シルフィの真の力
「……おかしい……あいつ……なんだ?」
ゲルとかいう狂った女の顔に拳をぶち込んだ。
そして、奴はぶっ飛んで手応えなく消えた。
それがおかしい。鎧を着た状態で、怒りに身を任せてぶん殴ったんだ。
この程度で済むはずがない。
まず拳の風圧でバラバラになるだろう。
それに耐えても直接俺の拳を受けた時点で木っ端微塵だ。
骸骨も部屋の中も拳圧だけでボロボロになっている。
「どうしたというのじゃ? 終わったのではないのか?」
ボロボロと崩れる骸骨を見てリリアが結界の中から聞いてくる。
「手応えが無さ過ぎる」
「倒したんじゃねえってことか?」
「大正解ー! アレはゲルちゃんの力に実体を与えたものでしたー! そしてシルフィちゃんげっちゅー!!」
リリアの結界が割れる音がして、シルフィの後ろからゲルの声がする。
「いやーマジなんなんですかあんたら。並の冒険者が三百人いても蹂躙されるだけってくらいドクロちゃんてば、超強いんですけどね。あんたらこそマジモンの化物ですよ」
「うっ……あぁ……」
シルフィを丸い魔力の牢獄に閉じ込め、ゲルは五階へ続く階段へと飛ぶ。
「シルフィ!? 行かせないわ!!」
「残念、あんたらの相手はドクロちゃんですよーだ!」
ドクロの砕け散った破片とも呼べないような砂粒が集まり始めている。再生する気か。
「まさかわしの結界を割るとはのう」
「魔物用にカスタマイズした結界だったのと、ドクロちゃんの攻撃でヒビが入っていたのが幸いしましたねー。これでも神聖な存在なもんで、それでも尋常じゃないほど分厚いから手間かかりましたけど」
気絶しているのか、円形の魔力の檻の中に浮かぶシルフィは動かない。
「じゃ、上の階で力を抜き出す系の仕事があるんでこの辺でー。ああ、大丈夫ですよ。手荒なマネはしませんて。死ななければ綺麗な体で返してあげますよ」
「もう十分手荒じゃろうに」
「シルフィは渡さない!!」
駆け出す俺達の前に回り込む砂と骨の欠片。
一つに纏まったそれらは再び骸骨の化物として、俺達の前に立ちはだかる。
「再生できないようにぶっ飛ばすには、ちと時間が足りねえな。どうするアジュ?」
「わしに考えがある。アジュだけがソニックキーで骸骨をすり抜けて、シルフィを追うのじゃ。わしらが責任持って骸骨を倒す」
「いいわ、その作戦乗りましょう」
「俺でいいのか?」
「行きてえんだろ? そんな顔してるぜ。自分の女は自分で助けたいもんだろ」
行けるもんなら今すぐにシルフィの元へ行きたいさ。
「あまり見くびるでないわ。わしらだけでも余裕じゃ」
「そうよ、貴方のおかげで私は強くなれたもの」
「悪いな。ありがとう」
「帰ってきたら、朝の続きをしましょう。ちゃんと撫で方を教えるわ」
「わかった。ちゃんと聞くよ」
「そうやって素直でいる事が一番じゃ。今はおぬしの心に従って動けば良い。道は示してやるのじゃ」
「あんがとな。これからも案内頼むぜ」
二人は笑って俺の背中を押してくれる。
こうして話している間にも時間は待ってはくれない。
「……ヴァン、頼みがある」
「いいぜ、チョコパフェといちごパフェで手を打とう」
「まだ内容も話してないだろ……いいんだな? 二人を頼む」
「任された。約束、忘れんなよ?」
「奢ってやるさ。十個でも二十個でもな」
「ハッハー!! サイッコーだな!! いいぜ任されてやるとも!!」
「じゃあみんな、行ってくる」
『ソニック』
ソニックキーで遅くなった世界を俺だけが駆ける。
振り返らずに階段を駆け上がり、たどり着いたのは四階よりも二回りは狭い部屋だ。
ソニックキーを解除し、中央へと歩を進める。
「うーわ、追ってきたんですか。使えませんねードクロちゃんは」
そこにはパイプのようなものに繋がれ、何かのエネルギーを流し込まれているゲルがいた。
パイプの先には、シルフィのいる魔力の玉が装置に繋がれている。
「でもちょーっと遅かったですね。これでクロノスの力はほとんどゲル様のもの。バッドエンド確定ですよ」
「させねえよ!!」
手刀でパイプを切り落とし、魔力玉を叩き割ってシルフィを助け出す。
ゲルから離れた位置に移動し、シルフィの安否を確認する。大丈夫だ、呼吸している。
「うっわなんちゅー速さですか。でもどれだけ早くてももう無駄ですけどねー」
ケラケラ笑うゲル。どこまでも気に入らない。
「クロノスの力ってのは何だ?」
「あらあらー? 気になっちゃう感じですかー? それにしては頼み方が無礼にもほどってもんがありゃしませんかね?」
「聞き出さずに、殴り殺してもいいんだぞ」
「うっ……うぅ……」
俺の腕の中でシルフィが目を覚ます。
「シルフィ! 無事か!!」
「アジュ? へへっ大丈夫だい……じょ……うぶ……ちょっと力が抜けちゃっただけ」
「ありったけの力を一気に根こそぎ頂いちゃいましたからね。回復には時間がかかると思いますよ」
「わたしの力ってなんなの? ここまでして手に入れなきゃいけないものだったの?」
「力のお礼に説明しましょう! むかーしむかし、クロノスというえっらーい神様がいました。農耕の神として強靭で無敵で最強なその神様は沢山の子供を作りました。その中に、その時代の神々に知られてはいない、人間の女性との間に子供がいたのです」
こいつは急に何を語り始めたんだ?
「しっかーし! それが知られれば、生まれてくる子供が悪者に利用されちゃうかも知れなくてさあ大変!! ってなもんでしてね。そこでクロノスは子供が生きていくために時間を操る、という反則級の能力を与えたのですよ。時間のトラブルを全部自分がやったと嘘をついてね。このせいでクロノスという神はごっちゃにされるのです」
「それとシルフィに何の関係がある?」
「鈍い男ですねえ。それがシルフィ・フルムーンの先祖なんですよ。農耕の神クロノスの忘れられ記録にも残っていない子供、時の神クロノス。その力が欲しかったんですよ」
「力が強いのはわかるよ。でもその力で何をするの?」
問題はそこだ。こいつの最終的な目標がわからない。
「信仰ですよ。神様ってのはですね。上位でもなければ信仰なんてろくに集まりゃしないんですよ。それじゃあいつまでたってもザコのまま。そこで目をつけたのがクロノスです」
とことん嬉しそうな顔してやがる。気に入らないな。
「正体がまーったく知られていない時の神クロノス。強大な力を持ちながら、その信仰は宙ぶらりん。ならば過去に戻り、クロノスを名乗ることで最終的にゲル様とクロノスはシンクロするんですよ。そうすりゃ溜まりに溜まった信仰が全てワタシのもの! ゲルちゃんは神になるのです!!」
「お前は神でも何でもない。いや、神だろうと関係ない。倒すだけだ」
「ほほー偉そうに。いいじゃないですか、シルフィさんは戻ってきましたよ? 死人は出ましたが、全員無関係な知らない他人でどうでもいい人じゃあありませんか」
「どうでもよくなんかないよ! みんな、あなたが何もしなかったら死ななかったんだよ!!」
確かに俺は死んでいった人達の顔も名前も知らない。
それでも戦わなくちゃいけない。シルフィを傷つけたことは他人の命なんかより重い。
「そんなことしてもクロノスって人の後追いになるだけだよ! 取り込んだ力だって、いつかなくなっちゃう!」
「それでも今取り込み続ければ新しい神になれる! 信仰を持ってさらなる繁栄と恐怖でクロノスを超えたクロノスになればいいだけです!!」
もう何を言っても無駄だな。どの道こいつを許す気もない。
「お前の目的なんてどうでもいい。シルフィを傷つけ、悲しませた。お前を殴るにはそれだけで十分過ぎるさ」
「偉大で壮大な計画も理解せず私怨で戦うとは愚かですねえ。過去を変え、幸せになるのはワタシです。貴方達が生まれることすら許しませんよ」
「今まで辛いこともあったし、苦しいこともあった。でもわたしは今幸せなんだ! やっと、やっと見つけたわたしの居場所を、わたしを救ってくれた大好きな人達を消させはしない!!」
「もういい黙れ人間のクセに!! ワタシは変わったんだ! ヴァルキリーゲルから時空神ゲルに!」
激昂するゲルから魔力が溢れ出す。溢れだした魔力は塔の天井を突き破り、暗い室内を月明かりが照らし出す。これが神の力か。
「いけるな。シルフィ」
「もちろん! わたしがアジュを、みんなを守るんだ!」
「そうかい、ならシルフィは俺が守るよ。あんなアホに傷つけさせはしないさ」
二人して剣を構える。怖くない。
隣にシルフィがいるんだ。怖がっているヒマなんて一秒たりともありはしない。
「ありがとうアジュ。わたしは絶対負けないよ。まだまだ一緒にしたいことが残ってるんだから」
「そりゃ楽しみだ。時間はたっぷりあるんだ、一つ一つ叶えていこう」
「あんたらの時間はここで終わりさ! ワタシを待つ輝かしい過去が! 好き放題できる未来が! ほんの一瞬先にある!!」
ゲルの体に纏わり付く膨大な魔力が武器となり防具となる。
羽のついたティアラと、最低限急所だけを守る鎧。ビキニアーマーってやつだな。
そして真紅の炎を束ねて固めたようにゆらゆら揺れる、魔力で出来た三叉の槍。
「みんなの想いを、わたしが継いで貴女を斬る!!」
「邪魔者を消してワタシの! ワタシだけの歴史を綴った神話がはじまるんだ!!」
「お前には過去も未来も与えない! ここでお前の歴史を止めてやる!!」
三人だけの、過去と未来を救う死闘の幕が開く。
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