙一重でかわしてきた。


「こいつ、遊んでやがるな? 雷光一閃!!」


 長巻きを炎の爪とぶつけてみる。パワー的には俺が少し劣るくらいか。ただ暴れ狂う熱がきつい。雷速移動で距離を取る。


「キー!!」


 背後から熱を感じ、次いで鳴き声が聞こえた。熱の時点で振り返って雷光一閃を放ち、同時にライジングナックルを三発撃つ。なんとか相殺成功。


「手加減してくれている? にしても速いな」


 まさか光速移動勢か。対処できねえじゃん。サンダースプラッシュを周囲に撒き散らして飛び回る。このまま撹乱しよう。


『ほー、悪くねえなあいつ。魔法のセンスはたいしたもんだぜ』


『よく鍛錬しているようだね。歓心だ』


『朱雀ちゃんはつよいこですよー、ぼわーっと火が来ますから気をつけてくださいねー』


「ライトニングビジョン!」


 雷分身は札を使うので温存。三体出してとにかく突破口を作る算段だが。


「クエエエエ!」


 朱雀の羽が爆発的に膨れ上がって取り囲んでくる。完全に物量で上回ってくるのは卑怯だろ。一個一個は潰せないことはない。だがそっちに集中すると逃げ場がなくなるわけで……弾幕シューティングのキャラってこういう気持ちなのかな。


「ならそのノリでいこうじゃないか。ほれほれほれほれ!!」


 朱雀の正面を飛び回りながら、ひたすら攻撃魔法を連射する。効いている気がしないな。下からの殺気を感じて横に飛ぶと、でっかい蛇の頭が過ぎていった。しかも二本。本数増やせるのかよ。


「ちとやばいか?」


『えーそこそこやれることが判明したため、ここからは外野の声はシャットアウトしまーっす。死ぬなよマジで。蘇生に手間かかるんだぞお前ら』


「おいおいそりゃないだろ」


 マジで歓声が聞こえない。熱気が俺の移動範囲を阻む。ここでタキオンメルトダウンは使いたくない。さてどうするか。


「仕方ないのう。手伝ってやるのじゃ」


 リリアが上空に上がってきた。同時にぬえも飛び、俺達を挟む格好だ。


「コンビ技とかあったか?」


「なければ作るのじゃよ」


 二人で魔力を解き放ち、まずはぬえを相手にするか。雷光を身に纏って飛ぶ。


「ライトニングジェット!」


 ぬえを守っているしっぽの蛇三匹を蹴り抜けると、上からリリアがぬえの背中を踏みつける。下からライジングナックルで追い打ちだ。


「ガアァァ!!」


 ぬえは身を捻って避けようとするが隙を与えない。後頭部に向けて攻撃魔法をぶつけていく。アシストするようにリリアの魔法弾がぬえの全身にあたった。


「プラズマイレイザー!」


「こっちもじゃ!」


 左右から必殺魔法をぶっこめば、それなりにダメージが入ったらしい。ぬえはひとまず地上に降りた。


「今のうちに朱雀を落とすぞ」


「うむ、オープニングはここまでじゃ」


 本当にここまでだといいなあ。

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