誕生日会の準備は続く
今日はシルフィと一緒に、卑弥呼さんとラーさんの家にお邪魔している。休日が被ったのでリリアのプレゼントについて聞きに来たのだ。
「というわけでリリアの誕生日に何をプレゼントしたらいいですか?」
「いやあさっぱりだね」
「アジュさんのほうが詳しいのでは?」
実に予想外の答えが帰ってきた。いやマジで最後の砦だと思っていたんですが、本当にどういうことだ。
「勘違いしているようだが、我々は先祖であって生みの親でも育ての親でもないよ。存在は知っていたけれどね」
「あれそうでしたっけ?」
「最初にこの家に来たとき、リリアも初対面の反応だったでしょう?」
そういやそんな気がする。ということは俺は道標を完全に失ったというわけだ。これは史上最大のピンチなんじゃないかね。
「あちゃー……どうしよっか?」
「ふふっ、これが詰みというものですね?」
「諦めないでください。結構マジで悩んでいるので」
「そっかー、ご先祖様だったんだ。わたしもごっちゃになってたよ」
なんか漠然と親みたいなイメージだったな。じゃあ親はどこなんだ。
「リリアの両親は今どこに?」
「オルインで生きているよ。葛ノ葉の一族は表舞台に出ない。専用の場所で仲良く暮らしている。まあ気にしなくていい。一応連絡は取っておくから、来たくなったら気まぐれに来るよ。そういう二人だ」
「ネグレクト的な?」
「いや家族仲はいいよ。やりたいことを最優先でやらせてあげる主義というか」
「九尾のこともありましたし、リリアちゃん本人がアジュさんといることを望んでいますからね。いちゃいちゃするのに両親って邪魔でしょう?」
「答えにくい質問はやめましょう」
余計なトラブルはなさそうなのでよし。仕方ないから葛ノ葉の伝統から探るか。まだまだ諦めないぜ。
「毎年あげている伝統の品とか、一族に伝わるアイテムはないですか?」
「一族の作ってしまった装置とか遺跡でいい?」
「絶対やめてください」
「あはは……ネフェニリタルみたいになっちゃいそうだよね」
あんなのが何個もあるのかひょっとして。悪いものじゃなかったが、世界の秘密とか知りすぎるのは危険だからやめておきたい。
「王刃の後始末をさせてしまったことは、心からお詫びとお礼をしよう。パズズがあれほど強硬策に出るとは思わなんだ。ほとんど消滅しかけていたはずだからね」
「やはり何かが裏で動いているんでしょうか?」
「可能性はありますが、それは大人と神にお任せください。どうかリリアちゃんと仲良く楽しく過ごしてくださいな。それがいきなりじゃまされているのは知っていますけれど、そこは主人公補正と鎧の力でお願いします」
「善処します。たまに邪神ぶっ殺すのは鎧の代金だと思っていますので」
むしろその程度で最強を更新し続けていられるのは破格と言っていい。面倒だが死にはしないので、まあイベントが増えた程度に考えようじゃないか。
「わたしたちがアジュを支えるので大丈夫です!」
「それはありがたい。ついでに葛ノ葉の秘宝と試練について思い出したよ」
「試練ですか?」
「はい、クリアすればとてつもない秘宝が手に入るという伝説の試練です。代々の葛ノ葉も多くがこの試練を突破しているともっぱらの噂ですよ」
いまいち信憑性がないな。だがいずれクリアしなければならないものなら、いっそ終わらせておくのもいいかもしれない。
「相棒と一緒にクリアするタイプでね。見事クリアすればお宝が手に入るのさ」
「そいつは仲間との絆とかそういうものじゃなく?」
「ちゃんとした品物だよ」
これはありだな。リリアに手伝わせるのがアレだが、パワーアップアイテムでも純粋に宝でも損はしないだろう。
「アジュとリリアが協力してってことですよね?」
「そうなりますね。お二人でずばばーっと突破してください」
「わかりました。その試練受けましょう」
「よく言ってくれたね。試験内容は話せないが、準備だけはしっかりしておいて欲しい。簡単に突破できるものではないよ」
おそらくだが鎧で突破することを考慮していない助言だ。素の力でなんとかして欲しいってことかな。リリアがいても簡単じゃないなら、準備は入念に行おう。
「試練の用意はこちらでしておきます。お誕生日当日の朝にまた来てください。なお試練の内容は秘密とさせていただきますね」
「わたしたちにお手伝いできることはありますか?」
「でしたらアジュさんの強化をお願いします」
「準備は大切だよ。どんな罠や敵が出るかも教えないから、万全の覚悟でお願いしよう。きっと切り抜けられると信じているよ」
やはり生半可な戦闘ではないのだろう。だがせっかくの誕生日だ。俺も精々真面目にやるとするか。
「話は聞かせてもらいましたわ!」
「おう帰れや」
なんかヒメノが来た。ヒメノの家経由できたからしょうがないけど、真面目な話するから来んなって言っただろ。
「ふっふっふ、わたくし、協力いたしますわ!」
「やめろアホ。絶対ややこしいことになるだろ」
「リリアのお誕生日は邪魔しないで欲しいな」
「何をおっしゃいますの。リリアはわたくしのお友達。ド派手に祝って差し上げますわ! 今回ばかりはアジュ様の隣を譲りますわね!!」
マジで祝おうとしているっぽい。そういや付き合い長いのか? 他人の誕生日をぶっ潰すタイプじゃないだろう。無意識に台無しにしそうではあるが。
「手が足りませんわね。やた子ちゃんやフリストちゃんも呼びましょう」
「あんま酷使するなよ?」
「心得ておりますわ。ついでにわたくしとの愛の試練も追加してよろしくて!」
「いらない。リリアの誕生日なんだぞ」
「別の日にするということですわね」
「めげないよねヒメノ」
「絶対に諦めませんわ!」
こいつの求愛行動の謎もいつか解明しないとな。なぜ協力的なのかはリリア関連だと思うが、俺個人に好意的な理由がまったく判明しない。
「会場は作るとして、料理は……まずケーキですわね。では豪華なケーキを作りますわ! ケーキってどうやって作るんでしたっけ?」
「手作りは怖いからちゃんと頼め」
こいつらに任せて大丈夫だろうか。やた子とフリストがんばれ。超がんばれ。そっと心の中で応援しているから。今度会ったらなんか奢ってやろう。
「ではどのお店のケーキがいいか比べる必要がありますわね。ケーキデートいたしましょう! 今から!」
「だめです! そうやってアジュを連れ出そうとして!」
「ちょっとくらいいいじゃありませんの。明日にはお返ししますわ」
「なんでお泊りする予定なのさー!」
「したいからですわ!」
こいつらうるさい。めんどくさいからヒメノは断って家を出る。後のことはみんなに任せよう。俺も必要なら協力すると言っておく。
そして帰り道を二人で歩くが、なんかシルフィが近い。
「ヒメノはだめだからね」
「俺がなびくとでも思っているのか?」
「違うけど警戒しよう! いきなりちゅーとかしてくるかも!」
「超怖いなそれ」
あいつ何やらかすかわからんからな。不意打ちでやってきたら防ぎようがない。こいつらはやってこない安心感があるが、身内ノリをあいつに期待しても無駄だろう。そっち方面でも警戒すべきか。
「アジュは危機感が足りません。鎧があっても女の子の好意に気づかないし、どうせモテないからいいやーとか思ってるでしょー」
「はいはい、気をつけますよ」
「むー、だめだからね? まずわたしたちをちゃんとするんだよ」
「だろうなあ。だが今はリリアの誕生日が最優先だ。めんどくさくなるなよ? 物事には本質と順序というものがあるのだ」
「シルフィちゃんは待てができる子です」
「えらいぞー」
「えらい?」
「えらいえらい」
褒めて欲しそうなので褒める。撫でるのは屋外だから却下。ちょっと不満そうだけど、外でやることじゃないと理解しているのか、それ以上の言及はない。
「じゃあアジュを強化してからケーキを調べないとね」
「後半ヒメノがやるやつだろ」
「一緒に食べたいです。疲れたら甘いものなんだよ」
「疲れるの確定かよ。俺はそういう施設とか知らんから、適当に選んでくれ。そこで遊んでやる」
「やったね! じゃあ誕生会までに強くなろう!」
こうして進んでいるのかいないのか不明な準備は続く。
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