作者もプレゼントが思い浮かびませんどうしよう
リリアへのプレゼントが思いつかないまま、俺達は二年の授業を受けにいく。初日から数日経ってみて思うが、そんな劇的に授業内容が変わることはないな。
「というわけで誕生日とかどうしてんの?」
食堂でヴァン、ルシード、カムイと出会った。
勇者科の男四人というかなりレアなメンバーで昼飯を食っている。
「また唐突な……どうっつってもなあ」
「お前らも相手にプレゼントとかやるだろ。そのへんどうしてんのさ」
「僕は相手に好きなものを聞いたり、周囲の護衛とかメイドに聞きますね」
「直接聞くパターンか、ありじゃねえの?」
「リリアが物を欲しがるシーンってあんま見ないんだよなあ」
あいつ欲しけりゃ手に入るだろうし、魔法で出せるんじゃないかな。だからこそプレゼントで死ぬほど迷うわけさ。
「確かに物欲のイメージは薄いですね」
「出身地の風習はどうだ? オレとカグラは同郷だが、生まれた子供に十二歳になるまで毎年特定の花や飾りを送る風習がある」
「故郷のものね。いいじゃないか。調べておく」
葛ノ葉の連中にそういうのがあるか知らんが、あとで卑弥呼さんにでも聞こう。これは候補ができたぞ。
「オレは盛大に祝うな。ケーキとか肉とか買ってよ。ぱーっとやるのさ。やっぱ誕生日なんだし羽目外すべきだろ」
「陽キャの人生だねえ。だがまあ誕生日会はやるつもりさ。四人でやるか誰かをいれるかは未定だけどな」
「手伝うことはあるかい? 復讐でも期末試験でも世話になった。少しは恩を返すべきだろ。必要なら言えよ?」
「そうですね、日頃アジュさんを制御してくれていますし、労ういい機会かもしれませんね」
「オレも加勢しよう。体力には自信がある。飾りつけでも荷物運びでもできるぞ」
「申し出はありがたいが、あいつが誕生日会とか好きなんかな? 何やるかも決まっていないし、もう少し後で頼むよ」
具体的な案を考えるのが初めてで、何にどこから手を付けていいのかさっぱりだ。俺はマジでそういう機会のない人だったからね。
「誕生日会をやるとして、家か? 別の場所とるか?」
「家でいいんじゃね? アジュの家広いし」
「慣れ親しんだ場所を好むように思えるな」
「確かに。俺も家がいい。んじゃ自宅でやるとしよう」
問題はプレゼントだよ。結局ここが思いつかないと進まない。最後の壁とも言える。環境が恵まれすぎていると難しいね。元の世界ならゲーム機とかでいいのに。今は金もあるし、ある程度自由だし。めっちゃ難しいぞ。
「とりあえず参考になった。ここは奢ろう」
「かたじけない。それで準備と贈り物はどうする?」
「とりあえずお茶を濁すぞ」
「はい?」
「なんか戦闘とか遊びに行くとかそういう感じでお茶を濁して時間を稼ぐぞ」
「意味がわかりません」
なんとなく忙しくて本題に入れません的な空気を作るのだ。
「プレゼントの代金を稼ぐぞ。なんか依頼受けよう」
「オレも協力するぜ。ソニアとクラリスが天界の用事とかで今日は暇だ」
「このメンバーなら討伐依頼だろう」
「完全に行く流れですねえ」
「俺でも死なないやつがいいな」
こいつら基準だとどんな化け物と戦わされるかわかったもんじゃない。現実逃避がしたいのであって、この世から逃げるわけじゃないのだ。
「それじゃあ探して来ましょうか。今日中に終わる戦闘クエあるかな」
そして海辺へとやってきた。なんでもこのへんでは見ない魚が大量に出たらしく、そいつらは魔物なので生態系を守るために狩って欲しいそうだ。
「今回倒すのはサバズシです」
「とうとう加工食品出てきたな」
「爆裂バッテラと一緒に出るので退治しましょう」
「意味がわからん。どっちも知らんけど魚でいいんだよな?」
「はい。二足歩行も可能な大きい魚です。油断しないでくださいね」
「魚でいいんだよな?」
サバズシは身が分厚くて丸い魚らしい。爆裂バッテラは四角に近くて、身が爆裂するから注意しないといけないらしいぜ。
「こっちに来る魚じゃねえんだけどな」
「まず魚じゃねえだろ」
「アジュさん、他の生徒もいますから雷魔法は禁止です」
「わかっとるわい。んじゃ死なないように気をつけていくぞ」
全員武器を構え、監督官の合図と同時に海へ入る。足首まで海水に浸かると、遠くから何かが押し寄せてきた。
「あれがサバ……でっけえなおい!?」
1メートルちょいあるだろあれ。魚だけあって素早く海中を泳いでくる。
「ローリング攻撃に気をつけてください!」
「ローリングって何!? 転がってくんの!?」
二本足で跳躍し、ドリルのように回転しながら突っ込んできた。
「横回転かよ!」
横に避けてカトラスを突き刺そうとしたが、鱗と回転で刺さりが悪い。
「無駄に硬い! うざい!」
リベリオントリガーで強化して無理やり突き刺した。正直なめていたぜ。やるじゃねえかサバ。お前をサバとは認めないが、強敵とみなす。
「オラア!!」
「流れに沿って通せばよいだけだな」
ヴァンは力技で一刀両断している。ルシードはわずかな隙間を通すように、するりと刃を入れていく。あいつらやっぱ超人予備軍だよ。
「龍火掌!!」
カムイは炎のパンチでぶん殴っている。手が傷ついているわけでもないし、意外とパワー型の戦闘もできるらしい。
「どこにいっても最弱だねえ俺は」
こっちに迫るサバズシを切ろうとして、少し四角くないかなと気づく。念の為クナイを飛ばしてバックジャンプ。サバが弾けて散った。
「あっぶねえこういうことかよ」
サバとバッテラの区別が結構難しい。より白くて角ばっているやつを素早く見つけて魔力弾を数発当てるのだ。これで爆裂したら正解。間違ってもサバなら切り裂いて始末できる。
「これは修行になるな」
「でしょう? 咄嗟の判断力と回転するサバを正確に倒す技術力の両立が求められます。なのでそこそこランクの高いクエストなんですよ」
「なるほど……他の連中も初心者には見えんな」
ちらりと周囲を見れば、いるのは二年生か強い一年生だろう。しっかり魚に対処している。中にはでっかい盾で全部に正面からぶつかっているやつや、ワイヤーを駆使して三枚におろしているやつもいた。
「このレベルになると戦闘に個性が出るな」
「見てておもしれえだろ。オレも知らねえ戦法を見るのが好きでね」
「楽しいが集中しないとサバが爆発するな」
こんなアホくさい戦闘で怪我したくないので真剣にやる。刃を入れる角度や力の加減でかなり手応えが変わる。なんか料理と同じだな。本当に魚をさばく感覚になってきた。回転に反発せずにくるりと切断する。ただ突っ込んでくるやつは魚をさばくときみたいに首を落とす。
「おっと見えたぜ!」
サバズシの背後にバッテラがいる。サバに正面からキックを入れて両方吹っ飛ばすと、バッテラが爆裂してサバが巻き込まれた。
「俺と知恵比べしようとは小癪な魚類め」
魔力弾の連射でうまいことバッテラを爆裂させよう。サバをどれだけ巻き込めるかというパズルゲームみたいでおもろい。見極めて斬撃で殺すのも慣れた。
「よっしいい感じだぜ」
「筋がいいな。やはりやればできるタイプか」
「アジュさんは真面目にやれば色々できる人ですよね」
「真面目にならねえのが弱点だな」
「やかましい」
流石に何匹も切れば慣れるさ。たまに飛び蹴りしてくる魚を避けつつ切る。ひたすら戦うことで剣術レベルが上っているのを感じた。こんな敵で感じたくなかった気もするが、強くなっているのでよし。
「もうじき狩りつくせるぞ」
「やっと終わる……きつかったぞこの野郎!」
最後の一匹に懇親の恨みを込める。海辺と砂浜はかなり体力使ったぞ。
「これにて終了! 全員集合せよ!」
監督官から終了の合図が聞こえた。全員で集まり、狩ったサバが袋詰めになっているのでもらう。そして解散の流れになった。
「今日は世話になった。いい経験になったよ」
「オレも修行になったから問題なしだ」
「うむ、一風変わった経験もいいさ」
「プレゼントも忘れずに考えてくださいね」
「……がんばろう、明日からまたがんばろう」
ちなみにサバは晩飯に出したらそこそこ美味かったことを追記しておく。
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