目立っていいやつに任せよう

 特効薬片手に走り、ちょっとした樹海みたいになっている会場を浄化中。

 次々に枯れていく木々から、生徒の奮闘が伺える。


「だいぶ少なくなってきたな」


「他の生徒も優秀なようだ。会場は浄化されるだろう。あとは……」


 会場が大きく揺れる。おそらく外の人面樹が攻撃しているのだろう。


「あれをどうにかしないとな」


「アジュがあの鎧着れば解決ではないのか?」


「それはちょっと難しいのじゃよ」


「ほう、理由を聞いてもいいか?」


 マコは余裕ができたのか、魔王様口調になっている。

 より威厳が増した気がするな。


「会場は広い。だから隠れて殴れば多分消せる。問題は誰が倒したか探られるパターンだ」


 説明しながら大部屋にたどり着く。

 まだ浄化されていない部屋だ。

 イロハが注射器を入れた影を滑り込ませ、球根に突き刺して終了。

 多分これが一番早いと思います。


「一撃で確実に消せる。だからこそ、それをやったのは誰かと気になるやつが出る。これがもう最悪」


「先生に攻撃してもらうのがベストじゃ」


「あじゅにゃんはっけーん!」


 ももっちとバスクードだ。怪我もしていない。


「そっちも無事みてえだな。敵は?」


「ほぼ消した」


「今最後の一個が消えたのう。先生のところに戻るのじゃ」


「了解」


 先生のいた部屋へと急行。まだ他の生徒は戻ってきていない。

 おそらく消し残しを探しているのだろう。


「おかえりなさい。浄化は完了したようですね」


「はい。あとは先生があれを倒してもらえたら終わりです」


「ちょっと難しいですねえ」


「人質みたいなもんだしなぁ。おれが守ってましょうかぃ?」


 簡単に言えば、企業の人々が邪魔なのである。

 今も結界を外からばっしばし叩いてくる木の根が多い。

 

「焼いちまえばどうです?」


「それがそうもいかないのですよ」


 木の根が燃え、炭になるかと思えば、そのまま結界を殴りつけてくる。


「燃えない?」


「途中で焼却を図りました。ですが妙な進化をしまして。炎を操り無効化してくるのですよ。魔力そのものが大幅に上がってもいます」


 よく見りゃ人面樹の顔から火を拭いている。もう物理法則とか無視してんな。


「それよりも、先生が全力出せば倒せる相手なのでは?」


「血が不足しましてね。しかも根っこごと全部消すには、周囲に被害が出すぎるのですよ。力をセーブしていては無理でしょう。消して会場を地面に激突させないようにする必要もあります」


「まずいわね。早めに対策しないと被害が出るわ」


「こちらを狙っている間に決着をつけねばならんのう」


 敵意が外へ向けられるとまずい。早期決着が必須。


「あじゅにゃんがどうにかできないの?」


「俺はダメ。目立つ。先生のせいにできればそれがいい」


「僕ですか?」


『いつまで結界でしのげると思っている! なんなら会場を下へ投げつけてやろうか!』


 エコーかかったおっさんの声が響く。喋れるのねあの木。


「いけませんねえ……サカガミ君は何か手段があるのでしょう? 僕でよければお手伝いします」


「おれもだ。みんなが無事に帰れるってんなら、いっくらでも強力してやらぁ!!」


「アジュ、急ごう。魔王としてできることがあればするぞ」


「みんなでやっつけちゃおう!!」


「バスクードとももっちにマコか……三人いりゃ相当目立つよな……そうか。それでいこう!」


 どうせこいつらは目立っていい存在だ。存分に活用してやろうじゃないか。


「また悪知恵が働いておるのう」


「作戦を伝える。俺に完璧に従えるか?」


「任せときなぁ!」


「よし、千両役者の力を借りるぜ」


 そんなわけで全員に伝えて作戦開始。

 まず俺は隣に部屋へギルメンと移動。

 こっそりミラージュキーで俺たちの幻影を作っておくのも忘れない。


「リリア、イロハ」


「ほいほい」


「これでどうかしら?」


 まず部屋に強固な結界を張り、イロハに影で覆ってもらう。

 これで外からこの部屋を見ることも、入ることもできなくなった。


『生徒の皆様へ。会場内の木の根は浄化完了しました。全員私のいる部屋へ大至急戻ってください』


 先生のアナウンス開始。これでまず生徒を集め、俺たちの目撃者をなくす。


「準備できたか?」


「こっちはいつでもいけるぜぇ!」


 トークキーで今回の役者三人と先生へ話しかける。


「もう少しで生徒が集まります」


「よし、そしたら芝居開始だ。アドリブ力を鍛えろ。恋の仕掛け人」


「ほいきたぁ! やいやい枯れ木野郎! このおれをどなたと心得る!」


『わめくな小僧。おとなしく死を受け入れろ』


「おれこそが、天下無敵のバスクード! 恋の仕掛け人たぁおれのことよ!!」


 まずバスクードが目立つ。

 その間にこちらの部屋で、人面樹がいる方向の窓を開ける。

 ひしゃげて開かないので、仕方がないからソードキーで壁ごと斬ろう。


「クックック、フハハハハハ! ハーッハッハッハ!! 貴様も終わりだ人面樹! 我が名はマコ! 魔王マコ様だ! 今から貴様を地獄に送ってくれるわ!!」


「イガ忍軍、エリザ・モモチがおしおきだー!!」


 マコが挑発開始。マコとももっちが騒ぎ始めたら、生徒が全員集まった合図だ。


「氷結横恋慕!!」


「魔王激流炎砲!!」


「風遁、風切羽!!」


 氷や炎だの風だのが乱れ飛ぶ。だが致命傷ではない。

 人面樹そのものがでかすぎるのだ。

 ここまでは全員想定内さ。


「僕の力をお貸しします。強化魔法で限界を上げ、一緒に攻撃して倒すのです」


 先生のサポートが入ったように見せかける。

 三人にかけているのは、ごく初歩的な強化魔法だ。

 体が光ってわかりやすいので、今回はそれを選んでもらった。


「よっしゃあぁ! これならいけるぜ先生!」


「よーし! 先生と四人で一斉攻撃だよ!1」


 四人が並んで必殺技の準備に入る。

 隣の部屋でも、その力の強さは理解できた。


「派手にやっておるのう」


「そうね。これで全員の注目は四人に向くわ」


「あとはあの木を倒すだけだね」


 そう、あの四人は完全にカモフラージュである。

 適当にド派手な技を撃ってもらうだけ。


「わかっておるじゃろうが、顔の部分だけ消しても無駄じゃ。復活せんように、根っこの端まで攻撃を届かせて、完全に消すのじゃ」


「わかっているさ」


『ヒーロー!』


 ぱぱっと鎧発動。右手に魔力を込めて、拳を握る。


「こっちはいつでもいいぜ」


「それじゃあ撃っちゃうね。あとよろしくー」


「成功すると信じていますよ」


 準備完了を知らせると、四人の魔力が高まり、合わせ技の魔力玉が生み出される。


「おれたちの全力を見せてやるぜ!」


「ハイパーカルテットバスタアアァァァ!!」


 光り輝く大きくて目立つ玉が着弾する瞬間、振りかぶって右ストレートの衝撃をお届けする。


「せえぇりゃあぁ!!」


 俺の魔力が込められた無色透明の拳圧は、玉を後押しするように木に着弾し、回復の時間を許さず爆散させる。


『なんだこの魔力は!? ギャアアアァァァァァ!!』


 魔力を伴う衝撃は、木の内部に侵入し、枝から葉にいたるまで侵食して破壊し尽くしていく。

 鎧付きならば、こういう全身くまなく届く攻撃も可能だ。


「よし、まあこんなもんだろ」


 最後は粉微塵になって、その粉すら魔力で消えてしまう。

 確認したら鎧を解除し、さっさと部屋を出る。


「おつかれアジュ。やっぱり凄いね!」


「作戦大成功じゃな。たいしたもんじゃ」


「無駄のない美しい手際だったわ」


 ギルメンに褒められつつ、先生たちのいる部屋をそーっと開ける。


「おれたちに不可能なんてありゃしない! 思い知ったかぁ!!」


「正義は勝つのだー! わーはっはっは!」


「これが魔王の力だ!!」


 みなさん壁際の四人に拍手喝采である。

 よしよし、いい感じに注意を引いてくれているな。

 あらかじめ入り口手前に潜ませていた幻影と、こっそり入れ替わったらお仕事完了。


「粋でいなせな恋の仕掛け人、バスクード様の舞台は来月公演開始だ! 興味が湧いたやつはぜひ来てくれよなぁ!!」


「我が魔王軍は四天王絶賛募集中だ!」


「イガ忍軍! 護衛に最適なイガ忍軍は、プロになるともっと凄い! 安全安心の忍者集団イガ忍軍をどうぞよろしくお願いしますー!」


 ここ生徒と企業へのPRタイム。

 協力してくれたお礼に、注目されている今だからこその勧誘タイムを提案してみた。


「やりましたね。では会場は僕の魔法でゆっくりおろします。お疲れ様でした」


 これにて無事終了。後日先生との事後報告でクエストも完了する。

 ひとまずやり終えたので、あいつらに注目が集まっているうちに、そーっと四人で会場を後にした。

 これも先生に許可もらってある。


「大事に巻き込まれちまったな」


「それでも解決はできたのじゃ。後はわしらの領分ではない」


「みんなお疲れ様」


「何か食べて帰りましょう」


 俺たちはもう飯を何にするかを議論していた。

 後は大人に任せればいい。そう思いながら、手頃な飯屋を探すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る