もう帰りたいという気持ちでいっぱいです
アモドは倒れた。それを見届けて俺もうつ伏せに倒れている。
「やったなアジュ! おいどうした!?」
「疲れた。もう動きたくない。アジュさんはお休みします」
完全にやる気が尽きた。ダメージは少ないが疲労は存在する。だからもう閉店です。あとはみんながんばって。
「せめて立て。今回ダメージ少ねえだろ」
「やだ。もう動かないもん。疲れたんだもん」
「シンプルに気色悪い」
俺が致命傷を負わなかったのに気づいたな。だがその程度でがんばる俺じゃないぜ。だってマジで頑張ったよ。
「うむ、今回はとてもがんばっておる。よしよし、はいごろーん」
リリアに仰向けにされて膝枕される。気持ちいいのでしばらく寝るか。
「ごろーん」
「ごろんじゃねえ膝枕すんな! アジュを起こせ!」
「逆になんでそんな張り詰めた感じなんだよ?」
「ボスがまるごと残ってんだろうが!!」
「ソニアとクラリス呼んじゃえよ」
上級神の掛け算で強くなる融合は、カカオくらい倒せるはずだ。俺がやる必要はない。だってみんな強いじゃん。
「久しぶりに元気な顔を見せておやり。きっとあんたを待っとるよ」
「親戚のばばあかお前は」
「せんべいでもお食べ」
「いらねえよどっから出した」
せんべいを運動後に食うと口の中がぱさつくよね。
「ほれお水じゃ。口ぱさぱさになるじゃろ」
「すまないねえリリアさんや」
水飲んで再び寝る体勢に入る。床が硬いのが気に入らんな。
「ツッコミできる体力あんならいいだろ。俺寝るから」
「敵陣で寝んな!」
「アークよ、あれは余裕というものなのだろうか」
「一切コメントできんのである」
やってられんとはこのことだよ。インドア派のアジュさんに無理させるんじゃないよまったく。リリアの膝枕最高や。もう寝そう。
「ルシード、これも修行だぞ」
「むっ、修行か。ならば避けて通るわけにもいかん」
「騙されんな。自分が眠いだけだぜ」
ちょっとだけルシードが心配になりました。こいつ修行って言ったらどこまでやるんだろ?
「死ぬ前の雑談は終わったか?」
カカオがちょっと怒っている。培養槽から水が抜け、中からゆっくりと出てきた。
「こちらは準備完了だ。試験が始まって以来、あらゆる人間・超人・神の力を吸い続けてきた私は、最早神の領域だ。貴様らに勝てるものではない」
「なるほど、じゃからわしらが呼ばれたんじゃな」
「裏案件かよめんどくさ……」
つまり殺していいはずだ。鎧使わなきゃ無理な相手というのは、基本的に殺して終わる。じゃないと俺が強いと知っているやつが増えるからだ。
「喜ぶがいい。これが新たなる超人の、いや超神の姿だ!!」
カカオの姿が歪み、液体と鉱物と気体の混ざりあった人型の何かへと変貌した。ぶっちゃけキモい。メタリックな水というか、流動体で形容できん。
「斬新なフォルムだな」
「人の形にこだわる必要はない。人を超えた存在である神に決まった形がないようにな」
「なめるなよ、その気になればヴァンだってもっと変形できるはずだ」
「できねえよ」
「確かにお前たちは優秀だ。この姿になれなくとも、使い道も強化方法もあるだろう。配下になるなら生かしてやるぞ」
まさかの勧誘だよ。新生物の感性はわからんね。
「アジュ・サカガミよ、お前は非常に興味深い。どんな力とも違う吸収できぬその特殊性、発想力は評価する。跪いて命乞いをしろ。そうすれば部下にしてやる。ちょうど二名空きが出た」
アホな事言い出したな。俺が誰かの部下になってまともに動けるわけないやん。
「無理に決まっとるじゃろ。猫カフェの猫に核ミサイル積んどるようなもんじゃぞ。わし以外に懐かぬ。お世話できんじゃろ」
「そうだそうだー。俺が他人に懐くと思うなよアホめ」
「アジュにはできるだけ触れずにそっとしておくのが最善策だぜ」
「残念だよ。ならば殺さねばならん」
内包されている魔力は確かにでかい。だがなんというか超一流には程遠いんだ。そういう中途半端なやつは大成しないぞ。
「もうやる気出たじゃろ」
「ああ、回復助かる」
体力も精神力も魔法で回復してくれた。もう少しだけやるか。
『ヒーロー!』
「んじゃお前ら帰れ」
モニターのあった待機世界を検索して、空中に手刀を放つ。鎧ならあらゆる異世界の座標くらい検索できる。あとは次元の壁をここと行きたい場所の空間だけ切り裂いて繋げればいい。
「イロハとシルフィどうするんじゃ?」
「もう見つけてある」
近くの空間を裂いた。裂け目の中に二人が見える。あいつらは別世界でも捕捉できるから便利だな。
「アジュ!」
「よう、怪我はないな。カムイも一緒だったか」
「はい、一緒に動力部を探していました。あちらです」
いかにもコアでございますみたいな部分がある。適当にビーム撃ち込んで破壊。
「これでよし、ストレス発散にアホみたいに暴れるから帰れ」
「あっちの世界まで壊しちゃだめだよ?」
「情報収集はしておいたから、好きに暴れたら帰ってくるのよ」
「わかったわかった」
そんなわけで俺以外は全員撤収。次元の裂け目を掴んでくっつける。
「よし、これで暴れても平気だ」
「面白い芸じゃないか」
「なあに、こんなもんたいしたことじゃない。なんならもっと芸を見せてやろう」
「やりたければ勝手にしろ。ただし、簡単に死なぬようになあ!!」
灼熱の業火が飛んでくる。水っぽい体のくせに炎も使えるんだな。
「九百兆度の炎だ。炎使いの中でも、ここまではいまい」
「そうでもないさ」
当然だが通用しない。だが改造人間というだけでここまでできるのか。少し驚いたぞ。これを研究していた国とやらを調べる必要があるかもしれん。
「なるほど。我慢強い男だ。なら己の属性を過信して死ねい!!」
俺に向けて雷光が迸る。鎧なら眩しさすらも感じない。完全に無意味だ。というかむしろ調子がいい。
「ふはははは! どうだ!!」
「悪くないぞ。健康にいい」
俺が元いた星の総電力百億年分でも届かない量の電撃だが無駄だ。
「ほう、耐えるではないか」
そりゃ元から雷属性ですもの。仮に必中とか即死とかついていても無意味よ。
雷、電撃、稲妻、言い方は色々あるがすべて通用しない。
「いいぞ。私もこの体の慣らし運転がしたい。もう少々付き合っていただこうか」
「構わんよ。俺もたまには真面目に検証したいしな」
「ならばゆくぞ!!」
カカオの右腕が硬質化しながら床や魔力を取り込んでいる。もう研究所の形は残さなくていいらしいな。
「ずあぁ!!」
「はっ!」
拳を合わせると、研究所の天井と壁がぶっ飛ぶ。あいつら帰しておいてよかったな。被害を考えなくていいのはでかい。
「無様に命乞いをしろ!!」
ほんの数秒の間に、数兆の拳を一発一発が数京に分裂するように放ってくる。
別に完全に見切れるし打ち合えるので、しばしウォーミングアップに付き合ってもらおうか。
「こういうの楽しいよな」
「その余裕がどこまで続くか知らんが、同意してやろうではないか」
男の子こういうの大好き説を考えながら、少しだけ不思議に思う。こいつ力の残りカスだけを吸収したにしちゃ強すぎないか?
「私が力押しだけだと思うなよ? シルフィ・フルムーンの力も吸収したと言ったはずだ。時間停止はできなくとも、加速はできる!!」
俺の時間を遅く、自分を速くしようとしているようだが、鎧にそんなものは通用しない。ごく普通に動いて裏拳をぶち込む。
「ぐぬう! 影よ!」
影でできたカカオが現れる。影あるところからめっちゃ出てくるが、スペックはカカオ本人とほぼ同じ。イロハの分身には遠く及ばない。適当に殴って減らしていると多少はストレスが緩和されるな。
「もっと珍しい技で頼む」
「いいだろう。人間如きには視認できぬ技を披露しよう」
見えない何かが吹き出している。鎧で成分解析完了。触れると五感が消えるオーラか。くらったふりでもしてやろうじゃないの。大きく息を吸い込み、いかにも気付いてないふりだ。
「かかった!」
俺が動かないことで確信したか。浅はかなやつめ。さらにカカオのいない真正面にパンチを繰り出す。
「ごはあ!?」
パンチで次元の壁に穴をあけ、カカオの後頭部へと繋げた。流石に予想外だったらしく、もろにくらってこっちに飛ぶ。
そこを回し蹴りでぶっ飛ばしてさらに裂け目にアッパーかまして顎を打つ。
「げあぁ!!」
「今の俺に呼吸も五感も必要ない。そんなものに頼るのは生物の欠陥だ」
次元飛び越すの便利だな。どんな世界のやつにでも、座標がわかれば裂け目作って腕突っ込めば攻撃できる。
これを応用して攻撃と裂け目を作る時間をカット。完全にゼロとし、裂け目の中から殴ったという結果だけを当ててみる。
「ぬぐう!? ええいどこから攻撃している!!」
時間が存在していなくとも、次元の壁は超えられると。こういうの殺していいやつ相手じゃないと実験できないからなあ。口封じの手間も生かす必要もなくて助かる。
「まだ俺の力を吸収しようとしているな」
「気づいたか。大したものだよ。だが吸い取るだけだと思う浅はかさよ! この国では私こそが全知全能の神なのだ!!」
俺へと瞬間移動して腕を掴もうとしてくる。面白い。乗ってやるぞ。
「取った! 何もかも混ざったオブジェになれ!!」
膨大な情報量が送られそうになっているが、これもまた鎧には無意味だ。
まず吸収は自動で弾く。次に死の概念と俺を融合させようとしているが無効。鎧を着ている俺には死と敗北という現象や結果および概念が存在しない。よって倒すことは不可能である。
「ちっ、しぶとい男だ」
さらに俺の鎧と肉体と魂を分離させ、可能ならば消滅させようとしているみたいだ。融合が無理なら分離というのは柔軟性があるな。だが鎧は俺の魂と完全に一体化しているため、あらゆる力をもってしても分離不可能である。便利だねえ。
「発想力が足りんな。手本を見せてやる」
ステルスキーを思い出す。全能を超えた鎧なのだから、鍵と同じことはできるはず。むしろ進化させてみよう。
「死ねい!!」
俺の顔を狙った拳が、そのまま顔をすり抜けていく。既に掴まれた手首もすり抜けた。
「なんだと!?」
魔力の刃も力任せの攻撃も、神の力が混ざった法則改変すらも素通りしていく。体に当たりさえしない。
「おのれ何をした!」
「存在の位相を別次元に置いた。そこは俺の決めた法則で作られている。場所を特定し、俺の決めた手順で攻撃しない限り、どんな攻撃も当たらない。全能なら超えてみせろ」
こういうの感覚でできるの楽しいな。イロハキーで影筆使って『世界をアジュの意思だけで改変できる』とか書き込めばどの世界でも全域を自由にいじくれるが、制限のある中でどれだけできるか実験するのも楽しい。
「調子に乗るなよ! この程度で優位には立てんぞ!」
「ついでにアドバイスだ。全知を名乗るなら、この先の出来事も知っているはずだ。未来を見てみな」
未来視と並行世界の観測は少し違う。その差異と運命を確定するほどの力があれば、同じ未来を見ることは可能だ。
「はっ!?」
カカオが驚いた表情のまま、後方へと飛ぶ。直後に俺のビームが掠めて行った。
「よくできました。俺が確定してやった未来が見えたな?」
「それしか、それしか見えなかった。神たるこの私が、他の未来を作れなかっただと……」
「知るだけじゃ足りないのさ。知識は使えてこそ。まだまだいくぞ!」
先を知る相手との対戦データも欲しい。ここからはどれだけ未来を塗り潰せるかの勝負である。依然として俺に攻撃は通らない。だがそれに甘えず改良していこう。あらゆる可能性を瞬時に閲覧し、その中から俺の望む未来だけを確定させる。無論だがこの過程の時間はカットだ。
「ほらほら未来がどんどん入れ替わるぜ。お前が今見ているのは六百個前だ。演算が遅いぜ」
「なぜだ! なぜ追いつかない! 人間の未来に追いつけない!!」
「感覚で追うな。俺は敵意も殺意も悪意も気配も完全にゼロにしながら戦える。感知してから対応するな」
人間が当然出してしまう戦闘中の闘気やらをまるごとカットして攻撃に移る。これだけで普通の敵は混乱する。これをあらゆる事象に適用すると、いつどこで攻撃されるのかが完全に読めなくなるのだ。
「ここまで翻弄されるはずがない!」
「頑丈だなお前。その方が勉強になって助かるがね」
よしよし、完全にマスターした。鎧来ていりゃ余裕だな。一方的にダメージが増えていくカカオを見ながら、今日の対戦は実りが多いなあとか思っていたが。
「つまらん」
「なに?」
「これストレス解消と真逆だろ。爽快感がない。却下。物理でやる」
飽きた。能力バトルは優位に立てるが、もっと暴れたい。なので無理やりキックで宇宙まで弾き出した。やっぱり最後は宇宙だよね。
「ぬぐう!!」
「奥の手を出しな。お前、神を食ったか取り込んでいるな?」
超人を遥かに超えるのはおかしい。他人の力を吸い取ってできることじゃない。明らかに別の手が加わっている。
「気づいていたか。そうさ、貴様と発想は同じだよ」
カカオの胸のあたりに、黒く暗い核が見える。
「神に選ばれた適合者の私だけが持つ、究極の力だ」
邪神の力だろう。あれのおかげで異常な人体実験にも耐えられたのか。
「ネメシスのコアと呼ぶらしい。ある日研究所に来た女が、私と同じコアをつけていた。偉大なる神ネメシスの仲間として、人類と世界を裁く権利を得たと」
「うさんくさすぎるだろ」
「だが力は手に入った。ここなら全力が出せる。オーバーロードすれば、貴様とて超えられる! だああああぁぁぁ!!!」
一瞬で世界全体に広がった邪悪な魔力は、カカオの体を数百倍に巨大化させ、黒い六枚の翼を生み出した。
「くはははは! これはいい! これが神だ!! 握り潰してやるぞ虫けらめ!!」
そして俺を右手に捕らえたことで調子に乗るカカオさん。こういうパワー勝負は勝てること前提だといいよね。
「ふうぅ……はっ!!」
右ストレートででっかい手のひらに穴を開けて脱出する。全方位からの圧力でもなんともない。神レベルになってもこんなもんか。
「ぐうぅ! 小癪な! だが小さな穴などすぐ塞がる!」
黒い羽が無数のナイフとなって飛来する。華麗にかわして本体を殴り続けよう。
「うがっ! グハア!!」
「でかいと殴りやすくて助かるな」
「ええい、ならばもっと大きくなるだけだ!!」
「なら俺もやってやろう」
『インクレース』
このキーは何かを増やす。それは二個にするだけじゃない。体積とか質量とか増やすという解釈ができれば可能。つまり巨大化もできる。
「ちっ、どこへ行った!」
「見えないのか? もっと視野を広げな」
俺の声がどこから聞こえているかわからずに周囲を見回している。軽く指先を動かすとカカオだった小さな砂粒のような点がダメージでぼろぼろになっていた。
「どこからの攻撃だ! 神の翼をもぎ取るなど不敬な!!」
「宇宙をよく見てみな。さっきまでなかったのは何だ?」
「なかったもの……? この眩い光、太陽ではない……まさか貴様!」
「そう、お前は俺の人差し指の先端にいる」
巨大化には巨大化で対抗だ。こういう趣向もマンネリ防止には必要だろう。
「指先だけで銀河二千個分だ。なんなら宇宙よりでかくなっても構わんぞ。試してみるか?」
「バカな! そこまで魔力と肉体がもつはずがない!」
「無限を超えた鎧の魔力ならできるのさ。宇宙ごと握り潰されろ!」
「ぐあああああぁぁ!!」
シンプルなパワー負けで邪神の力は潰され、もとの人間サイズに戻った。ならば俺も戻って終わりにしよう。
『ソード』
『ホウゥ! リイイィィ! スラアアアアッシュ!!』
剣にあらゆるものを消滅させる光が集う。この剣で切ったものは、それがどれだけ巨大だろうが、本体が別時空にいようが関係ない。少しでもかすればその瞬間には全身が完全に切り裂かれ消滅する。
「なんだかんだ有意義な戦闘だった。可能性は広がったよ。そこは感謝してやる」
「おのれ! おのれええええぇぇぇ!!」
この世界ごと切り裂いて完全に消し去った。もう二度と蘇生も転生もしない。
これで長かった試験も終わりだ。早く帰って寝たい。四人の生活が懐かしいぜ。
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