盗賊団を追いかけろ

 既に忍び込んでいた盗賊団を確保し、情報を手に入れた。

 警備に報告して結果をまとめる。

 ・決行は二時間後。

 ・敵の目標は英雄の所持品。

 ・館内に煙幕及び爆薬の設置が進行中。

 ・敵はゲオダッカルと囚人盗賊団。


「急いで解除に向かいましょう!」


「待て、騒ぐと敵に気づかれる。私が爆薬の解除に行こう。光速で探索すれば問題はない。敵に気取られるな」


 ヒジリさんは落ち着いている。おそらくこういうケースを何度も経験しているのだろう。超人のいる安心感からか、警備兵も落ち着きを取り戻した。


「操作の撹乱が目的かもしれん。煙幕対策を隠して、それぞれ持ち場を離れるな!」


「了解!!」


 そしてこの場には俺達だけになる。


「すみませんイロハさん、ご協力をお願いします」


「もちろんです。急ぎましょう」


「シルフィも連れて行ってください。爆破させないために役立ちます」


「がんばります!!」


 こうして爆弾解除チームが作戦開始。俺とリリアとオトノハは引き続き自由行動だ。できる限り手がかりが欲しい。


「必ず侵入ルートがある。いくら広いとはいえ、大人数で来れば目立つだろ」


「来るなら複数の部隊か撹乱して一気にじゃな」


「ううむ、オトは軍学書も読んでいますれば……うーん、もう無理っぽいから爆破でどーんかな?」


「それを防ごうとしているんだぞ」


「うん、だからもう外からどどどどーってやって、多少壊れてもいいから目的のものだけ奪う!」


「ありといえばありじゃな」


 そうか、正規軍でも美術品に思い入れがあるわけでもない。ならぶっ壊しても良心など傷まないのか。盗賊だし。


「その案採用されるかもな」


「ですかね? ですかうひゃあぁぁ!?」


 遠くで爆発音がした。上を見ると、美術館に大量の黒い玉が落ちてきている。


「おいマジか」


「アホじゃな」


 リリアが風を操作し、爆弾をすべて上空へと運ぶ。爆風も上空へと登るようにしたらしい。


「横からも来るぞ!」


 煙幕ばらまきながら大人数が突進してくる。全員黒い服だ。まあ盗賊だよね。


「武装しておるのう」


「適当に潰しつつ目的の品まで行くぞ!」


「了解です!」


 適当にサンダースマッシャーぶち込んでみるが、流石に避けられる。敵は俺を無視して煙幕を広げる係なのだろう。


「サンダーネット!」


 出入り口に雷で網を張る。動きが止まったやつから切っていこう。


「雷光一閃!」


「ぐがっ!?」


 使っている剣がしょぼいな。剣ごと胴体を切断できた。そのまま止まらずに駆け抜けて、殺せたかどうかは考慮せず切りつけていく。


「があぁ!?」


「うげっ!?」


「あう!?」


 殺せずともダメージが入ればそれでいい。あとは近くの警備兵かリリアが始末してくれる。

 俺の戦闘スタイルは一撃離脱か小細工である。そこを間違えなければ援護が可能なのだ。


「そーっと……えい!」


 オトノハは隠れながら孤立している敵に攻撃魔法を撃っている。兵士や美術品に当たらないよう気をつけることも忘れない。優秀だな。


「ボスがいるはずだ。そいつを探すぞ」


「ボスを倒して終わりにするのじゃ」


「誰がボスかわかんないです!」


「全員ぶっ潰せば同じさ」


 廊下の敵を切り捨て御免しつつ展示品のある場所へ。すると途中で兵士が何か運び出している。嫌な予感がしたのでそーっと尾行する。


「早く積むんだ! 敵が来る前に運ぶぞ!」


「隊長! あの部屋にあったものはこれで全部です!」


 どうやら展示品を馬車で運ぶらしい。ありえん。どこのアホの発案だ。いや待てよ。なるほどな、こりゃいい。


『ミラージュ』


『チェイス』


 ミラージュで兵士に変装して、幻影の展示品を作る。今回は剣と指輪でいこう。中には魔力の発信機付き。馬車が出る前に急ぐぞ。


「おーい! これも乗せてくれー! 敵がそこまで来ているんだ!」


「早くしろ!」


 剣を馬車に入れ、指輪を隊長に渡す。よしよし懐にしまったな。


「隊長、ここは我々でなんとかします! お一人でも美術品を!」


「すまない。頼んだぞ!」


 そして馬車が走り出す。強制的に隊長一人で出発させることに成功した。


「馬には馬だな。来い、キアス!」


「お呼びかな同志よ」


「前の馬を追ってくれ。リリア、こいつら任せる」


「うむ、気をつけるのじゃぞ」


「どういうことですか?」


 よくわかっていないオトノハはリリアに任せ、キアスに乗る。こいつなら最速で追いつけるだろう。すると背後から本物の隊長が走ってきた。


「おい! 今ここに私が来なかったか!」


「ああ、今から追うところだ。ザコを頼む」


「なに? 待てどういうことだ!」


 説明が面倒なのでさっさと出発。キアスは乗り心地がいいな。風の抵抗とかも無いし、意思の疎通もできて最高や。


「追えるか?」


「無論。ただの馬に負けるはずもなし」


「そりゃそうだ」


 馬車が見えてきた。でかくて見つけやすいのは非常に助かる。隣に並ぶまで時間はかからなかった。


「どうした? まだ荷物があるのか? そのユニコーンはなんだどっから出てきた!?」


「隊長、品物はどちらまで? 護衛いたしますよ」


「うむ、安全なところまでだ。これらは国の宝だからな」


「なるほど、では目標地点を教えてください」


「それは秘密だ。君も任務に戻りたまえ。ここからは私が責任持って運ぶ」


「ゲオダッカルにですか?」


「そうだ」


 言うが早いか馬車が煙幕で包まれ、盗賊が馬に乗って駆け抜けていった。


「さいならー」


 完全に馬と馬車切り離しやがった。展示品が複数落ちていく。貴重品になんてことを。


「一切動じないか。しかも判断が早い」


『スティール』


 落ちて壊れないように、品物は右手に吸着させる。


「どうする? 捨てていくわけにもいくまい」


『ガード』


 展示品をガードキーで覆うことにした。

 結界を円錐の柱で作って、中に置いておけば完了だ。


「よし、追うぞ!」


「承知!」


 敵はすぐに見つかった。まだ指輪を持っているようだな。

 背中には展示品を詰め込んだ袋が見える。


「げげっ、もう追いついてきやがった!?」


「逃がさん!」


 相手は屋根つきの橋へと進んでいる。

 横幅はそこそこあるみたいだが、わざわざ上が塞がれる場所に行くかね。横だって柱だし川だしで逃げ道が減るような。


「罠かもしれんな」


「ならば押し通るのみ。我らに敵はなし」


「頼りにさせてもらうぜ」


 橋に突入すると、少し先の床が爆発する。


「飛べ!」


 ジャンプで越えられない距離じゃない。魔王キアス様を舐めるなよ。


「トラップだアジュ!」


「ライジングブレイド!」


 両腕を雷の剣にして地面にぶっ刺す。キアスを魔力で包んで棒高跳びの要領で超えていくのだ。


「あっぶねえ……」


「これが奴の逃走ルートというわけか」


「これ馬車通れないだろ」


 橋の先はそのままトンネルになっているようだ。暗闇で見失うのは最悪だな。光と雷で光源を確保し、原則せずにトンネルに突っ込む。


「ルートは複数決めておくものだろう」


「そりゃそうか」


 中は等間隔で明かりがあった。まあ人が通るならそうだよな。盗賊の姿は小さな点になりかけている。急いで追いつこう。盗賊ごときに逃げられてたまるかよ。


「撃ってきたぞ! サンダースマッシャー!」


「ホーリーシャワー!」


 敵の魔力弾を魔法で撃ち落としつつ、トラップによる煙幕や爆弾も避ける。かなり神経使うぞこれ。


「俺にここまで手間かけさせやがって。必ず殺す。すり潰して魚の餌にしてやる」


「食べさせられる魚の身にもなるのだ」


 ようやく背後に付けた。敵の馬はでかいが、キアスほど馬力がない。体力もキアスが上だ。逃しはしないぜ。


「しつこいぞてめえら!」


「お前こそ諦めろ。普通のトンネルにここまで罠はるなや!」


「狙った獲物は必ずいただく。そのために全力を出す。それが泥棒の美学よ!」


 敵の指先から火炎弾が飛んでくるが、キアスは左右にステップを踏んで避ける。スピードを落とさずに距離を保つとは流石だ。後でなんか買ってあげよう。


「何が美学だ。泥棒の時点で薄汚いだろうが」


「ぬはははは! 痛いとこつくじゃないの! そりゃ一般人からすりゃただの犯罪者だもんなあ!」


「今止まれば楽に殺してやるぞ」


「ぬっひっひっひ、荷物に当たるのが怖くて攻撃できねえんだろ?」


 うーわ知恵の働くタイプだよこいつ。囚人ってこんなやつばっかなのかな。

 この場でスティールは展示品が邪魔になって敵を逃がす。誰かが通るかもしれない薄暗い場所に結界放置は流石にまずい。地味に面倒な状況だ。


「唯一オレを追いかけてきた洞察力といい、こんなもん渡す度胸といい、褒めてやるぜ。あの場で正解を導き出したのはお前さんだけだ」


 指輪をこちらに投げ返してきた。それ気付けるのか。ここで確実に止めなければ、必ず厄介な敵になる。


「さあどうする? 下手に攻撃すりゃお宝が台無しだぜ?」


「そりゃお前もだろ。盗んでまで聖地に入って何がしたい?」


「そりゃ聖地のお宝を一番にかっさらうのさ。オレが欲しい物を誰かが手に入れるのは気に入らねえ」


「素直でよろしい。盗賊の綺麗事とかクソだからな」


「いやはやまったくだぜ。そんなわけで逃げさしてもらうぜ!!」


 敵の馬が魔力を増していく。同時にスピードがぐんぐん上がっていった。 


「あの馬の装具、どうやら身体強化の魔導具だな」


「ほー、事前準備はばっちりか」


「最後に名乗ってやる。オレ様の名はコール。天下御免の大盗賊だ。あばよ!!」


 爆炎と煙の中へと消えていく。この程度でダメージを受ける俺達じゃない。


「アジュ、何か来るぞ!」


 装甲を纏った軍馬が二騎、こちらへと突っ込んでくる。騎手の手には槍が握られていた。


「時間稼ぎのつもりか!」


「てめえをここでぶっ殺すつもりだよ!!」


 スピードは緩めない。こいつらを倒しながら追いついて倒す。展示品を無事回収する。やることが多すぎてめんどくせえ。


「しゃあねえなもう……ちょっと本気出すぞキアス!」


「ああ、我らの力を見せつけてやろう!」


 お互いに魔力を開放し、暗いトンネル内での戦いは加速していくのであった。

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