人面樹を浄化しよう

 木の根まみれで上空に持ち上げられた会議場。

 その中心部でわちゃわちゃしていますよ。なんですかねこれ。

 綺麗で整然とした環境は、最早ジャングルの様相でございます。


「めんどくっせえ……」


「先生がなんとかするじゃろ」


「はじっこで座って待つか」


 廊下側の椅子に座って、観戦モードに入ろう。

 天井を突き破って根っこが侵入しているが、狙いは先生っぽいし。


「では僕は企業の方々をお守りします。ちゃーんと戦闘技能に優れた生徒だけを選んで依頼しましたから、木の根くらい防げますね?」


 これ戦わないといけない流れだ。

 これクエの範囲内だったりするのだろうか。


「やるしかないようじゃな」


「よし、マコの近くに避難だ」


「やめろ戦え。私に負担かけるんじゃない」


 ももっちとマコが戦っている場所へひっそり移動。

 気分は隠密部隊だ。


「あじゅにゃんも戦うの!」


 横にももっちがいる。

 こいつは避難してきたのか、普通に戦っているのか区別がつかん。

 変に危機管理できるからなあ。


「浄化などさせぬ。できぬ。これだけの数をどうする! いくら教師といえども限界があるだろう!」


 木の根がべりべりと剥がれ、そこから木人間が生み出される。

 そういう手順なのかよ。


「会場を覆う毒素は、やがてここにいる全てを蝕む。毒なら私が無限に生み出してくれよう」


 企業のおっさんが紫色になり、枯れ木のようにやせ細ったかと思えば、緑あふれる木人間へと変貌する。

 一瞬でどんだけ目まぐるしく変わるんだよお前。


「さらに改良を加え、毒を強めて増殖もできる新型だ! 万一の備えというわけさ。これに効く薬はあるまい! 終わりだ!」


 先生に向けて放たれる、特大の濃縮された毒。

 あれだけの量を全身に浴びているが、まあなんとかなるだろう。


「さてどうでしょう」


 先生が注射器を自分に使っている。あれは今回の特効薬ではないか。


「僕はちょっとした特殊体質でしてね。僕の血は輸血にも点滴にも使えるのです。誰にでも、それこそ動物にだって使えるんですよ」


 自分から毒を吸い込んでいるように見えるけれど、あんまり深く考えないほうがいいかな。


「先生ばかり見ておると危険じゃぞ」


「悪い。けど気になるだろあれ」


 根っこはサンダーフロウかけたカトラスで斬る。

 飛び出してくるやつはギルメン任せ。

 俺は先生の行動が気になるのだ。


「怪しいやつだ。ならば貴様には近寄らん! とう!」


 上空へと逃げるおっさんを、木の根が囲んで包み込む。

 そして集まる枝や根が、巨大な人面を形成した。


「きもい」


「気色悪いわね」


「気持ち悪いね……」


 ギルメン大不評である。

 だがどうするかね。あれかなりでかいし、少し削ったくらいじゃ復活しそうだ。


「足元から来るぞ」


 木人間が床から生えてくる。植物だからね。地面から出るよなそりゃ。


「鬱陶しいなこれ」


 個々の能力が高いわけじゃない。だからこそ数でおすのだろう。

 それでも生徒に勝つのは難しいらしい。


「観念したらどうですか? 薬は徐々に木々を枯らす。僕の魔力なら、浮いた会場を下ろすことも可能です」


「枝葉がいくら枯れようとも構わん。大樹さえ枯れなければな」


 人面樹がさらに巨大化し、天井を壊して壁も砕く。

 壁の向こう側には、とてつもない大きさの木があった。

 でかいおっさんの人面樹である。怖いわ。


「いつの間にあんなもんを作ったんじゃ」


「いかんな。あれ倒すと相当目立つぞ」


 大木までの空間に遮蔽物がない。

 人面樹を攻撃するには、会場内からこっそりやるしかないぞ。

 あれを一撃で消すとなると、かなりの攻撃力が必要。

 つまり強いとばれる。


「降伏しろ。でなければ生徒も庇いきれんよう、会場を破壊する」


 足場がなくなっちまえば危険度は跳ね上がる。

 どうするかね。鎧使うか。


「もうすぐ終わりますよ」


 だが先生は余裕の表情である。


「僕の体に毒が染み込みましたね。確かに強力で、少々変わった毒ですが」


 空の注射器を刺して、自分の血を取り出しているようだ。

 そのはずだ。はずなんだが、なんか半透明で発行している緑色の液体なんですが、どういうことですかね。エルフってそういうもんなのかな。


「何だその血の色は!?」


「これが薬ですよ。取り込んだものを変換して、安全安心な薬に変える。ただし原液そのままなので、強靭な生物じゃないと耐えられません。これを解析して、血を使わなくていい薬を作るんですが」


 先生が近くの根っこに注射器を突き刺すと、緑色の光が木々を枯らし、急速に侵食を始める。


「ぬうぅ!? ありえん!!」


「生徒の皆さん。これを会場のあちこちにある木の根に刺してきてください」


 こちらに向けて複数の注射器が投げられた。

 緑色の液体……先生の血液か。手際がいいな。


「特に魔力の強い、いわば核のようなものがあるはずです。そこに挿してくれるとありがたいです」


「間抜けが。そんな暇を与えると思うか!」


 一本一本が大木に見える木の根が、会場を全方位から押し潰しにかかる。

 不気味なうねりがまるで大蛇のようできもい。


「そのために僕が残るんですよ」


 メスを取り出し、空間ごと全て切り裂いていく。

 だが根の侵攻が早く、毒も厄介だ。このままじゃジリ貧だな。

 一般人を庇いながらじゃ厳しいらしい。


「はいはーい先生ー! あのでっかいやつが本体なんじゃないんですかー?」


 ももっちの質問も最もだ。それこそ枝葉を切っても意味がない。


「もちろんあっちにも刺してくれたら言うことはありません。ですが」


 先生の魔力で光速の注射器が射出され、人面樹に刺さる。


「小癪な。その程度でどうにかなると思ったか!」


 なんと侵食している面をばりばりと剥がし、蛇の脱皮のように中から人面樹が出てきた。

 ちょっとドス黒さが上がっている気がする。


「あのように、かなりしぶといのです。会場の安全確保と、本体撃破を同時にやります。さっき会場に結界を張りましたので、内部の根を枯らしてください」


 確かに会場をまるごとすっぽり囲む魔力を感じる。

 かなり高レベルのやつだ。


「なるほどわっかりましたー!」


「ではお薬を追加しますね」


 かなりの数の注射器が渡された。これ出血多量の心配とかないのだろうか。


「よっしゃあ任されたぜ!」


 バスクードが動く。それを合図に生徒が散っていった。


「しょうがない。行くぞ」


「どっちに?」


「会場の浄化だな」


 本体はやる気勢に任せましょう。

 廊下へ飛び出し、生徒の少ない方へ。


「気を抜くなよ。結構面倒な敵だ」


 さっそく壁を破壊して木人間の集団が登場。

 即座に魔法を叩き込む。


「サンダースマッシャー!」


「火遁、炎蛇の術」


 電撃と炎でできた蛇で蹴散らす。

 相変わらず個体は弱いな。


「リリア、核の位置わかるか?」


「うむ、近場から行くのじゃ」


 そこそこ広い会議室から、大量の根っこが飛び出ている。


「アジュか。ってことはこの部屋か?」


 マコが炎の精霊たちと応戦中だ。

 適当に加勢して数を減らす。


「らしいな」


「あの球根みたいなのが核じゃな」


 部屋の中心に大きな球根があり、根が伸び続けている。


「間違いないな」


「一気にいってみよう!」


「敵が多すぎるんだ。私も何度か燃やしてみたが、根に阻まれて届かない」


「そこは色々と手段があるさ。リリア、部屋に結界」


「ほいほい」


 壁壊して被害を出さないように、部屋全体に結界を張ってもらう。

 周囲に生徒がいたら巻き込んでしまうから予防策だ。


「マコ、合わせろ。ライトニングフラッシュ!!」


「よかろう。魔王炎撃烈破!」


 広範囲わざと、マコのちから任せの火炎弾で一気に切り崩す。

 一時的にだが球根までの道がひらけた。


「また伸びるぞ!」


「シルフィ」


「もう止めたよ!」


 シルフィに部屋の時間を止めてもらう。

 それが終わる頃には、イロハが注射器を投げている。


「ついでに刺しておいたわ」


 一瞬で球根が枯れ、周囲の根も細く干からびて散る。

 効き目半端ないなこれ。流石はラウル先生。


「相変わらずいいチームワークだ」


「絆の深まりを感じさせていく立ち回りじゃな」


「はいはい感謝していますよ。次の核行くぞ」


 こうして浄化していくうちに、誰か本体倒してくれんかなあ。

 鎧で倒すにも、誰がどう倒したか気になるやつが出てくると迷惑だし。

 がんばれ生徒の誰か。そう祈りながら次へと向かった。

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