圧倒的パワーで龍と宇宙に行きました
「さて、おぬしの力をここでイメージだけでも固めておくのじゃ」
光の差し込む、澄んだ空気が心地よい森の中。
目覚めたばかりで、まだぼんやりした頭の俺に、リリア……だっけ?
そんな名前ののじゃロリがよくわからないことを言う。
「その腕輪の力は絶対無敵じゃ。じゃからこそ今ここで、魂の底まで馴染ませるのじゃ」
「親切に悪いが意味がわからない」
「どこからわからんのじゃ?」
「まずこの状況がわからん。起きてすぐ森の中だった人の気持ち考えろよ」
今さっき目が覚めたら周囲は森だよ。木々の感覚が広くて日が差し込みやすいのか明るい。
そしてちょっとした広場のように、ぽっかりスペースの空いた空間がある。
俺達がいる場所はそんな場所。
「最近流行りのサプライズじゃな」
「こんなサプライズはいらん!」
「おぬしがこの世界で生きていくために必要なんじゃ」
「なんだよこの世界でって……そういやお前……あれか夢じゃないのかこれ?」
「疑り深いやつじゃのう」
「俺から疑り深さが消えることなんてない」
整理しよう。まずリリアがいる。つまり夢じゃなかった。
俺の左腕には腕輪があることからも明らかだ。
こいつの話を真に受けるならば、俺は本当に異世界にいることになる。
「リリアと森の中にいるだけで、まだ異世界と決まったわけじゃないな、うん」
「無理ありまくりじゃろ……元の世界に未練なんかないんじゃから、こっちでエンジョイすればよいのじゃ」
「エンジョイに力が必要なんかい」
「今のおぬしはレベル1じゃからのう。なーんの力もなしではお気楽ハーレムできんじゃろ?」
「パワーがあってもハーレムはできんて。俺を好きになる女とか意味わかんねえだろ……レベルってあっていいのか?」
普通に受け入れてたけど、レベルってあっていいのか? ゲームみたいだな。
「あってよい。気の遠くなるほどの時間をかけて、人知れず構築されたシステムじゃが、おぬしとわし以外にはほぼ浸透しておらぬし……まあどうでもいいのじゃ。ハーレムに関係ないことなど無意味じゃ」
人知れず作ってハーレムに使われるとか……俺が作ってる側だったらキレるわ。
「では教えて、リリア先生のコーナー! ひゅーひゅー!」
紙吹雪が舞い、空中に現れたくす玉が割れ、リリアの後ろにホワイトボードがぽんっと小さく煙を立てて現れた。
「じゃあ説明していくのじゃ。『いせかい』の『い』ー!」
「あいうえお作文!?」
リリアがホワイトボードにどんどん書き込んでいく。
俺はこの茶番をどういう目で見たらいいんだろう。
いろんな女の子と!
せっせと仲良くなって!
かみさまさえもぶっ飛ばし!
いちゃいちゃらぶらぶ過ごしましょう! と書いてある。
「以上! 終わり!!」
「おー……微妙だわ」
「結構自信あったんじゃがのう……ではもう一回。いせかいの……」
「もういいわ! 二回もやんな!!」
「やることはわかったじゃろ?」
つまりハーレムしろと言っているわけだ。女に好かれたことなんか一回もないわ。
まず女といるのがしんどい。どうせ罵倒されるだろうし、パワーなんて手に入ったら全力でぶん殴るかもしれん。
「やることだけな」
「はいはい、じゃあ腕輪でこう……まあ念じればどーんてなるじゃろ。おしまい」
「一番大事なとこはしょった!?」
「アホほど強くなる腕輪じゃ。使いたいぞーって思えば頭に使い方が流れるじゃろ」
「急に雑になるなよ。解説するならしろ」
念じるってなんだよ。腕輪よ……俺に応えろ……とか思ったら動くとでも?
「うーわなんか光ってるんだけど」
「そのまま腕輪に意識を集中させて、宝石に特に意識を集中させるのじゃ」
頭に使い方が流れこんできた。腕輪の宝石部分を軽く撫でる。
腕輪の光が収束し、左手の指先から肘の手前くらいまでを包み込む籠手へと変わっていた。
「次はキーケースを呼び出すのじゃ」
DVDケースくらいの大きさの箱が現れる。そのケースに収納されているキーから一本を取り出す。
「んでもって、宝石部分に突き刺して回すっと」
『ヒーロー!』
「腕輪が喋ったぞおい」
「そのまま光に身を委ねるのじゃ」
鍵が籠手に飲み込まれる。俺の全身も光に飲み込まれる。身を委ねていいのかこれ?
「成功じゃな」
光が収まると、驚くほど体が軽い。リリアが目の前に出してくれた鏡を覗き込む。
「これは……鎧?」
籠手と同じ白銀の鎧だ。籠手も両腕についている。
額を守るヘッドギア。腕や足の一部が露出している鎧。おそらく全身を覆ってしまうと関節が動かなくなるからだろう。そして着けていることを忘れそうな程に軽い。
真っ白なマントが汚れそうで気になるのは、俺が小心者だからだろう。
「着心地はどうじゃ?」
とりあえず屈伸したり、腕をぐるぐる回してみる。
非情に動きやすい。むしろ着る前より格段に動ける。
「いいね、こりゃいいもんだ」
視界もクリアで、頭もスッキリしている。この姿でいるだけで恩恵がある親切設計みたいだ。
試しに軽くジャンプしてみると、目に映る景色が木々から青空に変わる。数十メートルは跳んでいるな。
「……ふっ!!」
落下中に軽く拳を突き出すと、衝撃波で木々がざわめく。
くるくると三回転して着地する。ここまで完璧に動き方が分かる。
思い描く行動への最適解が俺の中に流れ込んで来て、自然と体が動く。
「凄いじゃろ? その鎧の効果は」
「最高だ。最高に気分がいい。半日寝てもこれほどすっきりしないぞ」
「よし、ではそのまま近場の敵でも倒すのじゃ」
「敵出てくんの!?」
うーわーマジでか。鎧の時点であれだったけどマジで異世界よこれ。
まあ元の世界とかクソだし。脱出できたのは嬉しいけど……俺に戦闘とか無理だから。
「どこかに手頃なドラゴンでもおればよいのじゃが」
「そんなもんが手頃でたまるか! もっと弱いやつでいいだろ」
「弱すぎても鎧の相手にはならぬ。困ったのう」
その時、離れた場所から爆音がこちらまで届く。こちらまで聞こえるほどの爆発に、無意識に跳躍し、木のてっぺんでつま先立ちになり、周囲を見渡す。
漫画とかでよく見る、地味にやってみたかったかっこいいシーンである。原理が全然わからんけど好き。
「なんだあれ……龍か?」
それほど離れていない場所に現れる巨大な龍。
身体が長く蛇のような東洋の龍に近い姿をしている。
空よりも暗く深い青色の体表と真っ赤でギラついた目が怖い。
鎧のおかげか離れていても眼の色までバッチリだ。
「青龍か? ヒュドラかヤマタノオロチにしては首が足りぬ。ナーガではないし……リヴァイアサンにしては小さいのう……神獣の模造品じゃろうか?」
「和洋折衷どころじゃねえな。なんでそんなのがいる?」
「神が人間と達人と平穏を望んだからじゃ」
「意味がわからん。あんなもんと戦うなんてできるわけが……」
その時見えてしまった。龍の近くに人がいる。ライトブルーの髪の女が、きっと友達なのだろう……倒れている女を抱き起こし、胸に抱きながら泣いている。何かを叫んでいる。
きっと名前でも呼んでいるのだろう。そいつらの周囲には同じく倒れている連中がいる。
「初心者期間は勇気とやる気がマシマシじゃ。ちゃっちゃと倒してくるのじゃ」
女を助けるという行為が気に入らない。どうせ胸糞悪い結果になる。
なのに助けたいという気持ちに心が染まっていく。
龍が氷のブレスを吐き出す前に、俺の身体は動いていた。
「ちょっと待って! なんか体が動くんですけど!?」
光速で龍のいる地点まで移動し、下顎にアッパーをかます。
吐き出されるはずだったブレスが口の中で暴発したのか、龍の口から破裂音と一緒に溢れ出した氷の結晶が雪のように降り注ぐ。
「よだれの結晶とかじゃないよな……?」
吹っ飛んだ下顎の肉片が、巨大な岩石のように周囲に降り注いでいる。
下顎だけで何十メートルあるんだよこいつ。
「やっべ……殴ると被害出るな」
チラっと見たが女は無事だな。
なるべく顔を見られないように背を向けて、隠しながら戦おう。
鍵を取り出し、反撃の隙を与えないように追撃に入る。
戦い方は知識と経験が鎧から流れてくるし、合わせて体も動くため問題ない。
『ソード』
右手からどうも、伝説の剣です! みたいな装飾の入った豪華で強そうな剣が飛び出す。こいつならどんなものでも斬れるらしい。試しに軽く一太刀入れてみる。
「おおー、すげえ切れるなこれ」
呻き声を上げてのたうち回る龍。無駄にでかい体が木々を薙ぎ倒している。
地上では不利だと思ったのだろう。龍が上空へと舞い上がる。
そうか上があったか。別の鍵を使おう。戦い方わかるの便利だな。
『グラビティ』
グラビティキーは重力を操作するキーらしい。
龍の重力方向を上に、龍自身も軽く。
動き回られないよう、龍に一太刀浴びせると、甲高い叫び声が森に木霊する。
「うるさいし怖いしなんなんだよもう! 近いよ! そして怖いわ!!」
龍から青い血が噴き出てるのが最高にキモい。
でかい図体は森の景観を崩す。また肉片を飛ばさないように加減して、龍の頭をしっかり持つ。
「飛んでいけ!」
龍をちぎってしまわないように、加減して宇宙までぶん投げる。
「ほっ」
軽くジャンプして龍のいる宇宙へ飛ぶ。
鎧には呼吸も、無重力の物理法則も無視する効果がある。
無重力に戸惑い、じたばたしている龍をさらに拳圧でふっ飛ばし、近場にあった無人の星にぶち込んだ。
「じゃあちょっとだけ力入れるからな」
剣に魔力を込めて巨大な魔力の刃が完成。
十文字に斬り裂き、爆発とともに龍と星をこの世から消滅させる。
「終わりっぽいな。っていうか終わってくれ。超怖いから」
適当に何もない空間を蹴り、星へ戻る。
実際の法則より、俺がどうしたいかが最優先されるみたいだ。
死にかけていた女の近くに、羽のようにふわりと降りる。
「思った以上にとんでもない鎧だな」
他人を守り、敵を倒す。そのために迷いなく行動できるのは俺にとっていい事なのか悪い事なのか。
そしてリリアのいた場所に戻ろうとして見つけてしまった。
こちらを呆然と見つめる青髪の女。着ているパーカーもボロボロだし、胸に抱いているポニーテールの友達は今にも死にそうだ。
救助隊がこちらに向かっていることも確認しているが、間に合わないだろう。
「…………やりゃいいんだろやりゃ」
『リバイブ』
リバイブキーはどんな傷だろうと怪我だろうと全て治す。最早蘇生と言っていい。
面倒だ、女以外もまとめて回復しちまおう。
周囲にリバイブの効果を光の粒子として撒き散らす。龍は蘇生させないようにだ。
「あ……あの……」
女が何か話そうと声を絞り出している。どうせ女に関わってもろくなことはない。
これは鎧の力であって俺自身の力ではない。そんなもので目立っても面倒だ。
「シルフィが……友達が……死ん……」
「その女は無事だ」
「……えっ?」
「感謝の気持ちがあるなら、今日のことはここに来るやつらには言うな。真っ黒の大男が魔法で倒してくれました、とでも言っておけ」
来た時と同じ速度でこの場を離れることにし、女に背を向ける。
「待って!! 貴方は……」
女の声にも振り返ること無くリリアの元へ戻った。
「あーあーハーレムの機会をふいにしおって」
「出迎えの第一声がそれか」
「うまくやれば惚れてくれたかもしれんというのに……」
ありえないだろう。俺に惚れるとか脳みそどうなってんだよ。
「俺に惚れる女なんていない。なんならやり直すか? ロードかリセットして」
「人生にリセットボタンはないのじゃ」
「異世界で高校生活やり直すんだろ」
とりあえず鎧を解除してリリアと一緒に森を離れることにした。
「疲れたな。一回寝ちまいたい……家とかどうするんだ?」
「ちゃーんと用意してあるのじゃ。さ、案内するからついてくるのじゃ」
次はどんな場所へ案内してくれるのか、期待しておこう。
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