アジュ・ヴァンVS強化アモド
筋肉むきむきになったラッカがきもい。これと戦うのやだ。
「フヒャハハハハハ! 最高だぜえ! パワーが溢れる!!」
もうマジでしんどい。どうせ俺の攻撃効かねえし。
「リリアそっちどうだ?」
「まあ無難に超人レベルじゃな。騎士団長とかに比べればザコじゃ」
普通に凌ぎ切っている。だが少し妖力が漏れているあたり、もっと強くなればうざいかも。さっさと決着つけないとな。
「ならばオレがいこう。多重閃光剣!!」
「なんなんだ今のは?」
まったく効いていない。耐久力上がりすぎだろ。
「アーク、キャノンモード!」
「承知」
アークが両肩にビームキャノンを作り出し、高出力で照射を始める。これもいまいち効いていない。仕方がない、援護しますか。
「インフィニティ……」
「おらよ!!」
雑な魔力波が放たれる。だがこれくらいは想定済みだ。伏せておいた札へと魔力を送って移動する。
「雷瞬行!」
「なにぃ?」
「ヴォイド!!」
チャージしながら背後に移動して、もろに当てた。これで多少はダメージがあるはずだ。
「いってえなクソ野郎が!!」
虚無の中から伸びてくるパンチを飛んで避ける。ラッカの体に焼け跡が少し見えた。どうやら完全無敵じゃないようだな。
「六の太刀、炎獄!」
ルシードの刀から炎が吹き出した。強烈な業火はラッカを包み、縛り付けるようにして膨れ上がっていく。
「ウオオオオラアアァァ!!」
めちゃくちゃに魔力を放出して消している。パワープレイにも程があるぞ。
「無敵だ! こいつらなんざ殺しきれるぜ!!」
「どうにも正攻法では倒せんようだぞ。アジュの出番ではないか?」
「いやいや、アークをフルに使えば勝てないのか?」
「押し付け合いやめい。こっち倒したら手伝ってやるのじゃ」
「時間稼ぎくらいはするか」
『ステルス』
「させるかよアホが!!」
ラッカの攻撃が俺の腹を通過していく。そのまま勢い余って俺の中を通り抜けていった。
「なんだあっ!? てめえ何しやがった!」
ステルスはただ透明になるキーではない。何であろうと完全に透過する。鎧つきじゃないと魔力の消耗があるので普段使いはしない。鎧ならこんなん使わなくても傷つかないし、結構使いどころさんが難しいのだ。
「俺にばかり注目していていいのか? 確かにお前さんは硬いが、俺はもっと硬いやつを知っている」
「あぁ? 誰だよそいつは!!」
「知っているはずさ。鋼っぽいボディに機械っぽい翼……ああ失礼、今はでっかい鋼の腕だけだ」
アークの全てを右腕に集中したルシードは、機械でできた巨大な右腕でラッカの頭を掴む。
「なんだと!?」
「ハイパーバーニングレーザー!!」
とてつもない極太レーザービームがラッカを飲み込んでいく。直線上にいる俺にも飛んでくるが、ステルスで透過できるうちに離れよう。炎や雷も問題なく無効化できるのだ。というか俺雷属性だから、余程のものじゃなきゃ電撃は効かんよ。
「ウグ……ウガアアァァ!!」
巨大な腕で掴まれながらビームを流されるため、エネルギーの逃げ場がなく、直撃し続けている。これにはラッカも耐えきれないようだ。びくびくと震えながらもがき苦しんでいる。
「ちっ、やはり妥協で選べばこの程度か。私は助けないぞラッカ。その程度ならせめてカカオ様の糧となれ」
「うる、せ、え……てめえに助けなんか……かり、ねえ」
「今のお前とはお別れだ。だが私にとって有益だったぞ」
そしてラッカがだらりと手足を垂らして止まった。
「死んだのか?」
「生命反応あり。まだ生きているのである」
「アアアアアァァァァ!!」
基地全体に届いていそうな絶叫が響き、ルシードの拘束を暴れるだけで弾き飛ばした。筋肉がさらに大きくなっているが、あの体型はもう人間じゃないぞ。
「ウガアアアアァァァ!!」
見境なく大暴れしている。こっちを見てすらいない。ただ周囲を闇雲に攻撃しているだけだが、その衝撃だけでかなりの威力だ。
「おいこいつ大丈夫なのか? 死ぬぞ!」
「構わん。ラッカは元々勇者適性が1%あるかどうかの妥協案だ」
「妥協案? 何の?」
「ゴガアアアァァ!!」
ラッカ大暴走である。ルシードが光速で動き回って気を引いているが、それも時間の問題だろう。あれを止めるには殺すしかない。
「試験で勇者科に死人出すのはなあ……」
「安心したまえ。もう本人の人格などない。死ぬまで止まらない」
「それもどうなんだよ」
完全に使い捨ての駒だなあ。まだ戦えただろうし、俺なら死にかけてから暴走させるけど。センスのないやつ。
「というかルシードお前もうちょっと強かったろ。アークありなら超人超えるはず」
「すまぬ。アークは少し作業中でな」
「終わったのである。魔力および超粒子光学センサーによる探索完了。ブレイブチャイルド計画の資料あり」
「なんだそりゃ?」
また知らん計画だ。どんだけ問題あるんだよこの世界は。
「リリア、わかるか?」
「簡単に言えば国ぐるみで子供ガチャやって勇者適性のある子を確保。国で教育をして徹底的に強くする計画じゃ。勇者適性を引き出す研究もされておった」
「勇者ってそういうので生まれなくね?」
「その通りじゃ。ひたすらストレス溜めさせたり、かと思えば優遇してエリート教育したりと無茶しておった。教師も神々もおらん場所でアホなことをやって、廃棄処分になる子供を出した。それが公に発覚して計画は廃止されたはずじゃ」
実験がうまくいかなきゃ非人道的になっていくのはお約束。そして神々や学園に見つかって全面禁止になったとか。
「量産しようとかそういう計画と主人公って真逆だもんなあ」
「根本的に間違っておる。しかし、どうやら三人ほど見つけたらしいのう」
「たった三人だ。王族でも適性がない者も多い。条件が割り出せん。だが今年の勇者科は見事だ。例年の倍以上の生徒がいる」
「マジ?」
「マジじゃ。一年で十人ちょいいると豊作くらいじゃぞ」
今年大豊作やん。適正高いやつ多いだろうし、なんか条件あるんかな。
「それだけいればサンプルも取り放題だ。まずはラッカで死ぬ寸前まで痛めつけるとしよう」
「やれやれ、いい加減面倒じゃな」
リリアの光輪が幾重にもアモドを取り囲み、強力な拘束具となる。
「これは!?」
「少し大人しくしておれ」
リリアに九尾のしっぽが二本生えた。そしてラッカが上下左右に吹っ飛び続ける。ピンボールみたいだな。
「ガアアァァァ!?」
「おねんねの時間じゃ」
光る扇子でラッカを斬り裂き、手のひらから放出される雑な妖力でラッカは消えた。どれだけ暴走しようが、それでもリリアの敵ではない。
「二人にしてやったのじゃ。何人まで減らせば諦める?」
「できるなら最初からやってくれ」
「横着すると成長できんからダメじゃ。おぬしすぐサボるじゃろ。自力を磨くべし! じゃよ」
できる限り自力で対処する。だからこそタキオンメルトダウンは完成したわけで、魔法は興味あるジャンルだし、横着せず戦闘しているのだ。褒めろ。
「今の力は勇者の力を増やすものではないのか? 少々荒い暴走だったが、強敵であることに違いはあるまい」
「別物じゃよ。勇者が生み出せないにしても、力を吸収・増幅させる計画は存在したんじゃ。最終的に勇者でパーツ組んで改造人間にする方針も妥協の副産物じゃろ」
「察しがいいじゃないか。究極の勇者を作り、最強の国にする。かつてはそういう計画だったのだろう。だがその国は滅び、計画を引き継いだ最後の存在が私達だ。結局出てこなかった勇者適正保持者が、今になって現れ計画を知る。これは天啓なのさ!!」
「嫌な天もあったものだ」
「そうか? ならば私が新たな天となろう。アモド、受け取れ」
アモドの足元から、人型の輝くエネルギーが生まれる。
「何だあれ……」
「エネルギーの塊さ。戦闘もできる。シルフィ・フルムーンやイロハ・フウマと戦わせて力を収集もした」
人型がアモドに折り重なり、やがて筋肉が数倍に膨れ上がった。
というかシルフィ達戦闘中かよ。そんなに魔力を感じないってことは、肉弾戦に移行しているな。まあ心配はないだろう。
「また同じパワーアップか。大層な施設にしちゃ芸が無いな」
「そう見えるか?」
アモドが喋った。こいつ意識があるのか。リリアの拘束もパワーで破りやがった。その急激な強化ずるくね?
「ラッカとは違うと言ったはずだ!!」
「どう違うのか見せてもらおうじゃねえか」
声のした方向から爆発が起こり、壁の向こうからヴァンが出てくる。
「おっ、間に合ったみてえだな」
「また派手な登場しやがったな」
「めんどくせえから一番力を感じる方に壁全部ぶっ壊して来た」
「脳筋すぎるだろ」
似合うけどひどいぞ。俺でもやらなかったのに。装置爆発とかしたら危ないだろうが。ドヤ顔をやめろ。
「ザコが一匹増えようと、私の勝ちが揺らぐことはない!!」
「ほっほう、なら試してみようか。いくぜアジュ」
「だってさルシード。行って来い」
「名指しで呼ばれてそれは無理ではないか?」
無理か。勢いでごまかせるかどうか賭けだったが、見事に外れたな。
「俺もうめっちゃがんばったじゃん! もう他の人が解決してもよくね? 鎧無しはストレスがたまります!」
「アモド倒したら鎧で解決してよいぞ」
「ボスまるまる残っていますけど?」
「もう証拠集めが終わったと連絡が来たのじゃ。完全に消して終わりでよい」
誰と連絡していたんだよ。なんかこの最終試験おかしいな。こういう連中のあぶり出しでもプランに入っているのか。転写世界という時点でそうなのかも。
「というわけだアジュ。あの紫のやべえやつやってくれ」
「できねえよ。三分はチャージがいるぞ」
「カカオ、チャージタイムを要求するのじゃ」
「いいだろう興味がある」
「いいんかい」
断ってくれたら戦わなくてもよさそうなのに。渋々チャージ開始。少しだけ要領を掴んで飲み込みやすくなった気がする虚無玉を飲む。
「オオオオオアアアアァァァ!!」
やっぱり目からも口からもビームが出る。これださいから改善しよう。
「リベリオントリガー・タキオンメルトダウン!!」
「おおー、またイメチェンしたのう。よいよい」
「恐ろしいほどの魔力密度である」
「なるほど、これは凄まじい。いったいどれだけの鍛錬の先なのか検討もつかん」
よし、なんとか安定している。本番で失敗すると洒落にならんから、もうちょい帰って練習したい。
「ネオソウルエクスプロージョン!!」
ヴァンから放たれるオーラが凝縮されて、赤く濃く燃える。
体から赤い光が漏れ出てきらきらしているので、なんとなくパワーアップしたんだなあとか思いました。知らんけど。
「さて、準備完了だ。いくぜ筋肉妖怪」
「あまり俺に期待するなよアモド。手加減はしろ」
「いいだろう、簡単には殺さんぞ!!」
アモドのオーラ開放を合図に、俺とヴァンが駆ける。
「雷光一閃!!」
「全力ぶった切り!!」
「無駄だ!!」
左右からの必殺技は、闘気を纏った両腕に止められた。追撃を半歩下がって避け、カトラスから長巻に持ち替える。
「雷光一閃!」
「効かんなあ!」
長巻でも刃の腹を殴ることで軌道をそらされる。こいつ武術のレベルも高い。
「ウオラア!!」
ヴァンの黄金剣を腕の回転でいなし、拳の連打を浴びせ続けるアモド。ヴァンは頑丈なはずだが、それでもうめき声が聞こえた。
「タキオンウイング!」
翼を伸ばして連撃で対応する。これなら少しは妨害できるはずだ。
「フハハハハ! ぬるい! ぬるいぞ!」
攻撃の手数で追いつけない。完全に光速を超えているな。置いてある攻撃も異常な耐久力の前では厳しいか。ならば威力を重点的に、一撃を遅くても重くだ。
「くだらん児戯だ。この程度のスピードで勝つつもりか?」
「そいつはオレを超えてから言いな!」
黄金剣を分割して二刀流になったヴァンも光速を超える。
「超えてから? まさか私と並んだつもりか?」
姿も攻撃も見えなくなるが、ヴァンだけが点滅するように出てくる。まさか押し負けているのか。
「全開炎殺弾!!」
「ぬるいと言った!」
でたらめな量の魔力がヴァンの魔法に向けて放たれる。援護するならここか。
「タキオンブラッド!」
紫の雫を敵の波動に向けて放つ。当たれば一瞬だけ完全に消せる。あとはヴァンの攻撃が当たるのみ。
「ぬぐうぅ!!」
確実に効いてはいるようだな。なら追撃だ。長巻のスロットを三個全部使い、虚無と殺意を込めてアモドへ飛ばす。
「ライトニングジェット!」
「小癪な!!」
結果を先に置いたはずなのに、長巻の先端が少し胸に刺さったくらいで止められた。刺さったことを察知して、瞬間的に両腕で白刃取りの形にしたのか。
「ライトニングジェット!」
長巻の柄に向けてカトラスを発射。刃を心臓まで押し込んでやるだけだ。
「こんなものでええええええ!!」
「爆裂波動剣!!」
カトラスの柄をヴァンの爆発技がさらに押し込む。刃は完全に胸へと突き刺さっていった。
「心臓が傷ついたくらいで、この私ががあぐ!?」
俺への注意がそれた瞬間に、アモドの顔面に蹴りを叩き込む。壁際まで一気に吹き飛ばした。復帰される前に追撃準備だ。
「雷分身! 急急如律令!!」
クナイを全部取り出し、雷光と虚無で包んで分身の型を作る。あとは雷のクナイを無数に分身させて上空に待機させればいい。
「おのれ私は死なん! 死なんぞ!」
長巻を強引に胸から引き抜き、血が吹き出すのも構わずに突っ込んでくる。
「虚空刃奏!!」
このホール全域に虚無のクナイが降り注ぐ。アモドは一発かすった場所から血が出ている。間違いなく効いている。
「くっ、どこまでも小癪な!!」
流れるような武術の動きとオーラによってクナイが弾かれていく。
だがそれは大粒の雨の中を進むような残滓を見せる。
「動きがバレバレだぜ! オオラッシャア!!」
ヴァンの全力のかち上げが顎にヒット。アモドは上空へと舞い上がる。
既に上へと昇り技のチャージを完了していた俺は、極め技の体勢に入った。
胸から両腕へと残りの虚無エネルギーを集中。ここで決める。
「タキオン……」
「バカが! 空中でどう逃れる? 貴様から死ねい!!」
おびただしい数の魔力が集まり、暴力的な魔力玉が俺に向けて撃ち出された。
だが想定済みだ。俺とアモドの位置と結果を置き替える。空中で動かないのであれば、このくらいはできるんだよ。
「虚空転生! 結果を置き換える!!」
「バカなっ!?」
突然自分の背後に自分の攻撃が来たアモドは、回避もできずにまともにくらう。その隙を見逃がすヴァンではなく、魔力玉と挟み撃ちにする形で斬撃が決まった。
「我道爆炎斬!!」
「うがああああぁぁぁ!!」
大爆発を起こして地面に叩きつけられ動けないアモド。今がチャンスだ。
「エネルギー全開! タキオンメルトアウト!」
「させんわ!!」
仰向けのアモドの両手にさっきよりも巨大な魔力が集まる。
だがその両腕はヴァンの投げた二本の黄金剣により、両手と地面が縫い留められて不発に終わった。
「なにいいぃ!?」
「フルバースト!!」
手加減のない殺気を込めた必殺の一撃が入る。手応えあり。
ホールを紫の光が満たし、天井を突き抜けて雷光が登っていった。
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