作者は秘宝がなんなのか思いついていません

 ぬえと朱雀を倒そう。オープニングからクライマックス過ぎて胃もたれするわボケ。とりあえず空中の朱雀をなんとかしよう。


「クエエエ!!」


 朱雀が反転して遠くへと消えていく。逃げる理由がわからないので、警戒しながら追うとしようか。


『ここで愛の試練だ! 相手の外見で好きなのは?』


「ん?」


 リリアと並んで飛行しながら、あいつに追いつく手段を考えていたのにさ。なんかわけわからんアナウンスですよ。


「意味がわからんのじゃ」


『これは愛の試練です。お互いの好きなところをまずは外見から発表してください』


 待て待て試練ってそういう方向? それはちょっと厳しくないかな。


『おっと、エロい質問じゃねえから勘違いすんなよ? セクハラしてえわけじゃねえかんな!』


『ちなみに正解できないと朱雀が強くなるよ。あと全部は禁止』


「最悪やん」


『朱雀までの距離も縮まらないようになっていますよー』


「最悪やん」


「目じゃな。色ではなく全体の造形じゃ」


「しれっと答えるのやめろや」


 はいアジュさんも答える流れができてしまいました。お前そんな事考えていたのか。まったく想定外で反応できんな。


『そんな感じで意識していけ! 多少気まずくなるくらいでちょうどいいとオレは思うぜ! 観客の煽動は任せな!』


「余計なことすんな!!」


『ふっふっふ、愛の試練はこういうものですよ』


「だから最悪なんですよ」


 朱雀が炎を飛ばしてくるのが地味にうざい。小声で言っても拡声魔法とかで拾われるだろう。仕方ない……これも秘宝のためだ。


「あーもうクソが……髪だな。色と長さと質とか込みで」


『おおおぉぉー……』


 はい会場の声がうざい。言うんだ……みたいな反応がイラっとするわ。事故としてシャイニングブラスターぶっこみたい。


『朱雀までの距離感が縮んだぜ! 攻撃魔法は届くはずだ!!』


「意味わからん」


「魔法と神力で空間と距離をいじっておったんじゃよ」


 追っても追っても届かないのはそれでかよ。確かに当たるようにはなったな。それでもダメージがあると思えない。まず炎と魂の融合した何かっぽいのよ。普通にやっても勝てないなこりゃ。


『意外と長引きそうなんで試練混ぜるぜい!』


「ふざけんなお前!?」


『試練は厳しいもんだぜ! 死ぬ気で死なねえように立ち回れ! 第二の試練! 炎の螺旋階段!!』


 巨大な塔が現れ、それぞれの入口が示される。入ってみると俺とリリアは螺旋階段のちょうど反対に出るみたいだ。真ん中は暗く大きな穴が空いている。落ちるのはやめておこう。


『朱雀! そして迫る溶岩! 炎の番人! 愛の炎は物理的な炎に勝てるのか!』


 穴から朱雀が飛び出し上へと登っていく。同時に穴から溶岩がせり上がっていた。


「登れってことか」


「みたいじゃのう」


 階段の外には移動できないようだ。透明な壁で阻まれる。マジで登るしかないのね。俺にスタミナ要求するんじゃないよ。


「あっぶね!?」


 朱雀が火の玉を飛ばしてくるので立ち止まれない。どのみち溶岩も来るんだ、走るしかない。朱雀の羽が人形になり、階段の上で行く手を阻んでいる。あれが番人か。


「雷光一閃!!」


 番人自体は簡単に倒せるっぽい。だが扉が開かない。


「なるほど連動しておるのか」


 リリアが番人を倒すと、俺の前の扉が開く。相手側の扉の鍵なのかよ。


『愛の試練だからね。急がないと相手の扉が開かずに溶岩の中だよ』


「ええい厄介な仕掛けを!」


 自分のペースで進めないのは面倒だな。それでも走っていると丸いフィールドにたどり着く。上から降ってきたのは、フルアーマーで隙間から炎が吹き出ている敵だ。でっかい槍も含めて間違いなくボスって見た目をしている。


「それは読めているぞ!」


 全身をブースターに使って槍ごと突進してくる。横に飛んで回避したら、背面にプラズマイレイザーだ。


『結構戦闘慣れしてやがんな。まあいい倒したら相手への日頃の感謝を述べよ! 急がねえと復活するぜ!』


 扉が開いていない。上にでっかく『日頃の感謝を伝えよう!』とか書いてある。ほほう、さては今回ずっと俺がしんどいな?


「えー……っと感謝? 毎回解説役やってくれてありがとう、とか?」


『もっと気持ち込めて具体的に!』


「めんどくせえ!? 俺のサポートをしつつやんわりベストな方向へ導いてくれているのは気づいている。だから……」


『はい復活』


「クソが!」


 しかも二体に増えている。戦闘方法が変わっていないっぽいのが救いか。


『ここでリリアちゃんも敵撃破。お見事です。さあどどんとどうぞ』


「共同生活苦手なのにちゃんと気を遣って受け入れてくれてありがとう。食事当番とかもわしらが嫌わないようなものを選んどるじゃろ。外出増やしたり努力させておるのも含めて感謝しておるのじゃ」


 はい俺の側の扉が開きました。そして客席がうるさいです。


「ささっと終わらせるしかないかね」


 手のひらにインフィニティ・ヴォイドを出す。弾丸タイプなら割と簡単に出せるようになった。これを接近して敵に貼り付ければ終わりだ。爆裂して散っていくのと同時にまた感謝の言葉待ちの時間に入る。


「えーまず俺をあの家に連れてきてくれてありがとう。常に俺が楽しく過ごせるかどうかを考えて、最適なムーブをしていることは気づいている。今でもかなり楽しいが、リリアはリリアで自分の楽しみとか時間を自由にプレゼンしていいぞ。これからもそんな感じで頼む」


『んーまあオッケー!!』


 あっぶねえ三回は無理よ。変な汗出るから早くクリアしよう。


『ちょっと言うことが似ていましたね』


「わしら言動一緒じゃな」


「基本原理が同じなんだよ。飽きるまで自由に世界で遊ぶ」


 異世界とは俺達が自由に遊んでいい舞台である。永遠に楽しく四人で遊んで暮らすのだ。そのために頑張っているはずだが、なぜこんな茶番を。


『ここからはクイズだ! お互いの声は遮断され、ノーヒントで回答してもらう! 正解すれば素通り。不正解ならボス戦だぜ!』


 クイズねえ……ジャンルによるな。階段ダッシュと戦闘により脳がちゃんと働くか微妙だ。息切れしないうちにチェックポイントに到達した。

 なんか司会者三人が箱から紙を出している。行動が読めない。敵もいないし、だが不思議と嫌な予感はしないぞ。


『第一問。これは僕が出したやつだね。おにぎりの具で好きなのは? 相手の好きなものを答えてね』


「鮭」


 ピンポーンと音がして両方の扉が開いた。なんか随分簡単だな。ここからは細かいクイズゾーンらしく、朱雀も攻撃してこない。それはそれで階段ダッシュがしんどいんだけども。


『基本的に全部相手のことだと思って答えてね。どんどん引いていくよ。好きな紅茶の種類か銘柄を当ててね』


「ロイヤルミルクティーミルク多め」


 はい楽勝。ちなみに俺の場合はアップルティー。似合わなくても好きなのだ。


「こりゃ楽でいいな」


 ボスが出ないのが非常にありがたいぜ。


『では次は私がほいっと。ばばん! お茶に合う和菓子といえば?』


「ようかん」


 食い物の好みはほぼ把握している。伊達に一年同居しているわけじゃないんだよ。ちなみに俺の場合はせんべい。塩でも醤油でもざらめでも可。その後も簡単にクリアして最上階へとたどり着いた。


「まったく、いつまで続くんだこの茶番は」


「わしも予想外じゃった。まあとりあえずここをクリアするのじゃ」


 朱雀渾身のブレス攻撃を、俺とリリアの合体魔法でぶち抜いて見事クリア。

 かなり弱体化していたようだ。っていうか休憩させろ。


『よくできました。ぱちぱち』


『クリアおめでとう。お互いのことはよく理解しているようだね』


『セーフゾーンで回復しておくんだぜ! 次は対抗レースだ! 対戦相手はこの二人!!』


 向かい側のセーフゾーンが見える。そこに立っていたのは、さっきまで解説席にいたはずの……。


『太陽神ラーと』


『葛ノ葉卑弥呼です』


 次もめんどくせえじゃねえか。

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