異世界美少女達よ、ぼっちだった俺を攻略できるもんならやってみろ~最強無敵の力はハーレムラブコメに使うらしい~

白銀天城

第一章 俺にヒロインとかありえない

のじゃロリは異世界への案内人

 もしも異世界に行けて、力が手に入るなら、あなたは何がしたい?


 童貞ぼっちのまま高校生活を終えた俺は卒業式から帰宅し、自宅のPCから溢れ出す光に包まれた。

 そして今、雲の上で美少女に挨拶もなく唐突に問われている。


「モテない男たちに代わり、俺がリア充を爆破したい」


 リア充爆発しろ。

 どこの誰が言ったか知らないけれど、聞き慣れたフレーズだ。

 恋愛において『負け組』と呼ばれるものが冗談交じりで口にする。

 だが俺は本気でリア充が大嫌いだった。


「えぇ……もっと魔王を倒す勇者になるとか。愛する人を守りたいとかあるじゃろ」


 困惑している女。俺より頭一つ分は小さい身長で、女性として出ているべき部分が控えめにも程がある。

 俺と比べて一回りは小さい顔の中に子供の無邪気さと、どこか老成した落ち着きや余裕が見え隠れする。

 中学一年生かヘタをすれば小学校六年生くらいの見た目だ。


「愛する人なんていない。これからもできることはない」


「みんなから凄いぞーとかかっこいいーとか言われたいじゃろ?」


「言われてどうなる。目立つってことは悪だ。人が多いのも騒がしいのも嫌いだ」


 腰まで届く銀髪が、風に揺れてふわりと広がると、まるで天使の羽のようだ。

 服は黒一色でスカートは膝より下。ブーツも黒。

 大きな赤い瞳と、どちらかといえば白い肌の色を除けば、そのすべてが白と黒の少女。

 間違いなく美少女の部類だろう。俺はこいつよりかわいい存在を知らん。


「他人の幸せのために動きたくない」


 魔王なんぞ倒して何になる。どうせ幸せになるのは俺以外の誰かだ。

 他人、それもどうせ俺を見下すに決まっている連中を助けて何になる。


「モテモテになるというのはどうじゃ?」


 俺を頭からつま先まで観察した結果、その質問か。モテない男と判断したのだろう。

 中々の観察眼だ。だが甘い。


「どうせ女は俺を嫌う。俺も女は気に入らない」


 ありえないが、一目惚れをされたとしても女が食いつく話題など知らない。

 そんなことは高校生活で身に染みていた。

 俺には異性の幼馴染みなどいない。話しかけてくる女さえいなかった。


「ふっ、ふはははははははは! よいではないか。わしは安心したのじゃ」


 何がお気にめしたのか知らんが上機嫌だな。

 こいつから女特有の気に入らない雰囲気が感じられない。実に不思議だ。


「おぬしの本当の願い……叶えてやろう」


「本当もなにも本人に心当たりがないんだよ」


「わしはリリア。おぬしの案内人じゃ。良い名前じゃろ」


 笑顔のリリアを直視できず目を逸らす。


「つまらない今の世界を捨て、おぬしはこれから異世界に行くのじゃ」


 リリアが目を合わせようとちょこまか動く。ほぼ無意識に視線を逸らしてしまう俺がいる。

 美少女を直視できる生活を送ってきていない。


「今のつまらん世界から出られるなら、異世界行くのも悪くない。しかし俺にできることなんて……」


 照れ倒す俺の両頬にそっと何かが触れ、そのまま顔を引っ張られる。


「言ったであろう。本当の願いを叶えてやると」


 驚いて咄嗟に目を開けるとリリアと目が合ってしまう。

 顔が近い。吐息が掛かりそうなギリギリの距離だ。こんな不意打ちは想定していない。


「………………願いか」


「今なにか思いついたじゃろ? やりたいことを全て成せばよい、そのために案内人はいるのじゃ」


「俺のやりたいこと……」


 子供の頃の夢は……俺は確か……。


「うむ、ただ一つだけ忠告するならば……避妊はしたほうがよいぞ」


「なに想像してんだお前!?」


「せっかくの異世界なのに、最初の女の子でハーレムも成さずにエンディングじゃイヤじゃろう」


「ゲスいなおい。ハーレムしたいとか言ってませんけど?」


 俺のしんみりした気持ちを返して欲しい。


「その前に脱童貞じゃな。しかしハーレムを作ってから一気に頂くというのも……」


 さらっと女の子が童貞とか言うんじゃありません。

 ハーレムとか女がいっぱいいてうざそう。そしてうるさそう。


「安心せい。わしが複数相手でもしっかりサポート……」


「お前もう口閉じろ!!」


「なんじゃ、せっかくサポートすると言うておるのに。同性の方が調査しやすいのじゃぞ」


「何を調査するんだよ? 好感度か?」


「無論、相手が処女かどうかじゃ。大事じゃろ?」


 めっちゃニヤニヤしてるぞ、この娘。

 まあ超大事ですけどね。非処女なんぞに俺の童貞はくれてやらん。


「ちなみに、わしは正真正銘処女じゃ」


 そいつはいいな。中古と異世界二人旅とかキツイ。

 途中でそんなことが判明しようものなら草や木に生まれたくなるかもしれん。

 別にこいつをどうこうしようとは思わないが。でも身持ちが堅いということは評価しよう。


「いつまでも話が進まないな」


「親交を深めるのも大切じゃ。これから愛しのパートナーなんじゃからのう」


「愛しのってなんだよ」


「たとえハーレムができなくとも、わしといちゃラブすればよいのじゃよ」


「想像もできないな。本当に俺を選ぶのか?」


 異世界に呼ぶにしてもなぜ俺のような男なのか。

 漠然とした不安が胸を支配しつつある。


「本当じゃ。おぬしのやりたいようにハーレムすればよいのじゃ。というか最低条件として作ってもらわねば困るのじゃ」


 意地の悪そうな笑みを浮かべながらリリアは呟く。

 ハーレム大前提なんだな。してもらわないと困るってのがよくわからんが。


「超ハイパースペシャルな力をやる。アホみたいに強くなるのじゃ。全世界最強にして、なんでもできる究極の力じゃよ。避妊もできる」


「子作りから離れろ!」


 リリアの年寄り臭いしゃべりに慣れてきた。こういうのは嫌いじゃない。


「さらにおぬしが理想の男になるように、わしが全力でサポートする」


「世界を救うとか、別に目的はないのか?」


「救いたければ救えば良い。自由じゃ。そもそも世界なんぞ大抵の者が救えるものじゃ。そんなしょーもない理由で選んだわけではないのじゃよ」


 何を言っているかわからないが、俺が誰かに選ばれることなど無い。

 修学旅行の班決めからも明らかだ。いいよなあ……長所があったり、顔が良かったりするやつは。

 リリアが俺の左手をぎゅっと握る。どうしていいかわからず無言でいると、腕が光り輝いて。


「ん……腕輪?」


 いつの間にか左手首に腕輪がセットされていた。

 シンプルな銀の腕輪だ。十センチ程度か。中心に丸くくぼみが有り、はまっているのは、でかいダイヤかな。くぼみから左右にぐるりと一周する溝がある。


「にゅっふっふ! これでおぬしの未来は望むままじゃ」


 笑い続けるリリア。いつも俺が女に向けられる嘲笑とも侮蔑の笑みとも違う。

 心底面白そうなオモチャを見つけてはしゃぐ子供のようだ。


「ほれほれ、もう行くしかないぞ。わしと一緒に幸せになるのじゃ!」


 にやにやした笑みが、右手で開かれた黒一色の扇子でも隠せていない。

 リリアはこほん、と咳払いをひとつ。


「ずっと……ずっとこの時を待っていた……ようこそ、異世界オルインへ。貴方の学園生活に幸多からんことを」


 瞬間、足元の雲が消え、俺は真っ逆さまに落ちてゆく。


「さあ、おぬしのモテモテヒーロー生活が幕を開けるのじゃ!」


 なにをしようがどうせ無理だ。それでも、こいつをちょっとだけ信じてみたくなっている。


「やれるもんならやってみやがれ。どうせ俺と仲良くなれる女など存在しない」


「わしはどんなことがあっても離れることはない。裏切ることもないのじゃ。一人でだめでも、ハーレムヒロインと力を合わせて攻略してやるのじゃ!」


 リリアの声がする。聞いていると安心する声だ。


「俺はそう簡単に攻略されないからな」


「承知の上じゃよ。さ、おぬしの名前を決めるのじゃ。新たな勇者候補よ」


 新しい名前……もしやり直せるのなら。

 どうせ誰かに諦めさせられる。

 それでもなれるというのなら。


「――――アジュ」


 そう呟くと同時に俺の意識は途切れた。

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