シルフィと飯を食いに行こう

 クエスト終わって翌日。ちゃんと報酬も出たし、先生に顛末も聞いた。

 薬は完成し、今までより安全で効果のあるものへ変わる。

 木人間になっていた企業は国の捜査が入る。


「結構いきあたりばったりだったが、まあなんとかなるもんだな」


 先生とあの場で目立っていた三人のパワーにより敵を倒したと発表。

 俺の手柄ではないというところがグッドだ。


「これで病気で悩む人が減るといいね」


「そうだな。健康には気をつけないと」


 今日はシルフィと昼飯を探してふらふらしている。

 ちょうどお互いの時間が重なったのだ。


「さて何を食うか」


「運動したので大盛りを希望します!」


 実はシルフィの方が俺より食う。

 遠慮しているし、大盛りの店って女ひとりで入るイメージじゃないから、俺といる時くらいしか見る機会はない。

 結構レアなシーンなのだ。


「じゃあ肉だな」


「お肉だー」


 食い物屋が並ぶ区画へ来たが、やはり昼時。人が多い。


「ううむ……落ち着いて食いたい」


「落ち着いて食べるお店って、あんまり量食べられないよね」


「相反するものなんだろうな」


 このへんは経営とかやったことがないので曖昧である。

 現場がどうとかまで知らんさ。俺は客側だし。


「並んでいる所は除外だ。それ以外で手頃で食えそうなやつは……」


「あ、シルフィー。シールフィー!」


 知らん女が呼んでいる。完全に知らんな。

 長いウエーブかかった金髪の、少し背が低めの女だ。

 無駄に胸がでかくて八重歯。知り合いらしい。


「アンジェラ先輩?」


「シルフィーだー! お昼かな? お昼でしょ?」


 じゃれついている女。よくわからんけど、長くなるなら近くの飯屋でも見よう。


「おおぅ? ほうほう、こっちがあれかね? 彼氏さんかね?」


「いえ別に」


「ちょっと照れるとかしようって!?」


 否定しておかんと面倒なことになりそう。

 こういうやつは絡み方がうざったいと相場が決まっているのだ。


「ふはははは! シルフィの誘惑を振り切るとはやるな少年」


 全身から面倒ごとのオーラが出すぎている。

 これは帰りたいですよ。今すぐ別の場所に行きたい所存でございます。


「んでお昼ご飯だろう? うち来るかい?」


「まずアンジェラ先輩はアジュと初対面ですよね?」


「そっかそっか、あたしはアンジェラ。料理歴十二年! ついでに高等部二年! 好きな料理は肉料理と大盛り! 得意なのは宮廷料理さ!」


 好きと得意が剥離していませんかね。

 騒がしいというか、単純に明るい人なんだろうな。


「アジュ・サカガミです」


「アジュくんね。覚えたよ。ほほうー。シルフィがねえ」


 値踏みされている感じ。シルフィに何を聞いているのだろうか。

 シルフィは俺の知らんところで悪く言うタイプじゃないだろう。

 曲解されてなきゃいいがな。


「なんか普通。よくシルフィ落とせたねー。なっはっはっは!」


「俺もそう思いますよ」


 一番不思議なのが俺ですよ。どういう奇妙な縁なんだと。


「先輩、初対面で失礼ですって!」


「いいじゃんいいじゃん。アジュくんもそう言ってるし。よし、うちの店でご飯だ!」


「意味がわかりません」


 これ勧誘なのか。めんどいぞー。まだ何食うか決めていないけどさ。


「そこそこのお値段でがっつり食べられるよ。シルフィのお腹でも満腹だー!」


「そこまで大食いじゃないです!」


「なるほど。そりゃありがたい」


「アジュがフォローしてくれない!?」


「俺だぞ?」


「そうだアジュだった!?」


 かなり混乱しているな。面白いので見ていよう。


「なははー。愉快だね。シルフィがこんなに楽しそうなのは彼氏効果かなん?」


「いつもはお姫様モード入ってますか」


「入ってますよー。入りまくりでね。打ち解けるまで時間かかったよもう」


 シルフィはあんまりわがまま言わない子だ。

 どちらかといえば気を遣っているタイプ。

 境遇や体験から、凄く仲のいい子ってのが少ない。

 善意や悪意もなんとなく感じられるため、そのへん敏感で臆病になる。


「というわけでいらっしゃいましー!」


 近くにあった綺麗な洋風の店に案内された。

 別に何食うか決めていなかったし、今から探し始めるのも面倒なので任せたのだ。

 四人用の席で、アンジェラ先輩とシルフィが向かいに座っている。

 店内は美味しそうに食う客で賑わっている。


「いらっしゃいま……アンジェラ、お前何やってる」


「今日は非番っしょ。お客さんだよん!」


 髪を短くまとめた筋肉質な男だ。身長は俺と同じくらい。

 歩いてくる時は紳士的な佇まいだったのに、なんか呆れたような苦い顔。


「まかないでも食いに来たか」


「単なるお客だって。あとこっちは普通のお客さんで、料理の道の人じゃないから、ちゃんと接客してよね」


「おっと失礼いたしました。メニューをどうぞ」


「大盛りできるよん!」


 爽やか笑顔で渡される。イケメンさんだねえ。

 飯の値段もそう高いもんじゃない。


「知らないメニューが多いな。シルフィ」


「こっちがお肉メニューで、定食みたいなもの。こっちがコース料理」


「アジュくんは何が食べたいの?」


「肉多めで、コースよりは一気に来て欲しいですね」


 こういう店は量が少ないケースが多いが、どうも男性客を見る限りそうでもない。

 普通に大盛り頼めば腹にたまるな。


「では本日のおすすめはいかがでしょう? オムライスに牛ステーキかワニの揚げ物がついてきます」


 かなり俺好みのメニューあるな。

 というかそれおすすめして人が来るタイプの店なのかなここ。


「オムライスこっちにあるのか。じゃあ大盛りステーキでお願いします」


「わたしも同じものでお願いします」


「あたしワニねー。ずばばーっと最速で持ってくるのだ!」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 飲み物の注文をしたら、優雅に爽やか笑顔で去っていく。

 所作に乱れがない。一挙手一投足に自信を感じますなあ。


「さておしゃべりして待とうぜい。シルフィをどう口説いたのさ? 気になるなー。熱烈なアタックかなん?」


「ないです。むしろ近づかれた側です」


「です!」


「お姫様に近づかれて口説かれたと。愉快な境遇だねい」


 他人に話してもまず信じないだろう。

 シルフィ本人が言ってようやく理解する感じ。


「シルフィのどこが好き?」


「人に聞かせることじゃないでしょう」


 シルフィが聞きたそうにしているが、正直他人に語ることじゃない。


「好きだと認めたねい?」


「何のことかわかりません」


「じゃあシルフィはアジュくんのどこが好き?」


「えぇっ!? いえその、どこっていうか全部ですけど」


 シルフィに飛び火した。すまん。

 結構他人の事情に首突っ込んでくるのねこの人。


「詳しく聞きたいねい」


「優しくて、ちゃんとわたしを見てくれて、いつも……」


「むしろ先輩とシルフィが知り合いなのはどうしてです?」


 さっさと面倒な話題は流すに限る。

 ずっとこのノリはしんどいからね。


「いろーんなやつと味勝負しててさ」


「味勝負?」


「そう! 料理バトル! でもって半分くらいは勝てるんだけどさ」


「そりゃ凄い」


 学園でマジにプロ目指している連中相手に、勝率五割って凄いぞ。


「すっげえ強いメイドがいるって聞いてね」


「なんですかその武闘派みたいな言い方」


「それがミナだったんだよ」


「そうそう! 一回メイド科で料理の授業やるって聞いてね。受けに行ったんだ!」


 まずミナさんに出会って、そっからシルフィらしい。

 そっち関係で来る人って珍しいな。


「その頃ミナさんって学園に住んでいないよな?」


「結構様子見に来てくれてたよ。臨時講師とかしてるし」


「でさでさ! あんまりうんめーからあたしと勝負してください! ってお願いして」


「勝負したと」


「うんにゃ断られちった」


 違うんかい。この話長くなりそうだな。

 料理来るまでの暇つぶしにはいいかな。

 このまま馴れ初めでも聞いてみるか。

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